29日に決定された総合経済対策は「安心実現のための緊急総合対策」と名付けられている。福田康夫首相が掲げる安心実現内閣に即してはいるが、その内容たるや、国民に安心をもたらすものとは言い難い。
それどころか、露骨なまでに総選挙を意識した人気取り施策となっている。
典型が定額減税である。公明党が08年度中の実施を執拗(しつよう)に求め、盛り込まれた。自民党にも、公共事業積み増しというかつての手法を使うことができなくなっている状況下で、総選挙向けに悪い話ではない。
7月の消費者物価上昇率は前年同月比2・4%と、消費税率引き上げがあった97年度を除けば、16年ぶりの高さである。家計は景気後退下のインフレを実感しつつあるといっていい。
賃金が物価上昇で目減りする中で、減税は可処分所得の確保をはかることが狙いだと与党は説明する。1年度限りにすれば、財政への打撃も限定的だ。臨時福祉特別給付金で定額減税の恩恵に浴することのできない層にも配慮するという。そううまくいくのか。
今回の定額減税の問題点は次の2点に集約できる。
第一は、緊急対策が目指す国民の安心実現との関係が不明確な点だ。
減税は基本的に家計の助けとなる。また、そのすべてではないにしろ消費に回れば、成長率押し上げ要因になる。ただ、それが国民の不安解消や安心実現と直結するわけではない。
国民の不安は社会保障や医療、介護、雇用など構造的問題に根差している。緊急対策でもこうした問題への取り組みは盛り込まれている。しかし、そこから政府が実現を目指す安全、安心の姿は読み取ることはできない。
また、単年度の定額減税で長い目で見た国民の消費マインドが回復するのかも不透明だ。むしろ、1年限りということで、貯蓄などの方法による生活防衛が主になることも考えられる。
第二は、定額減税の規模や、財源をどこに求めるかなどが年末に先送りされたことだ。これでは、経済刺激効果も、財政再建への影響も予測できない。
政府は臨時国会に提出する補正予算では赤字国債の増発は避け、不足分は建設国債でまかなう意向だ。しかし、年末に編成が想定される第2次補正予算では定額減税の財源として赤字国債の発行は不可避だ。そうしたことを隠そうという意図があるとしか思えない。
緊急対策は生活者の不安解消、持続可能社会への変革加速、新価格体系への移行と成長力強化の三つの目標のもと、総花的な施策を集め、事業規模を11兆5000億円まで膨らました。これぞばらまきである。加えて、税制の抜本改正にそぐわない定額減税だ。
こうした人気取りの手法に惑わされてはならない。
毎日新聞 2008年8月31日 東京朝刊