| 「Schlieen Sie auf.(アンロック) Verfah ren,Neun(コード9)」邸を閉じる結界を開き、ついで門の鍵を開ける。
 「さ、早く入って」
 「おう」
 士郎が入ると鍵を閉め、
 「Schlieung.(ロック) Verfah ren,Acht(コード8)」
 結界を閉ざす。
 片手に荷物を抱えながら、玄関の前に行き、鍵を開けて入る。
 「とりあえず、荷物は台所ね」
 言いながら、両手を荷物にふさがれた士郎を案内する。
 ……どうせ場所を知っているから案内の必要はないのだけど、私の荷物も台所に置くから結果としてそう言う形になるわけ。
 殆ど空っぽの冷蔵庫を開け、一緒に荷物……買い込んだ食料品を収めると、士郎に
 「お父様の部屋は知らなかったわよね? こっちよ」
 そう言って、今日、明日と士郎が泊まる部屋へ案内した。
 
 
 
 
 あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その15〜
 
 
 
 
 
   今日は五月三日、GW後半最初の休みの日。今日から三日間、士郎には約束通り、地下書庫の整理を手伝って貰う。
 もちろん、そんなことをしていて、いちいちうちに帰るのは面倒だから、この三日間、細かく言うと二晩は、邸に泊まることにした。
 士郎の部屋をお父様が使っていた部屋にしたのは、将来士郎がこっちに住む時、使うのに適当な部屋としては、ここしかなかったから。
 お母様が使っていた部屋は、殆ど何も残されていないし(お父様が、「辛かったから、全て処分した」と、言っていたことがあった)、あの子の使ってた部屋は……まだ、残しておきたい。と、なると、使える部屋はもう他にはないわけで、
 「もしお父様の霊が出てきたら、ちゃんと挨拶しといてね。それから、私も会いたいからちゃんと呼びに来てね!」
 「へ? 出るのか?」
 「冗談に決まってるでしょ」
 と、軽口を飛ばしながら、士郎の部屋にすることを決めたわけ。
 とりあえず荷物を置くと、まず地下室へ。
 「士郎はここでちょっとまってて」
 「いいけど?」
 首をかしげる士郎を階段の手前に残し、結界の中にはいると、その要へ行き、用意しておいたルビーをおく。
 「これでよしっと。士郎、降りてきて良いわよ!」
 「判った。今行く」
 うん、ちゃんと入れた。ちょっと変わったパスから取り込んだ魔力だったけど、士郎の魔力には違いないんだし。
 「ここが遠坂の工房か。初めて見るな」
 士郎が物珍しそうに中を見回す。
 「ちなみに、その足下の魔法陣がアーチャーを召還した時のもの。とは言ってもあいつ、こっちじゃなく上に落っこってきてくれたから、後片付けが大変だったけど」
 「すまん」
 「なんであんたが謝るのよ」
 「だって、あいつ、一応俺の未来の可能性だし」
 「済まないと思ったら、あいつにならないことで示してね」
 「努力する」
 「フン、まぁ良いわ。私も時間間違えて召還しちゃったんだし……」
 「ん? 遠坂、またやったのか?」
 「またって言うなぁー!」
 「グハッ!」
 いけない、ついうっかり寸勁を叩き込んじゃった。
 「ごめん! 士郎、大丈夫?」
 「だ、大丈夫だ、これくらい、何とも……無いって……ははは」
 「な、わけないでしょ、今、上に運ぶから……って、重い! キャッ!」
 士郎の身体を持ち上げようとして、予想以上の体重を支えきれなかった私は、重みに負けて倒れてしまって、
 「イタタタタ、士郎、大丈……!」
 「い、いや……こっち……こそ、だ、大丈夫……か? とおさ……か」
 士郎が私の上に乗って、すぐ目の前にその顔が……。
 「しろう……」
 「ご、ごめん遠坂、……肘、……痛い」
 「へ?」
 見ると、倒れた拍子に、私の左肘が士郎の鳩尾に突き刺さっていた。
 「だ、だったら早くどきなさいよ!」
 思わず怒鳴る。
 「あー、そのために、……腕、離して欲しい……んだけど」
 「え?」
 あっ!  右腕で士郎の左腕抱き込んだ形になってた……。
 確かにこれじゃ起きあがれない……て言うか、左腕を引っ張りながら倒れて、カウンターで左の肘を刺した形?
 「ご、ごめん!」
 慌てて腕を放すと、士郎はそのまま隣にごろんと転がり、おなかを抱えてうんうん唸ってる。
 慌てて起きあがり、顔を覗き込むけれど、かなり辛そう。
 「ご、ごめんね士郎、ホントにごめん」
 とりあえず、少しでも士郎が楽になるようにと、床に座り直し、士郎の頭を膝に乗せる。
 暫く士郎の髪をなでている内に、痛みが引いたみたいで、
 「ああ、ありがとう、もう大丈夫だ」
 と、言って起きあがった。
 もうちょっと寝ててもいいのに。
 もっとも、とうの士郎は、起きあがってみて初めて自分の状態に気が付いたみたいで、
 「え? あ、あれ?」
 なんて赤くなって慌ててる。
 こら、いつもしてあげてるのに、なんで今日に限って赤くなるのよ!
 「あー、その、ひ、膝、貸してくれててありがとう。おかげで、ホント、楽になった」
 「い、良いわよ、礼なんて、元々私のせいなんだし」
 何でか判らないけど、士郎の様子を見ていたら私の顔が熱くなって来ちゃったじゃない。
 「「……」」
 お互い、何となく話が続け辛くなって、何となく黙り込む。
 「と、とりあえず、書庫、行くわよ」
 「あ、ああ」
 「こっち」
 と、先導して、私は歩き出した。
 
