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あかいあくまと正義の味方 学園生活編(旧版): あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その14〜  
執筆者: mission
発行日付: 2004/12/27
閲覧数: 7505
サイズは 39.01 KB
印刷用ページ 友達に教える
 

「朝……か」
  どうやらいつもの時間に起きられたようだ。
  昨日の夜は遠坂の奴、あの刀経由で俺のパスが繋がることに気が付いて、とんでもない鍛錬やってくれたもんなぁ……。
「今から士郎の魔力貰うからね! きちんとパスをふさげなかったら、たちどころに干涸らびちゃうから、そのつもりで!」
  ビシッ! と、俺の鼻先に人差し指突きつけつつ宣言したかと思うと、俺が驚いてるうちに、とんでもない勢いで魔力を吸い上げて……。
  いや、二十七本の魔力回路をフル回転させても追いつかないほどの勢いで持ってかれるとは思わなかった。
  どうにかこうにかスイッチを見つけて閉じた時には、ホントに魔力がスッカラカンに枯れ果てるところだった。
  でもって、
「ふーん、士郎の魔力って結構練り込まれてるわね。折角だからこのまんま貰っちゃお!」
  って言って、きっちりパスを閉ざして、全然返してくれなかったし……
  挙げ句の果てに、
「この際だから、最後の一滴まできちっと貰おうかしら?  ホントのスッカラカンになった方が、士郎の回路を鍛えて、容量を上げる上でも役に立つし」
  なんてことまで言ってくるんだから……。
  あかいあくまの主食は、実は魔力だったのか? なんて馬鹿なことまで考えたよ。
「はぁ、こうしててもしょうがない、朝飯作らなくっちゃ」
  むんっ! と、気合いを入れて起きあがる。
  幸い、魔力回路を開けたまま寝たおかげか、それなりにオドが溜まってきている。
  ……まさか、ここしばらくマナをオドに変換するやり方を集中的に訓練させられたのは?
  な、わけないか。俺があの刀を打たなければパスの通しようが……そう言えば、キスでも簡易的なパスなら繋げられるからと言って練習させられたような……。
  ついつい、パスを通すこと忘れて別の方に進みそうになったけれど……、気のせいだよな。うん。
  兎に角、これだけオドが溜まってきているなら、今日一日、よっぽどのことがない限り、身体に支障はないだろう。
  それに、今晩、俺の実験をする方向に持っていければ、半分は遠坂の魔力が使えるはずだ。
  そこまで考えた俺は、頭を切り換え、手早く着替えると、まずは顔を洗おうと洗面所に向かった。





あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その14〜






  顔を洗い、さっぱりしたところで台所に行き、いつものように朝食の用意を……、
「おはようございます、先輩!」
「おはよう、桜。今日は早いな」
「はい!  朝食を作る権利は早い者勝ちですから頑張っちゃいました!」
「うー、仕方ない、道場で鍛錬してくるよ」
「はい、頑張って下さいねー!」
  しまった、このところ勝ちが続いていたから油断してた。
  明日は絶対に朝食を作ってやるぞ!
  心密かに決意を固めると、道場に入り、朝の鍛錬を始める。
  一通り身体がほぐれたところで母屋に戻り、ざっと汗をぬぐって台所に戻る。
  いつもならここで干将・莫耶を投影して素振りを始めるのだが、魔力が少ない今は……。
  あ……、鍛冶場にもってった奴、まだ部屋に置いてたっけ……。
  どうしようかと考えたけれど、朝食がほぼできあがっていたので、結局そのまま盛りつけを手伝い、食卓に並べる。
  と、
「しろぉー! 朝ご飯まだぁー!?」
  いつものように藤ねぇがやってきた。
  今日はいつものように、席についても「ごっはん〜、ごっはん〜!」とやらずに、やけにだらけてる。
「う゛〜、なんで折角のGWなのに学校行かなくちゃいけないのよぉ〜」
  そ、それが教師の言うことか! サラリーマンだって、みんながみんな休めてる訳じゃないだろう?
「藤ねぇ、朝からそんなだらけてると、朝食抜きにするぞ!」
「えぇ〜!  そんなのひどぉ〜!  士郎横暴!  横暴士郎!」
「藤村先生、朝から何子供みたいな事言ってるんですか?」
「あ、遠坂さん、士郎ったら酷いのよぉ〜」
「一通り廊下まで聞こえてたから事情はわかってますが?」
  にっこりと微笑むあかいあくま。
「う……」
  どうやらその笑みを正面から向けられた藤ねぇは己が立場が判ったらしい、しゅんっ、と大人しくなると、口の中でなにやらブツブツとつぶやき始めた。
「おはよう、士郎。牛乳ちょうだい」
「あ、ああ、ちょっと待ってろ」
  一方の俺は、驚きのあまり硬直していたが、その一言で我に返ると、いつものように冷蔵庫から牛乳を取り出し、遠坂に手渡した。
  途中、目があった桜も驚いているようだ。
  一方の遠坂は、いつものように豪快に牛乳を飲むと、
「あら?  今日の朝食はひょっとして桜?  士郎、寝坊したんだ」
  なんて言いながら自分の席に座る。
  ん? っと、首をかしげると、俺達の方を見て、
「あれ?  どうしたの?  あ、もし手が足りないなら手伝うけど?」
  と、言ってきた。
「と、遠坂が……」
「あ、朝から……」
「「まともに起きているぅー!」」
  俺と桜が思わずハモッた直後、気が付くと、俺は居間から台所に移動していた。
  すぐ脇に人の気配があるので、そちらを見ると、引きつりまくった桜の顔。
  ああ、きっと俺も同じような顔をして居るんだな。
「朝から二人仲良くお見合いをして、ずいぶんと仲のよろしい事ね」
  冷たく響く声に、互いに視線を合わせ、共にこの驚異に立ち向かうことを誓い合うと、俺達は声の主へと視線を向けた。
「それで、先ほど、何か妙な事を言われたようですけれど、その子細について、改めて教えて頂けませんかしら?」
  灼熱の業火の如き視線が、俺と桜に等分に向けられる。
  く、お、俺は正義の味方を目指す男だ、こ、この程度の攻撃に屈してたまるか!
「そんなこと、判ってるだろ!  遠坂が、朝からきちんと目を覚まし……て……」
  な、何だこの視線は! まるで、戦艦並みのメガ粒子砲を撃たれたようだ!
「そ、そうです、いつもの遠坂先輩ならもっと凄い様子だったのに、今日はまるで、初めてここに泊まった頃の……ひっ!」
  ど、どうやら俺の装甲板は、蒸発しきる前に、桜の援護に救われたようだが、今度は桜が……。
「そ、そうだぞ、今日の遠坂はいつもと違って、きちんと目が覚めてて、まるで別人のようだ。一体何……が……」
  く……今度の攻撃は、さっきの比ではない、これは……伝説の浮遊大陸をも破壊した、波動砲の攻撃にも匹敵するのではないのか!
「そうです!  いつものきちんと目が覚めきっていない様子とは全く別人………」
「ふーん、そう、あなた達が普段、私のことをどういう目で見ているのか、よぉく判ったわ!」
  しまった! 俺が次の対策を撃つ前に戦いが第二ステージに!
「答えは簡単よ。私、昨日士郎から良い物を、それこそ最後の一滴まで貰えちゃったのね。だから今日は目覚めもすっきり。肌もすべすべ。ホント、こんなに気持ちの良い目覚めなんて、久しぶりだわぁ」
  え!?
  ちょ、ちょっと待て遠坂、何言ってんだお前わぁ!
  そんなこと、普通の人が聞いたら間違いなく誤解……。
  あ、あの、肩越しに刺さる視線が痛いんですけれど、桜さん?
「そうなんですか、珍しく先輩が寝坊したと思ったら、そう言うことだったんですね。そうですよね、お互い、結婚を前提としておつきあいされているのですから、妹の私としては、そのぐらいのこと、察してしかるべきでしたよね」
  え、ええと、なんでそんなに、恨みがましい目でこちらを見るのでしょうか?  桜さん
「お二人の仲の良さ、失念していて申し訳ありませんでした」
  言いながら、遠坂の手をふりほどいて居間へと歩いていく桜さん。
  ええっと、俺、間違いなく誤解されたと思うんだけど、どうしよう?
  そう思いながら遠坂を見ると、
「ねぇ衛宮君、魔術のことをくどくどと桜に説明しなければならないことと、ごく普通の恋人同士の関係について、若干の思いこみをされていること、どちらの方が良いと思う?」
  ……そりゃ、後の方に決まってるじゃないか。でも、何か間違ってないか、それ?
「でも、ま、士郎から貰った魔力のおかげで、いつもより目覚めがよかったのは事実よ。考えてみると私、いつもその日の余った魔力を宝石に移していたから、一晩寝たぐらいじゃ魔力回復しきってなかったのね。でも、昨日魔力を移した後に士郎から魔力を貰ったから、朝起きたときも魔力切れに悩まされずにすんだって訳」
  そうだったのか……、
「それじゃ、いつもの朝のあれって……」
「言ったでしょ、魔力切れのせい。だから、これからは毎晩、寝る前に士郎の魔力貰うわよ」
「ま、まてよ、毎晩あんな風に抜かれたら、俺の方が持たないぞ!」
「良いじゃない、その分回路が鍛えられて、士郎の魔力が上がるんだから」
「うう……」
「これは師匠命令よ。はい、決まり!  さ、朝ご飯の準備しましょ!」
  あくまだ、あくまがいるよぉ〜
  がっくりと落ち込んだ俺は、朝食の間中刺さり続けていた桜の冷たい視線との相乗効果もあり、殆ど何も食べられなかった……。


