まどろみの中から意識が浮かび上がってくる。
朝……か。
そろそろ起きて、朝の準備をしなけれ……?
何だろう? 良い匂いがする。
頬にあたるこの滑らかななにか……。
腕の中にある、この抱き心地の良い……抱き枕……じゃないよな。そんなの家にはない。
でも、こんなに抱き心地がいいのなら……
そう思いつつ目を開け、その「何か」を確認しようとしたら、そこには……。
あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その10〜
そこには遠坂の寝顔があった。
「うわぁぁぁぁ〜! あ?」
慌てて手を離し、後ずさろうとしたけれど、まず腕が動かない。
すっかりしびれててぴくりとも動かない。
更に、遠坂の手が腰に回されていて、しっかりと俺を掴んでいる。
それに今のこの位置関係、遠坂の後ろに畳が見える……。
つまりは、俺が遠坂の上にのしかかってるってことになるから……、どう見ても俺が遠坂を押し倒した形に……。
俺、昨晩何やったんだっけ?
「と、とにかく、起きてから考えなくっちゃな。うん」
声に出して自分に言い聞かせ、とりあえず思考を落ち着かせる。
とりあえず、遠坂を抱えたまま上半身を反らせ、目に見える範囲で今の姿勢を確認。
掛け布団が邪魔でよく見えないけれど、皮膚感覚からすると、どうやら遠坂の下半身が俺の左側にあるようだ。
とりあえず、右に寝返りをうって、遠坂の体を俺の上に移す。
うわっ!
と、遠坂の顔が俺の首筋に!
うう、寝息が、首筋にかかってくすぐったい。
それに、遠坂の匂いが俺の鼻腔を刺激して……。
……。
まてまてまてまて!
意識をとばしてる場合じゃない!
相変わらずしびれの取れない腕を何とかしようと、無理矢理動かし、
「う……ん」
遠坂?
身じろぎしたのは、腕がゆるんだせいかな?
慌てて抱え直す。
落とすわけにはいかない。
こんなに細くて華奢で柔らかくって良い香りがして……ええい、兎に角大事 なんだから。
遠坂を落とさないように注意しながら、腕を無理矢理動かし、血流を戻してしびれを取る。
腕の感覚が戻ってきたら、遠坂を抱き腕に力を入れ直し、腹筋を使って上半身を起こす。
起きあがったら、右腕を遠坂のお尻のあたりにうごかして……。
柔らかいな……。
はっ! 違う、そうじゃない!
まず、遠坂の姿勢を整えるんだ。
そう、俺の足の上に座らせて……。
うつむき加減の穏やかな寝顔。可愛いな……。
まつげに当たる日の光がきらきらと輝いて……。
……。
いやだから、そうじゃなくって……。
「ん……しろう?」
目、覚ましたのか? 眩しかったか。
と、思うまもなく遠坂は柔らかく微笑むと。
「おはよ、しろう」
俺にキスをした。
………
……
…
……あ、また意識がとんでた。
くそ、遠坂が悪いんだぞ、あんな綺麗な微笑み浮かべて、可愛いそぶりでキスなんてするから、された俺がまともでいられるわけがない。
おまけに、艶やかなまつげに縁取られた、つり上がり気味の眼の奥の、普段はネコのようにくるくる変わる瞳でホワンと俺を覗き込んで、その上でなんて……。
反則だ! レッドカードだ! ペナルティとしてもう一度!
……違うだろ。俺。
肩にかかる重みに我に返ると、俺の肩に頭をもたせかけて、また寝入った遠坂の顔を見下ろしつつ、自分につっこみを入れる。
改めて、遠坂を見て、服装をチェック。
シャツは……多少皺がよってるのは着たまま寝たんだからしょうがない。
スカートもはいてる。多分その下も。
念のため、俺自身もチェック。
シャツは着てる、ズボンも履いてる。
つまりお互い昨日の夜のまんまで……。
「それにここ、居間か」
周りを見渡して気付く。
漸く昨日の記憶が戻ってきた。
「……要するに、口移しで酒を飲まされて、強化も解けたせいで酔いつぶれたのか」
我ながらこの酒の弱さは何とかしたい。と、いうか何とかしないとやばい。
ただまぁ、遠坂を襲ったわけではなかったようなので一安心。
右腕を、今度は遠坂の膝の下に差し込むと、遠坂を抱きかかえて立ち上がった。
遠坂を部屋のベッドに寝かせた後、掛け布団を俺の部屋に戻し……、誰が掛けてくれたんだろう? なんだか時限爆弾が作動してるような気がする。
深く考えるととんでもないことになりそうなので、意識を切り替えると、いつものように……いや、いつもよりきつめに朝の鍛錬をし、シャワーを浴びてから朝食の準備に取りかかる。
今日は始業式とLHR程度しかないので弁当は用意しなくて良い。
冷蔵庫に片づけてあった昨日の残り物にご飯とみそ汁だけで済みそうだ。
……逆に言えば、ご飯が炊けるまで手が空くわけでどうにも落ち着かない。
気が付いたら、ほうれん草を湯がき、更にだし巻き卵を作っていた。
それでもまだ時間が余り、どうしようかと頭をひねっているうちに、いつものように桜が来、そして藤ねぇが起きてくる。
遠坂は……まだ寝てるのかな?
