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あかいあくまと正義の味方 学園生活編(旧版): あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その8〜  
執筆者: mission
発行日付: 2004/10/3
閲覧数: 8203
サイズは 29.78 KB
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「ちわー、コペンハーゲンです。ご注文の品お届けに参りました」
「あら?  士郎が配達なの? 珍しいわね、坂上ってくるの大変じゃなかった? それに配達の荷物どこなの?」
「あ、遠坂、また引き継ぎやってたのか。珍しいって、この春から配達はちょくちょくやってるよ。親父さんが運転慣れた方が良いだろうって任せてくれるようになったから」
「え?  運転?」
  言いながら凛が教会の外を見ると、そこには脇に「コペンハーゲン」と書いた軽トラが停まっていた。



あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その8〜





「やぁ士郎君、今日も配達ご苦労様」
「聖職者がこんなにお酒ばっかり飲んでて良いんですか?」
「何を言う、ワインは神の血だぞ。聖職者がこれを飲まぬのは不信心というものだ」
「ビールや日本酒、ウィスキーも神の血なのですか?」
「む、君も魔術師なら判るだろう、類縁のあるものならば感応してだな……」
「胃の中入れば皆同じと」
「そ、そうだ、だからあまり気にしないように」
「はぁ、そう言うことにしておきましょう」
  などと軽口を叩きながら荷物を奥に運んでいく士郎とウォーラム神父。二人とも手際よく荷物を片づけると、受け取りのサインと精算を済ませ、神父は奥に、士郎は車へと戻っていく。
「じゃ、遠坂、今日も帰り遅くなるから」
  教会の戸口で何故か固まっている遠坂に声を掛けると、士郎は次の配達先へ向かった。


「士郎、アンタいつのまに免許取ったのよ」
  この日も帰りが遅く、夜中の一時過ぎに漸く玄関をくぐった士郎は、そこに仁王立ちになった凛に迎えられた。
「いつのまにって、三月に取ったんだけど?」
「あたし、聞いてない」
「言わなかったからな」
「何故」
「免許取ったって、車がなければ意味無いし、車があったって、運転に慣れてなければ危なっかしくって人乗せたり出来ないだろ。結局荷物運びしかできないんだったら、免許取ったこと言っても意味無いと思ってな」
「ふーん、普通男の子って、免許取ったら、恋人をドライブに誘ってくれるものって聞いていたけれど、そう言うこと考えもしなかった士郎にとって、私は恋人じゃないんだ」
「な、なに言ってんだよ、お、俺は遠坂のこと大事な恋人だと思ってるぞ!」
「じゃ、なんでドライブに誘ってくれないの?」
「だから、まだ運転に慣れてないから、万が一事故起こしたりしたら」
「連れてって」
「いや、だから」
「連れてけ」
「そ、それに春休み中に空いてる日は後一日だけ……」
「ふーん、そう」
「わ、判った!  今度の休みにドライブに行こう!  いや、どうかドライブに一緒に来てください!  だから、その左腕こっちに向けるなぁー!」
  重いものが打ち出されるような衝撃音と、それに続く打撃音。
「う、あ……」
「ふん、最初から素直にそうやってドライブに誘ってくれれば良かったのよ。次からはもっと強くするから、そのつもりでいなさい!」
「う、ぐ……、ぜ、善処……する」
「約束よ、良いわね!」
「わかっ……た」
「ん、ならばこれで許してあげる。ほら、いつまでそんなところでうずくまってるの。そのくらいの呪い、耐えられるようになりなさい! ほら、さっさと立たないともう一発行くわよ!」
言いながら左腕をまくり上げる凛。
「う……ぐっ、はっ、……トレース・オン」
「え、魔力で呪を押し流した!?  そりゃこの場合解呪するより早いけど」
「と、遠坂、こうして立ったんだから、左腕元に戻してくれ」
「なによ、士郎の抗魔力が低いからこうやって少しでも耐性が付くように鍛えてあげてるのよ。少しぐらい感謝したらどうなの?」
  あたしとのドライブもついて、一石二鳥じゃない……と、そっぽを向きつつ、頬を薄く染めてもごもごと言葉を続ける凛。
「遠坂乗せてる時に事故って、けがさせたりしたくなかったから練習してたのに……」
「一人で事故って、一人でけがされたりしたらそっちの方がもっと迷惑よ!」
「う……すまん」
「いい士郎、私と一緒になるんだから、嬉しいことや楽しいことだけじゃなく、哀しいことや辛いこともみんな私と共有すること。けがするような事故起こす時だって、必ず私と一緒にいなさい!」
「で、でも、四六時中一緒ってのは無理だからな」
「私が言いたいのは、変な遠慮をしたり、一人で物事抱え込んだりするなって事!  例えドライブ中に事故ったりけがしたりしても、士郎と一緒ならそれは楽しい思い出に変えてみせる。だから楽しむことを第一に考えなさい!」
「判った、悪かったよ遠坂」
「そう、判ったのね、だったら、今度の休み、どこに行くか一緒に考えましょ」
「うわっ!  腕引っ張るな遠坂!  俺、まだ靴履いたまま!」
「それじゃ、ちゃっちゃとあがって、服着替えて、手を洗ったらさっさと来なさい!」
  そう言って、凛は地図ってどこにあったかなぁーと楽しそうに言いながら居間に向かっていった。


