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あかいあくまと正義の味方 倫敦編(旧版): あかいあくまと正義の味方 倫敦編 〜その3〜 時計塔でのバカップル-凛編  
執筆者: mission
発行日付: 2004/9/15
閲覧数: 10967
サイズは 24.42 KB
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  朝です。
  昨日は凄い人にあったり、とんでもないことに巻き込まれたりしましたが、何とか無事に過ごせました。
  その……とっても大変な目に遭うところを助けてくださった方がいましたけれど……。
  その方が代わりにとってもとっても大変な目に合われたような気がしますけれど……。
  ええと、魔術師の基本は等価交換ですから、今度みんなできちんとお礼をいたしましょう。
  ちゃんと、お礼が出来る状態であってくださればいいのですけれど……。
  と、とにかく、今日もいくつかの学科を見て回ることになっていますから、きちんと準備をして出かけることにします。



あかいあくまと正義の味方 倫敦編 〜その3〜

時計塔でのバカップル-凛編






  鉱石学科の教室に入ると、私が皆さんを見つける前に見つけて頂いたようで、ブルさんが両手を振って私に合図をしてくれました。
  ほぼ同時に"呼びかけ"てくださったのはセシルさん、ロゼさんは私が気が付いたことに気が付いて、上げ掛けた手を下げ、ポケットから何か引っ張り出そうとしていたジェフさんを止めています。
  なんであんなに慌てて止めたのかな?
  何となく物騒な感じがしましたけれど……ゆっくり"見"ているとブルさんに悪いので、皆さんのところに急ぐことにしました。


「おはようございます」「「おはよう」」「おはよ!」「やっほ!」
  皆さんに挨拶して席に着き、教室内を見渡すと、前の方が大きく開いています。
「なんであんなに前が開いてるんでしょう?」
  と、聞いてみたところ、何でも、上級生の方々に、「命が惜しければこのラインより下がって、防御結界を張っておけ」と言われたそうです。
  実際、皆さんそのラインより後ろに座って防御結界を展開し、更にはその強化に余念がないようです。
「はい、これあなたの分」
  といってロゼさんが渡してくれたのは、昨日シロウさんが二人に渡した、メモ書きの防御結界のコピーです。
「これ、図に魔力通すだけでも発動してたからきっと役に立つわ。もちろん、正規の結界を張るに越したこと無いけれど」
「え?」
「昨日あなたが"見"た通りかどうか、コピーを取って試してみたの。そしたらホントに効果があったから、こうして何枚もコピーを取っておいたの」
「俺が全力で攻撃してもしっかり耐えきったのには驚いたよ」
「僕も対魔力護符ならこのぐらいのを作ったことあるけれど、あくまで魔力への対抗のみで、この護符みたいな物理攻撃まで考慮に入れたモノじゃなかったしね」
  ジェフさんやブルさんも感心しているようです。
「どのみち結界術の講座はまだこれからだし、半端なことをするよりもあるものを使おうってことで、これをコピーしてきたんだ」
  へー、あれ?  っと言うことは、皆さんあのあとまた……?
「何言ってるのよ、夕食一緒に食べようかと思って誘いに行ったのに、全然返事しなかったじゃない」
  あ……、そう言えば、部屋の整理が終わったら、なんだか疲れちゃったので、お風呂に入ってすぐ寝ちゃったんだっけ。
みなさん、なんでそんなに呆れたような顔で私を見るのかなぁ?
「そんなあっさりと寝られたのか……」
「ある意味大物だな」
  はぁ、そうなんですか?  皆さんうなずいてないでどういうことか説明してください。