「え? 遠坂さん? シャワー使ってるみたいだったよぉ」
「どのぐらいかかりそうだった?」
「さっき顔洗ってる時、もう出る様なこと言ってたから、そろそろじゃない?」
「そっか」
藤ねぇと話している間にホントにやってきたので、いつも通り牛乳をグラスに注いで渡す。
「おはよう、遠坂」
「おはよう、士郎」
と、言った後、声を落として、
「ベットに運んでくれてありがと、でも、もっとお酒に強くなりなさい」
と、言う。
「あ、ああ、昨日はごめん」
こちらも声を落として答え、遠坂がグラスに口を付けようとした時。
「結局、あのまま一緒に寝てたんですか?」
時限爆弾が炸裂した。
思わず固まる俺と遠坂。
そして、
「ちょっと士郎! どういう事!」
がぉー! と吠える虎が突進してきて、俺の首筋を掴んで締め上げた。
「凄かったですよぉー、先輩、酒の勢いで遠坂先輩押し倒したんですから」
「なんですってぇー! 士郎、そんなことする子だったのね! おねぇちゃん見損なったよ〜!」
「遠坂先輩も『どうせならこんなところじゃなくって』なんて嬉しそうに言ってましたっけ」
グラスが落ちて割れる音がした。
「あ、あなたたち……」
油の切れた歯車のように首を回し遠坂の方を向く藤ねぇ。
「いくらお酒に酔っていたとは言っても、そう言うのは二人だけの時にしてくださいね」
さ、桜、今朝のお前、一体、どうしたって言うんだ?
目の端に映る遠坂は真っ赤になって慌てている。
「なーんて、嘘です。あのとき、先輩一気飲みさせられて寝ちゃってましたから」
「桜ちゃん?」
「あ、でも先輩が遠坂先輩を押し倒したのは事実ですよ、だって、遠坂先輩、先輩に一気飲みさせた時正面にいましたから」
「つまり、士郎がひっくり返った時に遠坂さんが下敷きになったって事?」
「はい、そうです」
「ふーん、じゃぁ良い……くない!」
「ぐぁ」
俺を勢いよく放り出すと、藤ねぇは遠坂に向き直る。
なにかにぶつかった後頭部が痛い。
「遠坂さん、そのとき何って言ったんですって?」
「あ、あの……私も、お酒に酔っていたので……」
「覚えていないと?」
「……はい」
藤ねぇはジト目で遠坂を睨む、
「本当に?」
「……はい」
「遠坂さん、いつもの歯切れの良いあなたと違うようなんだけれど?」
「そ、その、覚えていないものですから……あの……」
藤ねぇは一つ溜息をつくと、
「ま、宴会は兎も角、お酒を呑むのを許可したのは私だしね。おまけに、二人とも酔っていたんだし。監督責任のある私が、先に寝ちゃったし。……でも、二人ともこれからは気をつけなさい」
と、自分に言い聞かせるように言って、許してくれた。
「はい、すいません」
「すまん、藤ねぇ」
「ま、士郎の場合は、飲み方を覚えてもっとお酒に強くなるのが先決だけどね」
言いながら、居間に戻る藤ねぇ。
どうやらこの場を切り抜けられたのにほっとして、遠坂の側に寄る。
「じゃ、早くご飯にしよ! おねぇちゃんおなか空いたよぉー!」
……忘れかけてた後頭部の痛みが戻ってきた。
士郎と二人、並んで登校する。
考えてみれば、こうして一緒に学園に行くのは初めて。
ホントは腕を組んで歩きたいのだけれど、そこは我慢して、一緒に歩くだけにとどめる。
もっとも、今うっかり気を抜くと、今朝の騒ぎとか昨晩眠ってしまう直前(強化を掛けておけば良かったな……)のこととかを思い出して、あらぬ事を考えてしまいそう。
そんなことになるとおかしなことが起きそうな気がするので、無理矢理意識から追い出して……、気が付くと視線は隣を歩く士郎の顔に向かっていた。
どうしたんだろう?
士郎が妙に落ち着かない。
きょろきょろと周りを見たかと思うと、そっとこちらの顔を伺ったりする。
ヘンね?
