神戸市立中学校の常勤講師で在日韓国人3世の韓裕治(ハンユチ)さん(43)が今春、校長からいったん副主任に任命されながら、外国人であることを理由に解任されていたことが分かった。公立学校の外国人教員は全国に約200人いるが、副主任解任は初のケース。韓さんは職員会議で役職を記した資料から名前を削除されたことを明らかにし29日、同市内であった記者会見で「露骨な外国人差別で、許せない人権侵害行為」と校長らへ謝罪を求めた。【中尾卓英、内田幸一】
政府は91年、日韓外相覚書で公立学校の教員採用試験の国籍条項を撤廃。同時に、当時の文部省は都道府県などに「外国人教員の任用形態は定年まで働ける常勤講師。(学校運営の重要事項を決定する)校務運営には参画できない」と通知した。学校教育法は「講師は主任に充てることはできない」と規定しているが、全国在日外国人教育研究協議会などによると、キャリアを積んだ複数の外国人教員が主任に任命されているのが実情だ。
韓さんは93年、同市初の外国人教員として採用された。今年3月31日、校長から「2年生の副主任に」と打診された。4月2日午前の職員会議では、韓さんを学年副主任のほか「人権教育推進委員会」チーフなどに任命する資料「校内組織(校務分掌)」が配布された。前任校と現在の学校で計4年、学年副主任を務めた韓さんはこれまで通り、「主任不在時に仕事を代行することになるが、本当にできるのか」と、校長に市教委への問い合わせを依頼した。
同日、市教委の指導を受けた校長は、韓さんに「常勤講師は副主任になれない」と回答。翌3日の職員会議で、校長らは十分な説明もないまま同じ資料の副主任欄から「韓」さんの名を削除するよう全教員に指示した。同時に、職場体験学習「トライやる・ウイーク」など四つの委員会での格下げも決めたという。
韓さんは「同僚や保護者らの間で、私が大きなミスを犯して降格させられたという誤解が広がっている」と話した上で、「校長らの謝罪と全職員への事実経過の報告を実現させたい。私の後に続く在日外国人の子どもたちのためにも、日本を差別のない社会に変えていかなければならない」と訴えた。
この問題では、国籍条項撤廃などに取り組む教員らでつくる「兵庫在日韓国朝鮮人教育を考える会」(考える会、藤川正夫代表)などが5月から、校長ら同席のもとで事実確認を要求しているが実現していない。毎日新聞の取材に、市教委教職員課は「校長らは『削除を指示したかどうかは忘れた』と話しているが、資料が残っている以上、名前を削除されたのは事実で、配慮が足りない行為だった。副主任の任用問題については文部科学省の通知に従った」と話している。
教育現場での人権意識のなさに、憤りを超えて悲しさを感じる。公私立の分野が共存する学校や病院などで、一方だけ外国人を管理職から排除するのはナンセンス。学校教育法は国籍による制限を規定していないのに「(公務員の)当然の法理」を盾に外国人を排除する政府の姿勢は、民主主義の原則に反している。
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■視点
神戸市立中学校で明らかになった在日韓国人3世の常勤講師、韓裕治さん(43)に対する「外国人差別と人権侵害行為」は、韓さん個人の問題ではない。
91年、政府が教員採用試験の国籍条項を撤廃して以降、大阪、兵庫、三重、神奈川などを中心に全国では約200人の外国人教員が教壇に立つ。90年代に採用された教員はキャリアを積み「主任」になる時期を迎えているが、文科省は外国人教員を「常勤講師」と規定し主任任用から排除し続けてる。
この日の会見に同席した「兵庫在日外国人人権協会」の孫敏男(ソンミンナム)代表は制度改正に向けて「国際都市・神戸から、日韓再協議の必要性を訴える時期にきている」と語った。
学校教育法改正で副校長、主幹教諭、指導教諭など教員の序列化が進み、外国人教員からは、▽日本人教員(教諭)より低い扱いのため、保護者から「臨時採用者」と誤解される▽子どもたちからは「朝鮮人の先生は日本人の先生の下」と言われる--などの不満が相次ぐ。
韓さんは「韓国人の私が教壇に立つことで、多くの外国籍の子どもたちに勇気と希望を与えることができた」と公立学校採用の意義を語る。一方で、大学進学を果たしても就職差別に直面し胸を痛める教え子も少なくない。労働力確保など政府の方針で、外国籍や外国にルーツを持つ子どもたちが増え続ける中、外国人教員の任用問題は、こうした子どもたちの将来に夢を与えられるかどうかを、日本社会と教育現場に突きつけている。【中尾卓英】
〔神戸版〕
毎日新聞 2008年8月30日 地方版