  結局、話をはぐらかされたまま、講義が始まるまで後5分ほどとなった頃、教室の前の扉が開くと、二人のとても綺麗な女性(ひと)が入ってきました。
  一人の方は、豪奢に輝く金細工のような、輝けるきらめきを身にまとった方です。
  立ち居振る舞いがとても上品で、思わず見とれてしまいそう。
  その優雅な様と、透き通るような白い肌から、まるで白鳥のようにも見えます。
  ああ、金細工のように見えたのは、とても綺麗に輝く赤みがかった金髪を伸ばしているからですね。
  そしてもう一人の方は、一昨日に見た方です。とても活発で、すらりと引き締まった体をきびきびと動かしています。その躍動感にあふれる様が、激しく燃えさかる炎のような鮮やかさを感じさせます。
  なのに、漆黒の美しい髪をなびかての立ち居振る舞いのそこかしこには、例えようもない優雅さを感じさせる、そう、そんな不思議なまでに鮮やかで優美で、とても綺麗な方です。
  確か、あの方がシロウさんの恋人の……。
「遠坂さんだぁ」
  あれ?  なんで四人ともびくっとした反応をしているのかな?
「「「「と、遠坂さんって?」」」」
  みんな、今日も仲良く息が合っているようです。
「今入ってきたあの東洋系の方です、一昨日、エミヤさんと一緒にいるところを見かけた覚えがあります」
  ええと、一緒にいたことは事実ですから、うっかりと間違ったことを言ったりはしていませんよね?
  仲が良いのは良いことです。はい。
「「「「あの人が遠坂さん?」」」」
  みんな、なぜだか腰が引けています。
  ロゼさんとセシルさんに至っては、身を低くして見つからないようにと……。
  遠坂さんは、とっても機嫌良さそうに、綺麗な笑顔を浮かべているのに、なんでそんなにこそこそとしているのでしょう?
でも、ホントにきれいだなぁー、お肌なんか、つやつやと輝いていていいなぁー、ちょっと触らせて貰えないかなぁー?
  そんなことを思っているうちに、お二人とも最前列の机に座りました。
そこが定位置なのか、お二人の間には席にして六つ分の空きがあります。
  気が付くと、それまで賑やかだった教室の中がすっかり静かになっていました。
  それに、さっきまであちこちで結界を張っていた上級生の方達が、いつの間にかいなくなっています。
  不思議に思っているうちに、どことなくおどおどしたような感じの人--その方がこの講座の教授さんでした--が入ってきて、講義が始まりました。


  この講義はとても素晴らしかったです。
  聞けば、遠坂さんといっしょに入っていらっしゃった金細工のような方こそが、あのエーデルフェルト家のルヴィアゼリッタさん、遠坂さんと昨年度の主席を争っていた方です。
  お二方はどちらも圧倒的なまでに素晴らしい魔術師で、わざわざ、講義の内容を分かり易くするために、お手持ちの鉱石や宝石を使用しての実技演習まで行ってくださいました。
  ただ、その演習がまた桁外れなほどに素晴らしかったため、あらかじめみんなで室内に展開していた防御結界の、その殆どが消えてしまったことには驚きましたが……。
  幸い、私は結界が消えたあとでも余波を受けることがなかったのですが、ジェフさんは手持ちのシロウさんの呪符までも全部使い切ってしまい、両隣にいたブルさんやセシルさんから慌てて借りていました。
  ロゼさんは辛うじて最後の一枚が残ったようで、ジェフさんと二人で、なにやら肩を叩き合っています。
今度シロウさんにあったら、この呪符の分もお礼を言わないと行けませんね。
  ふと気が付くと、何人かの方がセシルさんに話しかけています。
  どうやら、私たちが使っていた呪符に興味をもたれたようで、昨日シロウさんからもらったことを話しています。
「ふーん、それじゃぁ昨日士郎にちょっかいだそうとしていたのはあなた方なのね?」
  いつの間にか近くに来ていた遠坂さんが急に話しかけてきました。
  こんなに綺麗な方を近くから見たことはなかったので、思わずぼぅーっと見とれてしまいました。
  すると、
「どうしました?  私の顔に何か付いているのでしょうか?」
  と、にっこりと綺麗な笑みを浮かべつつ、私に聞いてきましたので、
「あ、いえ、その、綺麗な方だなぁと思いまして……」
  と、思わず、思った通りのことを喋ってしまいました。
「え、えっと、ですから、その、思わず見とれてしまったというか……その……」
  わ、わたし、何を言ってるんだろう?
  思わずパニックに陥りそうになった私に、遠坂さんは、一瞬きょとんとしたかと思うと、改めて柔らかく微笑み、
「そう?  ありがとう、私は遠坂 凛」
  そう言って手を差し出してきました。
  ですので、私も。
「あ、はい、わたしはドロシア・カラム、ドロシーです」
  と、応えつつ、握手しました。
  ほっそりとした優美な手は柔らかく、肌はとってもすべすべとしていました。
「ドロシーさん?  昨日士郎が言ってた子ね?」
「は、はい、きのうエミヤさんの剣術とか、弓とか、投影とか、魔具制作とか、いろんなものを見せてもらいました。凄かったです。そ、それから、先ほどは遠坂さんの素晴らしい鉱石魔術を見せてくださってありがとうございました。あ、あんな凄い魔術なんて始めてみました! ホントに、ホントに凄かったです!」
「そう?  ありがとう、でもね、キャスター相手にはあれ以上の魔力でないと対抗できなかったのよ。あの程度で凄いなんて思っててはいけないわ」
「え!?」
  遠坂さんは、さらりと凄いことを言ってくださいました。
  やっぱり聖杯戦争の優勝者は違います。凄いです。
  私が驚いている間に、遠坂さんはロゼさんやセシルさんの方に行き、再び綺麗な笑みを浮かべつつ声を掛けています。
「では、あなたたちがロゼさんとセシルさんね?」
「は、はい、私がロゼです」「私がセシルです」
「「あ、あの、私たち、昨日の午前中に見た、エミヤさんの弓を、また見せて欲しかっただけで、け、決して他意があったわけではなく……そ、その……」
「そう」
  何だろう? 遠坂さんは相変わらずきれいに微笑んでいるだけなのに……、 強いて言うならばちょっと目が細くなっただけなのに、なんだか雰囲気が変わった気がします。
  あ、いえ、雰囲気自体は先ほどからとあまり変わっていないのに、何というかその、もっと凄くなったというか……?  どう表現すればいいのでしょう?
  ただ私に言えるのは、ロゼさんとセシルさんの顔からどんどん色が抜けていき、まるで漂白したように見えると言うことです。
「一つだけ教えてあげる。士郎はね、見せ物になるのは嫌いなの。だから、人に見せるために弓を引くのは、私に見せてくれる時だけ、練習や実戦の時とかに人に見られるのは仕方がないけれど、それ以外では、私以外の人には見せたくないの。だから、これからはそのつもりでいてくださいね」
  二人とも、ガクガクと、まるで油の切れた機械のような感じでうなずいています。
  でも、そうかぁ、シロウさんは好きな人以外には見せたくないんだ。
  シロウさんの弓、あんなに綺麗でかっこよかったのに。もったいないなぁ。
  遠坂さんはいつも見られて羨ましいなぁ。


