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あかいあくまと正義の味方 学園生活編(旧版): あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その9〜  
執筆者: mission
発行日付: 2004/10/16
閲覧数: 7983
サイズは 20.01 KB
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  それは遠坂とドライブに行った二日後、言い換えるなら春休みの最終日、明日から三年として学園生活最後の一年が始まろうという日のことだった。



あかいあくまと正義の味方 学園生活編

〜その9〜






「ただいま〜」
  どたどたと玄関から走ってくる藤ねぇ。
「おかえり、今日は早いんだな」
  料理の下ごしらえをしながら居間に声をかける。
「うん、ちょっと用が出来たのぉ」
「「?」」
  用が出来たんなら遅くなるんじゃないのか?
  そう思いながら遠坂を見ると、遠坂も同じ疑問を浮かべながらこちらを見ていた。
「士郎、今日は桜ちゃん遅くなるんだったよね?」
「ああ、今朝言ってたように、慎二の様子を見に行ってるから八時ぐらいになるって」
「そう、じゃ、士郎、遠坂さん、ちょっとこっちに来てくれない?」
「飯の支度遅くなるぞ?」
「明日からのことで伝えておきたいことがあるの」
  俺は遠坂と顔を見合わせると、二人並んで藤ねぇの前に座った。
「で、話って何だ?」
「……うん、大丈夫そうね」
  何故か並んで座った俺と遠坂の間の距離を何度も目で確認した藤ねぇは、そう言ったかと思うと、背筋を伸ばして座り直し、口を開いた。
「これは明日、柳洞君にも話すことなんだけど、二人はここにいるんだから、今の内に話すわね」
  明日、学園で何かあるのだろうか?
「まず始めに、あなた達と柳洞君の三人は明日から3-Aのクラスになります」
  思わず遠坂と目を合わせる。遠坂、凄く嬉しそうだ。もちろん、俺も嬉しい。
「ちなみに、担任は私」
  鋭く切り込んでくる藤ねぇの声、悪い、まだ話し途中だったっけ。
「本当はね、あなた達二人を一緒のクラスにするのはどうかと思ったんだけれど、一時と違って、きちんと距離を取れるようになったようだから、大丈夫だと思って、同じクラスにまとめることにしたの。
ずっとべたべたし通しだったら、他の子達に悪い影響が出ちゃうからね」
  ……俺達以外の人がいる時は距離を置くことにしてるだけなんだけど。
「正直、ドライブに行った後からそうなったから、ひょっとしたら、あの日に何かあったのかも?  と思ってたけれど、見てる分には、特になにも無かったようだしね」
  すいません。未遂です。もしあたりが暗かったら、多分何かあったでしょう。
「もっとも、遠坂さんなら、士郎に襲われてもきっちり撃退しそうだけど」
  ……どっちかって言うと遠坂の方が積極的だったような?
  少なくとも、一緒に温泉に泊まっていこうって言ったのは、遠坂で間違いないし……。
  ちらりと横目で遠坂を見ると、居心地悪そうにもじもじしている。
「で、あなた達三人を同じクラスにまとめる理由なんだけど、あなた達には他の人たちの支えになって欲しいの」
「「どういうことだ(ですか)?」」
「この冬にいろんな事があったのは覚えているでしょう?」
「ああ、覚えている」
  忘れるわけがない、俺に剣を捧げると誓った少女と出会い、遠坂と知り合いになり、俺の可能性の一つと出会った。
  いろんな奴、良い奴もいればいやな奴もいた、そんな奴らと出会い、そして別れた。
  殺された、守られた、共に戦った、奪われた、背中を預けた。戦った。取り返した。
  戦った。戦い抜いて、そして別れた。
  それよりも何よりも、遠坂と一つになった。一緒に生きていくことを決めた。
  きっと死ぬまで忘れない。いや、きっと死んだ後でも忘れない。忘れられない。
  あのときの思いと同じように、あの二週間の出来事は、俺の中に刻んである。
  そんな思いが声にこもっていたのだろうか?  遠坂と藤ねぇが俺の顔を見つめている。
  遠坂は……嬉しいような哀しいような、喜んでいるけれど何かを憂うような、何故か、眩しいものを見るかのような顔をしながら、俺に右手を伸ばしてきたので、俺も手を伸ばして、しっかりと左手に握った。
「士郎、大きくなったね」
  藤ねぇの声に視線を移すと、嬉しそうなのに寂しそうな顔をしている。
  何故だ?
「うん、やっぱり士郎に頼めば大丈夫ね。遠坂さんもいてくれるし」
  そんな顔のまま、藤ねぇが話を続ける。
「あのとき、一番酷い目にあったのは三年生だったけれど、二年生にも結構酷い目にあった人がいたでしょ。それに、美綴さんや間桐君も……。美綴さんの事は、士郎のおかげで割と早く収まったけれど、それでもまだ心配だし」
  ところで、あの後、女子の間で士郎の人気が高まったの知ってる?
  なんていたずらっぽく笑いかけてくる藤ねぇ。いったい何だそりゃ?
  遠坂の握力が高まったので見てみると、どういう事?  って聞いてきてる。
  後で話すと返すと、逃げたら承知しないわよと念を押してきた。
  何だよそりゃ、俺なにも悪いことしてないぞ?  あ、何か急に疲れたような顔してる。
「はいはい、おねぇちゃんを除け者にして目で話をしないの。二月に美綴さんがイヤな目にあって、そのとき変な噂が流れたんだけど、士郎に頼んで鎮めて貰ったの。たった一言で鎮めてくれた時には、おねぇちゃん鼻が高かったなぁー」
  え?  いや、あれは美綴の人柄だろ? 俺はたまたま聞かれた時に一言答えただけで、
  後はなにも出来なかったうちに、勝手に噂が収まってたんだぞ?
「弓道部の一年の子がね、士郎に噂のことをどう思うか聞きに行ったら、こう答えたんだって? 『美綴がそんなことをするわけない。俺は美綴を信じてる』って。その場にいた人たちはみんな感動したって言ってたよぉー。その話を聞いた人もみんな士郎が言うなら間違いないって納得してたし」
  何だよそりゃ?
「そして士郎はいつも通りなにも変わらなかったでしょ。あれで『便利屋』から『頼りになる奴』に変わったんだからね」
  何か勘違いしてないか? 俺はいつも通りのことしか出来なかったんだぞ?
「特に女の子達の評価は鰻登り、その後もあっちこっちで人助けして回ってるのを見て、本気で二月十四日が過ぎてることを悔しがってる子ばっかなんだから」
  と、遠坂さん? あの、左手が痛いんですけど?
  うわ、なんだよ、おんなったらしって。俺、そんなことした覚えないぞ!
だからなんだよ、後で覚えてなさいってのは。
「まぁとにかく、そういわけで、大変な人たちを集めたからフォローをお願いね。遠坂さんと柳洞君が居れば変なことにはならないだろうし、士郎が居てくれればあのときのこと思い出す人がいても大丈夫だと思うから。後、ムードメーカーになってくれそうな子達も何人か集めたらね」
  ……俺達や一成は兎も角、ムードメーカーになりそうな連中がいて、担任が藤ねぇ?  賑やかな一年になりそうだな。
  なんだか、倫敦に行くまでの一年間は、とてつもない一年になりそうだ。


