……私は長年の苦労が実り、このたび時計塔に入学できることになりました。
とりあえず寄宿舎に荷物を広げた後、明日からの学究の場となるこの場を見に来たのですが、そこでなにやら激しく言い争っている男の人と女の人がいます。
今にもとっくみあいの大喧嘩に(もちろんここにいる者である以上魔術も併用しかねない)なりかねない様子に、通りかかった人を呼び止めて聞いてみました。
「あの人たち、止めなくて良いんですか?」
でも、その人はちらとあの人達の方に目をやると、あっさりとこんなことを言ってきました。
「あの二人のことを知らないってことは新入りだな?」
は、はい、そうですけど。
「やめとけやめとけ」
は?
「うかつに手を出したら命がいくつあってもたりやしねぇ」
「え?」
このひとはなにをいっているのでしょう?
「おまえもすぐに判るだろうが、あんなのは日常茶飯事だ。とっとと慣れた方が身のためだぞ」
「ええっ!?」
にちじょうさはんじって……いつもああいうことをやっているのですか?
あかいあくまと正義の味方 倫敦編 〜その1〜
「第5回聖杯戦争優勝者とその弟子っていうからどんな連中かと思ってたが、ほんと、規格外の連中だよ」
このひとはいまさらながらとあきれたようにいっています。
「触らぬ神に祟り無し。さぁ行った行った」
「で、でも見てると今すぐにでも殺し合いに……」
「馬鹿、よく聞いて見ろ、どこが殺し合いだって?」
その人は私の声を遮るとあきれたようにいいました。
「え、え? ええ!?」
たしかに、よくよくきいてみると、いいあいのないようは、はたできいているわたしがまっかになるほどの「惚気あい」でした。
「な、だから最近じゃぁあの二人が聖杯戦争をくぐり抜けたのは、本人達の魔術の実力や、召還したサーバントの力によるものではなく、あの二人の惚気合いにあてられて、戦う気力を無くしたせいだろうって言われてるくらいだ」
「は、はぁ」
はい、わかります。そのみかたはすごくなっとくできます。
「もっとも弟子の方はともかく、師匠--女の方だ--の方は確かにとんでもない実力の持ち主でな、あのエーデルフェルト家の跡継ぎと主席争いしてるくらいだ」
「ふぇ!」
う、うそでしょう? あのめいもんのあととりとどうとうならば、たいていの(もちろんわたしをふくむ)まじゅつしが、たばになってかかっても、かないっこありません。
「ま、そんなのからフィンの一撃喰らっても、翌日にはぴんぴんしているあいつも十分化け物だけどな」
「は、はぁ」
と、いってるうちにそのフィンのいちげきがおとこのひとに……
「い、いけない! 士郎! 大丈夫!? 士郎!!」
あ、おんなのひとがものすごくあわててる。
「ご、ごめんね、士郎。こんなことするつもりじゃなかったのよ」
あ……、なきだしちゃってる。
「だ、だいじょうぶ、おれはだいじょうぶだから……」
え?
あのおとこのひと、あれをうけてへいきなの?
もしわたしがあんなのうけたらまちがいなくしんで……。
「ばかぁ!そんな真っ青な顔して大丈夫なわけないでしょ!」
そうだよね、あんなのうけたんだもの、だいじょうぶなわけ……。
「いや、ほんとだいじょうぶだから、それよりも遠坂に泣かれるほうがもっとこたえる」
うっわー!なんかすごいこといって……。
「泣いてなんかいないわよ!それよりすぐ家に帰って治療するから、それまで我慢しててね。ね?」
え? いえにかえるって……? え? ええと、それってつまりいっしょにすんでるってことで? え? ええええ?
「うわぁ……」
……ふぃんのいちげきがあたったかとおもったら、とたんにふんいきがかわってきいているこちらがますますはずかしくなっちゃうようなてんかいになっちゃった。
「な、だから手を出さない方が良いって言ったんだ」
「あいつだからこそ耐えられてるけど、何も知らずに止めようとして、アレを喰らっちまった奴なんかその後一週間うんうん唸ってたぜ」
いっしゅうかんですか……
「おまけに、作ったばかりの護符がパァになったから、レポート作り直しだって泣いてやがった」
えーと……
「でな、ひどいときにはアレが一日に二・三回はある。おかげで俺たちはもうすっかり慣れちまったよ」
とうさま、かあさま、わたしはとんでもないところにきてしまったようです。