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あかいあくまと正義の味方 学園生活編(旧版): あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その17〜  
執筆者: mission
発行日付: 2005/7/23
閲覧数: 5797
サイズは 21.16 KB
印刷用ページ 友達に教える
 

  六月始めの土曜、連日の雨で肌寒さを感じるどんよりとした梅雨空の下、士郎はバイクにカバーをかけ直した。
  今日も今日とてバイトに行くわけだが、流石にいつ降り出すか判らないこの天気では、バイクに乗る気が起きなかったらしい。
「ま、いいか、ヘルメットもって病院の中うろつくのもなんだし」
  溜息をつきつつ呟いたところを見ると、どうやら久しぶりに慎二の見舞いもしていくつもりのようだ。




あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その17〜





  俺は病院の玄関をくぐりロビーを通り抜けると、そのままエレベーターホールへ向かった。ちょうどエレベーターに乗ろうとしていた車椅子のおばあさんがいたので、自分も乗りがてら後ろから手を貸す。
「何階ですか?」
  降りるの階のボタンを押しながら、おばあさんの目的の階を聞いてみると、偶然ながらも慎二と同じ階らしい。
  なので、エレベーターから降りると、まずおばあさんを病室まで送り届けることにした。
「ええってええって、そんなことせんでも……」
「そんな、遠慮しなくて良いですよ。どうせ俺の友達の部屋もすぐそこですから」
「そうなんかい? どうもすまんねぇ」
「いえいえ、困った時はお互い様って言うじゃないですか」
「そうは言ってもこうして助けてくれる人ってそうはいなくってねぇ。うちの息子夫婦と来たら……」
「そんなことありませんよ。きっと息子さん達お仕事とかで疲れてるんじゃないんですか?」
「けどねぇ……」
「えっと、この部屋で良いんですよね?」
「はいはい、この部屋です。ほんに、どうもありがとうね」
「どういたしまして。それじゃ、早く良くなってください」
  ちょうど部屋から出てくるところだった看護士さんと交替し、部屋の入り口で何度も頭を下げてくるおばあさんに手を振って、俺は慎二の病室へと向かう。
  と、今度はトイレに入ろうとしているこれまた車椅子のお祖父さんがいるので、扉を開け、中に入るのを待って閉める。
  そんなこんなであちこち寄り道しつつ慎二の部屋についてみると……。
「あれ?  居ないのか?」
  中はもぬけの空だった。
  そのせいか思わず漏れた間抜けなつぶやきに、ちょうど通りかかった(さっきとは別の)看護士さんがくすくすと笑いながら声を掛けてきてくれた。
「間桐さんなら先ほど妹さんと一緒にリハビリに行かれましたよ」
「そっか、桜来てるんだ。えっと、リハビリって言うと……?」
「一階奥のリハビリ・ステーションです」
「ありがとうございます。そっちに行ってみます」
  俺の礼に軽く手を振って応えてくれた看護士さんは、にこにこと笑いながら隣の部屋へと入っていった。
  見舞いに来た以上、空っぽの病室で待っていても意味がないので、リハビリの様子でも見に行こうかとエレベーターホールへと戻り、改めて一階へと下りる。
  エレベーターを降りると、ちょうど松葉杖を突いて入ってきた人がいる。
「何階までです?  よろしければお連れしますけど?」
「あーいやいや、いまリハビリ中なんでね、少しでも自分でやらなきゃ却って治りが遅くなるんだ。気持ちはありがたいけど、自分でやらせてくれ」
「そうですか、差し出がましいことを言ったようですいません」
「いやいや、その気持ちは嬉しかったよ。ほんとにありがとうな。それより、どこかに行こうとしてたんじゃないのかい?」
「ええ、見舞いに来た友達がちょうどリハビリに行ってるみたいだったんで……」
「ああ、リハビリ・ステーションかい?  だったらその廊下を真っ直ぐ行って突き当たりを右だ。真っ直ぐ行くと中庭に出るけど、その手前の所にあるよ。今日は生憎とこんな天気だけどね。天気の良い日は中庭に出たりもしてるんだ。此処の中庭がまた青々とした芝が茂る良いところなんだよ」
「そうですか、どうもありがとうございます」
「いやいや、友達さん、早く治ると良いね」
「ありがとうございます。あなたも早く良くなってください」
  頭を下げている内にエレベーターの扉が閉まった。
  廊下を歩いていると、向こうからやってくる人たちがたくさんいる。
  皆松葉杖を突いていたり車椅子に乗っていたりしている人たちばかりなので、手を貸そうかと思うのだけど、聞いてみるとみんなリハビリから戻ってくる途中で、これもその一環だからと断られてしまった。
「助けないことが助けになることもあるんだなぁ〜」
  ……って、何呑気なこと言ってるんだろ?  それにここ、ロビーだぞ。なんで俺もどってきちまったんだ?
  無意識に頬をかきながら、改めてステーションへと向かう。
  ……何か薬品がこぼれたか何かしたのかな?
  奥に向かうにつれ、なんだかなんだかいやなにおいがしてくる。美味く説明できないんだけど、どうにも不快だ。そのせいか、気が付くと俺は中庭に出て深呼吸していた。
「消毒液か何か知らないけど、こぼしたんならさっさと処理すればいいのに」
  さっきよりも暗くなったきのする空を見ながら思わずぼやく。
  そのまま視線を下げて辺りを見渡すと、すぐ斜め後ろの部屋、大きな窓硝子の背後に様々な運動用器具が配置されいるのに気が付いた。ここがリハビリ・ステーションのようだとあたりを付けて、俺は庭から中に入ってみる。
  そこには殆ど人がいない。いるのは、看護士さんが二人……いや、三人か。それに電動車椅子に乗った子供が三人。体中が包帯に覆われているので顔とかはよく見えない。
  ……あれ?  内一人からは弱いけど魔力を感じるぞ?
  よくよく考えてみると、さっきから臭うこの不快な臭い、これ、結界が張ってあるって事か?
  妙な様子に俺は用心しながら中に入ると、看護士さんに声を掛けた。
「すいません、此処に入院している間桐慎二がこっちに来てると聞いたんでやってきたんですけど、知りませんか?」
  なぜか、入ってきた俺を見て看護士の人達が驚いている。
「間桐慎二君ですか?  えっと、あなたは?」
「あ、失礼しました。俺は衛宮士郎と言います。慎二の見舞いに来たらこちらに来ていると聞いたのですが」
「そうですか、間桐君はまだ今日は来ていないはずですが……」
  言いながら、事務室らしい隣の部屋との境に行き、そこにおいてあるノートを確認する。
「うん、今日はまだ来ていませんね。何か用が出来てどこかに寄っているんじゃないんですか?」
「そうですか、それじゃ……」
「士郎って、ひょっとして士郎なの?」
  言い掛けたところを、突然横から掛けられた声に遮られた。
  気が付くと、いつの間にか車椅子の三人に囲まれている。
  改めてよく見てみると、一人は左肘と両足の膝から先、もう一人は右肩から先がない。皆、包帯の隙間からわずかに見える所は、皮膚も肉も一度溶けたような様相を示している。みな、俺よりも年下のようだ。
  この時、なぜかライダーの鮮血神殿にとらえられた穂群原学園の皆の姿を思い出した。そう、もしあのままみんながあそこに捕まっていたらこうなってたんじゃないかって……。
