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2008年8月31日

◎大名墓所の一括申請 金沢、高岡の一体感さらに

 野田山前田家墓所(金沢市)と前田利長墓所(高岡市)の国史跡指定申請に合わせ、両 市が大名墓所の活用策を探るフォーラムを共同で開催した。今年度内に見込まれる一括史跡指定は、これまで交流を続けてきた両市が前田家の治世のもとで都市基盤を整え、文化をはぐくんできた歴史の共通点を再確認する大きな節目となる。これを機に一体感をさらに強め、互いが発展できる関係を築いていきたい。

 世界遺産登録運動の広がりとともに、金沢、高岡市では加賀藩前田家の財産を核にした 魅力づくりが進められ、過去の歴史のみならず、今後の都市づくりの方向性においても共通点が一層鮮明になってきた。

 東海北陸自動車道の全線開通や二〇一四年度末の北陸新幹線開業へ向け、都市間協定が 活発化しているが、金沢、高岡両市は観光誘客にとどまらない交流の実が期待でき、連携するほど両市の特徴が際立つ関係といえるだろう。加賀藩の歴史を生かした金沢市と富山県西部の広域的な観光振興策も、両市の関係を強めることによって進展していくに違いない。

 大名墓所のフォーラムは三十日に「高岡編」として記念講演や座談会が行われ、三十一 日は「金沢編」として記念講演や調査報告などがある。県境を超えた国史跡指定は全国的にも珍しく、しかも墓所はそれぞれの都市の礎を築いた前田家のいわば「聖地」であり、金沢、高岡市にとっても都市の「聖域」といってよいだろう。そうした特別の空間を接点にすれば両市の関係はより深いものになる。フォーラムをきっかけに足並みをそろえ、活用策に知恵を絞りたい。

 金沢城跡に続き、高岡古城公園でも国史跡指定を目指す動きがある。国の重要伝統的建 造物群保存地区でも両市は新たな地域で選定の可能性を探っている。さらに町家や寺社の活用策、禅文化の発信など共通する行政課題は数多い。取り組み事例を交換し合うなど協力する余地は大いにある。

 来年は高岡開町四百年という大きな節目である。加賀藩のきずなをさらに強めるために 金沢市も手を携え、成功に導きたい。

◎初の黒人大統領候補 本物にしたい米国の変化

 米民主党の大統領候補に指名されたバラク・オバマ上院議員は初の黒人大統領候補であ る。人種問題における米国の成熟につながる「大きなうねり」が後押ししたと考えたい。欧州から移住した白人中心の民主主義の土壌に混血を含む多民族・多文化を認め合い、人種差別を超えようとする変化であり、一時の気まぐれではなく、二十一世紀の米国の力の源泉になってほしい。

 オバマ氏をめぐって暗殺の動きがあった。今後もそうした危険が伴い、米国の変化がス トップする懸念もあるが、副大統領候補に民主党中道派を代表するジョセフ・ハイデン上院議員を選んだのは白人の理解を得るために賢明な選択だった。次期大統領選はオバマ氏と共和党のジョン・マケイン上院議員で争われるが、政策に加えて人種主義も問われる選挙になるだろう。両陣営とも優れた知日家がいる。どちらが選ばれようとも、日本は米国とのきずなを大事にしなければならない。

 オバマ氏は父がアフリカのケニア人、母は白人である。その彼を、黒人とするのは奴隷 制時代に考え出された「一滴の血」のルール、すなわち黒人の血が一滴でも混じっていれば黒人とみなす考え方にすぎない。人種を超えて「真性の人間」であろうとした母親の熱心な教育と、持って生まれた優秀な頭脳で白人中心社会の主流に乗ることができた半面、自分の中を流れる黒人の血を無視できず、白人と黒人を分ける二元論から自由になれなかったことが彼自身による伝記「マイ・ドリーム」で描かれている。

 オバマ氏はその二元論を超えようとしている。これに関する象徴的な出来事が、今年五 月、彼がよりどころとして求めた、いわゆる「黒人教会」から脱会したことだ。白人主導にこびず、さりとて白人の罪をとがめるだけの空疎なブラック・ナショナリズムの側にも立たないことの宣言だった。指名争いを有利に進める身のこなしとみた酷評もあるが、多民族・多文化社会のまとめ役としてふさわしい人物が大統領候補に指名されたことは歴史的だ。


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