「……多いな」
「そうね」
「どうする?」
「……どうしよ?」
「一年も二年はまだ春休みに入ってないよな?」
「うん、けど三年で県外の大学に行く人たちは、もう引っ越しの準備中よ」
「俺達がそうだもんな」
「いずれにせよ、一日で回れる数じゃないわよね」
「だよな」
「「はぁ」」
士郎と凛はそれぞれ、自分にバレンタイン・デーのチョコをくれた子達のリストを手に、揃って頭を抱え、溜息をついた。
あかいあくまと正義の味方 番外編 〜ホワイト・デー〜
(case of UBW TE after)
二人が貰ったチョコの数は合わせて百数十人。
リストの突き合わせはしていないのでダブり分があるかもしれないが、全校女子生徒の半分以上……三分の二近くから貰った計算になる。
等価交換などを持ち出すまでもなく、プレゼントを受けたからにはお返しをするのは、この二人にとっては当たり前のこと。おまけに世間的にホワイト・デーという、商魂溢れるそのための日まで用意されているとなれば(それに乗らされること自体はともあれ)なおさらである。
しかし問題はその数。
とくに話し合ったわけではないが、お返しは二人一緒に行くことが暗黙の了解になっているので、二人でこれだけの数を一日に回らなければならない。一年二年の女子に対しては、学園に行って休み時間毎に渡すという手があるが、それだけで放課後まで潰れることは充分あり得る。
ましてや、この時期、卒業を控えもはや学園所ではない三年に至っては、個別に家まで行って渡すことになる可能性が非常に大きい。
ちなみに、穂群原学園には、当然の事ながら冬木市の外から通学してきている者達も多くいる。そんな中、学生名簿片手に全部回るとすると、一体どれだけの時間がかかることか……。
「良し、決めた!」
まったく良い考えが浮かばないままうなり続けていた士郎を余所に、ブツブツと、なにやら脳内会議を行っていた凛は突然大声を出した。
「遠坂?]
「そうよ、一人一人に手渡しで渡そうとするから駄目なのよ、みんなに来て貰えばいいじゃない!」
「お、おい、遠坂、どうしたんだ? なにか良い考えが浮かんだのか?」
一人置いてきぼりな士郎に、凛は向き直ると人差し指を突きつけてきた。
「士郎、今までわたしたちが悩んでいたことは何?」
「え? そりゃ、こんなたくさんの人にお返しをして回るんじゃ、一日で終わりそうにないからどうしようかって……」
「そう、こっちからお返しをしに回ろうとしていたから困ってたのよ」
「だって、お返しなんだからこっちから行くのが当然だろ? まさか、『お返しをするから取りに来なさい!』なんて事言うつもりか?」
言いながら、凛がそう言い放つ姿を脳裏に浮かべたか、「結構はまってるな……」などとぼそぼそ呟く士郎。
だが、自分の考えを説明しようとしている凛の耳には、幸いにも届かなかったようだ。
「あんたばか? お返しをするのに、相手を呼びつけたりするバカがどこの世界にいるのよ。お招きするに決まってるじゃない」
「お招きするって、どこに?」
「ウチに決まってるじゃない」
「ウチ……って、ここにか?」
「他にどこに家があるっての?」
「そ、そりゃ、まぁそうだけど、この家に百数十人も入らないぞ」
「ガーデンパーティにするのよ」
「は?」
「十四日は金曜。ならば翌日は土曜でしょ。土曜の午前中を準備にあてて、午後にお茶をしに来て貰うのよ!」
「えええ!」
「何驚いてるのよ。そりゃ、数はちょっと多いけど、倫敦(向こう)に行ったら、お客さまをティー・パーティに招くなんて当たり前のことなのよ。ならば行く前からやっても何も問題ないじゃない!」
「ちょっと多い……か?」
「なによ、文句あるの?」
「いや、だっていくらうちでも百数十人分の食器なんてないぞ」
「あっちから取ってくるわ」
「取ってくるって……遠坂の家ってそんなに食器があったのか?」
「同じ物を百数十人分なんて無いけれど、一ダースぐらい揃ってる物ならいくつもあるわ」
「何でそんなにあるんだ?」
「遠坂家って一応は何代も続いた名家なの。そして、名家ではそれなりの人数を集めて会食をしたりすることは良くあったのよ」
「そうなのか」
「お父様はあまりやらなかったみたいだけど、お祖父様の代までは良くやってたみたいね」
「へぇー、何で遠坂のお父さんはやらなくなったんだ?」
「……お母様が元気だった頃は良くやってらしいわ」
「あっ……、そっか。ごめん、その、思い出させちゃって」
「いいわ、だって、わたしが二つか三つの頃に死んだそうだから……、私もお母様のことは全然覚えていないもの」
「そっか……」