「士郎なんだよね?  髪、赤いし……」
  唯一、包帯に包まれているとは言え、両手両足が共に揃っている子が確認するかのように声をかけてくる。先ほど、微弱ながらも魔力を感じた子だ。
「……えっと、君は?」
  誰なんだろう?  見た感じ小学生のようだけれども、特にこれと言った知り合いは居ないし……、病気とかで身体が伸びていないと言うのなら……、いや、そう言う知り合いも居ないはずだ。
「俺だよ。カズだよ。あのときここで、士郎の隣のベットに寝ていたカズだよ」
「カズ?」
  そう言われて、ハテと首をかしげる。しかし隣のベットと言われても、そのような記憶は……ここでと言うことはこの病院でと言うことになるのだろうが、結構頑丈な俺が入院していたことは……ただ一度だけ。
「え?」
  俺の頭の中に引き出されてくる十年前の記憶。
  全身を大やけどし、包帯でぐるぐる巻きにされていた(自分を含む)生き残りの子供達。大人の生き残りも居たはずだけど、その人達は皆別の病室で、俺と同じ病室にいたのは、大体俺と同じぐらいの子供ばかりだったはず。だからみんな普通に成長して……。でも、もし、もしもあのとき一緒だったみんなが、何かの理由で殆ど成長しないままで居たとしたら……?
「まさか……」
  改めて周りにいる皆を見渡す。
  見覚えはない。
  それはそうだ。
  あのときはまだ俺を含めて皆包帯で体中を覆われている者ばかりだった。
  そして、一番回復が早かった俺の包帯がやっと取れたその日に、切嗣(オヤジ)がやってきて俺をひきとってくれた。
  だから、あのときは、他の皆はまだ包帯が取れていなくて、顔なんか全然見ることが出来なかったけれど、でも、そのみんながみんな、まだ体を動かすのも辛いそんな状態だったのに、一人先に病院から出てくるおれのことを、新しい父親が見つかって良かったねと喜んで見送ってくれてた。
  そうだ、あのときおれの隣のベットに寝ていた子が……ちょっと眠るととたんにあのときのことを悪夢に見て泣き叫び、そのたびに俺がなんとかベッドまで行って手を握ってやると、どうにか落ち着いて眠りについていたアイツが……確かそんな名前じゃなかったのか?
  昼間は俺と反対側のベットに寝ていた女の子と口げんかをしては泣かせて、そのたびに俺が「ダメじゃないか」と注意していたけど、そうすると今度は、「兄ちゃんは女の子に甘いよなぁ。喧嘩両成敗じゃないか」なんて言い返してきていた奴が居なかったか?  「男が女の子をいじめてどうするんだよ」って言うと、「だって先に突っかかってきたのはあっちだぜ」って言い返して来ていた奴が……。
  そんなやりとりをしていても、何故か俺のことを慕って、頼りにしていてくれた奴の名が……。
「カズ……?  それにみんな?」
  あの大部屋には子供用のベットが詰め込まれ、どういう構造だったのか、隣の部屋との仕切も取り払われ、あの大火事の生き残りの俺達子供二十人弱が一緒に居られるようになっていた。
  誰が誰と特定することは出来ない。けれども……。
  目の前が……赤い。まるで炎で炙られているかのように赤くなり、ゆらゆらと揺れている。
「そうだよ、兄ちゃん。みんな、あのとき一緒に居たみんなだよ。他は奴に吸われて死んじゃったけど……」
「吸われて……?」
  一体何の話だ?
「うん。で、ひょっとしたら兄ちゃんが助けてくれないかなって思っていたけれど、ほんとに助けてくれて嬉しいよ」
「あ……いや俺は……」
  助けた?  俺が?  いつ?
  一体どういうことだ?
「魔法使いだなんて言うおじさんの所に行ったからひょっとしたら……って思ってはいたんだ。そしたら、魔術師の弟子になって、その人と一緒に戦って、あの神父を倒してくれたんだろ。嬉しかったよ。いつも俺達がうなされていた時助けてくれていた兄ちゃんがさ、また俺達を助けてくれたんだからさ」
  まて、俺はみんなのことなんて忘れていた。ああ、初めて遠坂に連れられて教会に行った時、ひょっとしたら何人かに会うかもしれないなんて思ってたことはある。けれど、あの場では会わなかったから、きっとどこかで、普通に暮らしているみんなと会えるんだろうと思って、それっきり忘れてたんだ。
  なのに、俺がみんなを助けた?  まて、あの神父をっていったよな。それはつまり言峰のことか?
  そうだ、他にいるわけがない、冬木にある教会は言峰教会だけで、当然神父も言峰しか居なかった。
  と、言うことは、孤児院に引き取られたはずのみんなは言峰の手で……、さっき奴に吸われてって言ってたよな。奴?  奴って誰だ?
「あのオレオレ言ってた偉そうな奴も兄ちゃん達が倒したんだろ?  俺達の命吸わなきゃなにもできなかった癖にやたらと偉ぶってた奴」
「……ギルガメッシュのことか」
「ギルガメッシュ?  名前は判らないけど、そいつだよ。多分。アイツが戦うために俺達の命を吸う必要があったんだろうな。何でも、みんなが死んでいったのって二・三日の間にまとまってたそうだから」
  二・三日の間?  それはつまり……、バーサーカーと戦ってイリヤを殺した時と、アインツベルンの城でおれがアイツと戦った後に来た時と、そして最後の決戦の時ってことか?
  ガツンッと頭を殴られたような気がした。
  それはつまり、助けたどころか、みんなが殺されるのに手を貸したようなモノじゃないか!
  セイバーを取り返しに遠坂と一緒にあの教会に乗り込んだ時、そこに他の誰かがいるなんてまったく気が付いちゃ居なかった。
  あのときは、セイバーを取り返すことしか考えてなくって、取り返した後はアーチャーに連れ去られた遠坂のことが心配で、他のことを考えることなんてまったくできなかった。そのとき、みんなはあの地下聖堂のすぐ近くに閉じこめられ、俺の助けを待ってたって言うのに!
  もしあのとき、俺がみんなのことに気が付いてさえいれば、もっとたくさん助けることが出来たんじゃないのか?
  なのに……なのに俺は……。
「そして、兄ちゃん達がアイツを倒してくれたから、俺達なんとか生き延びることが出来たんだ。でなかったら、きっと、今も俺達あの地下に閉じこめられたまんま命を吸われ続けて、多分もう死んでたと思う」
  気付くことが出来なかったにしても、せめて、せめてもう少し早く、俺が俺の固有結界(UBW)に気が付いて、少しでも早くギルガメッシュを倒せていたら……、そうすれば一人でも多く助けられたかもしれない。奴が武器を取り出す毎に魔力を……みんなの魂を吸い上げていたというのならば、初めからUBWを使っていればもっと早く……。馬鹿な勘違いをしていたばかりにみんなを……。
「だから、兄ちゃん達は俺達を助けてくれた正義の味方だよ。ホントにありがとうな」
  ……違う、俺は正義の味方なんかじゃない。みんなの犠牲に気が付かずに、見殺しにしていた悪党だ。そんな、そんな感謝されるような奴じゃない、寧ろ、見殺しにしていたことで憎まれて然るべきやつなんだ!
  そう思い、正直に自分の罪を吐露しようと顔を上げると、いつの間にか目の前に看護士の一人が居た。
「ちょっとよろしいですか?」
  真っ正面から目を覗き込んで言われると、何故か俺は何も聞き返すことが出来ないままうなずきかえしていた。
「ではこちらへ」
  急に思うように動かせなくなった俺の身体は、看護士さんに誘われるまま事務室の方へと連れて行かれた。