  とはいうものの、俺はやっぱり単純なようで、ご飯とみそ汁以外は咽を通らない朝食の後(もっとも、それ以外のものは全て、俺が箸を付ける前に虎の胃袋へと消えていったのだが)、玄関で靴を履いている時に、
「ほら士郎、何黄昏れてるのよ!」
  と、言いながら、俺を背中から包み込んだ遠坂にほっぺたにキスをされたとたん、すっかり元気になってしまってた。
  後ろから突き刺さってた桜の視線も全然気にならなくなったんだから、ホント、現金なものだ。
  そして、いつものように並んで教室に入る。
「おーお、我らが遠坂嬢は、本日も同伴出勤ですか、精が出るねぇー」
  おはようのおの字も言わずにいきなり遠坂に話しかけるのは蒔寺  楓。
  自称穂群の黒豹だそうだ。
  本人以外は誰も使わない呼び名だけど。
「あら蒔寺さん、おはようございます。それで、私がいつ、誰とどこに同伴出勤をしたというのでしょうか?  まさか蒔寺さんにとっては、学園に登校することが出勤で、そのとき、異性の方と一緒に居れば、それが同伴出勤になるとおっしゃるのかしら?  そもそも、学生が学園に『登校』することを出勤と表現すること自体、私は寡聞にして存じませんでしたわ。」
  おーお、毎朝の舌戦が始まったよ。
  どうせ数秒後には遠坂が勝つこと判りきってるのに、毎日毎日よくやるもんだ。
  ま、それだけ仲がいいって事なんだろうな。
  いつものやりとりを始めた二人をそのままに、俺はさっさと鞄を置きに席へ移動する。
  っと、その前に。
「おはよう、氷室さん、おはよう、三枝さん」
  いつものように二人のやりとりを見守って(?)いる二人に挨拶をしておく。
  この二人も遠坂の大事な友達だ、だから俺も大事にしなくっちゃな。
「ああ、おはよう、衛宮」「お、おはようございます。衛宮さん」
  挨拶を返してくる二人の向こう側から一成がやってくる。
「一成、おはよう」
「うむ、おはよう、衛宮。全く、あれほど言っているのに、今日もあの女狐めと一緒に来たのか。衛宮はホントに強情な奴だな」
「そう言う生徒会長も毎日毎日よく同じ台詞で飽きないな。よ、おはよう」
「ああ美綴、おはよう」
「しかし、ホントに三連休中は一度も顔出さなかったな。で、刀打ちの見学はどうだった?」
「ああ、一本打たせて貰えたよ」
「へぇー、どんなの打ったんだい?  今度見せてくれよ」
「悪い、俺の手元にはないから……」
「何だ、残念だな、どんな刀打ったんだか見てみたかったのに」
「だめよ、そう簡単には人には見せられないわ」
「ん? なんで遠坂が……へーえ」
  何にやにや笑いながら俺と遠坂を順繰りに見てるんだ?
「そうかいそうかい、初めて打った刀をいきなり遠坂にプレゼントしたのか。いや、やるねぇー」
「へぇー、同伴出勤だけじゃなく、衛宮の初めてまで持ってってるのかい?」
「蒔寺さん、その言い方は人によろしくない誤解を抱かせることになると思うのですけれど、何故にそのような言い方をされるのでしょうか?」
「よろしくない誤解なんてする奴ってのは、元々よろしくない考えを持っているような連中だろ。よろしい考えしか持たないようなら、よろしくないことなんて考えもしないって」
「あら、すると朝一番でよろしくない言葉をお使いになられた蒔寺さんは、さぞかしよろしくない考えばかりをお持ちなのでしょうね」
「な、何言ってるんだよ、あれはただ、朝来る時も、帰る時も一緒のお前らが一日二十四時間、ずっと一緒にして居るんじゃないかと思っただけで……」
「あら、ずっと一緒ではありませんわ。お風呂に入る時とか、夜寝る時とかはちゃんと別々にしておりますから」
「はぁ!?  あ、あんた今なんて言ったんだぁ!?」
  なぜだか急に教室の中が静かになる。
「私と士郎はいつも一緒に居るわけではなく、お風呂に入っていたり、眠る時などはそれぞれ別々であると言っただけですけれど?」
  遠坂、そうやって小首をかしげる姿、凄く可愛いぞ。
「ま、まさかお前ら……一緒に住んで……」
「ええ、この春休みに引っ越して、学園にも引っ越しの届けは出していますけれど、それが何か?」
  教室の中が静まりかえる。
  みんな、どうしたんだ?
  見ると、一成や美綴始め、誰も彼もが石のように固まってる。
  ……へんだな? 別に石化の結界とか張られてるわけでもないし。
「ねぇ士郎、なんでみんな固まってるのかしら?」
「さぁ、なんでだろうな?  俺に判らないような何かでも起きたのか?」
「さぁ?  私も何も感じなかったけれど?」
  って事は、魔術的な何かではないわけだ。
  一体なんだろう?
  と、いきなり一成が動き出して、俺の肩を押さえつけてきた。
「え、衛宮、貴様、まさかこの女怪と、同棲しておるのか?」
「同棲?  ああ、そうとも言うな」
「そ、そうとも言うって、おぬし……」
「ああ、一応念のためいっとくけど、一緒に住んでるからって変なことはしてないぞ、大体、指輪だってまだ贈ってないし」
「士郎ったら、『こういうのは自分で稼いだ金で買わなきゃ意味無いんだ!』なんて言って、頑張っちゃうんだもん。一人でうちに残されてる私としては、喜んで良いんだか、一緒に居てくれないことを怒るべきなのか、迷っちゃうわよ」
「す、すまん遠坂。お金が貯まったら、一緒に買いに行こうな」
  顔を遠坂に向けて謝る。
「この指にはめる時は、士郎の手ではめてね」
  左手の薬指をなでながら、凛は言う。
「ああ、もちろんだ」
  当然だとうなずく士郎。
「ところで、またみんな石になってるようだけど、なんでかしら?」
「ホントだ、一成もまた石になってる」
「美綴さんも蒔寺さんも氷室さんも三枝さんも、みんなして固まっちゃって、不思議ね」
  再び最初に動き出したのは、やっぱり一成。
「衛宮、お前、本気なのか?」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「そうだな、おぬしはそうであった。して遠坂、おぬしはどうなのだ?」
「どうって……良いわ、一つだけ教えてあげる。あのね、士郎は私のもので、私は士郎のもの。これは例え死んでも変える気はないわ」
「死んでも……か」
  目を閉じると、そのまま天を仰ぎ、強く深く息を吐く。
「衛宮、今日の昼休みつきあえ。遠坂、今日の昼は衛宮を借りるぞ」
「お、おい、どうしたんだ一成」「わけぐらいは話して下さるのですよね?」
「お前達がそう言うつもりならば、そのことについてはこれ以上どうこういわん。だが、これでも俺は衛宮の親友のつもりだ。だから、親友としての忠告はきちんと言っておくべきだと思ってな。安心しろ、もうお前達に別れろのどうのといったことは言わん。いや、祝福させて貰う」
  思わず遠坂と顔を見合わせる。
「どういった風の吹き回しなのかしら?」
「正直に言おう、遠坂。俺は今まで貴様が衛宮を誑かし、良からぬ道にでも引っ張り込むのではないかと危惧しておった。特に最近のお前達の様子を見ていれば、明らかに衛宮は貴様に骨抜きにされ、言いなりになっているようにしか見えなかったからなおさらにな。しかし、実際の所、きちんと将来の約束を交わした上、例え同じ屋根の下に共に暮らそうとも、きちんと節度を保ち、己が欲の赴くまま、易きに落ちるような愚かな行いはしておらぬと言う。ならばお前達は真にお互いを思い合い離れがたいが故にかような付き合いをしているものであると、真に理解できるし納得もする。故にかような二人を引き離すような行いは無粋きわまるというもの。ましてこの身は、仮にも僧侶を目指す身となれば、お主ら二人を祝福するが勤めというものだ。納得したか?」
「一成……ありがとう」
「なに、ここまでお主らの仲を見せつけられて、それでもまだ反対するようであれば、俺はお前の親友であるどころか、それ以前に人間として失格だ。俺は、今更ながら当たり前のことを認識したにすぎんよ」
「柳洞君、いずれにしても、貴方に認めて貰えたことは嬉しいわ。ありがとう」
「な……」
  一成が引く。
  そりゃそうだ、遠坂があれだけ喜んでいる笑顔を向けられたんだ。平静で居られる奴なんて居るわけ無い。
  正直、俺以外の奴にああいう顔を向けられるのには、ついつい醜い嫉妬が浮かび上がってしまう。けど、遠坂は嬉しいんだろう。俺の親友でありながら、何かというと遠坂を目の敵だ天敵だと言って、更には俺と遠坂を別れさせようとしていた一成が、こうして俺達の仲を認めて、祝福まですると言い切ってくれたんだ。嬉しくないわけがない。
  だから、俺は黙って遠坂の肩に手を置いた。
  ところで、教室のあちこちや、廊下から、「うおぉー! 最後の砦が陥落してしまったぁー!」とか、「もはや、我らが女神を取り戻す術はないのか!」とか、「やはりこの世には神も仏もおらぬのだぁ!」とか、挙げ句の果てには、「こうなったら、あのにっくき衛宮をこの手で八つ裂きに!」だのと言った叫びがあがってるのは何なんだ?
  うわ、「こうなったら果たし合いだ! 全員、昼休みに屋上に集合! 作戦を練る!」なんて言って引き上げていったぞ……。
  ま、仕方がないか、何てったって、学園のアイドルを独り占めしちまったんだもんな。
  俺には、きちんと受けて立って、ケリを付ける義務がある。


