全国銘菓風土記 -岸朝子『全国 五つ星の手みやげ』発売に向けて-

全国 五つ星の手みやげ
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全国土産銘菓TVチャンピオン中尾隆之の「全国銘菓風土記〜近畿〜」

  京都、奈良、大阪など近畿地方は、朝廷や幕府が置かれ、長い間、日本の中心地であった。多くの寺社が建てられ、貴族や武家の間に茶の湯が発達。神仏への供えや朝廷、幕府への献上などのためのさまざまなお菓子が生まれた。

  とくに京都では敬虔な思い、美意識、遊び心が込められた“京菓子文化”が育まれた。季節を表現した上生菓子はその真骨頂だろう。  そんな中で室町時代を起こりとする虎屋の「虎屋饅頭」や応永年間(1394〜1427年)に始まる亀屋陸奥の「松風」、寛正2年(1461年)創業の駿河屋総本家の「煉羊羮」などの歴史は古い。「本煉羊羮」「本ノ字饅頭」で知られる和歌山の老舗、総本家駿河屋は京都のこの駿河屋につながる。

 京都ならではのお菓子といえば、米粉に小豆餡を入れ、巾着形にしてゴマ油で揚げた「清浄歓喜団」(東山区・亀屋清永)、薄い皮を年輪のように巻き、筒形にして竹皮で包む「どら焼」(下京区・笹屋伊織)、吉野葛を練り、円錐形にして笹の葉で巻く「粽」(左京区・川端道喜)、丹波大納言の小倉を村雨で巻いた「京観世」(上京区・鶴屋吉信)、「味噌松風」(中京区・松屋常盤)など数多い。庶民的な菓子も門前の茶店の餅や団子、八ツ橋、五色豆など時代を超える味が伝わる。
 
 天平時代の神饌にルーツをもつ「ぶと饅頭」(奈良・萬々堂通則)、献上菓子として作られた「青丹よし」(奈良・千代乃舎竹村、鶴屋徳満など)、特産の「吉野本葛」(宇陀・森野吉野葛本舗)などは奈良らしいお菓子。 

 滋賀らしさでいえば、白餡を求肥で包んだ、井伊直弼に因む「埋れ木」(彦根・いと重菓舗)や近江商人に因む「ふくみ天平」「枡々最中」(近江八幡・たねや)、丁稚小僧から名付けた「でっち羊羮」(近江八幡・和た与)。「走り井餅」「姥ヶ餅」など東海道、中山道など旧街道の名物餅もある。

 大阪では昔からの名物菓子「粟おこし」(大阪・あみだ池大黒、二ッ井津の清ほか)や餡を求肥で包んだ「けし餅」(堺・小島屋)などがあるが、案外少ない。食い道楽とはいえ、うどんやタコ焼きなど腹にたまる物が好まれ、お菓子があまり重視されなかったからかもしれない。

 神戸は洋菓子の印象が強いが、「瓦せんべい」(神戸・亀井堂総本店)、有馬温泉名物「炭酸煎餅」(神戸・三津森本舗)も底固い人気がある。また求肥の中に黄味餡を包んだ「玉椿」(姫路・伊勢屋本店)、小豆餡に塩味を利かせた「塩味饅頭」(赤穂・元祖播磨屋)など城下町の和菓子も忘れられない。

 特産の那智黒石に見立てた飴の「那智黒」(太地町・那智黒総本舗)も不変の和歌山土産の一つである。
中尾隆之
1942年北海道生まれ。高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。