  そしてドライブ当日。
  朝一でレンタカーを借りてきた士郎は、しかし、朝から窮地に立っていた。なぜなら、出発予定時刻になっても凛がまだ起きてこないのだ。
  凛の部屋の前で悩む士郎。
  (ここは中に入って起こすべきだろうな……しかし……)
  そう、いつぞや見た凛の寝顔のことを思い出すと、自分がどういう起こし方をするのかについて、全く自信が持てなくなっていたのである。ぶっちゃけ、理性が持つのか? と。
  とはいうものの、ドアの前から呼べど叫べど全く起きる気配がない。
  桜か藤ねぇに起こして貰おうにも、朝早くから出かける予定だと言っておいたため、今朝はどちらも来ない事になっている。
  かといって、あまりのんびりしていては道が混み始め、当然のごとく凛の機嫌が悪くなるであろう事もごく当たり前のこととして予想できる。
  (下道だけで行くのを止めて、高速にすれば多少は早くなるだろうけれど……)
  そう、いくら舞鶴道が途中から対面通行になっているとは言え、信号やら自転車やら原付やらにより、すぐに流れが滞る下道よりは早く流れる。具体的に言うと、平均時速60Kmなら保てる程度に。
  しかしドライブの楽しさの一つとして、ただ単純に目的地まで行って、帰ってくることではなく、途中の眺めを楽しんだり、地図の上では判らぬ風物を楽しんだり、気ままに脇道に入ったり……などといった、過程を楽しめることがある。
  確かに舞鶴道はそれなりに眺めがよいとは言えるが、山また山の道を、前を走るトラックなどにつっかえつつ、ただ単調に走るだけではおもしろみが少ない。ならば、初めてのドライブを凛に楽しんで貰うためにも、やはり出発をこれ以上遅らせるわけにはいかない。と、意を決した士郎は、
「おーい、遠坂、まだ起きないのかぁー!  入るぞぉー!」
  と、声を掛けつつドアを開け、部屋に入ろうとした。
「起きてるわよ!  入るなぁー!」
  の、声と共に投げつけられた目覚まし時計にKOされたのは言うまでもないが。