「それで、先ほど士郎の呪符の話が出ていたようですけれど?」
  と、遠坂さんは急に話題を変えてきました。
  たまたま遠坂さんの真正面になったジェフさんが、滝のような汗を流しながらいきさつを説明しています。
  話を聞き終えた遠坂さんは、
「そう、ところで、魔術師ならば等価交換の原則はもちろん判ってるわね?」
  私たちを見渡しながらそう尋ねてきました。
  もちろんみんな判っていますので、そう応えますと、
「ならば、コピーであろうと何であろうと、士郎の呪符で助かったのならば、相応の対価がいることも判ってるわね?」
  もちろんです。私たちはあの呪符のおかげで助かったのだから、シロウさんには相応の対価をお返ししなければなりません。
「あなた方がどのような形で返すかは判らないけれど、これだけは言っておくわ。士郎は、あからさまに"借りをウケたから返す"という形で借りを返されることは望まない。だから、士郎が困った状況に陥った時に助ける……、そのようなつもりでこの借りのことを覚えていてちょうだい。きっとその方が士郎のためになるから」
  そう教えてくださいました。
  そして、
「思ったよりも時間がかかったわ、あなた達も次の学科に遅れないように気をつけなさい」
  と、私たちに遅刻しないようにと言って、教室を出て行きました。