 
   遠坂が書庫の扉を開け、明かりを付ける。「うわ……」
 でかい。
 これって、市の図書館、それも深山にある分館ではなく、新都にある本館並みかそれ以上の広さがあるんじゃないか?
 いや、閲覧スペースが無い分、蔵書量ではそれ以上って事に……。
 工房が狭いと思ったのは、地下の大部分が書庫に充てられてるからだったのか。
 いや……広さを見極めようと思って気が付いたけれど、これ、庭の下にまで拡がってるぞ。
 地下二階分の深さの所にあると思ったら、これ、地上に植えてある木の根とかを避けるため何だな。
 「空調がおかしくなってるみたいで、奥の方行くと息が苦しくなることあるから気を付けてね」
 「それ、先になおした方が良いんじゃないか?」
 「でも、普通の業者入れるわけにはいかないし、私、そう言うのよく判らないし……」
 「とりあえず見てみるよ。えっと……」
 言いながら、壁面に触れ、構造解析を行う。
 「ん、天井をダクトが通ってるな、途中に送風用のファンが……ああ、止まってるみたいだ」
 「直せる?」
 「メンテナンスハッチがあるから、とりあえずそこから入ってみてみるよ。脚立か何かある?」
 「書棚に掛けるものなら」
 「うん、それで最上段まで上れるなら、入れそうだな」
 「こっちよ」
 言われて行ってみる、うん、これなら上まで上れるぞ。
 早速それを持って手近なハッチの下に持っていき、上って様子を見てみた。
 「どう? 直せそう?」
 とりあえずモーターに手を触れ、"視"る。
 「古い上に、軸に溜まった埃が絡みついて抵抗になって、それで止まってるみたいだ。一度掃除してグリスアップすれば動くだろうけれど、いずれ交換は必要だぞ」
 「出来るの?」
 「とりあえず家に帰って道具取ってくるよ」
 「お願い」
 脚立を伝って下に降りる。
 書庫を出ると、階段を上がりながら、
 「ついでだから、結界の開閉方法教えるわ。ちょっと居間でまってて」
 と言ってきたので、とりあえず手に付いた埃を洗い流してから居間に行き、お茶の用意をして待つ。
 「まず先に鍵渡すわね、こっちが玄関の鍵で、こっちが門の鍵。大きさ違うからすぐ判るわよね?」
 「ああ」
 時代がかった感じの鍵を受け取る。
 最近のものに比べれば単純で、下手すれば空き巣に入られそうな気がするけれど、普通の空き巣なら結界を越えられないから、こんなもので良いんだろう。
 「それで、結界の開閉方法だけど、これは簡単。Schlieung(ロック)時に決めたコードをSchlieen Sie auf(アンロック)時に唱えるの。さっきは、8番で閉じたから、開ける時はSchlieen Sie auf.(アンロック) Verfah ren,Acht(コード8)ね」
 「そんな簡単にしておくと他の魔術師に破られたりしないか?」
 「大丈夫よ、開閉できるのは、当主とその血族および契約済みパートナー、それに結界を構成する魔法陣に登録してある魔術師だけだから」
 「え? でも俺って……」
 「だからさっき登録したの。でないと、地下室に入ろうとした時点でバラバラにされた上に黒こげよ」
 「うわっ!」
 「普通の人なら元から入ることが出来ない結界だけど、魔術師相手には攻勢防壁が作動するの」
 「で、登録ってどうやったんだ?」
 「うん、登録したい人の魔力をあるやり方で込めた宝石を魔法陣の中に置くだけ。もっともそのやり方は当主だけにしか伝えられなくて、弟子にも教えられないんだけど」
 「へぇー、でも、いつの間にそんな宝石作ったんだ?」
 「ここ何日か貰ったでしょ、士郎の魔力」
 「あ、あれか!」
 「少しは使わせて貰ったけれど、大部分は宝石に込めたから、十年は持つわ」
 「ふーん、じゃ、十年後にはまた俺の魔力を込め直さないといけないのか」
 「……十年経ってもそれで居るつもりなの?」
 「な、何怒ってんだ? 登録しとかないと駄目なんだろ?」
 「さっき始めに言ったでしょ、『当主とその血族および契約済みパートナー』って!」
 「へっ? それって……」
 「私と結婚してくれるんでしょ!」
 「あ、ああ、もちろんだ」
 「まさか十年以上待たせる気?」
 「まさか!」
 「だからそう言うこと。判った?」
 「わ、判った。俺だってそんなに待ちたくないよ」
 「ん、よろしい」
 「すまん。それじゃ、行ってくる」
 「コード変えたら、パス経由で教えてね」
 「判った。あ、掃除機用意しといてくれ。ダクトの中、酷い埃だった」
 「ん、用意し解く」
 かくしてこの日の作業は、空調の修理と、ついでにダクトの掃除中に壊れた掃除機の修理だけで終わった。
 その後、じゃんけんで、今晩の料理当番が俺に決まった(そして明日が遠坂だ)ので、身体に付いた埃を落とすため、先に風呂を使わせて貰ったけれど、普段は遠坂しか使ってない風呂を使わせて貰ったわけで……何となく緊張し、のぼせてしまった。
 夜はいつもの鍛錬……だけで終わってくれず、
 「やっぱり魔力ちょうだいね」
 と、最後に今日も魔力を根こそぎ吸い取られて終わった。
 文句言おうと思ったけれど、言おうとして口を開ける前に「ありがと!」って言いながらキスされると、もう、文句なんて言えないもんなぁ。
 