「どうしたの? 士郎」
「あ、い、いや、なんでもない」
「何でも無いじゃないでしょ、さっきからきょろきょろして。一体何を気にしてるの?」
「あー、いや、そのー、遠坂は気にならないのか?」
「何が?」
「いやだから、……周りの視線」
「視線?」
なに言ってるのかしら? 周りから見られるなんていつものことなのに。
「いつものことじゃない。どこかヘン?」
なによ、口の中でブツブツと、あーそうだったとか、こいつはこういう奴だったとか。
「ごちゃごちゃ言ってないでいくわよ」
仕方がないので手を引いて歩き出す。
「あー、と、遠坂?」
「ほら、早く!」
ごちゃごちゃ言っているのを無視して士郎を引っ張り、校門をくぐると、まっすぐ校舎の脇の掲示板を目指す。
士郎と一緒に3-Aだと言うのが判っていても、他の知り合いがどこのクラスになるのかは知っておきたい。
もっとも、綾子と柳洞君と慎二は同じクラスだと既に判って居るんだけど。
と、
「わぁー、鐘ちゃんや蒔ちゃんと一緒の3-Aだぁー」
ほにゃんとした声が聞こえてきた。
「おーどれどれ? ほんとだ一緒だ。他には……ゲッ! 遠坂も一緒じゃねぇか」
そんな会話が耳に飛び込んでくる。
「ふむ、おまえはよっぽど遠坂と縁があるようだな」
蒔寺さん越しに私の姿を認めた氷室さんが何事もなかったようにコメントする。
「おはようございます。皆さん。ところで蒔寺さん、そんなに私と同じクラスになるのがおいやでしたか?」
無視するのも悪いので、にこやかに挨拶をした。
「げっ、出た!」「やぁ、おはよう」「あ〜、遠坂さんだぁ〜、おはようございます〜」
「出た……とはご挨拶ですね。時には一緒に遊びに行くこともあるあなたに、そのように言われるというのは、正直言って心外ですわ」
「衛宮、久しぶりだな」
「そうだよぉ〜、蒔ちゃん、折角遠坂さんとまた一緒のクラスになれたのに〜」
「あ、一成、久しぶり。おはよう」
「あー! 衛宮君だ。おはようございます」
「やぁ、三枝さん。おはよう」
蒔寺さんに、更に一言言おうとしたところで、氷室さんが口を開き、尋ねてきた。
「時に遠坂嬢、来た時からずっと手を繋いでいるその相手は、自称正義の味方こと、我が校一の何でも屋、衛宮士郎殿とお見受けするが?」
あ……、手、繋いだままだったっけ。
「む、衛宮、貴様俺があれほど遠坂とは縁を切れといったのに、まだ切れておらんかったのか! ええい遠坂! 貴様、衛宮を利用して何を企んでおる! とっととその手を離さんか!」
タイミングを合わせたかのようにやってくる柳洞君。
ええっと、これだと二人の中を徐々に公にするどころじゃないような……。
「衛宮と同じクラスなのはよいが、何故おぬしまで同じクラスにならねばならぬのだ。納得いかん!」
「あら、でしたら柳洞君だけ別のクラスに変えて頂いては如何でしょうか? 士郎はもちろん私と同じクラスになりますけど」
「そうはいかん! 衛宮のような人の良いやつをお前と一緒にしておいてはどんなことに利用されるかわかったものではない! とっとと衛宮から離れんか!」
ムッと来た。相手が誰であろうと、私から士郎を引き離そうとするなら容赦しない。
「生憎ですけれど、私は士郎を離す気ありませんし、士郎も私からは離れません」
まずはジャブで様子を見る。
「と、遠坂?」
「仕方ないでしょ、こうなったらはっきりさせましょ」
「ん……判った、遠坂がそうしたいならそうしよう」
小声で士郎と話を交わす。士郎は私の手を握る手に、一度軽く力を入れてくれた。
その間に、周りが妙にざわめきだしてきた。なんで?
「な……、衛宮、悪いことはいわん、さっさとこの女狐から離れろ! こやつと一緒におっては、骨の髄まで利用され尽くすぞ!」
「一成、悪いけどそれだけは聞けない。遠坂はお前が言うような奴じゃない。こんな良い奴他にいない。だから俺はこいつとは離れない」
「……な、なんと。よもや衛宮が、ここまで誑かされるとは」
「会長、やめときな。そんな馬に蹴られるような真似やるだけ無駄だって」
「綾子!」
「……ったく、あのときは人に内密になんて言っておきながら、新学期早々、手を繋いで来たのかい。ひょっとして、既に衛宮の名字は遠坂に変わってんのかい?」
言いながらわざとらしくクラス割り表を見る。
「な、そ、それはどういうことだ!? おい衛宮、一体何があったのだ?」
「何だ、まだ変わってないのか。一体いつ変えるんだい?」
「いや、どうもこうも……」
「え、ええと、早くても夏以降……ってなに言わせるのよ!」
「さぁ話せ! 今話せ! 包み隠さず全て話せ! お前を誑かす魔性の呪いを断ち切ってやる!」
「ほぉー、なるほど。って事はここに在学中の結婚も有りってことか?」
「誑かすって……お前、それに」
「あ、ううん、留学して落ち着いてからにしたいから……多分三年ぐらいは後」