  遠坂さんの背中が見えなくなったとたん、誰とも無くため息をつくと、私たちは次に受ける学科の検討しようとしました……けれど、遠坂さんの言った通り、もう時間がないので、表を拡げて最初に目に入った学科……ルーン魔術を受けることに決めると、早速移動することにしました。
「ほえ〜」
「……ね、これってどういうこと?」
「さ、さぁ、何だろな?」
「俺に聞くなよ」
「"見"ておけば良かったかな?」
  もう他に移る時間もないため、口々にこのようなことを話しながらも、私たちが腰を下ろしたそのわけは、ここでも最前列に席六つの間を空けて遠坂さんとルヴィアゼリッタさんが座っていたためです。
  と、私たちの声が聞こえたのか、お二方がこちらにたしなめるような視線を投げかけてきました。
  私たちは慌てて口をつぐむと、ふと周りを見渡し、ここでも皆さんが防御結界を張っているのを見て、慌てて結界を張り始めました。
  今回は横一列に座ってた前の時間と違い、前がジェフさんとブルさん、後ろに私、ロゼさん、セシルさんと並んでいるので、五人をまとめて囲むような結界を協力して張ることにしました。
  この方が個別に張るのに比べて、面積あたりの魔力密度を上げられますから。
  そうして、再びどこかおどおどした様子の教授さんが入ってきて講義が始まりました。
この時間の遠坂さんとルヴィアゼリッタさんの実演は、ルーン魔術のみの実演で、宝鉱石から引き出す魔力が無い分、先ほどよりは規模が小さくなり、私たちの結界は三分の一以上残ってくれました。


  そして昼休み、今日は、天気が良ければ中庭で食べることにしていたため、みんなお弁当を持ってきています。
  そして、暖かな日差しの元、中庭のふかふかな芝生の上に輪になって座りました。
  と、たまたま私から見えるところでエミヤさんが敷物を拡げ、バスケットを置くと、そこに遠坂さんが座ろうとしていました。
「とおさかさんとえみやさんだぁー」
  みんなが「え?」とそちらを向き、そして暫くすると、みんなで真っ赤になって視線を外しました。
  だって、その、仲睦まじい様子が……、あまりにも……その……仲良すぎるので、見ているのが恥ずかしくって……。
  何しろ、狙っていたおかずを取ったシロウさんにキスをして、食べかけのおかずを取ったり、遠坂さんのほっぺたに付いたソースをキスして舐め取ったりと行った、”お約束”をしてはお互いに赤くなっていたかと思うと、今度は魔法瓶から注いだお茶を飲んでいる時に、間接キスをしていたことに気が付いて赤くなってみたりと、互いにもうべったりになっているのか、それとも初々しいのか判らないような、不思議なことを延々と……。
  おかげ(?)ですっかりあてられてしまい、何となく気まずくなった昼食を終えると、私たちは次に受ける学科(移動先)を急いで決めようと、表を引っ張り出しました。
  見ると、次の時間には結界術の講座があります。
  みんな、何となく、より優れた結界術を身につける必要を感じていたようで、次の瞬間にはこの講座を受けることが決まり、すぐに移動しました。