  昼休み、士郎は「じゃ、行ってくる」って言って、柳洞君と一緒に生徒会室に行った。
  仕方ない、今日は一人でお弁当を食べますか。
  と、思って、お弁当を取り出したら、三枝さんがやってきて、
「あ、あの、遠坂さん、良かったらお昼、ご一緒しませんか?」
  って、誘ってくれた。
  そう言えばこの子、二年の時は良くお昼に誘ってくれてたっけ。
「よろしいのですか? でしたら喜んでご一緒させて頂きます」
  そっか、このところずっと士郎と一緒に居たから、気を遣って邪魔をしないようにしてくれてたんだ。ホント、この子は良い子だわ。いつもほにゃりとしていて、見ているだけでも気持ちが安らぐし、思わずお持ち帰りしちゃいたくなるくらいに……。
「鐘ちゃん、蒔ちゃん、遠坂さん一緒してくれるって!」
「そうか、よかったな由紀っち!」
「うん!」
  見ると、既に二人は机を併せてお弁当を拡げている。
  そこに三枝さんは、まるで子犬がしっぽを振るように躯一杯に悦びを表して駆けていった。
「それじゃ、ご一緒させて頂きますわね」
  言いながら、私も机を合わせる。
「旦那がおらぬのに、由紀香の申し出を断るわけも無いであろうからな。本日は、天が由紀香に味方したと言うことであろう」
「そっかそっか、それじゃ、折角だからあたしも一緒させて貰おうか?」
「げ、美綴か……」
「フム、美綴嬢か、断る理由など何も無し、構わぬよな?」
「私は全然オッケーだよー!」
  三枝さん、なんだかハイになってる見たい。
  かくして、五人で昼食を済ませたわけだけど、その後の時間、五人で話し合っている最中に氷室さんがぼそりと話しかけてきた。
「ところで遠坂嬢、気付いておるか?」
「何にですか?」
「朝、男子共が良からぬことで意気投合し、今は屋上に集まっていることは知っておろうが、その後、女子の中に良からぬ話をしていたものがいてな。一応注意しておくべきかと思う」
「良からぬ話といいますと?」
「あれだけの男子を敵に回せば、流石の衛宮も無事には済まい。そこでお主との仲が悪くなれば良し、そうでなくても、傷ついているであろう衛宮の元にお主よりも先に行き、手当などをすれば、多少なりとも衛宮の気を引くことが出来るのではないかと企んでおるものが居た」
「あー、その話、あたしもきいてた」
「あ、あたしもだ〜」
「え〜、そんなこと考えてる人居るのぉ!」
「由紀香、最近の衛宮を見ていてどう思う?」
「え〜、最近?  衛宮君って、昔っから優しいし、頼りになって凄い人だな〜って思ってたけど……、それに、見てると結構筋肉質でたくましいなって……」
  ムムッ
「最近だと、なんだか急に背も伸びてきたし、顔もキリッと引き締まって、なんだか、こう言う人にずっと一緒に居て欲しいなぁ〜って。ホント、遠坂さんとお似合いだと思うよ〜」
  ホッ
「もし、衛宮が遠坂と付き合わず、一人のままだったら?」
「え、衛宮君が?  もし遠坂さんの恋人でなかったら……?  そしたら、そしたら……、ええっと、その……、出来たら……」
  ちょ、ちょっと、何うつむいて赤くなって、恥ずかしがってるのよ!
「恋人になって欲しいのでは無いか?」
「そそそ、そんな、そ、それは前から良いなぁーって思っていたけれど……、衛宮君って凄い人だし、それに何より今は遠坂さんとその……けけけ、結婚の約束までしている人だから……」
「だがな、現実には付き合っている相手がいるのなら、別れて貰えば良いではないかと思うような輩もいると言うことだ」
「ええー!  そんな!  酷い!」
「酷かろうと何だろうと、そのように考える奴は事実として存在するね。そして、遠坂に対抗する自信は無くても、隙をつくチャンスがあるなら突いてみようなんて考えてる奴もいる」
「と、言うことだ遠坂嬢。下らぬ輩に攪乱などされぬよう、心しておくよう忠告する」
「そう……、そうね、そんなことで士郎がどうにかなるわけ無いけれど、余計なちょっかいを出されるのは不愉快だわ。そう言う巫山戯た人には、私たちの絆が、そんなことで影響されるようなものでないこと、しっかりと見せつけてあげる」
「あたしが聞いた中には、今の内に既成事実を作ってしまおうなんて事を言ってた奴もいるから気を付けな」
「何ですって!」
「そういや『ラッキー!  あたし、もうじき危険日よ!』なんて事言ってたバカまで居たっけ」
「冗談じゃないわよ!  そこまでして人の良い士郎につけ込もうだなんて!  そんな馬鹿げたこと言ってた人は、死ぬほど後悔させてあげるわ!」
「まぁそう熱くなるな、あんたと衛宮がここできちんと決めれば、男子も女子も、もうこれ以上余計なことは出来ないだろう」
「そうね、ここできちんと見せつけてやるわ!」
「だからといって、ついこないだまでのようなバカップルぶりを見せつけるなんてのは止めてくれよ。あれはあたしらの神経が持たない」
「わ、判ってるわよ!」
「そいつは助かる」「いや、まったくだ」「そうだよな〜」「バカップル?」
  わ、悪かったわね。