「さ、これでお仕事おしまい。士郎、おなか減ったよー! ご飯まだー?」
「ちょ、ちょっとまてぇ!  下ごしらえ中断させて話してたのは誰だよ!」
「だってお仕事だもーん」
「だってじゃねぇだってじゃ! どのみち晩飯は桜が来てからだ!  それまで
おとなしくして待ってろ!」
「えー!  おなかへったよ〜」
「だぁー!  せんべいかじりながらわめくな!  かけらが跳ぶ!」
  言いながらも丁寧にお茶を入れている士郎。全くこいつったら……。
  でも、手を離すまえに、一度しっかりと握り直してくれたから許してあげよう。
  ホントはそんなんで許してやる気はなかったんだけど、何故か許せちゃった。
  しょうがないなとぼやきながら藤村先生にお茶を入れた士郎は、
「じゃ、続きをやろうか」
って、私に向かって苦笑混じりに言いながら立ち上がった。
  そうね、嬉しいニュースを持ってきてくれた先生と、看護に疲れて帰ってくる桜のために、腕によりをかけた料理を作るとしましょうか。
  今晩は久しぶりにみんながそろうし、春休みの最後の日でもあるから、こないだ買ってきたお酒を開けて、みんなで宴会をすることにしてるの。
  だから腕の振るい甲斐があるって訳。
  このことを聞いた時、桜が「ずるいです、私にも料理させてください」なんて言っていたけれど、あの子は介護で忙しいのだし、家ではゆっくり休ませないと。
  なのにあの子ったら「私の居場所が……」とか何とか言って……。
  あのときは士郎が「桜の居場所? そんなの決まってるだろ。大体桜は俺の妹みたいなもんなんだ、その妹が忙しくしてる時に兄貴がこき使ったりなんてできないだろ?  だからゆっくり休んでてくれ」って言ったら落ち着いたみたいだったけど……
  だけど桜、あのとき捨てられた子犬のような目をしていた。
「妹……」ってつぶやいた時の声、きつそうだった。
  物思いに沈みながらも、手はてきぱきと動き、料理の準備が出来ていく。
大体の準備はオッケーね、藤村先生の話を聞いていた時間の分も取り戻せたし、後は桜が帰ってくるのに会わせて仕上げるだけ。
「士郎、肝臓はきちんと強化できてる?」
  からかうように聞いてみる。
士郎ったら、酒屋兼飲み屋でバイトしている癖に酒に弱いなんて言うから、昨日の夜特訓してやったの。
「ああ、大丈夫だと思う」
「そう、でもきちんと水を一緒に取ってね」
「なんでさ」
「生物の時間にやったでしょ、アルコールは体内で加水分解されるから」
「あ、そうか、水と一緒になってた方が分解が早まるんだっけ」
「そ、明日は始業式だし、強化に頼らず自己管理はきちっとしておきなさい」
  魔術師の基本よ。と、言いながら鼻を突っついてみる。
「判ってるよ」
  あ、赤くなってそっぽを向いてる。可愛い。
「ま、それよりも心配なのは藤村先生だけど……」
「大丈夫だろ、藤ねぇは大トラになって暴れても、ちゃんと寝かしつけさえすれば、朝食の匂いで目を覚ますさ」
「何かどっかで酷いこと言われてる気がするよ〜」
  居間から聞こえてくる声。なにげに鋭い。さすがは冬木の虎!
桜も結構いけるはずだし、一番弱かった士郎も飲めるようになったから……、今のこの家って、酒豪の集団?
みんながアル中なんかにならないように、きちんと目を光らしておかなくっちゃ。
……何かを心の中の棚に押し上げたような気がするけど、そんなのは無視。
  さて、
「そろそろ仕上げにかかりましょ」
時計を見て、寄り添っていた士郎の体から--ちょっと惜しいけど--身を離すと、士郎の声をかけた。
「ああ、そうだな。ぱぱっと仕上げて、思いっきり騒ごう!」
なんて、楽しそうな顔を見せながら言うんじゃない!
そんな顔見せられたらこっちまで嬉しくなっちゃうじゃない!
この天然おんなったらし!
なによ、顔が熱いのはコンロの火で熱いからなんだからね。
勘違いしたらただじゃおかないからそのつもりで居なさい!