  今度の教室では前の方が何故か空いていると言うこともなかったので、
私たちも前の方に席を確保することにしました。
  そうして皆で雑談をしていると、遠坂さんが……シロウさんと入ってきました。
  正直、遠坂さんが入ってきた時は驚きましたが、どうやら大丈夫そう(?)です。
  それでも気になるのか、ロゼさんは念のために"見"ているようですけれど。
  と、シロウさんがこちらに気が付いたのか、
「やぁ、こんにちわ」
  と、声を掛けてきました。
「「「「「こ、こんにちわ、昨日は……その……大丈夫でしたか?」」」」」
「おう、何事もなかったぞ、この通り」
「「「「「そ、そうですか、それから、昨日はありがとうございました」」」」」
「いや、べつにたいしたことしてないぞ?  ま、せっかく知り合いになれたんだ、これからもよろしくな。良かったら、そのうち家に遊びに来てくれ」
「ちょ、ちょっと士郎……」
「ん?  まずいか?  だったらフラットの方に……」
「ん、そう言う訳じゃないけど……」
「あ、あの〜?」
「あ、ごめんなさい、ちょっと気になったんだけれども、あなた達なら大丈夫そうだし、来るならいつでも歓迎するわ」
  言いながら何故かロゼさんに視線を投げていましたけれど……、ひょっとして、何を見ようとしていたか判っているのでしょうか?
「「「「「え? ホントにいいんですか?」」」」」
  そんなことを思っていても、お誘い頂いたのは嬉しいので、喜びながらも、皆で一応確認してみました。
「ええ、ただ、一般の人もよく来るから、そのときは気をつけてね?」
「「「「「はい!」」」」」
「出来れば飯とかの用意できるだけの時間はくれよ?」
「「「「「はい?」」」」」
  何故だろう、急に周りからの視線が険しくなったような……。
「士郎の料理って、とっても美味しいのよ。そっちの世界でも一流になれるくらいに」
「お、おい、そんなこと無いって」
「なによ、危うく割烹の婿養子にされそうだった癖に」
「……あれ、冗談だとばっかり思ってたんだけどなぁ」
「大体士郎は器用すぎるの!  他にも、刀剣鑑定士やら、鍛冶屋やら、研ぎ師やら、人間国宝やらとその娘やら孫娘やらに好かれまくるって一体何やってたのよ!  おまけに柳洞君のお父さんが『もしうちに娘がいたら一成を廃嫡してたかも……』なんて言った時には、もうどうしようかと思ったわよ!」
「いや、だからあれこそホントに冗談だろ、一成だって笑ってたし……」
「笑って、『おう、衛宮が継いでくれるというなら喜んで譲るぞ。お前ほどに我を捨てられる者ならば、俺などよりよっぽど良い僧侶になれる』って言ってたんじゃない!」
「え?  それこそ冗談だろう、俺が坊主になったって、あいつの足元にも及ばないぞ」
「バカ言わないで、士郎は私欲のかけらすら持ってないから、それだけで少なくとも柳洞君より上よ!」
「え?  俺にだって欲はあるぞ」
「どんな欲よ、言ってみなさい」
「遠坂と一緒にいたい」
「え?」
「遠坂とずっと一緒にいたい、何があっても遠坂と一緒に居続けたい」
「え……、あ……、そ、その……」
「俺は欲張りだぞ、ずっと遠坂と一緒にいたいし、遠坂のことを独占して、他の奴になんて遠坂に指一本触れさせたくないって思ってるんだ。どうだ?  これでも欲がないなんて言うのか?」
「そ、そんなこと無い……、そんな嬉しい欲ならどんどん欲深になって欲しいし……、それに、私も同じ欲があるから……」
「あ、あの〜」
  なんだか話が変わった方向に流れているようなので、思い切って声を掛けてみましたら、はっと、こちらを見たお二人が、たちまちの内に真っ赤になりましたけれど。
  お二人とも、それから暫く深呼吸したかと思うと、遠坂さんが恥ずかしそうな笑みを浮かべて、
「ごめんなさい、つい、その……」
  と、恥ずかしそうな顔をしながら謝ってきてくださいました。
「あ、いえ、そんな……」
  と、慌てて応えようとしたら、こんどはシロウさんが、
「いや、ホントにごめんな、お詫びに何なら今晩にでもごちそうしようか?  俺たちはこの時間で終わりだから、食材買って帰れば、充分夕食には間に合うけど」
  と、謝りながら夕食に誘ってくださいました。
  私はかまわないのですが……と、思いつつみんなの方を見ると、すっかりお二人に当てられた様子ではありますが、特に嫌がっているようではなかったようなので、
「えっと……それならば……」
  と、声を濁しつつ応えようしたところでみんなが、
「よろしいんですか?」「でしたらお受けします」「ありがとうございます!」
「お邪魔させて頂きます」
  と、お受けしました。
「そっか、それじゃぁあとで、家に来てくれ」
「どちらに伺えばよろしいのでしょうか?  それになんだか、お二方とも別々に部屋をお持ちのようですけれど?」
「住んでるのは家よ、私の曾祖父が買った家があるの。士郎も士郎のお父様の残されたフラットを持っているのだけれども、いろいろ考えて家に住んでるのよ」
「時計塔(きょうかい)の寄宿舎じゃないのですか」
「最初はそちらにするつもりだったのだけれども、家があるのに使わないのももったいないでしょ?  それで、寄宿舎には入らなかったの」
「へぇー、で、どちらにお住まいなのですか?」
「ハムステッドよ、チューブの出口から少しあがったところ」
「「「「「ハムステッド!?」」」」」
  うっわぁー!  超高級住宅街に住んでるんだぁー!  やっぱりすごいんだぁ!
「曾祖父が買った頃にはあまり大したところじゃなかったらしいのだけど……」
  あ、遠坂さんなんだか困ってる見たい。
「「じゃ、じゃぁエミヤさんのフラットはどのあたりなんですか?」」
「ん?  ああ、べーカー街をずっと下った先、ベドフォート通りからヘンリエッタ通りに入ってちょっと西に行ったあたりだ」
「「シティの真ん中……」」
「最初はラッセル・スクエアのあたりにしようかと思ってたらしいんだけどここに近すぎるのもなんだからってんでやめたらしい」
  と、頭をかきながら言ってますけど、それもまた凄いんですけれど……
  そんな風に驚いている内に、教授が来て、講義が始まり、そして終わりました。
  この時間では、シロウさんがノートした印に、遠坂さんがいろいろと手を加えることで結界術の実演をしてくれたので、午前中と同じくものすごく分かり易かったです。
  どうやらシロウさんのメモ書きは、正確に描かれているために、宝石粉で補強した上で魔力を通せば、ランクCぐらいの結界が張れるみたいで、みんなで感心することしきりでした。
  なお、宝石粉で補強したのは、そのまま魔力を通すと、結界の力に紙とインクが負けて、すぐに消えてしまうからだそうです。
  そうして、講義が終わったあと、シロウさんが遠坂さんといっしょに私たちのところに来てくれて、
「えっと、とりあえず地図と住所書くな」
  言いながら、手帳にさらさらと書き記すと、そのページを渡してくれました。
  これがまた、地図帳からそのままコピーしたのかと思うくらいにきちんとした地図なのにびっくり。
「あ、そうそう、もしヴェジだったり、宗教がらみのタブーとかあったら先に聞いておきたいのだけど?」
  ……特に誰もいないようです。
  そんな様子を確認すると、
「じゃ、またあとで」「待ってるわ」
  と、言って、お二人は帰って行かれました。
  なお、私たちはお二人の家にお邪魔するまで、時間をつぶす意味もあり、次の時間にガンド魔術の講座を受け、こんどはルヴィアゼリッタさんの実演を見せて頂くこととなりました。