「だから、お父様とお母様の分までわたしたちがやるの。いいわね!」
「あ、ああ。判った。頑張ろう!」
「じゃ、やることたくさんあるわよ! 先ずは、お互いのリストを付き合わせてダブりがあればそれをピックアップ。実際の人数を把握して、招待状を作って送るのよ」
「それは良いんだけど遠坂」
「なによ?」
「それで結局どんなのを出すんだ? 会食にするのか?」
「な……何馬鹿なこと言ってるのよ! ホワイト・デーよ! お茶とクッキーに決まってるじゃない!」
「お茶とクッキー……あ、そっか、ティー・パーティか」
「そ、だからクッキーは二人で作るとして、士郎、それまでに紅茶のちゃんとした入れ方を身につけるのよ! 苦みや渋みが出ている紅茶なんか論外よ! いいわね!」
「お、おう……」
……映画等なら、これで早速二人が準備に取りかかり、流れるように日々が過ぎて当日を迎えるのだが、残念ながらそうは巧くいかないのが現実の厳しさ。
それは、この家ではいつものことながら、夕飯の後にやってきた。
「……と、言うわけで、十五日にガーデンパーティをやろうと思うんだ。で、悪いけど藤ねえと桜は夕方までこないで欲しい」
「はんたーい!」「イヤです」
「なんでさ」
「そんなこと言って、お姉ちゃんには何にもくれないつもりなんでしょ! わたしだって士郎にチョコあげたんだから、貰う権利はあるんだぞー!」
「十円かそこらの麦チョコでそこまで声高らかに権利を主張するか?」
「うるさい! ホワイトデーは三倍返しなのだ!」
「三十円分でいいのか?」
「……う、それは」
士郎は一つ溜息をつくと、
「藤ねえと桜には別に作って土曜の夜に出すから、それまで待っててくれ」
と、言う。
「え!? ホント! それならおねぇちゃん許す! だから美味しいの作ってねぇー!」
「判った判った。じゃ、二人ともそれで良いな」
「良くありません」
「へっ? 桜?」
「えー、桜ちゃん、駄目なのぉー? あ、まさかわたしと分け合うのがイヤなの? 士郎のお菓子を独り占めしたいとか?」
「そんなんじゃありません!」
突然大声で叫ぶ桜。
「一人一人に配りきるのが難しいからガーデンパーティを開くって言うことは、それだけたくさんの人が来るってことじゃないですか! なのに何で先輩と遠坂先輩の二人だけで全部やろうとするんです? わ、わたしもこの家の家族なんですよね? 家族なら手伝わせてください!」
「え、いや、だってこれ、俺と遠坂が貰ったバレンタイン・デーのお返しだから、桜に手伝って貰うわけにはいかないぞ」
「そうよ桜、気持ちはとっても嬉しいけれど、これはわたしたちがお礼をするんだから、わたしたちでやりたいの」
「先輩、わたしも家族なんですよね?」
「ああ、そうだ。大事な『妹』だ」
「だったら『兄』と『姉』が忙しい時に『妹』が手伝うのは普通のことじゃないんですか?」
「いや、しかしだな……」
「いいですよね? ね、姉さん」
一瞬どもりながらも、思いきったように遠坂に向かって言う桜。これで勝負は決した。
「姉さん……って、桜……」
凛の顔が歪んでいる。
「遠坂? どうしたんだ?」
「駄目ですか? 姉さん」
もう一度、今度はつっかえずに言う桜。
「ううん、駄目なわけないじゃない。うん。そうよね、妹に手伝って貰って、何もおかしなことないわよね」
顔一杯に嬉しさを表しながら凛は応える。
「えっ? 遠坂?」
事情がわからない士郎。藤ねえも「はて?」とばかりに首をかしげている。
「そうです、だから私に手伝わせてください」
「うん、お願いするわ。桜」
「はい! 姉さん!」
「ええっと、良くわかんないけど、頑張ってね、桜ちゃん」
「はい! 藤村先生!」
元気のいい桜の応えにうなずく藤ねえ。
「じゃ、士郎、遠坂さんと桜さんと一緒に頑張るんだよ!」
「ああ、判ってる」
と、一方については兎も角、他方については士郎にとって不思議な、しかし凛にとっては嬉しい形で、事態が進展しはじめた。これはまぁきっと誰にとっても良かったのだろう。
と、なんだかんだとうまく行っているように見えはするものの、実際にはそううまく行くわけはない。
いくら元武家屋敷だったとは言え、衛宮家の庭の広さには限界がある。
そう、テニスコートの一つや二つを取れる程度の面積があるからと言って、百数十人分のスペースを確保できるわけがない。
……それだけで充分広いじゃないかという意見は、この場合に限り却下。全ては相対的に考えなければね。
その庭を効率的に使いつつ、最大で百数十人の人を収容でき、しかもその人達にクッキーなりお茶なりをサーブできる環境を構築するのはそうそうたやすいものではない。