「えーい、こうなってはほってはおけん! 衛宮! お前今日から暫くうちに来い! お堂に篭もって修行をすれば煩悩なんぞすぐに吹き飛ぶ! お前に掛けられらたこの女狐めの呪いもたちどころに解消されよう!」
「留学って、アンタ確かロンドン大学だかの美術科いくんだろ? 衛宮置いてっていいのか?」
「お、おま……呪いって何だよ!」
「ううん、士郎も一緒」
「呪いは呪いだ! こやつ、お前に呪いを掛けて操ろうとしてるに違いないわ!」
「こいつが? アンタと一緒の美術科?」
「遠坂がそんなことするわけ無いだろ!」
「ううん、士郎は工業デザイン科」
「いや、お前は絶対にだまされている。間違いない!」
「……確かに何でも直して回るこいつには良いかもね」
「だまされてなんかいない! 遠坂はそんなことをする奴じゃない!」
このとき、予鈴がなった。
「お、もう始業式始まるな」
「……時間か、この件についてはまた後で話を聞く。良いな」
「そうね、急ぎましょ」
「もちろんだ」
普段よりも遙かに騒がしい中、士郎と手を繋いだまま講堂に向かった。
「……遠坂さんと衛宮君が……衛宮君と遠坂さんが」
「おーい、由紀っち〜」
「ダメだ、すっかり惚けておる。仕方がない蒔の字、由紀香はこのまま連れてくぞ」
「お、おう」
始業式の後、いつも以上にざわつく中、俺達は教室に入った。
とりあえず席は学籍番号順だ。
教室に入っても、いつも以上に騒がしい。
理由はわかってる。
今は俺の隣に立って、俺の代わりに一成とやり合ってる遠坂と……俺だ。
遠坂が俺の代わりに一成の相手をしてくれているので、俺も少しは頭を冷やすことができ、何とか一成に理解して貰う方法がないか考えようとして、そこで思考を妨げる、周りの騒々しさに気がついたのだ。
朝、いきなり、俺と付き合ってることをこいつがあっさりと喋ったため、クラスどころか学年を問わずにこの話で持ちきりらしい。
ついでに、登校中から俺に刺さっていた視線の大部分が、今では殺気を含んだものになっている。
かと思えば、
「……遠坂さんと衛宮君が……衛宮君と遠坂さんが……遠坂さんと衛宮君が」
三枝さん、一体どうしたんだろ?
ちなみに、三枝さんて言うのは、ちょっと小柄で、普段ほにゃりとして居て誰でもつい声を掛けたくなる、ちょっと天然の入った子だ。
今まで違うクラスだったからあまり話したことはないけれど、よく、なにかを必死にこなそうとしては、なんでもないところでドジを踏むんで、見ていられずに手を貸したことが何度かある。
遠坂が学園のアイドルNo.1なのに対し、ほっとけない女の子No.1というところか。
その三枝さんが、朝からずっと壊れっぱなしで、彼女の友達らしい二人が何を言っても全然聞こえていないらしい。
なんだか呟いている内容からすると、やっぱり俺と遠坂が付き合ってることを知ってショックを受けているようなんだけど?
そう言えば、遠坂がよく彼女にお昼に誘われてたって言ってたっけ。
きっと遠坂のこと好きだったんだろうな。
ちょっと申し訳ない気がしたけど、でも遠坂だけは譲れないしな。
「で、衛宮、あんたら休みの間にどこまで進んだんだ?」
……と、まぁそんな感じで何とか頭を冷やしているところに美綴が話しかけてきた。
「進むって何がだよ?」
「だから、あんたらの関係だよ。あんときの雰囲気じゃぁ、すぐにでも結婚して、とことん行くとこまで行ってやるって感じだったけど?」
む、何か周囲からの視線の圧力が更に増したぞ。
「ん、とりあえず、互いの親……まぁ親代わりの後見人だけど、を紹介しあった」
「それってあれか? 『結婚を前提としたおつきあい』を、互いの親に認めて貰ったってことかい?」
「まぁ、そう言うことだ」
何か、こう、面と向かって言われるとやっぱり恥ずかしいものがあるな。
何となく頬をかく。
「そっかそっか、まずは順当に婚約からか」
「あー、婚約はまだだぞ、指輪買えるほどの金ないし」
「もう婚約したようなもんだろうが、そりゃけじめとしての指輪はやっぱ遠坂でも欲しいだろうけど」
「遠坂でもってのは何だよ。それに、やっぱりこういうのはけじめが必要だろ」
「あー、はいはい、あんたはそう言う奴だったっけね。言った私が悪かった」
「……で、いったい何の用だ」
「決まってるだろ、あたしと射の勝負をしろ……と、言いたい所なんだが実は違う」
「?」
「あんたも知っての通り、慎二の奴が入院してて人に教えられる奴の手が足りない。更に言うと、新入部員獲得のために、腕の良い部員が一人掛けてるのはかなりの痛手だ。そこであんたに弓道部に戻って欲しい」
「いや、俺はもう弓道は……」
「頼む、弓道部を助けると思って、手伝ってくれ!」
「そんなに困ってるのか?」
「当たり前だ、あんな奴でも一応は副部長、それが抜けただけでも部の運営には差し障りがあるってのに、今後入って来るであろう新入部員に教えられる奴で、尚かつ、次の競技会で上位をねらえる奴が一人欠けて居るんだ。このままほっておくと今年度以降の部の運営が厳しくなる」