  チャイムの音が響き渡る。ちょっと間をおいて、玄関からとたとたとやってくる音。
うん、できあがりのタイミングはばっちり。俺は台所から顔を出すと居間に向かって声をかけた。
「桜、お帰り。今ちょうどできあがったところだ。早く手を洗ってこいよ」
「え?  本当に終わっちゃったんですか?  先輩にごちそう作って、食べて欲しかったのに」
「それは次の機会まで取っておいてくれ」
そう言って、俺は戻ると、遠坂と一緒にできあがった料理を居間に運ぶ。
桜はそんな俺達を見た後、手を洗いに居間から出て行った。
  何だろう?  今、桜は桜に似合わないような顔をしてたような気がした。
まぁ今の入り口に立ってたんだし、あそこはちょっと光が当たりにくいから、
それであんな風に見えたんだよな。
桜があんな顔するわけない。
俺は馬鹿な考えを止めると、食卓に食器を並べた。
  俺の隣には遠坂、正面に藤ねぇ、その隣に桜。
こうして四人揃って食べられるのは、春休みに入ってから二度目か。
考えてみれば、いろいろと忙しい休みだったな。
桜が戻ってくるまでに準備は全て終わってた。
「それじゃぁ新学期に」
「「「「かんぱーい!」」」」
  未成年が三人、教師の目の前にいるってのに、その教師も一緒になって乾杯するのはどうかと思うけれど、誰も遠坂には反論できないのだからしょうがない。
おまけに反対してたのが俺一人では、残りの三人に勝てるわけもない。
遠坂は言うに及ばず、藤ねぇは「宴会宴会!」って騒ぐだけ、おまけに桜まで「先輩、私と一緒に飲むの、イヤなんですか?」って、言い出したらイヤだなんて言えるわけないからな。
だからこうして酒を飲んでいるわけだけど、
「む、中華と日本酒ってダメかと思ってたけどそうでもないな」
「そうなの、ワイン何かだと、例えば貝の種類によっては合わないものがあるけれど、日本酒の合わない料理って今までに食べたことはないのよね」
「そうですね、料理酒も日本酒だと大抵のものに合いますし」
  虎ががつがつもぐもぐもぎゅもぎゅごっくんと料理を平らげている脇でゆったりと話を続けていた俺達だが、酒の空き瓶ができ、虎対策に追加購入した二本も、半分無くなった頃になってなにやら雰囲気が怪しくなってきた。
  食べるだけ食べて満足した虎はさっさと寝に行ったのでいいのだが、いつの間にか遠坂が桜に絡んでいる。
「桜ぁ〜、アンタったら、なんでこんなに柔らかい体してるのよぉ〜。私にもわけなさ〜い」
「ちょ、ちょっと、ダメです……ぇさん。やん!」
  ……何か、別の意味で酔いが回りそうだ。
「あん、先輩……助け」
「しろうはだ〜め、しろうがさわっていいおんなはわたしだけ〜」
「な……わたしに……こんなこと……してて」
「さくらだからいいのぉ〜、わたしにさわっていいおとこはしろうだけだもの〜」
  ……嬉しいんだけどさ、でも、そう大声で言われると、何かこう、やばいものを感じる。
  だからなるべくそっちを見ないように、声を聞かないようにしていたら、今度は矛先がこちらに回ったらしい。
「しぃ〜ろぉ〜お〜、さっきっから全然呑んでないじゃな〜い」
言いながらいきなり俺のグラスに酒を入れてくる。
「そうですょ〜、先輩ももっと飲まないとダメですぅ〜」
「さ、桜、む、胸が、むねぇ〜」
いきなり桜がしなだれかかってきたものだから、そのボリュームのある胸が……。 「だぁかぁら、呑まない先輩が悪いんですよ〜」
そう言うと、桜は手にしたグラスの中身を一気に口の中に注ぐと、その唇を俺に押しつけてきた。
「なっ!」
俺が驚いている隙に唇を割って進入してくる舌。
同時に流れ込んでくる液体。
桜の舌に俺の舌が絡め取られ、嬲られている内に、気が付いたら口内の液体を飲み干してしまっていた。
更に、口腔内を思う存分に嬲られ、頭が真っ白になった頃、漸く桜が離れた。
酔いが回ったのか、頭の中がぐるぐる回っている。
「う……あ……」
「うふふ、どうです、先輩。私のお・さ・け」
「だめぇ〜! これ、わたしのぉ〜!」
「え?」
  呆然としている俺を抱き寄せると、遠坂もグラスの中身を口に注ぎ、俺の唇に唇を合わせてきた。
唇を割って入り込む舌を、半ば反射的に受け入れ、荒っぽく舌を絡め取られながら、同時に流れ込む熱い液体を、むせかえりそうになりながらも飲み下す。
……桜に比べると拙い……と、言うか、桜の奴、なんであんなに巧いんだ?
「!?」
いてぇ! いきなり舌をかまれた!
今のショックで強化まで切れたぞ!
「なによ! 今、桜のこと考えてたんでしょ!」
げ、なんで判った?
「忘れさせてやるぅー!」
  言いながら一升瓶をラッパにすると、口一杯に日本酒を含む遠坂さん。
ま、まさか
「☆○!×△?」
……さっき以上の量を流し込んできた。
ちょっとまて、俺、今強化が切れてるから……あ、呑んじゃった。
おまけに、そのまま舌を絡めてきて……俺、一気飲みには弱いのに……。
口の中嬲られてると、いつも以上にアルコールが……。
………。