故に、テーブル(藤村家には、この種の、学園の女子に受けるようなものがあまり無いので、ツテを頼って借りることになった)セットやら何やらの手配を済ませつつ、効率的に人を収容できる環境を設定するのは容易なことではなかった。
むろん、困難の元は他にもある。
例えば、凛の助言を受けながらも、なかなか上達しない士郎のお茶の入れ方(当日は双方入れ替わり立ち替わりお茶を入れたり給仕したりと言った状況になることが予想されるため、なるべく二人の技能を平均化(つまり上に合わせる)ことが求められる)を矯正したり、或いは……。
「士郎!」
遠坂の鋭い声に、いましも士郎が上げようとしていたあくびが止まった。
「どうしたんだ? 遠坂」
「最近、アンタなんだか無理や無茶してない?」
ドキン! っと、士郎の心臓が跳ね上がる。
この時、士郎の胸中を巡るのは、「凛には心配掛けたくない」という思いと、「凛には、嘘を付きたくない」という思い。
けれど、素直に全てを話せば、凛を驚かせることが出来なくなるばかりか、そのときの、喜んだ顔もきっと半減する。
だから、士郎はこの件については、あえて嘘を付くことにした。
「何言ってんだよ遠坂。俺は別に無理も無茶もしてないぞ?」
「そうなの? このところ、また夜遅くまで土蔵で鍛錬してるんでしょ? ほんとに大丈夫なの?」
「いや、確かに土蔵に篭もってるけど、別に鍛錬してる訳じゃない。手先を使って色々いじってるだけだぞ」
確かにこの点については嘘は言っていない。
「ほんとに? だったら、また、根こそぎ魔力を貰ってもいいわね」
「あ、いや、それは困る。修理の為の解析やら強化・変化やらに使える程度の魔力がないと、部品の買い換えやら何やらで時間と手間がかかって困る。だから魔力を持ってくのは勘弁してくれ」
「……何でこのところ急にそんなことに精を出すようになったのよ。……もっと私と一緒に居てくれてもいいじゃない」
……士郎にとっては反則だ。こんな事を言われれば、士郎ならずとも何もかもほっぽって凛と一緒に居たくなろうというもの。ましてや、相思相愛のこの二人となれば……。
「……ああ、一緒に居たいのは山々だけど、倫敦に行く前に、片づけられるものは片づけておかないと、とんでもないことになりそうだろ? だから、もうちょっとだけ我慢しててくれ」
人をだますには、真実の中に嘘をちりばめろと士郎に教えたのは誰だったか……。ともあれ、その教えを忠実に守ろうとする士郎は、凛に対する思いという真実に紛れて、日頃の行いに対する嘘を付くことで、全てを明らかにすることを避けることが出来た。
「……ん、判ったわよ。でも、無理しないでね。そのまま土蔵で寝たりしたら駄目よ」
「ん。ごめん。努力するよ」
「とか何とか言って、いつも明け方までなんかやってるじゃないのよ」
「ごめん。……って、そんな時間まで起きてるのか?」
「士郎がいつまでも作業してるからじゃないの。士郎がきちんと睡眠を取ってくれれば、わたしもちゃんと眠れるのよ!」
「そうなのか。ごめん。今日からちゃんと寝るようにするよ」
「絶対?」
「……努力するよ」
「駄目だったら、酷いことするわよ」
「酷いこと? 一体何する気だ?」
背中に冷たいモノを感じながら、とりあえず聞き返してみる士郎だが。
「知りたい? 何なら今、身をもって教えてあげてもいいわよ?」
「……え、遠慮しておく」
にっこりと、綺麗な笑みを浮かべて嬉しそうに応える凛の前に日和見を決め込んだ。
もし、この士郎を臆病者と思う者が居たら、自分がその立場になった時のことを考えるべきだろう。他の選択肢など、かけらほどもないことに気が付くはずだ。
「そう? 残念ね。もし気が変わったらそういってね。いつでも教えてあげるから」
「いや、そんなことはないと思うぞ。それより、どうだ? これ」
と、ちょうど焼き上がったチョコチップクッキーを一つ渡す。
「ん、どれどれ……これ、クルミが入ってるのね。うん、いいんじゃない? ただこれだと、ミルクティーの方が合いそうね」
「む、じゃぁこっちはどうだ?」
と、こんどは一緒に焼いていたチェダーチーズビスケット。
どちらも百八十度に暖めたオーブンで十五分程度焼く(後者の方が焼き時間は長い)ので、試作段階の今日は一緒に焼いているのだ。他に同じようにして焼いたクッキーやビスケットが何種類か……。
「ん、これはキーマン・ティーが合いそうね」
「そうなのか? じゃ、これは?」
「んっと、これは、ハニー・ケーキ? ん、おいし……じゃなくって、そうね、ミルク・ティー向きね」