「む……」
なるほど、弓道部は予算的にも設備的にも学園内のどの部活よりも優遇されている。
幸い、今まではそれなりの成績を出していたから、特に目くじら立てる奴は居なかったけれど、ここでいきなり去年までより、目立って成績が落ちるようなことがあれば、必ず難癖つけてくる奴は出るだろう。
「うーん、バイトや一成の手伝いもあるけど……遠坂、良いか」
なおも一成とやり合ってる遠坂に声を掛けると、
「仕方ないでしょ、士郎に人助けをするななんて言うのは無理だし。柳洞君も士郎のスケジュール管理、そのつもりでやってね」
振り向いて了承したかと思うと、その後一成に顔を向けて言う。
「ああ、そりゃそうだけど……?」「何だ、気付いておったのか。うむ、任せろ」
「どういうことだ?」
「お人好しの何でも屋、衛宮士郎にあれこれものを頼みたいのは学校中にいるのよ、でも、それを全部聞いていたら士郎の体がいくつあっても足りないでしょ? だから柳洞君が話をつけて、どうしても士郎でなければ対処できないものだけ選んで緊急度の高い順から処理してたのよ」
「うむ、中には部室の掃除だのゴミ出しだのといった、自分でやらねばならぬ責任を負っているものまでお前に頼もうなどという不届きものがいてな、自分のやったことの責任を、自分で取れないようなままほっておいては、本人のためにならぬ故、一喝して本人達自身にやらせたりと言ったこともしていた。例えその結果本人達がどのように困った目にあっても、今の内に責任の取り方を覚えておかねば、後々より大きな災いが本人に及ぶゆえな」
「で、前々から私と柳洞君がいつもやり合ってることを知ってる連中の中には、うまく私をそそのかして柳洞君とやり合わせ、その隙に士郎を利用してやろうって輩がいたのよ。ま、端から見てても柳洞君に任せておいた方がみんなのためになるようだったからそのときはそいつらをちょっと痛い目に遭わせて、そんなこと二度と考えないようにしてやったけどね」
「ほう、それは初耳だな、一体いつ頃の話だ?」
「去年の……暮れの頃ね」
「……なるほど、確かにあのころ、妙に衛宮のことで突っかかってくるのがいたのがある日急におとなしくなったな。そうか、あれはそう言うことであったか」
「ま、あのころだったからその程度で済ませてあげたけれど、もし今、あたしの士郎に変なちょっかいを出そうとする輩が居たら、きっと生まれてきたことを後悔するような目に遭わせてあげるわ!」
「お、おい遠坂、それってしゃれにならないからやめとけ」
「大丈夫よ士郎、要するにあなたに変なちょっかいを出さなければ良いってことだもの」
「それはそうだけど……」
「だから綾子も士郎が人に親切にしすぎないよう目を光らせててね」
「は、どうせあんたは衛宮が部に出る時は見学に来るんだろ? それくらい自分でやんな」
「うっ」
「あたしゃ人の旦那の世話を焼く気はないよ」
と、手をひらひらさせながら言う。
ま、おれはそれよりも不意打ち受けて赤くなってる遠坂を可愛いと思いながら見とれることしかできないわけだが。
あ、そろそろ来るな。
「な、なに言ってんのよ綾子! あ、あたしと士郎はまだ結婚してないのに旦那だ……」
「まだってことはいずれってことだろ? いつだい?」
「え、あ、いや、とりあえず、さっき言ったとおり倫敦に留学して……その間にできちゃったらあれだけど……そうでなければ戻ってきてから……」
「できちゃったらってあんた……」
を、珍しい、美綴が赤くなってる。
え? 俺?
俺は……、
「衛宮殿、少々お伺いしたき議がござる」
「衛宮、ちょっと良いか?」
「衛宮、ちょいと顔貸してくんね?」
「なぁ衛宮、体育館裏で話があるんだが」
ちょっとやばい状況になってたりして。
「じゃ、あんたは見学者だからそこに座っててくれ」
「ん、判ったわ」
LHRの後、まっすぐ帰る予定だったのが弓道部に出ることになったため、
士郎と二人、購買のパンでお昼を済ませた私たちは、弓道場に顔を出すと、待ちかまえていた綾子にさっさと中に引っ張り込まれた。
ええ、もちろん私は見学よ。あのバカを一人にしてほっとけるものですか。
ちなみに、柳洞君との一件は、生徒会室で士郎がキッパリと言い切ってくれたことであっさりと片づいた。
「一成、お前が他の奴らより遠坂のことを知っているのは判った。でもな、俺はお前以上に遠坂のことを、こいつの良いところも大変なところも全部ひっくるめて知っている。知った上で俺は遠坂と一緒にいることを決めたんだ。だからお前がなんと言おうと遠坂とは別れない。どうしてもというのなら、お前とはもうこれっきりだ」
こう言って柳洞君を正面から見据えた士郎は、胸が苦しくなるほどかっこよかった。あんなときでなかったら、その背中に抱きつきたくなるくらいに。
そして、その一言で柳洞君も判ってくれて、
