願い
今日は7月7日、七夕の日である。
この10年間、「そういうイベントもある」程度の認識で過ごしてきた遠坂 凛は、衛宮家の離れの部屋で、珍しくも浴衣に着替えているところであった。
ことの発端は昨晩、いつものように衛宮家での夕食が終って、凛、イリヤ、大河の三人は居間でくつろぎ、士郎と桜が洗い物をしている時、突然大河が言ったのである。
「ねぇねぇ、明日って七夕よね! 家から笹持って来るからみんなで浴衣着て七夕祭りしよ!」
何も言わず、またかという雰囲気の士郎、既に乗り気の桜、どうでもよさげな凛、七夕って何? と、疑問符を浮かべるイリヤ、各人各様の反応もまたいつものこと。
「反対者は無し、それじゃ決まりねぇー!」
たとえ反対者がいても、実力行使で封殺しかねない勢いでその場をまとめる大河もまたいつもの姿である。
「家、浴衣なんか有ったかな?」
ぽつりとつぶやいた凛に
「ふっふっふ〜! だーい丈夫! 家のお手伝いさんに頼んで、ちゃんとみんなの分縫っといてもらったから」
どうやら結構前から計画だけは立てていたらしい。
「細かい寸法とか会わせるから、後で家に来てね! それじゃ、まってるから」
言うが早いがぱたぱたと帰っていく大河。どうやらなにやら他にもたくらんでいることがあるらしい。
「何考えてるのか知らないけれど、珍しくああしてさっさと帰っていったんだ、きっと明日は雨降るぞ」
「まぁまぁ、別に悪いことする訳じゃないんだからいいんじゃない?」
「いや、きっとアレは七夕のお祭りなんだと口実作って宴会にもつれ込む腹だ」
明日の朝一で言うに違いないと続ける。
「三人で、和・洋・中と揃った料理を作ればいいじゃない。こうやって、時々
当番制ではなしにみんなで作るのもいいものでしょ」
とりあえず材料費は出させるように交渉しとくからと、慰めるように言葉を続ける凛。
これももういつものこと。
傍らでは桜がイリヤに七夕の説明をしている。
かくして、この日はそれぞれに浴衣を丈のあわせた後帰宅。あけて今日は放課後、一旦それぞれの家に帰り、改めて材料の買い出しをし、一通りの準備を整えた後、冒頭に記したように着替えているのである。言い忘れたが、凛と桜の浴衣は、昼間の内に藤村家のお手伝いさんが離れのそれぞれの部屋に届けてくれていた。
彼女たちの浴衣を仕立てた藤村家のお手伝いさんは良いセンスを持っていたようで、女性陣4人の浴衣姿はさすがであったとだけ言っておこう。
そして、短冊を笹に結びつけているとき、
「全く、あんたの願いって想像通りというか何というか……まぁらしいと言えばらしいんだけど」
苦虫をかみつぶしたような顔の凛と
「でも先輩らしいと思いますよ」
いつものように柔らかくほほえむ桜。
「じゃ、じゃぁみんなはどういう望みを書いたんだよ」
「な、ないしょですぅ〜」
と、顔を赤くしている桜を尻目に
「ふ、ふーん、知りたい?」
と、いたずらっ気のある笑顔を浮かべる凛。
「そりゃ知りたくないと言えば嘘になるけどな、」
変な条件つけられたくないし……とぼやく様子に
「あら、そんな変なことは要求しないわ」
「ほんとか?」
「ええ、とっても簡単、衛宮くんさえその気になれば、間違いなくできる約束を一つしてくれればいいの」
「ほんとだな?」
「ほんとよ」
「じゃ、聞かせてもらおうかな」
「いいわ、じゃぁ、願いが叶ったときに教えてあげるから、そのとき必ず私のそばにいてね。これが約束」
「な、ちょ、ちょっと待ておまえ、その願いっていつかなうんだ? 下手すりゃそれまでずっと一緒にいなくちゃならないじゃないか! 大体それのどこが簡単なんだ!」
「そうですよ! 遠坂先輩、そんな約束なんてずるいです!」
「あら、ずっと一緒にいるだけよ、簡単じゃない。それとも衛宮くん、正義の味方が約束を破っちゃうの?」
「やられた」
「それに」
と、ずいと耳元に口を寄せると
「弟子が師匠のところから勝手に離れられると思ってたの?」
「うっ」
そうして、にっこりと、まるで花が咲くかのような笑みを浮かべた凛の顔を見て、肩を落とした士郎は
「こいつには一生勝てそうにないな」
と負けを認めるのであった。
後書き
七夕の朝、唐突に思いついた七夕ネタ二つのうちの二つ目です。
何とか日が変わる前にupしたくて一気に書き上げてみましたがいかがでしょう?
Fate End後の話です。
ご意見・ご感想をmailもしくはBBSにて頂けたら幸いです。
MISSION QUEST
2004/07/07 初稿up
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