「で、忠告って、何だ?」
「開口一番言うことがそれか? まずは飯を済ませてからにせんか」
「む、そうだな」
「まぁその前に一つだけ謝っておく。今までお前の前で、遠坂のことを『女狐』だの『女怪』だのとさんざんに言ってきた。済まなかったな。正直、未だにあやつは裏に何か隠しているところがあると思っているが、少なくともお前の前であのようなあしざまな呼び方をすることは止める」
「そのことか、確かに遠坂はいろいろあって猫を被っているけれし、素の遠坂は、ちょっと意地悪でひねくれたところはあるけれど、とっても良い奴だぞ。アイツにはアイツの、猫を被らなきゃならない事情があるんだ。そのあたりは察してくれ」
「そうなのだろうな、でなければ貴様がああまで入れあげるとはおもえん。だが、俺もあやつとの腐れ縁で、それなりの付き合いがあったからな、どうしても、あやつに振り回された苦い記憶がぶり返してしまう。このため、どうしても当たりがきつくなってしまうが、その点は許してくれ」
「そういや、中学では生徒会の会長・副会長コンビだったんだっけな」
「ああ、あやつは公明正大な生徒会運営をする上では欠かせない奴であったが、妨害する者を叩きのめすとなると、容赦なく、それこそ有りとあらゆる手を使っておったからな、正直、やりすぎないように止めるのが精一杯だった」
「……判る気がする」
「……そうか、やはりお主も苦労しているのだな」
「ああ」
「がんばれよ」
「ああ」
  無言のまま、弁当を片づける二人。
  やがて食事を終え、食後のお茶を入れ終わると、二人は改めて向かい合う。
「では、俺として言うべき忠告をこれから述べる。むろん聞くも聞かぬもお主の自由だが、一つ、心に止めおいて貰えると嬉しい」
「判った。聞いているから言ってくれ」
「では、順に言うが、その前に聞く。お前はいつとあやつと結婚するつもりなのだ?」
「まぁお互い学生だし、向こうの大学を出てからのつもりだけど?」
「そうか、まぁお前達のことだから、それまでも同居するのだろうが、だからといって、むやみと突き進むようなことをしてはいかんぞ?  我々男は、ただ単に欲望を吐き出すだけで済むが、それを受け入れる女性は妊娠する可能性が常について回る。いくら避妊処置をしたとしても、それは100%を保証するものではないし、まぁお前達ならしないだろうが、出来たからと言って堕胎処置をすれば、それは最悪母胎の命にも関わる。ならば産むしか手はないが、そうなると学生結婚だ。お互いに生活の基盤が安定していない時に子供を生むと、どちらか或いは両方が退学して働かざるを得なくなる。これは後々の軋轢の原因にもなりかねぬ。そのような不幸な未来を招かぬ為にも、常に節度を持って接するべきだろう」
「むっ……そうか、そうだな」
「次に、衛宮、お前は最近、自分が女子の間で人気が高まっていることに気付いてるか?」
「そうなのか?  たまに言われるが、全く実感がないんだが」
「それはお前が朴念仁なだけだ。実際には、このところ急に背が伸びたり、顔つきも変わったこともあり、外見に惑わされるおなご共の間では、お前の人気は急上昇中だ。更には、あの遠坂を射止めたというのも大きい。遠坂ほどのものが惚れるのだからと言う、いささか奇妙な論理でお前に注目する不思議な感性の持ち主までいるほどだ」
「何だそりゃ?」
「俺にもわからん、人を好きになるか嫌いになるかは、己が感性により決まるものだろうに、他人の感性に響いたからと言って、自分の感性にも響くものとするような輩の考えることなどはな」
「そうだな」
「兎も角、そんなこんなでお前にちょっかいを出そうとする輩が増え始めている。お前のことだから相手にはしないだろうが、それであやつがやきもきしたりすることの無いよう、きちんと気を遣ってやれ」
「遠坂がそんなこと気にするかな?」
「ホウッ、今朝、あやつの見事な笑顔が俺に向けられるのを見てやきもきしていたものが言うのか」
「なっ!」
「その気持ちをあやつに当てはめてみれば、例え本人にその気がなくとも、気にせずにはおられぬ事ぐらい容易に理解できよう。だからこの点、気を付けると良い」
「判った」
「最後に、これは前からも言っていたことだが、もっと自分を大切にしろ。お前が人助けに熱心なことは美点だが、かといって、それにばかり精を出すようにしては周りで見ている方がたまった者ではない。あやつもいつも心配しているのではないか?」
「……ああ」
「お前は、自分の大事な者に心配ばかりかけさせていて楽しいのか?」
「いや、いつも遠坂には済まないと思っている」
「だったらそれを行動で示せ。人に心配をかけるのがお前の正義ではないだろう?」
「判っている。判ってはいるんだけど……」
「目の前で困っている人がいればほっとけない……か」
「ああ、そうなんだ」
「さっきも言ったが、それ自体は確かに美点だ。だが、お前はそのためにいつも無理をする。お前は自分では出来ることしかやっていないと言っているが、端から見れば無理をしているとしか見えない。一例とするならば、そうだな、聞けばお前の一日の睡眠時間が、酷い時には四時間を切っている日がざらにあるそうだな。よく、ナポレオンは一日四時間の睡眠で仕事をこなしていたと言うが、あれは集中しての睡眠こそ四時間でしかないが、合間合間にこまめに睡眠を取ることで、実際にはより長く寝ていたというのが真実だ。 ましてや俺やお前のような成長期にある者が充分な睡眠を取らずにいれば、必ず身体に害を為す。極端な話、あやつをおいて早死にすることとて充分にあり得る。もしもお前が、お前の死後何十年も、あやつを一人にしておきたいという薄情者なら、そのようなお前に惚れたあやつの自業自得といえるのだが、お前はどう思っているのだ?」
「な……え?」
「睡眠不足で早死にというのは極端な例だが、お前が無理をしているのを見ると、明日に死んでもおかしくないと思えるのは確かだ。まぁ、ホントに明日に死んでしまえば、あやつも比較的早く立ち直り、他の相手を見つけて幸せな結婚生活を送れるようになるかもしれんが、お前はそのような未来を望んでおるのか?」
「巫山戯るな!  遠坂は誰にも渡さない!」
「うむ、どうやら我欲のかけらもなかったようなお前にも、漸く欲というものが生まれたようだな。僧侶を目指す身から見れば残念なことではあるが、お前の友としてみれば、良いことだと思う。とりあえずは、あやつを他のものに渡さぬ為にも、無茶はしても無理はせぬよう心がけるようにしろ」
「ああ、そうする。絶対あいつを、離すもんか!」
「良いか、そのためには、くれぐれも無理はするな。一人では手が足りないと思ったら、遠慮せずに周りを頼れ。少なくとも、俺は俺に出来ることであれば、喜んで手伝わせて貰うぞ。寧ろ頼って貰った方が嬉しい」
「嬉しいのか?」
「そうだ、俺はいつも俺に出来ないことをお前に助けて貰っている。これはこれで助かっていることに代わりはない。しかし、助けられてばかりというのは正直、心苦しくてな。そんな俺を助けるためにも、お前では難しいが、俺にだったら出来ることがあれば、遠慮せずに俺を頼ってくれ。そのことでお前を助けることができて、お前が喜ぶ顔が見れるなら、それは俺にとってこの上なく嬉しいことになる」
「そうなのか?」
「ああ、そうだ」
「そうか、そんなことでお前が喜ぶんなら、是非とも頼らせて貰うよ」
「ああ、楽しみにしている」
長話に区切りがつき、すっかり冷めた茶でのどを潤す一成。
ふと思いついたように言う。
「ああそうだ、頼られて嬉しいと言えば、きっとあやつは俺以上に喜ぶはずだ。だから、あやつが喜ぶ顔を見たければ、悩み事を一人で抱えたりせず、あやつにどんどん相談してみると良い。例えその場で答えがでなくとも、きっと、一緒に悩んでいられるだけででも、あやつにとっては嬉しいことだと思うぞ」
「そうなのか?」
「ああ、基督教の結婚の誓いの言葉になど、『悩める時も』と言う言葉が入っているほどではないか。良いことを共有することはたやすいが、悪いことを共有し、共に立ち向かうことなど、本当に信頼しあう仲でなければ出来ないこと。ならば、悩み事を相談されると言うことは、それだけ信頼されていることを意味するのだ。お前のことを気に入っているものにとっては、これは本当に嬉しいことなのだぞ。ましてやあやつにすれば……だ」
「そうか。うん、判った。そうする!」
「うむ、ではちょうど良い時間だ、教室に戻るとするか」
「ああ」
  弁当箱を片付け、湯飲みや急須を洗うと、二人揃って生徒会室を出ようとする。
  と、そこで一成の足が止まった。
「すまん、もう一つ言い忘れていた」
「なんだ?」
「お前達の仲がよいのは判るが、ついこないだまでのように、辺り構わずいちゃつくのだけは止めてくれ。あれは、周りで見せられている方がたまったものではない」
「わ、わるかったな」
「うむ、判ってくれて嬉しい」
  今度こそ本当に、二人は生徒会室から出て行った。