色々な種類を作って試すためもあり、衛宮家に元からあるモノだけではなく、藤村家から借りてきた物、遠坂邸から運んできたものと、三台がフル稼働中なのだが、焼いている物によって焼き上がりの時間が異なる。そのために……。
「そろそろスコーンが焼き上がるぞ、ティー・ブレッドはまだだな」
「ちょっと、なによ、その味のバランスを考えないめちゃくちゃな順番は」
「う、ごめん、準備が出来た順から焼き始めたんだけど、どうしてもクッキーやビスケットの方が先に焼けるからさ」
「まぁクッキーやビスケットは先にまとめて作っておけるからいいけど」
「ああいう冷ますのに時間がかかるのも先に作らなきゃ行けないけどな」
指した先にあるのはレモンメレンゲパイ。その脇には試食用の残りをむさぼり食べながらも、パイに視線を固定させている藤ねえが居たりするのはどういうものか。
「後一時間かかるんだっけ?」
「うん、そのぐらいだ。良し、スコーン焼けたぞ。これ付けて食べてくれ」
「あ、クロテッドクリーム! わたし、これ付けて食べるの好き! ベリー系のジャムも揃えてあるのね! やっぱりスコーンはこうでなくっちゃ!」
嬉しそうにたっぷりのジャムとクリームを付けてブレーンやレーズンのスコーンを食べる凛。他にチェダーチーズとクミンを入れたスコーンもある。
「うん、やっぱりスコーンはミルクティーでも良いけどストレートの方が良いわ。セイロン・ティーあたりがいいわね! 駄目よ、桜! スコーンはクリームもジャムもたっぷり塗って食べるの!」
「う……、でも姉さん、こんなに甘いモノやこってりしたものをたくさん食べていると……」
先ほどから、もっと食べたそうな顔をしながらも、ちまちまと試食していた桜は恨みがましく自分のおなかの当たりを見る。
「え? ああ……、大丈夫よ、桜、後で士郎と一緒に道場で汗を流せば……たぶん」
「いくら何でも、先輩の鍛錬にずっと付き合うのは……、藤村先生だけじゃないですが、最後まで一緒に出来るのは」
「私よりは長く持つ癖になに言ってるのよ」
「そんなこと言ってるけど、姉さんだって大抵の人よりは持久力あるじゃないですか」
「日頃走り込んでる体育会系には負けるわよ」
「日頃走り込んでいるのに大した差が付かないと言うのも、それはそれで言いたいことが色々と出てくるんですけど……」
「ええっと、ティーブレッド焼き上がったんだけど、どうだ?」
そこにスコーンの味見をしながら、ティーブレッドの祖熱を取っていた士郎が、手際よく型からだし、上に蜂蜜を塗った後、切り出した物を持ってくる。
脇には、たっぷりと塗れるように用意したカルピスバター。
姉妹揃って、一瞬おなかの当たりに視線をおろし、溜息をついたかと思うと、一枚ずつ取って、バターを塗りつける。
凛はたっぷりと、桜は薄く……
「駄目よ桜、これ、いわゆるバタつきパンって奴よ。こんな風にたっぷりバターを塗らないとおいしさ判らないわよ」
「ううう……」
言われて桜は、一角にたっぷりと塗りつけ、薄く塗ったところと味を比べると、泣きながらパン全体にたっぷりとバターを塗りつけ始める。
「確かにこの方が美味しいです。うう……」
「でしょ、美味しいものを美味しく食べないのは犯罪よ。あ、先生はこっちのバター使ってください。たくさん食べる人にこのバターはもったいないです」
「しろうー、遠坂さんが意地悪するよー」
「このバター、一個八百円近くするんですよ」
「え! そんなにするの!?」
「遠坂、それ高濃度の方だから千円近くするんだけど」
「……アンタ、ほんとに美味しい物作るには手を抜かないわねぇ」
「当たり前だろ。みんなが美味しいと言って喜んでくれるの見るのってほんとに嬉しいんだからな」
と、嬉しそうに笑いながら言う士郎。
「う、アンタ、その顔って……」「先輩……その笑顔、反則です」
「士郎って、遠坂さんと一緒になってからホント、いい顔で笑うようになったわねぇー」
「そうなのか?」
「うん、みてて悔しくなるくらい変わった。でしょ? 桜ちゃん」
「はい、姉さんと一緒になったとたんにこんなに変わるなんて、ホント、悔しいです」
「「え、ええっと……」」
「悔しいから自棄食いしてやるぅー! もっと美味しいものもってこーい!」
がぉーっ! とばかりに吠える藤ねえ。
「だからそれはもう少し冷まさないと駄目だ! ええい、仕方がない。このチーズタルトでどうだ!」
言いながら冷蔵庫を開ける。
「えー、そんなところにまだ隠してたんだ。士郎ずるいー」
「冷ましてたんだ。ほら!」
吠え続ける虎の前に、手早く切り分けたそれを突き出す。
続けて、凛と桜の前にも出してから自分も味を見る。