  2号線を東に走っていたMR-Sは、ウィンカーを出すとギアを落として減速し、左折すると、六甲道を上り始めた。
「やっぱりS-2000を借りたかったな」
「なんで?」
「あっちの方がちょっと重いけれど、それ以上にトルクも馬力も上だから、こういう坂道なんかはもっと気分良く上れるはずなんだ。でもあっちはマニュアルしかないから、レンタカー屋に無くってさ」
  ま、この季節にオープンにこだわる必要なかったけど。と、恥ずかしげに言葉を続ける。
  そんな士郎の横顔を楽しげに見やると、
「じゃ、オープンカーの季節にオープンカーの似合うところにも連れてってね」
  と、凛はほほえみかける。
  もっとも、運転に集中している初心者の士郎には、そちらを見やる余裕がないのだが。
「うーん、そうなると、新緑か紅葉の頃に高原を走るのが一番かな。夏の海沿いも楽しいけれど、渋滞にハマると熱と排ガスで散々な目に会うって言うし」
「じゃ、その両方ね。決まり!」
「ん、判った」
  士郎は苦笑しながら答えると、カーブを曲がるためにアクセルをゆるめ、ハンドルを切った。
  一瞬の減速の後、シーケンシャルシフトのギアを一段落とすとアクセルを踏み込む士郎。
  スポーツ車とは思えぬ、相対的に柔な、市街地走行しか考えていないようなサスに、車体が不安定に揺れながら、じりじりと加速していく。
「……ロードスターならレンタルあるかな?」
  ぼやきとも何とも付かないことをつぶやきつつ加速を続ける。
  出発が遅れた分を取り戻すため、裏六甲を回るのを諦め、六甲山トンネルから六甲北道路へとまっすぐに走る。
「有馬温泉か、ね、そのうち一緒にいこ」
  途中の標識版を見た凛にこういわれても、
「ん……そのうちな」
  としか答えられない士郎は大分肩に力が入っている様子。
「士郎、肩に力はいりすぎてるわよ」
  と、あきれたように言われて、漸く気が付いたか、しばらくは直線が続くことを確認してからステアリングから片手を話し、他方の肩をほぐし始める。
  何げにシートベルトいじりながら、自分が前のめりになって道を見ていたことに気が付くと、シートに背中を預け、今度は反対側の手で肩をほぐし始めた。
  典型的な初心者ドライバーの姿だ。
  それでも少しは余裕が出てきた士郎は、たまには運転しながら凛に視線を流せるようになってきた。
  やがて、有料道路の終点が近づいてきたが、士郎は高速には乗らず、そのまま下に降りると、神鉄公園都市線へと移る。更に適当なところで右折すると、R176に移り、改めて北上を開始した。
  途中、ダム湖によって写真を撮ったりしながら、さらに北上、道はR175と合流し、再び別れ、やがて見えてきた道の駅で一休み。再び走り出した二人は、やがて山間を抜け、木立に囲まれた狭い視界の中から宮津湾を視野に収めた。


  海沿いの適当な駐車場に車を入れると、二人並んで道なりに天橋立へと歩き始める。
  士郎は隣で凝った肩をほぐそうと、のびをしたり肩を回したりしている。
  ふと気になったので聞いてみた。
「ねぇ士郎」
「ん? 何だ」
「なんであなた、いつも私の右側にいるの?」
「へ? なんでだろ……?」
  真剣に考え込んでいる。
「あ、そうか」
「なに?」
「切嗣(おやじ)が昔、そうしてたんだ」
「?」
  どういう事?
「いつも出かける時、藤ねぇがじゃれつくたんびに、左手に捕まらせて、『右手は利き手だから』って言ってなるべく開けてるようにしてた」
  それってまさか?
「いつだったか訳を聞いたらこういってたっけ。『士郎、男ならね、いつでも女の子を 守れるように利き手を空けておきなさい。大事な子を守りたいのに、守るための手がふさがっていたら本末転倒だろ?』って」
  え?  ちょ、ちょっと
「だからだな、大事な女の子を、遠坂を守れるように利き手を空けておくようにしてたんだ」
「ば、ばか、そんなこと道の真ん中で言わないでよ」
「え?  あ、ごめん。でも遠坂が大事なことは間違いないから」
  だから、そんなことをみんなが見ているところで言われると……嬉しいんだけど恥ずかしい。このバカ。頭に血が上って、何も考えられなくなっちゃったじゃない。きっとこれ、私はあたまきてるんだ。そう言うことにしておく。あったまきたから、すぐ脇をぶらぶら揺れている左腕に腕を絡めてやった。
「と、遠坂?」
「利き手じゃなかったら空けとか無くても良いんでしょ?」
「あ、ああ」
「じゃ、こうしてても問題ないんでしょ」
「そう……だけど」
「じゃ、ずっとこうしてる」
  言いながら頭を寄せてやる。たちまちの内に真っ赤に染まる士郎の顔。
  どうだ、参ったか。
  あんまりあたまくるようなことを言うと、これからも同じ目に遭わせてやるんだからね。覚えときなさい。
  なぜだか自分には言い訳じみているように感じる思いを浮かべつつ、気が付いたら参道に入り、どうでも良いようなおみやげ屋さんを尻目に、天橋立をわたり始めていた。
  松林の間を吹き抜ける風が心地よく、頭に溜まった熱を冷ましてくれる。
  何となく熱が冷めていくのがもったいないような気がして、頭を士郎の肩に押しつける。
  あれ?  士郎、少し背が伸びたのかな?  ちょっと前まではこうすると頭を士郎の肩の上に載せられたのに、今は肩にあたっちゃう。そのうち、背伸びしないと士郎の顔に届かなくなっちゃうのかな?
  なんだか悔しい。
  悔しいけど、今はこうしていたいから我慢する。でも後でとっちめてやる。
  きっと。
  でも今は二人、無言のまま木々の間を歩いていく。
  松風の音が耳に優しい。
  ふと士郎の向こう側に目をやると、波が打ち寄せる砂浜が目に入った。
「ね、あっち行ってみない?」
「ん」
  士郎は私が腕を絡めている左腕を少し動かすと、そのまま私の腰に当てて、軽く私を押しながら砂浜の方へと向きを変えた。
  松の木陰から出た私たちを、春の柔らかい日差しが迎えてくれた。
  見上げると、もう太陽はすっかり高くなっている。
  ちらりと時計を見ると、いつの間にかお昼になっていた。