 
   今日からいよいよ書庫の整理。昨日士郎が直してくれた空調を、ずっと回しっぱなしにしておいたから今までゆっくり居られなかった奥の方まで入っていける。
 調子が悪くなり始めていた除湿器もついでに直してくれたし、士郎が居てくれて良かった。
 「じゃ、ここから始めるわ。この辺りにあるのは、大師父が持ってきたものばかりだから特に気を付けてね」
 「古くて壊れそうなんだな」
 「違うわよ、仮にも大師父が持ってきた魔導書よ。うかつな開け方したら、魂喰われるようなものだってあり得るのよ」
 「なんだよそりゃ」
 「力のある魔導書ならあり得ることよ」
 「そんなの、どうやって区別するんだよ。第一、ここらの本って、何語で書いてあるんだ?」
 「あのころの欧州の書よ、ラテン語に決まってるじゃない」
 「英語じゃないのか」
 「当たり前でしょ、英語があちこちで通用するようになったのは、大航海時代に英国が大帝国を築いてから。それまでは英語なんてマイナーな言葉だったんだから」
 「そうだったんだ」
 「それに、英語が広まろうが何だろうが、欧州で通用する公用語がラテン語であった以上、例え英国に居を構えるものであっても、文書はラテン語で書くものだったの」
 「でも、魔術って秘匿するものだったんじゃないのか?  それをそんな、誰にでも読める公用語で書いて良かったのか?」
 「読むべき人が読めなければ意味無いでしょ。読ませたくない相手に対処するには暗号化して、おまけに魔力がない人は読む気も起きないような処置をすれば良いだけだし」
 「なるほど……」
 しまったなぁー、士郎にはラテン語も教えなくちゃいけないのか。
 うちの魔術は独語が基本だから、そっちも教えなきゃいけないし……。
 でもまぁ、最初にラテン語を覚えれば、欧州の言葉なんて、その方言が変化したようなもんだし、何とかなるわよ。きっと! ……たぶん。……なると良いなぁ。
 「とりあえず、士郎は棚から本を順に抜き出してこっちに並べて。私はそれを読んで分類し、後で持ち出すものには印を付けた上で並べ直すから。多分、この辺りだけで二日潰れるだろうけれど、兎に角、それで並べ終わったものを今度は順にもどしてね」
 「判った」
 と、言うことで整理開始。
 途中ついつい本を読みふけってしまい、士郎に呆れられたけれど……仕方ないじゃない。
 研究に役立ちそうなものがいろいろ見つかったんだから。
 しょうがないから栞を挟んでおいたけれど、この分だと学院にもってく本は相当な量になりそうね。
 結局この日の整理は思った通り、大師父の書棚の最初の一列の2/3位までしか終わらず、残りは明日。大師父の分だけで十何列もある書棚の、一列分だけでこれだと、英国に渡るまでに大師父の分だけでも整理が終わるかどうか……。
 夕食の支度を始める前のお風呂で、そんなことを考えて思わず溜息をつく。
 昨日は士郎が入った後のお風呂だと思うと、家で入ってる時もそう言うことは何度もあったはずなのに、妙に意識してしまってのぼせちゃった。
 けれど、今日はわたしが先だから大丈夫。さ、早く意識を切り替えて、美味しい手料理を作ってあげなくっちゃ!
 ……。
 食後は一休みしてから、早速始めたラテン語の勉強。
 そしてその後はいつもの鍛錬。
 終わったら今日も士郎の魔力を貰っちゃう。
 だって、士郎の魔力があると、何となく士郎が一緒に寝ているような気がするんだもの。
 文句あるなら、早く一緒に寝られるようにしてね。
 