「うう、美味しいですぅー」
「む、これもミルクティー向けね。けど、ストレート向けのもあるし……一人一人にポットで出して、二杯目を自分でミルクティーにして貰った方が良いわね」
「そっか、判った」
「いっとくけど、ミルクティーに使うのは低温殺菌牛乳よ。そこらへんのコーヒー用ミルクや普通の牛乳持ってきたら罰として食事当番一回抜きだからそのつもりで用意しなさい!」
「……うちじゃいつも低温殺菌牛乳だぞ。毎朝飲んでるから判ってるだろ?」
「念には念を、よ」
「そっか、ところで、それだとポットが足りなくなりそうなんだけど」
「それもレンタルするしかないわね」
などと言ったやりとりを挟みつつ、次第に準備が整っていった。
「ところで桜ちゃん」
「何ですか?」
「どうして遠坂さんは姉さんなのに、わたしのことはお姉ちゃんって呼んでくれないのかなぁ?」
「だって藤村先生は藤村先生じゃないですか」
「……じゃ、じゃぁ何で士郎は先輩のままなの?」
「先輩のことを兄さんって呼ぶと、拗ねる人がいるんですよ」
「拗ねるの?」
「はい」
「アイツがか?」
「ええ、それはもう見事に拗ねました」
「へぇー、以外ねぇ。でもちょっと見て見たい気もするわね」
「姉さん、それ意地悪ですよ」
……とか、
「後何枚だ?」
「まだ三十枚しか終わってないわよ」
「何で手書きにこだわるんだよ」
「本文は印刷で済ませたんだから、署名や宛名ぐらい手で書くのが礼儀ってものでしょ」
「リストの入力を嫌がってたのは違う理由のような気がしたんだが……」
「衛宮くん、なにか言ったかしら?」
「ざっと後百枚か、頑張らなくっちゃな」
「……(フンッ! パソコンなんかに頼るなんて堕落よ! 電子機器なんて作り出した奴はみんな敵よ!)」
……等というやりとりもあったらしい。
そしていよいよ当日。
良く晴れた、三月としては暖かい天気の元、陸続とやってくる女生徒達を受け入れた衛宮家は、その大人数から自然とわき出す、喧噪の渦に包まれていた。
「ありゃ、間桐。アンタ客じゃなくて迎える方なのかい?」
「はい、家族が大変な時は助けるのが当然ですから」
「なるほど、末の妹としては兄と姉を助けなくっちゃってことかい」
「あ、あの、『姉』の方は良いんですけど、『兄』の方を言われるとまた……」
「慎二の奴が拗ねるってのかい? あたしゃああいう姿を見れるのは凄く得した気分になれるんだけどね」
「美綴先輩……」
「あっはっは! 冗談だよ冗談。大体この場にアイツが居るわけないだろ! こういう時ぐらいは『兄さん』って呼んでみたらどうだい?」
「は、はぁ……」
「なるほど、何で間桐嬢が一緒に働いているのかと思えばそう言うことか」
「あたしゃてっきり衛宮の奴が二股かけてんのかと思ったよ」
「酷いなぁ〜、蒔ちゃん。衛宮くんがそんなことするわけないよぉ〜」
そこへやってきたのは氷室、蒔寺、三枝の三人組。
「うん、するわけ無いな。あの鈍感朴念仁男がそんなことできるようなら桜の立場はもっと変わってたろうしな」
そこに混ぜっ返す美綴。
「鈍感朴念仁男か……、最近結構気が利くように見えるのは、やはり遠坂嬢にしつけられたのか?」
「しつけ……か、うん、それが一番ぴったりだ」
なんだかんだで、氷室と美綴は話が合いやすいようだ。
「え、ええと、わたし、他にも仕事がありますのでこれで……」
「ああ、済まなかったな間桐。すっかり引き留めちまって」
「あ、いえ。それでは皆さん、どうかくつろいで行ってください。あと、ここにメニューというか、姉さん達が作ったスイーツのリストがありますので、お好きな物を選んでください。でも、選んだ物がもうなくなっちゃってることもありますので……」
「ほう、一つ一つ頼む形になっているのか」
「いえ、ええっと、氷室先輩? 最初にスコーンと紅茶は持ってきますけれど、その、色々と二人が作ってる物を味見して見たんですけれど、結局どれも捨てがたくって、でも全部出しても食べきれるはずもないからと……」
「何だぁ! これ全部あの二人が作ったってのか!」
「はい、ええ……蒔寺先輩」
「うわぁ、遠坂さんも衛宮くんも凄いんだぁ〜」
「あの二人の料理の腕が凄いのは知ってたけど、スイーツもそうだとはね。留学なんかしないで二人で新都に店出した方が良いんじゃないのかい?」
「ふむ、その当たり、二人が来たら聞いてみるか、あの様子ならじきここにも来てくれそうだぞ」
鐘の視線が向いた先には、女の子達にまとわりつかれながらも、クリームおよびジャムの壺と一緒にスコーンを配る凛と、同様に女の子達にまとわりつかれながら紅茶と牛乳のポットを配り、色々と説明をしている士郎の姿。