「そうか、正直、まだお主らの中を祝福する気にはなれん。しかし、お主らが生半可な気持ちでくっついたわけではないことだけは認めよう。その上で、改めてそやつに言っておく。遠坂、間違っても衛宮を不幸にするでないぞ。もし、万が一にもそのようなことがあれば、こやつがなんと言おうと、おぬしを成敗してくれる」
なんて、最後まで意地を張りながらも、私たちの中を認めてくれた。
もちろん私も言い返してやったわ。
「当たり前でしょ、私の夢は士郎を世界一幸せにすることなんだから。柳洞君こそ邪魔をしたりしたらただじゃ置かないから覚悟しときなさい!」
って。
覚悟するどころか、
「そうか、では、こやつを幸せにするのに役に立てることがあったら、いつでも声を掛けてくれ。俺で良ければいつでも飛んでいって手伝わせて貰う」
なんて言うんだもの。ホント、男の子の友情ってよく判らないわ。
そんなこんなを思い返しつつ、弓道場の片隅に座る。
「せ、先輩! 戻ってきてくれたんですね!」
あ、更衣室から出てきた桜が士郎の前に駆け寄ると、嬉しそうに飛び跳ねてる。
「ん、ああ、これから暫くよろしくな。桜」
「はい! よろしくされちゃいます!」
「桜、用意は良いかい?」
「はい、もちろんです! 主将」
綾子は一つうなずくと、士郎の脇に立ち、よく通る声を張り上げた。
「よし、みんなちゅうもぉーく!」
部員の視線が綾子に集まる。
「みんなが知っての通り、間桐は今入院中、退院は早くて六月で、後遺症もあるため、事実上の弓道部復帰は無理だ。」
女子の間にざわめきが拡がる。
「そこで、生ける弓道部の伝説、衛宮士郎に復帰して貰い、八月の引退試合まで副部長をやって貰うことになった!」
「お、おい、美綴」
「衛宮の腕は三年ならば知っての通り、正直言って部長をやって貰うべきなのだが、今までのギャップもあるため、あえて副部長で我慢して貰うこととした。皆、衛宮の指導にはよく従うように!」
士郎の抗議を無視して話を進める綾子。
「なお、衛宮の人の良さにつけ込んで雑務を押しつけようなどという不届きものが居たら、後で相応の目にあって貰うからそのつもりで居るように!」
「ちょ、ちょっとまてよ」
「まずは復帰記念に衛宮の射を見せて貰う。皆、心してみるように!」
その言葉と共に、桜が弓を士郎に示す。
「先輩、先輩の弓、用意しておきました」
「え? あ、ホントだ、いつのまに」
「実は、昨日主将に言われて、病院に行く前にこっそり持ってきてたんです。ごめんなさい」
……流石ね綾子。それなりにシナリオは組んでいたみたい。
「弓は昔先輩に教わった通りに張りました。張ってから……ええと」
ちらと時計を見て
「35分経っています。後、弓道着も持ってきてロッカーに入れてあります」
「うわ、そっちもか。気が付かなかった」
「ホントなら着替えてきてからってなるんだが、時間が惜しい。先に一度弓を引いて見せてくれ」
「なにもそんな、みんなで見るようなものじゃないだろ」
「良いから良いから」「いえ、みたいです、早く見せてください」
二人に……いや、それだけじゃなく三年の部員達からも期待の篭もった視線で促され、仕方なく弓を受け取ると、……弓をしげしてと見ている?
「弦通りも良いな、桜、だいぶ腕あがったろ?」
「い、いえ、まだまだです」
「そんなこと無いよ」
「いえ、先輩がちゃんと弓を育ててきたからです」
と、話をしながら、弓と一緒に渡された日本手ぬぐいで弓を強くぬぐって(?)いる。
暫くぬぐった後、弓を桜に預けると、桜から渡された手袋のようなもの(後で聞いたのだけれども、カケと言うらしい)を右手にはめ、弓を受け取り、暫く弓の調子を見て? それから神棚に向かって一礼し、射場に立った。
正直、私には弓のことは判らない。知っているのは、桜が弓を引いている姿と、魔術の訓練の際に士郎から聞いた射方八節についてだけ。
でも、この二月以降弓道部に見学に来ることもなかったから、具体的にどこがどうとはよく判らない。
……なのに、士郎が弓を射る(……いや、弓道では引くといって、射るとは言わないそうだけど)様子を見ているだけで、何となく判ったような気になってしまった。
だって、素人目に見ても判るほどキレイなのだもの。あいつの射。
あいつ、世が世なら、魔術なんて無くても、弓の腕だけで英雄として称えられるようになる。
そして、その名声だけで、アーチャーとして召還されてもおかしくない。
あいつはそう言う奴なんだ。
例えようもないほど美しく、外れることなどあり得ない射に見とれているうちに、全ての矢を打ち終えたのか、士郎は的に向かって頭をさげ、次に神棚に向かって
一礼した後、弓を弓立てにおくと、黙って脇から的の方に向かい……的を下ろし……、一旦下がって矢を回収し……的をかけ直すと、戻ってきて……回収した矢を丁寧に仕舞い、
「じゃ、着替えてくる」
と、言って更衣室へ入っていった。
その、ドアの閉まる音、それを合図のように、深く深く息を吐く。
まるで、息をすることすら忘れてたみたい。
みんなも、同じように息を吐いている。