「ずいぶん遅かったわね。一体、何を話してたの?」
  教室に戻るなり、遠坂が俺に聞いてきた。
「何、そやつにもっと自分を大切にしろ、もっと周りを頼るようにしろと忠告してやったまでだ」
  脇から一成が遠坂に返す。
「ああ、これでもかというくらいに説教されたよ」
「ふーん、でも、それって士郎相手にはいくら言っても聞いてくれなくって困ってるんだけど」
「そうだろう。だから今回は、お主をダシに使わせて貰った」
「私?」
  あ、遠坂が目をまん丸にして驚いている。
  そう言う可愛い顔、あまり俺以外に見せるなよ。ほら、早く猫被り直せ!
「そうだ、無理しすぎるとお主が心配するとか、困っていると頼られれば、お主ならばきっと喜んで相談に乗るだろうとな」
「そりゃいつもいつも心配させられてるし、悩み事は相談して欲しいって言ってるのに全然してくれなくって……、私って何? って思うことよくあるけれど……。治ってくれないのよね」
「そのことを素直に言わぬからであろう。ほれ、今のお主の反応を見た衛宮の顔を見てみるが良い」
「え?」
良いながら、まじまじと俺の顔を覗き込んでくる。
「なに?  ひょっとして、今まで私があんたのこと、心配して悩んで、考え込んでいたこと、ちっとも気付いていてくれてなかったの?」
「あー、そのー」
「いい、士郎?  よく聞きなさい! 私はいつも士郎のこと心配して、悩んで、士郎のことばかり考えているの!  だから、私を心配させないためにも、もっと自分を大切にして、私のために、何でもかんでも私に相談しなさい!」
「悪かった、俺の考え方が足りなかったよ。遠坂のために、俺、もっと気を付けるし相談する」
「約束よ。いいわね!」
「ああ、約束する」


