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あかいあくまと正義の味方 学園生活編(旧版): あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その6〜  
執筆者: mission
発行日付: 2004/9/26
閲覧数: 8518
サイズは 32.91 KB
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  制服に着替え、居間に戻っても桜の様子は変わっていない。 「おーい、桜?」
  ……ダメか?
「桜ぁー、戻ってこーい」
  やっぱりダメか、それほどショックだったのかなぁ?
「先輩が遠坂先輩と、結婚を前提とした……、先輩が遠坂先輩と、結婚を前提とした……、先輩が遠坂先輩と、結婚を前提とした……、先輩が遠坂先輩と、結婚を前提とした……、先輩が遠坂先輩と、結婚を前提とした……」
  俺が遠坂と(口約束ながら)結婚の約束までしたって事が。



あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その6〜





「そりゃそうでしょ、こないだの恋人宣言だけでも桜ちゃんにはショックだったのに、それから一週間と立たないうちに婚約宣言でしょう。桜ちゃんがこうなるのも無理無いわよ」
  と、滅多に着ないスーツ姿の藤ねぇが言う。
「そうなのか? 藤ねぇ」
  いやまだ正式な婚約じゃないんだけどと、赤くなりながらつぶやいてみる。
「いくら士郎が朴念仁とは言え、ここまで来ると度が過ぎるわよ」
「む……」
  俺としては、こうも言い切られると、不本意ながらも受け入れるよりほかない。俺、そんなに無愛想か? 今度遠坂に聞いてみよう。
「それはともかく、あまり爺さんを待たせるのも悪い、そろそろ出るぞ」
「そうね」
「出来れば桜にも一緒に来て欲しかったんだけどなぁー」
「……ちょっと、士郎、本気?」
「だって桜も俺の家族だぞ、こういうのはやっぱり、家族そろっていくのが筋だろ?」
  藤ねぇはハァッっとため息をつくと、
「そう言うのは時と場合によるの!」
  と、俺を怒鳴りつけた。
  なんでさ?


  正直意外だったのだが、雷画爺さんと言峰の後任としてやってきたウォーラム(Warham)神父とは、既に顔見知りだったらしい。おかげで「親」同士の顔見せはあっさりと終わり、その後、それぞれの後見人が管理している親の遺産について、説明を受けることになった。
  このため、遠坂は教会に残り、俺は一旦、藤村の家に行くこととなった。といっても、遠坂の方は兎も角、俺の分って、爺さんに頼んで管理して貰ってる分だけだから、大したこと無いだろう。なので、
「じゃ、多分俺の方が先に終わると思うから、その後商店街で買い物しとくよ」
「そう、じゃぁ商店街で会えるかもね」
「かもな、じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
  と、一旦別れた。

「んふふ〜」
  と、藤ねぇが妙な笑いを漏らしたのは帰りの車の中。
「急にどうしたんだ? 藤ねぇ」
「ん、だってさっきのあなた達、『結婚を前提とした』どころか、新婚ほやほやの夫婦だったじゃない。ホント、隅に置けないわねー。一体いつの間にあそこまで行ったの?」
「いつのまにって言われても、俺たち、付き合いだしてまだ二ヶ月目だし……」
「たった二ヶ月でああなの? まさか、行くとこまで行っちゃったんじゃないでしょうね?」
「な、何だよ行くとこまでって、いきなりわけのわかんないこと言うな!」
  なんで藤ねぇはたまに、やたらと鋭くなることがあるんだ?
「ふーん、念のためいっとくけど、学園にいるうちに妊娠させたりなんかしたら、ただじゃ置かないからね。そのつもりで居なさい!」
「妊……娠……」
  遠坂と俺の子供!? そんなこと、考えたこと無かったけど、そうだよな、いつかはそうなるんだよな。そうか、俺と遠坂の子供かぁ……
「ちょっと士郎、何にやけてるのよ! まさか、ホントにやっちゃったんじゃないでしょうね!」
  藤ねぇがなんか言ってるようだ。でも、そんなことより俺が考えているのは
「子供かぁ……きっと、遠坂に似た可愛い子が生まれるんだろうなぁ……そっかぁー……」
「し、士郎の顔が融け崩れている……」
「ふむ、この分だと、結婚したら子供の数は一人や二人ではすまんだろうな。大河、おぬしも早く相手を見つけて、子供を作れ。そうすれば一人ぐらい坊主の子供とくっつけられるだろう」
「へ?  私?」
「そうじゃ、それとも、弟に先を越されたいのか?」
「そっか、そうなるのか……でも、相手って言われても……」
「安心せい、ちゃんと見合いの相手など見繕ってやる。今度こそ逃げるんじゃないぞ」
「う、そう来るなんて……ずるい」
「そう言う話に持ってきておいて何を言う、自業自得じゃ」
「うー、墓穴……」
  あっさり壊れた俺と、すっかり落ち込んだ藤ねぇと、きっぱり言い切って上機嫌な爺さんを乗せて、車は藤村邸に着いた。