二年の女の子の中には、涙を浮かべている子までいる。
「相変わらず、とんでもない射だな。あいつのは」
その、綾子の一言をきっかけに、皆が一斉にしゃべり出した。
「どうだい、旦那の射を見た感想は。惚れ直したかい?」
「……そうね、士郎のこと、好きになって良かった」
「……ずいぶん素直なんだな」
「こんな事で意地張るわけ無いでしょ」
「どうだかな、前のあんただったら、憎まれ口の一つぐらい叩いてたかもな」
「そんなこと」
「いやいや、あんたのことだ。そのぐらいの意地は張ってたさ」
……しょうがないじゃない、だって、あいつが私と同じ魔術師--まぁ実際には魔術使いだけど--で、自分のことを隠す必要のない相手だって知らなかったんだから。
好きになって、付き合っている相手がいて、それなのにその相手に隠し事があるなんてそんなの嫌じゃない。
……だからずっと、そう言うことを考えないようにしていたんだから。
どんなに気になっても、そう言う相手じゃないと思うようにしてたんだから。
はぁ
「ん? どうしたんだ? いきなり溜息なんかついて」
「う、ううん、別に……」
ただ、あいつがもっと早く魔術師であるって判っていたら、もっと前から素直になれて、もっと前から一緒にいられたかなぁって……。
そう、例えばあの夕日に照らされた日に、あいつが本の些細なことで良い、ちょっとしたことででも魔力を漏らしてくれてたら……。
ふん、良いわ、二年や三年や四年の遅れぐらい、これからいくらでも取り返してやる。
私が心の中で気合いを入れ直してると、弓道着に着替えた士郎が出てきた。
「し……」
「せんぱーい! 凄かった出すぅー!」「私、すっかり見とれちゃいましたぁー」
「もう一度見せてください!」「私に、射を教えてください!」
「ずるぅーい、私が先!」「私が先よ!」
「お願いします、手取り足取り教えてください」「だから私が先だって!」
と、二年の女子が一斉に士郎の周りに集まる。
こ、こいつら、あたしの士郎に手を出そうとは、良い度胸じゃない。
ここは一つ……。
「そこまで!」
へ?
「さぁ、練習を始めるぞ! まずは柔軟から! 衛宮、頼めるか?」
「いや、俺のはだいぶ自己流付いてるから」
「そっか、じゃ、桜!」
「はい!」
綾子の一言で、がらっと雰囲気の変わった弓道場は、準備運動のかけ声に満たされた。
士郎の存在は弓道部員にとっては良い刺激になったみたい。
二年の女の子がちゃらちゃらと声を掛けようとしても、士郎はまじめに練習しているから、浮ついた気持ちでは声を掛けることができず、弓を引いている時は、誰もが見とれているから、不真面目な奴なんかいるわけがない。
おまけに綾子が、
「あーそうそう、今日見学に来ている遠坂と衛宮の間の噂はもう流れてるだろ? 朝登校する時も、ここに来る時も一緒だったんだからもう判りきってることなんだが……。ま、そう言うわけだから、変な下心を抱いたりした奴らは、自分に勝ち目があるのか否か、よぉーく考えた方が良いぞ」
なんて言ったら、士郎にやたらと声を掛けようとしていた連中だけじゃなく、やたらと私に声を掛けようとしていた、鬱陶しい連中まで一緒に静かになってくれたっけ。
その後で一番騒がしかったのは、藤村先生が「えーん、すっかり遅くなっちゃったよぉー、士郎! 早く射をみせてぇー!」って入ってきた時。
桜と綾子だけじゃなく、藤村先生も一緒になって画策していたみたいね。
……良いけど、凄く良くないけど、士郎の射、キレイだったし。
ちょっと複雑な気分のまま見学し続け、やがて練習が終わり、着替えて出てきた士郎と一緒にうちに帰る。
ホントは途中で夕食の買い物をするつもりだったのだけれども、汗をすった弓道着とか手入れが必要な弓とかを士郎が持っているから、一旦家に置いてから行くことにした。
「先輩、私も弓を先輩の家に置かせて貰って良いですか?」
「そりゃ構わないけど、なんでだ?」
「えへへ、先輩の手入れの仕方、盗ませて貰います」
「そっか、そう言えば竹弓使ってるのって、桜と美綴だけで、後はみんなグラスファイバーやカーボンの弓使ってたな」
「ええ、私、握力が弱いのか新素材の弓を引くと、いつも弓を落としてばかりで……」
「そうなのか? 俺は竹弓しか引いたこと無いからよく判らないけど……」
「兄さんは『ちゃんと握らないからだ』って言ってましたけれど……」
「士郎、士郎ってやっぱり弓が好きなんじゃない?」
帰り道、桜と弓談義をしていたら突然遠坂が聞いてきた。
「ん? そうかな……うん、そうだな、弓を引くのは好きだ」
「じゃ、なんで今まで引くの嫌がってたの?」
「嫌がってたって言うか……俺の弓って中てるための弓だからさ」
「どういうこと?」
「だから、弓道……道を究める弓ではなくって、中てるだけの弓なんだ。だから、そんな奴が、弓道を真面目に極めようとする人たちの間で弓を引くのは良くないだろ? だから、ずっと避けてたんだ」