  そのまま事務室の奥の一角へと連れて行かれ、促されるまま椅子に座らされる。
「まず確認ですが、あなたは衛宮士郎さん、今回の聖杯戦争に関わりのあった魔術師で間違いないですね?」
  俺の目を貫く視線の前に次第に頭が重くなるのを感じつつ、無言でうなずき肯定する俺。
「では、これから話すことは誰にたいしても、一切口外無用に願います」
  再び看護士が俺の目を覗き込みつつ断りを入れてくる。そのやけに圧力の篭もった声に、どういうことかと聞き返すことも出来ないまま、俺の口は、
「判りました、誰にも言いません」
と勝手に応えていた。
「まず、彼らについてですが、既におわかりの通り十年間に渡って言峰神父に幽閉され、生命力を搾取され続けてきた孤児達です。今まで、命長らえるための最低限の処置しか施されていなかったこともあり、現代の医学ではもはや手の施しようがない状態です。今ああしていられるのは治癒の魔術の効果によるモノ、特にカズ君以外の二人の場合はそれすらもって後数ヶ月……いや、二・三ヶ月と言うところでしょう」
  ……なんだって?  どういうことだ?
「いえ、カズ君が生き延びることが出来ることが例外で、本来なら三人とも死ぬはずなのですよ。しかし、偶然にもカズ君は魔術回路を二本持っていた。そして生命力を搾取されるという状況の下、生存本能の成せる技かその二本を開くことが出来た。言峰教会が霊地の上にあったことも幸いし、彼は一本の回路で霊脈から吸い上げたマナをオドに変換しその大半を供給する一方、もう一本の回路を用いて未熟ながらも自らの肉体を保護することが出来たために最低限の肉体機能を失わずにすんだ。本来ならば半年も寝たきりの生活を強要されれば、床ずれで身体の下側部分の皮膚は破れ肉が裂け骨がむき出しになりただただ腐っていくだけなのですがね。ましてやそれが十年も続けばどうなるか……、他の二人がその生きた例となります」
  何を……何を言ってるんだ?
「見たところ一般人の家庭に生まれていたらしいカズ君がこうして身を守ることが出来たのは生存本能の成せる技なのでしょうけれど、それでもこうして生き延びることが出来るというのは一つの奇跡です。故に、魔術回路の持ち主ではあれど、我々で彼を引き取り、癒し、育てていくつもりなのですが、一つだけ問題があります」
  問題? 一体どんな問題があると言うんだ?
「先ほどもお話ししたとおり、後の二人はもう長くありません。つまり、近いうちに一緒に居た家族のような仲間全員と死に別れるというわけです。十年前のあの大火で身寄りを亡くし、今また仲間を亡くす。これがどれだけの痛みを彼に与えるかは想像するにあまりあるもの、故に少しでもその痛みを和らげる何らかの手段が必要となります」
  そう言うと、看護士は改めて俺の目を正面から覗き込んだ。
「十年前の大火をくぐり抜けたあなたなら彼にとっての仲間となりうる。しかも、教会から回ってきた資料によると、あなたは今回の聖杯戦争優勝者である遠坂家当主の弟子だそうですね? ならば、事実がどうあれ、あなたが遠坂家当主と協力してこの聖杯戦争を戦い抜き、その過程で彼らを苦しめていた者達を倒す上で大きな働きをしたことにしておけば、彼にとって、自分のいわば兄弟が自分を助けるために戦い、助け出してくれたと錯覚するのに充分なものとなります。そしてその錯覚を元に適切な精神的ケアを施していけば、彼はさほど大きな傷を負わずにすますことが出来るわけです。如何でしょう? 我々に協力して頂けませんか?」
  ずっと俺の目を正面からとらえたまま話されるその内容に、俺は何一つ問い返すことも出来ず、ましてや断ることなど考えつくことも出来ないまま了承することしかできなかった。
  看護士は視線を外しつつ、嬉しそうな、それでいながら何となく嫌な感じのする笑いを浮かべる。
「そうですか、協力して頂けますか。どうもありがとうございます。いえね、ウォーラム神父にはさんざこのようにして話せば、きっと協力して貰えると提案していたのに何故かずっと拒否されていたので……。ああいや、これはこちらの話でした。此処の部分は忘れてください」
  いやな笑いを浮かべたまま再び俺の視線を捕らえると妙に強調した声で言う。
  脳を押しつぶされるような圧迫感を感じながら、俺はまたも無条件にうなずいてしまった。
「ありがとうございます。それでは、今日はもうリハビリの時間も終わりなので、ここまでとして、適宜彼を見舞いに来てやってください。その際には話を合わせるために、事前にわたしとの打ち合わせをしてもらいます。それでは」
  看護士はちらりと時計に目をやると、最後の命をもって話を打ち切り、リハビリ・ステーションへと戻っていった。