  ぷは
こんどはさくらのことなんかかんがえなかったようね。
すっかりおとなしくなったしろうからくちびるをはなして、
「ど〜おしろう?」
いいながらしろうのくびをつかんでひきよせる。
「だいらいねぇ〜、しろうはぁ〜……え?」
しろうがわたしをおしたおして……?
「こ、こらしろう、どうせならこんなところらなくって……」
  すぴ〜〜〜
「へ?」
  しろう、ねてる?
「あ〜、そう言えば先輩って一気飲みには弱いんでしたっけ」
  へ?
「おちょこで少しずつ飲む分には良いけれど、一気飲みしたらコップ半分でも酔いつぶれちゃうんでしたぁ〜」
  すっかりわすれてましたぁ〜、と、したをだしてわらうさくら。
「ちょ、ちょっと、わらってないでどうにかしてよ」
「無理ですよぉ〜、先輩って、鍛えて引き締まってるから見た目以上に重いんです。私一人じゃ持ち上がらないんです」
  う、たしかにこいつ、おもい。
  おまけにたおれたとき、りょううでごとわたしのからだだきしめてたから、うでがうごかせない……
「遠坂先輩も、だ〜いぶ酔いが回ってるようですからぁ、そのままおとなしく寝ちゃってくださ〜い」
  おふとんとってきま〜す! といってしろうのへやにいくさくら。
あんたもだいぶよいがまわってんじゃないの?
なんとかしろうのしたからでようとじたばたしてると、
ぎゅっ!
「きゃっ!」
こらしろう、うでにちからいれるなぁ〜
「とおさかぁ〜、はなさないぞぉ〜」
え?
ねごと?
ひょっとして、ゆめのなかでも、わたしをだいてくれてるの?
「ばか」
おもわず、ひじからさきをうごかしてしろうをだきしめる。
う〜、かおがあつい。
「あ、やば」
  あたまにちがのぼったせいか……、きゅうに……、よいが……。
いしきがどこかにとぶすんぜんに、なにかやわらかいものがわたしたちのうえにかぶさるのをかんじた。