「はぁー、あの遠坂と衛宮がここまで変わるなんて、愛の力って偉大だねぇー」
「全く全く、我らもあやかりたいものだ」
「でもよー、この二人に太刀打ちできるぐらいとなると、一体どんなやつを相手にすれば良いんだ?」
「「「うーん」」」 「わ、わっ、みんなどうしちゃったの?」
「ここは一つ、三の字に聞いてみるか?」
「そうだな、由紀っち、この学園で衛宮並みにいい男と言えば誰だと思う?」
「え〜!? 衛宮君みたいに凄い人? そんな人居ないよぉ〜」
「やはりそうか」
「他でもない三枝さんが言うんだものな」
  教室内を見渡しながら言う美綴、氷室、蒔寺の三人。
「ほえ?」
「あ、でも柳洞君も結構凄い人だと思うよぉ〜」
  よく判ってない様子の三枝。
  教室内の男子(士郎と一成を除く)は、悉く打ちのめされた様子で机に突っ伏していた。
「ま、ここで、負けてなるかと、自分を高めて衛宮を超えようとする奴ならば見込みがあるんだけどな」
「しかし実際には、衛宮の足を引っ張ろうなどという愚か者ばかり」
「挙げ句の果てに、一人じゃ無理だってんで、数を集めてどうにかしようなんて卑怯者ばかりじゃ、相手にする気なんぞ起きるわけ無いよなー」
  教室内を、声にならぬ断末魔の叫びが響き渡る。
「なになに、なんの話?」
「ああなに、卑怯者は嫌だなと言う話だ」
「そっか、そうだね〜、卑怯な人とはお友達になりたくないよね〜」
  どうやら、教室内の男子(繰り返すが士郎と一成を除く)は皆、とどめを刺されたようだ。
「一体何の話だ?」
「士郎、あんたは気にしなくてもいいの」
「そうなのか?」
「衛宮は、遠坂と一緒に卑怯モノ共の卑怯な行いに気を付けていれば良いんだよ」
「なんだかよく判らないけど、判った。遠坂と一緒に気を付けていれば良いんだな?」
「そうだよ」
「どうやら、良からぬ話が進んでいたようだな」
「あんたも気にすることはない。あんたはとりあえず、もっと男を磨いてれば良いんだよ」
「フム、そう言うものなのか」
「そういうものだよ」
「しかし、我らもいつの間にか評価が厳しくなったものだな」
「それだけあの二人の変貌が激しかったんだけどね」
「って言うかさ〜、春休み明けて出てきたら二人ともまるで別人みたいだったじゃん」
  三人揃ってうんうんとうなずく。
「わかったぁ〜、きっと遠坂さんも衛宮君も魔法使い何だぁ〜、きっと休みの間に凄い魔法を使ったんだよ〜」
  思わずぎくっと反応する士郎と凛の二人だが、
「あー、そりゃ恋の魔法って言うくらいだからな」
「うむ、まさに魔法だな。言い得て妙だ」
「そうだな〜、うん、言われてみればその通りだ」
  今度は四人揃ってうなずいているのに、どうやら安心した模様。
「で、意見が一致したところで、午後の授業を初めて良いかな?」
  いつの間にか教室に入っていた教師の声に、皆、慌てて席に着くと、午後の授業が始まった。