  俺はふらふらと病院から出てきた。
  ……吐き気がする。それに頭痛も。なのにその原因が何であるかを考えることが出来ない。
  いや、考えようとすると更に頭痛が酷くなるので考えられないと言うべきか。
  いつの間にか雨が降り出した空の下、傘を差す気にもなれない俺はふらふらと歩き始めた。
  歩く。
  ノイズが聞こえる。
  歩く。
  ノイズが聞こえる。
『痛い 痛い 痛い 痛い』
  歩く。
  ノイズが聞こえる。
『止めて 止めて 止めて 止めて』
  街の中を……。
  ノイズが聞こえる。
『助けて 助けて 助けて 助けて』
  雑踏の中を……。
  ノイズが聞こえる。
『返して 返して 返して 返して』
  降りしきる雨の中。
  ノイズが聞こえる。
『痛いの 痛いの 痛いの 痛いの』
  頭の中に何かがぐるぐると渦巻いている俺が歩く。
  ノイズが聞こえる。
『ねえ ねえ ねえ ねえ』
  なんだかよく判らない。
  ノイズが聞こえる。
『戻して 戻して 戻して 戻して』
  周りの人混みが煩わしい。
  頭の中がノイズで一杯になる。
  違う。
  こんな所にいる俺自身が煩わしいんだ。
  ……なら、
  ……誰もいないところに行けばいい。
  人がいないところ。
  俺以外は誰も来ないような所。
  ……あるじゃないか。