「なぁ、そろそろ昼飯にしないか?」
  遠坂が覗き込んだ時計を見て、もうそんな時間になっていたのかと驚きながら声を掛ける。今朝は寝坊して朝飯を食べてないから、きっと遠坂は腹が減ってるに違いない。何せ寝坊したのは私の責任だからと言い張って、普段飲んでいる牛乳すら飲まずに出てきたんだ。いくらセイバーみたいに暴れたりはしないと言っても、このままにしておいて良いわけない。
「ん、そうね」
  幸い、遠坂もいやはないようだ。
  だから、名残惜しいけれど、遠坂を抱き寄せていた左腕を解いて、ずっと背負っていたディパックから敷物を取り出し、風に飛ばされないように適当な石を重しとして乗せながら拡げ、座る場所を作った。
  二人で並んで座り、重箱を拡げる。
  いつものように弁当を論評する遠坂の声を聞きながら、一緒に弁当を食べる。
「新学期からは、いつもこうして一緒に弁当食べられるんだよな」
「え?」
「三年になったら、俺たちが付き合ってること公表するんだろ? そうしたら、今までみたいに別々にならずに、昼も一緒にいられるんだなって」
「そうね、クラスは別でも、お昼は一緒出来るわね」
  こんな風に、と良いながら、はい、あーんと、口元におかずを運んでくる遠坂。
  まさかこんな不意打ちが来るなんて……
  もちろん断れるわけもなく、言われるままに口を開け、遠坂に食べさせて貰う。
「ん、旨い」
「あら?  自分で作った料理を自分で旨いというの?」
「だってさ、遠坂が食べさせてくれたんだぞ、普通に喰うより旨いに決まってるじゃないか」
  あ、一発で遠坂の顔が真っ赤になった。慌ててる様子が、凄く可愛い。
  だから俺も同じ事をしてみた。
「はい遠坂、あーん」
  すっかりパニクってる遠坂は、言われたとおりに口を開ける。
  ダメだ遠坂、お前可愛すぎるぞ。
  そんなことを思いながら、だし巻き卵を口の中に入れてやると、それを少しずつ口の中に含んでは、幸せそうにかみ砕き、飲み込んでいく。
  そんな遠坂が可愛くって、ついつい、あれこれと口元に運んでしまう。
  もっとも、遠坂も同じようにして一品ずつ俺の口元に持ってきてるので、おあいこだ。
  そんなこんなで、気が付いたらすっかり弁当が空になっていた。
  いや、唐揚げが一個だけ残っている。
  気が付いて片づけようとしたところを遠坂がさらっていった。
「えへへ、もーらいっ!」
  よっぽど俺が間抜けな顔をしていたんだろう、「あれ?  欲しかった?」なんて、すっとぼけた顔で聞いてくる。いや、俺は残り物を片づけようとしただけなんだけど。
  なんて事を思いながら遠坂を見ていると、遠坂はいきなり顔を近づけて、口移しに咀嚼物を流し込んできた。
  ……元は唐揚げのはずなのに、なんでこんなに甘く感じられるんだろう?
「なによ? 食べたそうな顔してたから分けてあげたんじゃない。なんか文句ある?」
「あ、いや……、文句なんか……全然無い」
「そ、じゃぁさっさと片づけて、あっちの方見に行きましょ」
  天橋立の北側を指さして、しれっとそんなことを言ってきやがった。