  そして、遠坂さんのお屋敷にお邪魔した私たちは、倫敦のどのレストランよりも間違いなく美味しい日本食をおなか一杯ごちそうになりました。
  シロウさんが作られた日本食はとっても美味しくて、みんなはたちまちの内に(シロウさんの)日本食ファンになってしまいました。
  そしてそのあと、シロウさんが焼いたビスケット(これまた絶品です)を、シロウさんが入れてくれた紅茶(昨日学院で頂いたものより遙かに美味しかったです)のお茶請けにとつまみつつ、遠坂さんがデザインして、シロウさんが加工された宝石をいくつか見せてもらいました。
  これがまた、素晴らしいデザインと相まって、どれも本当に見事なできばえでした。
  どのくらい見事かと言いますと、あまりものすばらしさに、値段を聞いても、全くあきらめる気になれず、新しい宝石を見せて貰う度毎に、どうすればそれを買えるだけのローンが組めるか……。
  そんなことを、まじめに考えている自分に気が付いては、同じことを考えていたらしいロゼさんやセシルさんと顔を見合わせて思わず苦笑し、それでもやっぱり欲しくて、どうしたら買えるのかと、思わず遠坂さんに相談してしまったりするほどに素晴らしく……。
  この晩は、そうした、およそ魔術師らしくない時間を、ゆっくりと過ごさせて頂きました。







  後書き

  と、言うことで、倫敦で二人がどのような日々を送っていたかを二回に分けて紹介させて頂きました。
  ここまでで倫敦編の導入部分を終え、このあとしばらくは倫敦に渡ってからの二人の生活を書いていく予定(このため、暫くドロシーちゃんの出番が無くなります)です。
  もっとも、しばらくは学園生活編の執筆を優先させて頂きますので、第四話以降についてはその後までお待ちください。
  学園生活編の方で書きたい話が5・6話分ほど溜まってしまいましたので。
  今回出てきた「婿(孫)養子」の話とか、倫敦の住居の話とかがそれで、いずれも学園生活編の方で説明させて頂く予定ですので、しばらくは流しておいてください。
  とはいうものの、住居の方については、明治維新前後に倫敦に自費留学した、遠坂家当主の意地と見栄(ある意味典型的日本人?)と、切嗣の仕事の都合という、味も素っ気も無い理由で持っているだけなのですが……
  ……住居の設定については、Fate/hollow ataraxiaにあわせて今後修正することを考えています。(2005/12/05)


  ご意見・ご感想をここのBBSにて頂けたら幸いです。
  特に、私が気が付いてないであろう未熟なポイントの情け容赦のない指摘を頂けると少しでも文章をマシにできるはずなので、そのあたりよろしくお願いします。

MISSION QUEST

2004/09/15 初稿up
2004/09/19 誤字修正
2005/12/05 後書き補足

 
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