「しっかし、あの二人……桜もか、あの衣装どっから持ってきたんだ?」
「遠坂さんも衛宮くんも桜さんもみんな似合ってるねぇ〜」
「ウム、エミヤは背が伸びてきた上に姿勢がしっかりしているからな、ああやってキビキビとこなしている姿なら執事として申し分ないだろう」
「は、衛宮とあの桜って子は兎も角遠坂がメイドだぁ? 女王様の間違いじゃないのか?」
「あら、蒔寺さんは丁寧に応対されるよりもあれこれ命令される方がお好きでしたのね? 何でしたらお望み通りにして差し上げましょうか?」
「何であたしがアンタに命令されなきゃ行けないんだよ」
「わたしのことを女王様とおっしゃったのは蒔寺さんですけれど? 女王というのは一国を統べる身。ならばその相手は他国の王族や指導者でない限り命令される立場ではありませんか?」
「うぐぐ……、あーそうかいそうかい、それじゃ、あんたはそこで『オホホホホ』とか高笑いでもしてな」
「なんでわたしがそのような下品な真似をしなければいけないのでしょう? 一度蒔寺さんがお持ちの王侯貴族に対するイメージというものをとっくりと調べさせて頂きたいものですね」
「うわぁ、今ゾクッと来たぞゾクッと! その、今にも解剖して頭の中を見てやろうって言う顔はやめろ!」
「蒔の字、その辺で止めてスコーンを食べてみろ。ジャムを塗って、たっぷりとこのクリームを付けて食べるんだそうだが、とても美味しいぞ。紅茶にもあって、これだけでも今日来たかいがあるというものだ」
「そうだよ〜、これ、ほんとに美味しいよぉ〜。ねぇ、衛宮くん、ほんとにこれ秘密とかないの?」
「うん、レシピにあったとおりの材料を混ぜ合わせてレシピ通りに焼いただけだよ」
「へぇ〜、じゃ、今度弟たちに作ってあげようかなぁ〜」
「三枝ならきっと美味しい物が作れるよ」
「えへ、本当!? じゃ、頑張るねぇ!」
どこでもこんなやりとりが交わされたわけではないが、概ね、和やかな雰囲気のままホワイト・デー・ティー・パーティが終盤にさしかかった頃……。
「ところで衛宮先輩は遠坂先輩になにを贈ったんですか?」
不意に、そんな質問が飛び出した。
「え? 何か、夜に別の物作ってくれるって言ってわね」
「でも姉さん、そのとき名前が挙がったの私と藤村先生だけで、姉さんのことは一言も言ってませんでしたよ?」
「えっ!?」
「『藤ねえと桜には別に作って土曜の夜に出すから、それまで待っててくれ』って」
「……士郎、私には何もくれないの?」
泣きそうな顔をして、士郎に迫る凛。
但し、ほんとに泣きそうなのかどうかは別の話。念のため。
「へ? 何でそうなるんだ?」
「だって……、てっきり夜になにか作ってくれるものだと思ってたのに、それは桜と藤村先生の分だけなんでしょ? 朝もお昼も何もなかったのに、夜もってことは、やっぱり私には……」
うつむき、肩を震わせる凛の姿に、あたりがしんと静まりかえる。
と、そこに、
「まさか、夜の夜中に身体で三倍返し……」
だれかが小声で呟いた声が、妙にはっきりと響き渡った。
「え! 嘘!? だ、駄目よ士郎! 三倍返しなんて、そんなにされたら私持たない! ううん、倍でも無理! 死んじゃう!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「えー!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
「わっ! バカ!」
「やっぱりしてるんだぁー」「倍でも持たないってことは普段でも……」「衛宮先輩って、そんなに凄いんだ」「ひょっとして鬼畜?」「ケダモノとか」「普段どれだけ……」
「きゃー!」「すごーい!」「ひょっとして毎晩?」「どれだけしてるのかな?」「どんな風にしてるのかな?」「ねぇねぇ桜さん、なにか知らない?」「い、いえ、わたしが泊まってる時は静かなので……」「へー」
喧々囂々止むこと無し。
「うう、どうしよう、わたし、もうお嫁に行けない……」
「え? 俺と結婚してくれ無いのか?」
「な、わけないでしょ! 責任とってちゃんと結婚してよ」
「だから遅くても向こうの大学出たらするし、それまでに出来たらすぐにするって言ってるだろ……って、これも俺の責任なのか?」
「聞いた聞いた?」「遅くても大学でたら結婚するって!」「それまででも出来ちゃったら結婚するって!」「きゃー!」
「そうよ、士郎がホワイト・デーのプレゼント、何もくれないからいけないのよ!」
「ちゃんと用意はしてあるぞ。ただ、後で二人っきりの時に渡したかっただけで……」