  さっきの士郎の反応って最高!  あんな照れてる癖に幸せそうな顔見れるんだったら、そのうちまたやってやろうかしら?  もう、お昼の後片づけしている姿まで、ぎくしゃくしてて、なんだか可愛くなって来ちゃう。 でも、家にいる時だと桜や藤村先生に見られて厄介なことになりそうだし……。学校……でも見られたらまずいか。どうしようかな?
「行くぞ、遠坂」
  まだ照れてる見たい、だっていつも以上の仏頂面だもん。だからなおさらいじめたくなって、また腕を組んでみる。今度は胸があたるように。
  ほら、ますます赤くなった。
「と、とおさか、あ、あたってる!」
「ん? 何が?」
「だ、だからその、む、むね!」
  くすくす、わざととぼけて見せたら、予想通り。だから素知らぬふりして引っ張ってやる。もちろん腕は抱えたままで。
「さ、行くわよ、士郎」
「う、あ、あう……」
  もう限界みたいね。仕方ないな。
  私はぱっと手を離すと、波打ち際までかけていき、振り返って言う。
「ねぇ士郎、夏になったら、二人でここに泳ぎに来ない?」
そう、天橋立は観光地として有名だけど、実はれっきとした海水浴場。こんな綺麗な砂浜が拡がってるとこまできて、泳がないなんてもったいない。
「そうだな、夏になったら泳ぎに来るか。二人……で?」
「そう、ふ・た・り・で」
  あったり前じゃない、誰がお邪魔虫と一緒に来たがるものですか。でも、何でまた顔が赤くなってるのかなぁー?
「ねぇ士郎、そんなに赤くなって何考えてるの?」
「い、いや、べ、別にそんな……」
  ふふ、すっかりうろたえちゃって。ま、良いわ。この続きは夏まで楽しみにとっておいてあげる。
「さ、ぐずぐずしないで、行くわよ、士郎!」
  言い置いて、いきなり駆け出す。
「あ、おーい、まってくれー」
「捕まえられたら、まってあげる!」
  でも、砂に足を取られて、走りにくい。そう簡単には捕まりたくないから一所懸命走ってるんだけど……
「きゃっ!」
  やば、足取られた。
  前のめりに転びそうになって、手をつこうとする前に、横から伸びてきた手が私を支えてくれた。
「え?  士郎?」
「こ、こんな、……砂地のところ……走るなんて……無茶だぞ」
「うそ!  もう追いついたの?」
「ああ、……波打ち際なら、……砂が……締まってるからな、ここより走りやすい」
  それでもずいぶん無理をしたようで、ぜーはーぜーはーと、荒い息の下から声を絞り出してる。
  やりすぎた……かな。素直に謝ろう。
「ごめん、士郎、無理させちゃって」
「こんなの……無理じゃない。……それより、……遠坂が……転んで」
  あ、大きく息を吸い直している。
「遠坂が転んでけがでもしたら、そっちの方が大変だ」
  ……え?
  なによそれ?
  いきなり真顔になって
  人の顔を真っ正面から見て
  それでそんなこと言うなんて反則よ!
  やだ、急に胸がどきどきしてきたじゃない
  なんだか顔も熱くなってきて、なのにものすごく嬉しい
  もうやだ、なに言って良いのかわかんなくなっちゃったじゃない!
  いつの間にか私を抱きしめていた士郎を見上げると、とっても優しい顔で私を見ていた