 
   そして三日目。もはや特に語ることはなし。
 何とか昨日やり残した部分の整理を終えた二人は、この作業で出た埃などを掃除し終わると、地上部分の部屋も掃除し、塵などの始末を終えると、邸を出て家へと帰っていった。
 二人きりで過ごした三日間のことを、藤ねぇと桜から根ほり葉ほり聞かれたのはある意味当然。
 もっとも、期待(?)されていたようなことは、何もしていなかったため、二人はこれをあっさりといなした。
 とはいうものの、逆になにもなかったことで不思議なものを見るような目で見られたのは、はてさていったいどういった事か?
 ともあれ、いろいろなことが起き、二人の距離が変わったような変わらなかったような、しかしやはり多少は距離が縮まった、そんな二人のGWはこうして終わりを告げた。
 
 
 
 
 
 
  後書き
   と、言うわけで、分量的には大したことのないその15ですが、GWの谷間の話が予定以上に長くなってしまったため、その14一つにまとめるのをやめ、このように二つに分けた形となりました。なお、このGW三部作(?)では、いくつか独自設定を出してしまいましたが、これが原作に於ける設定を崩すようなものに感じられましたら、それはひとえに私の力不足によるものです。申し訳ありません。
 
   ご意見・ご感想をmailまたはここのBBSにて頂けたら幸いです。特に、私が気が付いてないであろう未熟なポイントの情け容赦のない指摘を頂けると少しでもSSがマシにできるはずなので、そのあたりよろしくお願いします。
 
 MISSION QUEST
 2004/12/27 初稿up2004/12/28 誤字修正
 2005/10/15 site移転ついでに一部修正
 
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