「姉さんも先輩も幸せそうですね……」
  先輩の掛け布団を二人の上にかけた後、二人の顔を見るとそう思った。
なんだかもやもやしたものが湧いてきて、二人の顔に被るように布団をかけ直す。
「はぁ」
  胸の奥でざわめくなにかを、溜息と共に押し込めると、私は後始末を始めました。
封が開いてても残っているお酒は栓をして冷蔵庫に。
でもあまり残ってないから料理酒に使って終わりですね。
残った料理はいくつかのお皿にまとめてラップをかけると、これも冷蔵庫に。
使わなかったお皿や箸立て、醤油やソースの瓶などはそれぞれの棚に戻す。
汚れ物をまとめてシンクに置き、台ふきんを洗って、食卓の上を拭く。
  そんな動作の都度、視野に人の形に盛り上がった布団が入るたび、溜息が出てしまう。
なんでこんなに溜息が……。
ダメ、考えてはダメ。この先を考えたら……。
私は今幸せなんだから。
先輩に家族と呼んで貰えて。
先輩に妹だと言って貰えて。
姉さんと一緒に居ることができて。
たまには姉さんと同じ屋根の下で寝ることもできて。
桜は今、幸せなんです。
だから、変なことを考えてはいけないんです。
  そう、心の奥になにか溜まってるような気がするけれど、
それはきっと、今を幸せだと思える気持ちが溜まってるんです。
だってほら、先輩が姉さんを見る時の幸せそうな笑顔を見れば私の心が……。
姉さんが先輩を見る時の幸せそうな笑顔を見て私の心に……。
ほら、浮かぶのはきっと幸せな二人を見ることができることの……。
それに、そんな幸せな二人の笑顔がわたしにも向けられるのだから……。
  ねぇ、そんな笑顔を見ることができて、私が嬉しくないわけ無いじゃないですか?
大好きな二人が幸せそうな様子を見て、幸せに感じないわけ無いじゃないですか?
ほら、変なことを考えず、今の自分のことを考えている間に洗い物も終わっちゃった。
それじゃぁ私は帰りますね。
兄さんが入院していて、…………が待っているあの家に。
おやすみなさい、姉さん。
おやすみなさい。先輩。






  後書き

  二人の短い春休みが終わりました。
二人の学園生活最後の一年は、間違いなく、普通の人にとっては、波乱に富んだものとなります。
ですが、魔術師である二人にとっては、普通の人で居られる貴重な一年となります。
そんな、騒動に富んだ一年間をどうか見守ってやって下さい。


  さて、今回はトリを桜に努めて貰いました。
でも、彼女については……、まぁ、いろいろ描くとなると、それは二人が倫敦から帰ってきてからになるでしょう。
そこまで私が書けるかどうか、ものすごく不安ですが。
二人が幸せになるために、桜のことは解決しなければならない問題ですけれどね。

  ご意見・ご感想をmailまたはここのBBSにて頂けたら幸いです。
特に、私が気が付いてないであろう未熟なポイントの情け容赦のない指摘を頂けると
少しでもSSがマシにできるはずなので、そのあたりよろしくお願いします。

MISSION QUEST

2004/10/16 初稿up

 
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