「で、今朝はあんな事言って私に嘘を付いてごまかそうとしたようですけれど、実際にはなにがあったんですか?」
  ……忘れてた。
  今朝、桜にはああいってごまかしたけれど、学園でついうっかり実際には同居はしててもそう言うことはしてないと明言しちゃって、そしてそれが学園中に広まってしまえば、
  朝の話との矛盾に桜が尋ねに来ることぐらい考えておいてしかるべきだった。
「どうする?」
  士郎が目で尋ねてくる。
  とりあえずパス経由で念話を……あー、パス閉じたままだ。
  悪かったわよ、今は魔力取らないからパス開けなさい!
  こちらからのパスを開けてメッセージを飛ばす。
  よし、開けたわね。
  流れ込んでくる士郎の魔力に……「遠坂!」あ、もう念話覚えたんだ……って、ごめん。そう言う場合じゃなかったっけ。
「ごめん」
「で、どうする?」
「惚けるしかないわね」
「それしかないか?」
「だって、魔術のこと説明するわけに行かないじゃない」
「それはそうだけど」
「兎に角、私が何とかごまかすから、適当に話を合わせて」
「判った」
  慌ただしく念話をかわす。
「だんまりですか?」
  う、しびれを切らした桜が詰め寄ってくる。
「私には話せないようなことをしていたんですね」
  うー、確かに話すことは出来ないんだけど……
「ええっと、士郎に助けて貰ったことは事実なんだけど……」
「どんな?」
「ごめん、詳しくは言えない」
「何故です?」
「ええっと、その〜、いろいろと事情があって……」
「どんな事情です?」
「ごめん、それも言えない」
「でも先輩は知ってるんですよね?」
「うん、士郎は知ってても大丈夫だから」
「それは先輩だけという意味ですか?」
「そう、士郎だけ」
「藤村先生でも駄目なんですね?」
「論外」
  む、っと押し黙る桜。
「先輩、ホントですか?」
「ああ、間違いない、藤ねぇにも絶対に教えられない」
  はっきりと言い切る士郎。
  ……桜がうつむいて肩を振るわせている。ごめんね。桜。
  もし貴方が魔術師だったらなにもかも話せたんだけど、魔力のかけらも感じられない貴方には、このことを話すことは出来ないの。
  ホントにごめん。
「判りました。でもいいですか遠坂先輩。今朝の先輩は、そのせいでものすごく調子が悪かったんです。部屋で寝ていたのに、朝起きる時間も、いつもよりずっと遅くって……。そんな無茶なことを、先輩にやらせないで下さい」
「気を付けるけど、約束は出来ないわ」
「なんでです?」
「その方が後々士郎のためになるから」
「どういう事です?」
「それも言えないの」
「先輩、先輩はどうなんです?」
「うーん、正直きついけれど、ある意味、今までも何度もやってたことだし、何よりも遠坂が俺のためにやってくれるんだったら断るわけにはいかないな」
「でも、そんな無茶ばかりしてて、先輩、身体がおかしくなったりしたらどうするんです!」
「大丈夫。無茶はしても、無理はしないように気を付けるから」
「答えになってません!」
「桜が心配してくれてる気持ちはよく判った。だから、これ以上心配かけないように気を付けるから。な?」
  ちょ、ちょっと士郎、なに手を伸ばして、桜の髪をすいてやりながら言ってんのよ!  私が一度もして貰ってないことを!
  こら桜! あんたもうっとりと嬉しそうな顔をするな!
「判りました。先輩がそう言うのなら信じます」
「そっか、ありがとな桜。心配してくれて」
「いえ、そんな……当たり前のことですから」
「そっか、でもありがとう」
「ねぇ士郎、なに桜と二人して良い雰囲気作ってるの?」
「え!?」
「え!? っじゃないわよ! なによその右手! 一度も私にそう言うことしてくれたこと無い癖に!」
「あ、あわわ!」
「言いたいことがあるのなら今のうちに聞いておくけど?」
「い、いや、これは、桜があまりにも心細げだったんで、つい……」
「それでついそんなことしたって言うのね」
「遠坂先輩。そんなに焼き餅焼いてると先輩に嫌われますよ!」
「なんですってぇ」
「嫌わない嫌わない!  絶対に遠坂のこと嫌いになんてならない!  で、でも、落ち着いてくれると凄く嬉しい」
「良いわ、落ち着いてあげるからこっちにいらっしゃい!」
  士郎の腕を掴んで引っ張る。向かうのは私の部屋。
「わ、わかった、行く、行くからまず落ち着け。まず深呼吸をしてだな」
「四の五の言わずにとっとと来る!」
「うわぁー!  助けてくれぇー!」
  部屋に士郎を引っ張り込み、結界を施してからなにをしたのかは秘密。
  まぁ、変なことはしていないつもりだけど。
  それに、最後には昨晩と同じように士郎の魔力を全て貰ったら解放してあげたし。







  後書き


  すいません、本当はこの後、GWの後編の話を書くつもりだったのですが、むやみと話が肥大化したので、一端ここで区切り、その15と分けることにしました。
あーそれにしても、身から出ていない説教って、端で見たり聞いたりしてると痛いですよね〜(謎)


  ご意見・ご感想をmailまたはここのBBSにて頂けたら幸いです。
特に、私が気が付いてないであろう未熟なポイントの情け容赦のない指摘を頂けると少しでもSSがマシにできるはずなので、そのあたりよろしくお願いします。


MISSION QUEST


2004/12/27 初稿up


 
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