生殖補助医療の進歩に伴い、病気や加齢などに備えて受精卵や精子・卵子を保存し、自らの子供を持つことができる可能性を残しておくことができるようになった。だがその一方で、亡夫の子を出産したときの法的扱いなど、新たな問題も発生している。
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生殖補助医療の進歩に伴い、受精卵や精子・卵子の保存技術も向上し、長期間にわたる保存が可能になっている。その結果、病気や加齢などに備えて、自らの子供を持つことができる可能性を残しておくことができるようになったが、それに伴う問題も発生している。
亡くなった夫の子を妊娠
どのような問題が起きているのか。2006年9月4日、最高裁で、夫の死後、その冷凍精子を利用した体外授精によって誕生した子供の認知を求める請求が棄却された。
亡夫は生前の1998年、白血病の治療により無精子症になることを危惧し、治療の前に自らの精子を病院で凍結保存していた。治療後、生殖補助医療の治療を開始したが、妊娠にはいたらず、翌年死亡した。
妻は、亡夫が「自分の死後、再婚しないのであれば、凍結精子を利用して子供を産んで両親の面倒をみてほしい」と言い残していたこと、それを夫が両親・親族にも伝えてあり、後押しも得られたことから、妊娠を決意。夫の死後2年たった2001年に出産した。
妻は亡夫との、嫡出子(婚姻関係にある夫婦の子)として出生届を提出したが、民法の規定により婚姻解消から300日以上をこえて生まれた子供は嫡出子としないため、不受理となった。それを不服とした妻は裁判で認知を求めていたが、一審は棄却された。
高裁二審では「自然血縁的親子関係と、父の生前の同意があるのであれば、親子関係を認めるべき」と原告側が逆転、認知を認められていた。しかし最高裁判決は現行法を重んじる形になり、再び敗訴することになった。
現行の民法は、現在のような生殖補助医療技術が開発される前に制定されたもので、今回のケースのような、父親がすでに死亡しているような形での、妊娠・出産は想定していない。現行法に従った最高裁の結論は「亡夫と子供の間に、法律上の親子関係の形成は認められない」「立法によって解決すべき問題」だった。
2005年にも同様に、内縁の夫の死後、その凍結精子を利用し出産した子供の認知を求める訴えが東京地裁にあったが、棄却されている。
最高裁が法の不整備を指摘
癌や白血病の患者が、自らの精子を治療前に保存しておくケースはよくある。また卵子は若い間のもののほうが妊娠率が高いため、若いうちに卵子や受精卵を保存しておき、余裕ができてから妊娠しようとする女性も現れつつある。
不利益をこうむるのは、何の責任もない子供たちだ。将来この子供が父なし子として、差別や不利益を被る可能性は否定できない。相続についても問題がある。亡夫は子供に祖父母の遺産を相続して貰うことを希望しており、祖父母・親族も了解していたが、今後、法的根拠がない以上、その通りに相続されるか疑わしい。
日本産婦人科学会の会告によれば、亡夫の凍結精子は本人の死後廃棄することが規定されている。同様に、離婚または死別などの理由で婚姻関係が解消された夫婦の受精卵も、廃棄することが定められている。
しかし『読売新聞』によれば医療機関の中には、保存期間や廃棄の規定を設けていなかったり、夫の同意を確認せずに体外受精に使ったりするなど、凍結精子の扱いがずさんなところが多い。
先の事例で、最高裁は訴えを棄却すると同時に、法の不整備を指摘した。現在法整備に向けて、議論は進められている。子供に不利益の出ないよう、現状に合わせた法整備が望まれる。
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