  気が付くと、俺は冬木中央公園の真ん中に立っていた。
  相も変わらずノイズが聞こえるが、それも俺の身体を叩き続ける雨の冷たさに次第に気にならなくなってきた。






  後書き

  Fateルートで出て来ていた、地下室に押し込められていた孤児達との再会です。他の条件が変わってない以上、UBWでも彼らは同じような目に遭っているでしょう。
  本文中にも書いたとおり、人間、半年も寝たきりの生活を続ければ床ずれにより皮膚が破れ、筋肉もこすり取られ、骨がむき出しの状態になってしまいます。病院などではそのようなことが起きないよう、入院患者に対し適宜姿勢を変えさせることで床ずれの発生を防止するなどの様々な対策を取っています。
しかし、ギルガメッシュへの魔力供給しか考えていない言峰がそのようなところにまで気を回すわけがありません。要はサーヴァントの「餌」が供給されてさえいればよいのです。
するとあの孤児達がどうなるか……。ましてやその孤児達は「餌」として命を搾り取られていたわけなので、生き延びられる可能性はごく僅かと言うことに……。

この話はその18に続きます。

  ご意見・ご感想をmailまたはここのBBSにて頂けたら幸いです。
  特に、私が気が付いてないであろう未熟なポイントの情け容赦のない指摘を頂けると少しでもSSがマシにできるはずなので、そのあたりよろしくお願いします。

MISSION QUEST

2005/07/23 第二稿up
2005/10/10 第二稿改訂
2005/12/11 誤字修正

 
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