  あれ?
  見上げて?
  私が士郎を?
  やっぱりこいつ、いつの間にか背が伸びてる
  そりゃ元から士郎の方が10cmぐらい背が高かったけれど
  今はもっと伸びている。アーチャーほどではないけれど、確実に
  そんなとりとめもないことを考えている内に、私の腕は勝手に士郎の背中に  回り
  あ、士郎の腕に力が入った。……そう思うまもなく上向いたまま自然とまぶ  たが降り
  士郎と唇を会わせていた。
  初めは唇が触れ合うだけの優しいキス
  でもそれだけでは物足りなくって、唇を押し付け合い
  そのまま口を開けて士郎の吐息を吸い込む。士郎に息を吸われる
  でもそれだけでは足りないから、士郎の舌が口腔の中に入ってきて
  私の舌の裏側に差し込まれ、私の舌を嬲り上げ、私も舌を伸ばし士郎の中に入れ
  二人の舌が絡み合い、とろけ合い、そこからしたたり落ちる唾液を互いにむさぼりあう
  気が付いたら、足から力が抜け、士郎にしがみつかなければ立っていられなくなっていた


  不意に俺にかかる遠坂の体重が増えた。
  口腔内に溜まった甘い液体を飲み下しながらも思わず目を開くと、
  遠坂も薄く紗のかかった瞳で俺のことを見ていた。
  互いに名残を惜しみながら絡め合っていた舌を離し、唇も離す。
  二人の唇を繋ぐ液体の橋を、期せずして二人、
  同時に舌を伸ばし、互いの唇に這わせ合い舐め取り合う。