「でも、先輩みたいに巧い人がいれば、みんなの良い刺激に……」
「俺さ、もっと遠い的、遠的よりも遠い、それも動いている的とかに中てたいんだ」
「先輩?」
「止まってる的じゃなくってさ。でも、そう言うのって、邪道だろ? そんな奴が、弓道場で弓を引いていて良いとは思えない。他に、もっと短い時間に数多くの矢を射てみたりさ。こういうのって、どう考えても弓道から外れてるだろ?」
「先輩……」
「銃……は考えたことあるの?」
「え?」
「私たちの年だと、射撃競技用のエアライフルぐらいしか撃てないけれど、免許を取れる年になったら専用の射撃場でそう言った的も撃てるようになるでしょ」
「銃……かぁ」
「あ、先に言っとくけど、英国でも個人で銃を持つには相応の手続きがいるわよ」
時計塔では別だけど……と、俺にだけ聞こえるように囁く。
「そっか、そのうち、機会があったら考えてみよう」
切嗣(おやじ)の銃もあるしな……と、俺も遠坂にだけ聞こえるように囁き返す。
気が付くと、桜が暗い表情で俺達を見ていた。
「いっとくけど、引退まではきちんと弓道部に出るからな。これはもう約束したし」
「当たり前でしょ、もしあんたが途中で放り出すようなら、けっ飛ばしてでも弓道部に叩き戻してやるから。そんときは桜、こいつが逃げないように手伝ってね」
「はい、判りました。きっちり縛り付けて、弓道部から出られないようにしちゃいます」
うわ、明るく言い切られたよ。
「おい、そこまでするか」
「そうならないようにきちんと部活に顔を出しなさい。副部長さん」
こっちもにこやかに笑ってるよ、逃げ道完全にふさがれたな。
「いっとくけど、明日はバイトがあるから出られないぞ」
「はいはい、みんなの生活を守るために、お仕事頑張ってね。あ・な・た」
良いながら、俺の腕に腕を絡めてくる遠坂。
往来のど真ん中で……それは反則。
「……ずるい」
ほら、桜もこういって……桜?
「遠坂先輩ばっかりそんなことやって……」
え?
この、右腕に押しつけられたやわらかいものは?
「私たち家族のために、頑張ってくださいね。お・に・い・さ・ま」
「ま、まてぇー!」
慌てて桜を引きはがしながら後ずさる。
「それ違う、何か違う、兎に角絶対違う! だからそんなことするな!」
「……先輩、私のこと、妹だって言ってくれたの……嘘なんですか?」
「いやだから、そう言う問題じゃないだろ」
「そうよ、大体、士郎はわたしのなんだから、いくら桜でもそう言うのはダメ」
それもちょっとずれてる気がするけれど、とりあえずこの場は桜の説得に使えるか
「大体な、小さい子供同士だったら、今の桜みたいなのもありかもしれないけれど、俺達の年でそれはまずいだろ。って言うか、絶対まずい。だからダメ」
「……判りました。先輩が困るようなので……我慢します」
い、いや、我慢するとかのレベルの問題じゃない気がするんだけど……、思いながら遠坂と目を合わせるが、こいつも対処に困ってるようだ。
「と、兎に角、止めてくれ」
「はい、そうします」
「じゃ、じゃぁ、早く帰ろう」
「そ、そうね」
「はい」
……なかなか波乱に富んだ一年間になりそうだな。
後書き
と、言うことで、ドタバタラブコメ風、魔術の出番(多分)無しな学園生活最後の一年が始まりました。
困ってる人を見たら助けずにはいられない士郎君は、そこをつかれて弓道部に引き戻されました。
当然の事ながら、これで自由になる時間が減るわけだから、その結果あちこちに影響が……。
おまけに士郎君の射を二年の女子だけではなく、これから弓道部見学に来る新一年生も見るわけだから、凛にとっては頭の痛いことが増えるわけで……。
……あ、倫敦編に戻るまでの話数がまた増えそうだ(自爆)。
今回、htmlであることを生かして、見た目の細工をしてみましたけれど、如何でしたでしょう?
同時並行で異なる会話が流れている様子を描きたかったのですが……。
小説……としてみるならば、情景描写をごまかしたことになるので、下策かもしれませんが……。
また、「あくま、士郎とともに海水浴に行くのこと」二日目 その2以来ですが、今回士郎に弓を引かせてみました。
しかし、あのときも書いたとおり、私は弓についてはなにも知らない素人ですので、間違ったことを書いている可能性が多分にあります。
どなたか、弓をたしなんでいる方がいらしたら、この点につきご指導頂けると、ありがたく思います。
ご意見・ご感想をmailまたはここのBBSにて頂けたら幸いです。
特に、私が気が付いてないであろう未熟なポイントの情け容赦のない指摘を頂けると少しでもSSがマシにできるはずなので、そのあたりよろしくお願いします。
MISSION QUEST
2004/10/25 初稿up
2005/10/11 一部修正の上再up
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