「二人っきりの時だってぇー」「じゃ、やっぱりそれで盛り上がった後……」「きゃー!」
「べ、別に今ここでも良いじゃない」
「いや、それがだな……」
と、凛の耳元に口をよせ、小声で囁く。
「俺の魔力込めてあるものだから……」
「あ……」
目を丸くし、驚きながらも合点のいった顔をする凛。
「だから、あまり人には見られたくなかったんだ」
そして、顔を離し頬をかきながら続ける士郎。
「そう、それじゃ、二人っきりの時に、ちょうだい」
「ああ」
思いを込めて、見つめ合う二人。
しかし、
「えー!」「ズルイー!」「ここまで来てぇー」「見せてくれないんですかぁー!?」「私たちもみたーい!」「見せてくださーい!」「やっぱり二人っきりで……」「そうなんだぁー」
再びわき起こる姦しき声、声、声……。
「「あ……っ」」
「見せて見せて!」の大合唱に飲み込まれ、二人はもう、なすすべもない。
「……仕方がない。持ってくるよ」
溜息をつきつつ、縁側へと向かう。
「持ってきてくれるって!」「ここで渡すのね!」「どんなのかしら?」「早く見たーい!」
やがて、小さな、赤い紙包みに、同じく赤いリボンを架けた贈り物を持って、士郎が戻ってきた。
固唾を飲んで見守る一同。
「遠坂、これ、ホワイト・デーのプレゼント」
「ありがとう。大事にするわね」
スッ、と、胸元に差し出された箱形のつつみを受け取ると、凛はそれを嬉しそうに両手で包み込み、そして、ポケットにしまおうとする。
「開けないんですか!」「えー! みせてください」「ここで開けましょうよー!」
どうやら、中身を見るまでこの騒ぎは収まらぬよう。
「どうしよう? 見せても大丈夫な物なの?」
手の中の物から士郎の魔力を感じつつ、パスを通して問う凛。
「……うん、よっぽど変なことでも起きない限り、大丈夫だ」
同じく、パスを通して士郎は応える。
それに凛はうなずきを返すと、
「じゃ、開けるわね」
一言言って、開け始めた。
先ずはリボンをほどき……
「ね、見た見た?」「うん、今、目と目で会話してた」「良いなぁー」「わたしもそう言うことが出来る人欲しい」「しっ! 開くわよ」
包み紙を開くと、出てきたのはビロードに包まれた小さな宝石箱。
「え? ひょっとして?」
少し驚いた様子の凛。
それを見守る士郎。
そして、蓋が開く。
傾きはしたが、未だ明るい日差しを受けて光るそれは……。
小さな……六カラットほどの楕円形に磨かれたガーネット。
「士郎……これって……」
手に取ってみる凛。
ラウンドカットのガーネットに(少し合わない気もするが)いぶし銀の枠が取り付けられたペンダントヘッド。
「その、たまたま原石ってのを売ってるのを見つけてさ、俺の小遣いでも買えるくらいだったんで買ってさ、俺、カッティングとかは出来ないから、ずっと磨いて……。毎晩毎晩、明け方までかかってたけどな。それにホントは、ホワイトゴールドで枠を作りたかったんだけど、それもきつかったんで、銀にしたんだ」
「……バカ、うちの家業知ってるでしょ。言ってくれれば加工用の道具や材料なんていくらでも」
「それだと、なにを贈るのか判っちゃうだろ。遠坂に、喜んで欲しかったからさ……」
「……バカ、そんなこと言って、失敗して傷つけちゃったりしたらどうするつもりだったのよ」
「実はもう一つ小さいのを買って、そっちで練習したんだ」
恥ずかしそうに、ポケットの中から布にくるまれたなにかを取り出す。
二カラットほどの、小さなラウンドカットのルビーが、同じようにいぶし銀の枠を取り付けられ、ペンダントヘッドになっている。
「ホントは、もっと大きなルビーを手に入れて、それでって思ってたんだけどさ、道具の分まで考えると俺の小遣いじゃちょっときつくって……かといって、こんなちっちゃいのだとペンダントにしても見栄えがしないだろ? それで、ガーネットにしたんだ」
言いながら、遠坂の手を取り、その上に乗せる。
「考えてみれば、俺がこれもってても意味無いんだよな。元々、遠坂へのプレゼント用に買ったんだし……。やっぱ、こういうのは遠坂が使ってくれる方が良い」
「……バカ」
「そのうち、お金が貯まったら枠をホワイトゴールドと取り替えるよ。それまで、それで我慢しててくれ」
「べ、別にそんな……」
「やらせてくれ。俺は俺の好きな遠坂のためにそうしたいんだ」
「卑怯者。そんなこと言われたら、ハイとしか言えないじゃない」
「ごめん」
手の中の宝石をぎゅっと握りしめ、そのまま凛は身体を士郎に預ける。
士郎はそんな凛を優しく胸の中に包み込んだ。
周囲の女子は居心地が悪くなったのを感じながらも、下手に音を立てることも出来ず、椅子に座ったまま身じろぎしている。