「遠坂、大丈夫か?」
「なんか……変、足に、力が入らなくって……」
  言いながら、妙に熱くなった体を俺の体に押しつけてくる。
  やばい、凄くやばい。
  なにがやばいって、もちろん俺の理性もやばいけれど、
  何よりも今はまだ昼間で、ここは道から外れた砂浜とは言え、当然人目はあるわけで
  って言うか、観光地なんだから観光客が道を歩いていたり、何人かは俺達みたいに
  砂浜まで出て来ているわけで、当然さっきキスしてたとこなんかも見られていたわけで、
  ましてやこんな遠坂を見られたりしたら……。
「遠坂、とりあえず座ろう」
  とりあえず何とかディバックを下ろすと、片手でさっき仕舞った敷物を取り出し、遠坂が座れるように拡げる。
「ねぇしろう……」
「ん」
  とりあえず俺もその隣に腰を下ろすと、遠坂の腰に手を当てて抱き寄せ、まだ不安定な上半身を支えてやった。
  ……気付いているんだろうか? 俺が支える以上の力で、上半身をすり寄せていることに。
  不意に、遠坂が頬を俺の胸にすり寄せてくる。
「士郎の胸板って厚いんだね」
「そうか?」
「うん、こうしてると凄く安心できる」
「そうか、じゃぁ気の済むまでそうしててくれ」
「うん」
  目をつむり、俺の胸に顔を押し当てている遠坂の顔を見ていると、
  風が吹いてきて遠坂の髪をゆらしていった。
  風に吹かれて頬にかかるほつれ毛を手で避けてやる。
  暫くそうしていると、遠坂も落ち着いてきたようだ。
  熱くなった体も落ち着いてきている。
  ふと、遠坂が瞳を開け、俺を見上げる。
  その視線はまだぼやけてはいるようだが、先ほどよりはしっかりしている。
「立てるか? 遠坂」
「ん、やってみる」
  ちょっとふらつき、俺の方に倒れかかってきたけれど、もう大丈夫なようだ。
  改めて敷物を片づけ、遠坂が倒れないように腰に手を回して支えてやると、そのままなにも言わずに再び歩き始めた。
  肩にかかる遠坂の頭の重みが何故か気持ちいい。
  幸か不幸か、遠坂の匂いは風が吹き散らして行っている。
  多分、今は良いことなんだろう。
  歩きにくい砂浜から道に戻り、ちょうどあった公園などによくある施設でちょっとした用を済ませ、(遠坂が普段より時間を掛けていたことは忘れた方が良いんだろう)、木立の間を抜けると、漸く湾の反対側に付いた。
  そのまま先に進み、土産物屋の間を抜けて、ケーブルカーに乗る。
  降りてから石段を登って、笠松公園へ。
  股のぞきは……遠坂のいつもの格好なら兎も角、今日はキュロットだったので、何の問題もなかったが、まだ少しふらつく遠坂を支えたり、ツインテールにまとめた髪が地面に付かないように押さえたりしなければならなかった。
  再び降りて、今度は土産物屋を物色する。
「へー、金の鰯の缶詰か」
「こっちには黒豆コーヒーなんてのあるわよ」
「藤ねぇへのおみやげに食べ物ってのは……危険だな」
「でもペナントや杖なんて……」
「土蔵のガラクタが増えるだけか」
「いっそお酒でも買ってく?」
「酒呑童子……この蔵元って近くみたいだな」
「じゃ、そこ行きましょ」
「そうだな」
  とりあえず、ここでは気になっていた鰯の缶詰をいくつか買い込んだ。
  なんだかんだでかなり時間が過ぎていたので、帰りは連絡船に乗ることにする。
  しかし……
「ガンダム……って」
「三倍早いザクってのもあるのかしら?」
「赤い船は見あたらないぞ」
「確か角も生えてるんでしょ?」
「しかし、俺達みたいにモトネタ知らない世代としては……」
「何というか……ねぇ」
  他より早いのかどうかは知らないけれど、とりあえず来た船に乗って、湾の南側に戻った。
  駐車場へ向かいながら、何気に土産物屋を覗く。
「黒豆コーヒーとか鰯とか、こっちの方が高いな」
「観光地……ね」
「ま、世の中には一本350円の缶ジュース売ってるとこもあるんだし」
「どこよそれ?」
「とある稲荷神社の奥の山中。バイクなら入れても車じゃ無理そうなとこ」
「人件費……か」
「そうらしい」
  そんな、他愛もない会話をしながら駐車場に戻った。
  車に付属のカーナビで、さっきの蔵元を捜し目的地にセット。
「この位置だし、この時間だと、178から175に行って、途中から上がった方が良いな」
「そうなの?」
「175をまっすぐ行くと、また福知山で混むだろうし、舞鶴から27号だと、舞鶴と綾部のあたりで混みそうだからね。そうだな、今度は吉川で降りて、428で戻ってみようか」
「まかせるわ」
  その声を合図に、MR-Sは発進した。


  とりあえず蔵元で購入した酒は三本。
  「酒呑童子」の山廃と「香田」の純米、そして「ひょうたんからこま」
  しかし、車に戻った二人は
「ま、普通の人なら神秘を知らないからだまされるでしょうけどね」
「何なんだよ、あの波動水って、魔力の魔の字も感じなかったぞ」
「いるのよね、ホントの神秘の存在すら知らずに紛い物で商売する一般人って」
「で、味の方はどうだったんだ?」
「うん、味はまともだった。あんな詐欺まがいの宣伝文句にだまされてても、お酒自体はきちんと作ってる見たいね」
「お前、結構飲み慣れてるんだな」
「あれ?  士郎は全然飲まないの?」
「……藤ねぇが飲む時相手させられてる」
「何だ、飲むんじゃない。じゃ、藤村先生が来たらこれで宴会しましょ」
「……ちなみに桜も行ける方だ」
「それ先に言いなさいよ、そしたらもっと買っといたのに」
「三本もあれば充分だろ」
「四人で飲むなら四本でしょ」
「お前……一升飲む気か?」
「え?  士郎ダメなの?」
「そんなに飲めるか!」
「バカねぇ、ちょっと肝臓を強化すればこれぐらい何ともないわよ」
「………」
  士郎も、運転中に会話が出来る程度には慣れた様子。
  そして、一部対面通行とは言え、高速の流れは滞ることなく、舞鶴道、中国自動車道と順調に走ったMR-Sは、吉川ICで下に降りると、428を南下し始めた。
「ねぇ士郎」
  カーナビを敬遠して、道路地図を見ていた凛が声を掛けたのはそんなとき。
「この道、ずっと行くと途中に温泉があるのね」
「どれ?」
  地図を受け取ると、凛が指さす先を見る。
「家からそんな離れてないじゃないか。それに、この時間だと宿泊客が使ってるだろ」
「じゃ、私たちも泊まってこうか?」
「なっ!」
  瞬間、挙動がおかしくなるMR-S。
「あ、危うく事故るところだったぁー」
「危ないじゃないの! ちゃんと運転しなさい!」
「遠坂が驚かすからだろう!」
「私と一緒に泊まるの……イヤ?」
「い、イヤじゃないって言うか、嬉しいけれど、まだまずいだろ!」
「まだって……あとどのくらい待てばいいの?」
「春休み頑張ったから……十五万ぐらい溜まったけど、普段はなかなか溜まらないし、爺さんの話だと、指輪の相場が六十万って言うから……」
「後四十五万円?」
「……万が一のための積み立てが今で大体三十万とちょっと」
「じゃぁ?」
「もっとも、休みの間に爺さんと永山さんのバイクいじった分の収入が良かったから、その分を引くと、二週間で十万円が良いところだな」
「それで?」
「何事もなく順調にいけば、夏休みに入って三週目、遅くとも四週目には」
「待ってる。……でも、その万が一の積み立てって、いいの?」
「家の修繕費とかは別に積み立ててるし、夏にちょっとした旅行しようって言う分も毎年別に積み立ててるから何とかなる」
「旅行?」
「去年は藤ねぇと桜と一緒に諏訪まで行った。今年は……出来れば二人で……」
「夏にね、倫敦の家を見に行こうと思ってるの」
「え?」
「あの神父にも言われたんだけど、一度様子を見て直すところとか足りないものとかチェックしといた方が良いから」
「じゃぁ、もっと頑張って貯めとかなくっちゃな」
「でも、勉強や修行もやらなきゃダメよ」
「……努力します」
  などと会話を続けている内に、話題(?)の平野温泉もすぎ、いつしか新都にと戻ってきていた。
  橋を越え、夜の深山商店街近くに車を停め、晩の買い物を済ます。
  そして次に衛宮家の前で停めると、買い物やらおみやげやらをおろした。
「じゃ、俺車を返してくるからその間風呂にでも入っててくれ」
「夕食もつくっとくね」
「中華に日本酒は合わないんじゃないか?」
「桜にも藤村先生にも今日は遅くなるかもしれないからって言ってあるの。だから今晩はお土産開けるのよしましょう」
「そうなんだ、判った。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
  やがて凛が料理の下ごしらえを終えた頃、士郎も家に戻り、「砂埃ぐらい落としてきなさい!」と、怒られながら風呂に押し込められた後、いつもながらの、但し二人だけの夜が過ぎていった。






  後書き

  と、言うことで、正統的(?)ラブコメの回です。
  途中ちょっと危ないシーンがありましたが、流石の士郎君も、昼間っから、見通しの良い場所ではケダモノにはなりようがないわけで……。
  ちなみに、RX-78な連絡船とか某稲荷神社(の関西の大元)の山中にある缶ジュース一本350円の自販機などはどちらも実在します。
  作中に出た蔵元の酒は結構美味しくて気に入ってるのですが、今回SS書くためにWeb Siteを見てみたら、波動水がどうのと、まさに詐欺に引っかかった状態になっていたので、(あれって勝手に「測定」しては、その「測定料」を貰ったりしてるのでしょうか?)思わずネタにしてしまいました。
  ちなみに肝臓の強化……これは羨ましい。誰か私の肝臓を強化してください。w

  ご意見・ご感想をここのBBSにて頂けたら幸いです。
  特に、私が気が付いてないであろう未熟なポイントの情け容赦のない指摘を頂けると 少しでもSSがマシにできるはずなので、そのあたりよろしくお願いします。

MISSION QUEST

2004/10/03 初稿up
2004/10/03 誤字訂正
2004/10/07 誤字訂正
2005/01/23 一部修正

 
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