そこに美綴が小声で指示を飛ばした。
「良し、入り口に近い者からそっと退出。弓道部員は後片付けのために残れ。人が多いと却って邪魔だからそれ以外は皆帰るんだ。間桐。アンタは食器やら残ったスイーツの後片付けの指示を出せ。この家のこと知ってるのはアンタしかいない」
「はい、判りました」
「我々三人、クラスメートにして友人として、手伝いもせずに帰るわけには行かないぞ」
「そうだよ。ねぇ蒔ちゃん」
「あ、あったりめーだろ。帰れって言われても残るからな」
「まぁどのみちこの席は一番奥だ。イヤでも最後まで残ることになる」
「アンタやっぱり遠坂の同類だよ。素直じゃないとこまで一緒だ」
「……まさかこの場で喧嘩を始める気じゃないよな?」
「……すまん」
そうこうしている間にも、少しずつ人の数は減っていく。ケースに入ったままの切り分けられたスイーツはまとめ直され、縁側に並べられると、桜は順に台所の巨大な冷蔵庫へと収める。
また、クッキーの類は全てシリカゲルの入った密封容器へと移され、保存される。
一方、帰り行く者達には、ビニール袋に小分けにされた別のクッキーが一つ一つ渡される。
そして食器類は一旦縁側に並べられると、食べ残しが用意されたゴミ袋にまとめられた後、庭の水道を使って順に洗われて行く。
残ったテーブルの上がざっと拭かれると、庭の隅に寄せられる。椅子も同様だ。
そんなこんなが、静かに、静かに進められる。
だけど、そんなとき、椅子を運んでいた誰かが転んでしまった。
静かな庭に椅子の散らばる音が響く。
ハッ! として、二人の世界から戻ってきた凛と士郎。
「「え? あ、あれ?」」
きょろきょろと周りを見渡すと、大幅に人数が減り、庭も殆ど片付いていることに気付く。
そこに、
「あーすまん、あんたら二人の邪魔をする気はなかったんだけどさ。まぁ人間、誰でも失敗は付き物だから、勘弁してやってくれ」
心底すまなそうな美綴がやってきて言った。
「「そ、それは良いけれど、その、みんなは?」」
「あんたらにあてられて帰ってったよ」
「「え? あてられて?」」
「そ、未だに抱き合って離れようとしないばかりか、こうやって話をする時の声まで異口同音に揃うほど息のあったあんたらにね」
「「え……? あ……」」
慌てて離れる二人だが、その拍子に手の中の宝石を落としそうになる凛。
なんとか掴み直して落とすのは防いだが、今度はバランスを崩して倒れそうになり……再び士郎に抱きとめられた。
「はぁ……。もう良いから、あんたらはそこでずっとそうやってろ」
「「でも、後片付けを人に任せたまんまじゃ……」」
「もう終わったよ。ほら」
確かに、美綴が二人の相手をしている間に、すっかりと片付けが終わっていた。
「すまん、みんな」「ごめんなさい」
「いいさいいさ、気にするな。代わりに、残ったスイーツ、弓道部で貰ってくよ」
「ん、そりゃかまわないけど」「ええ、どうぞ」
「やったぁー!」「明日っからおやつが楽しみー!」「でも、その分走らないと……」「確かに……」「でも美味しいし……」「兎に角早くもってこ!」「おーっ!」
残ったスイーツという荷物を抱え、元気よく去っていく弓道部の面々。
「悪いけどこれはあたしらがもらっとくよ」「弟たちへのお土産が出来ちゃった」「ウム、受験で鈍った体を鍛え直す良い理由が出来た」
そんな言葉を交わし合ういつもの三人組。
「ではな、美味しいものを食べさせて貰った」「遠坂さん、衛宮くん、美味しいケーキとかクッキーとかありがとう!」「ついでにあんたら自身にもごちそうさま」
「む、先に言われたか」「ほ、ほ、ほ、ホント、ごちそうさまでした」「じゃ、またなー!」
「じゃ、あたしも帰るわ。間桐、あんたもお疲れさん」
「美綴先輩もご苦労様でした」
「ありがとな、美綴」「綾子、ありがとう」
そうして、賑やかなホワイト・デー・ティー・パーティは終わりを告げた。
余談
この日の夜、宣言通り、桜と藤ねえには士郎特性アップルケーキ(ティー・パーティには出されなかった)が振る舞われた。
「あ、あの、何でこんなに美味しいのにパーティに出さなかったんですか?」
「言ったろ、これは二人へのお返しだって」
「うー、士郎のアップルケーキ、美味しいよう!」
「……なんだか、わたしも欲しくなってきたな」
「じゃ、今度作るよ」
「ほんとに!?」
「姉さんズルイ」
「こっちにいる間は、桜にも分けてあげるって」
「……来年卒業したら、わたしも倫敦行っていいですか?」
「駄目! もし来るなら住むとこ別に探しなさい!」
「……ズルイ」
……等という一幕と共に。