「さて、坊主」
  爺さんの部屋に入ると、居住まいを正した爺さんが改まった様子で話しかけてきた。自然とこちらも背筋が伸びる。
「これから話す事は大河には言ったことがない。おぬしは或いは何か知っているかもしれんが、ひとまずは脇に置いておけ」
  俺は黙ってうなずく。
「お主の父、切嗣はな、裏の、それもかなり特殊な世界に属する掃除屋だったようだ。特殊すぎて、わしらにはそうらしいという程度の情報しか流れてこないような世界のな」
  黙って、先を促す。
「そして、掃除屋としては超一流、よく言う『狙った獲物は必ず逃がさない』上に、『どんな窮地からも必ず抜け出す』という、まるで映画か何かの主人公のような腕前だったらしい。
  それだけの男が何故この街に来たのかはわからん、ひょっとしたら仕事の関係だったのかもしれんし、そうでなかったのかもしれん。   儂に判ったことは、おぬしを引き取った後の切嗣は、やがて過去の精算を始め、すっかりと足を洗ったと言うことだ」
  切嗣(おやじ)があちこち出かけていたのは、そう言うことだったのか。
「それだけの腕前だっただけにな、報酬も安いものではなかったらしい。故に、今までおぬしに教えておいたあやつの遺産は、全体の一部にすぎん。これから、おぬしには儂が預かっていた全ての遺産を渡す」
そう言って、爺さんは藤村組の番頭を務める木村さんを呼び入れた。
「まずは坊ちゃんから預かった、表の遺産の運用状況から説明します」
  そう言って見せてくれた資産の運用表。賃借対照表とか言うらしいが、どう読めばいいのかさっぱりだ。木村さんの簡単な説明に従って読んでは見たものの、判ったことと言えば、
「すげ、倍以上に増えている」
「まぁ支出といえば、あらかじめ判っている学費ぐらいで、本来出すべき食費や衣服、日用雑貨や光熱費などを初めとする諸々の出費は、全て坊ちゃんがバイトで賄っていましたから」
  このぐらい当たり前だとこともなげに言ってみせるが、相続時に三千万弱だった遺産が、七千万程度にまで増えている。これだけでも、うまくやりくりすれば一生食べていけるんじゃないのか?
「ちなみに、たまたまこの秋で満期になるポンド立ての外貨預金が五百万ほどあります。これはそのまま英国に口座を開いてそちらに移しますので、留学の際にはお役に立つことでしょう」
  ポンドやドル、ユーロなどで口座がいくつか開設されているのか。
「次に、裏の遺産を説明いたします」
  見るとその残高は……桁、間違ってないか? 五年前で億の桁、今じゃ一桁増えてるぞ?
「こちらは元の額が大きいこともあり、やや冒険的な運用をさせて頂きました。とはいうものの、遺言により毎年一定割合、切嗣氏が行っていたとおりの寄付を坊ちゃんの名前で続けていましたので、その分減ってはおりますが」
「へ?」
  見ると、あちこちの財団? にそれなりの額の寄付が行われている。
「いずれも孤児院や教会のそれに類する施設です。現在では毎年合わせて一億程度を寄付しています。英国はじめ欧州各地にもいくつかの施設がありますので、機会があれば足を運ばれると良いでしょう」
  そう言って、俺に寄付した先の施設名と所在地のリストを渡す。
「それと、勝手ながら新都の中央公園、坊ちゃんが住んでいた辺り一帯の土地も買い占めさせて頂きました」
「へ?」
  手渡された土地の権利書を見る。添えられた地図を確認すると、確かにあの一帯は俺のものになっているようだ。
「でも、あそこって公園に……」
「権利関係が複雑なのと、あまりもな雰囲気故に再開発も出来ない無いため、やむを得ず公園という形になっていただけで、一つ一つきちんと処理をすればこの通りまとめることが出来ます。今は、坊ちゃんが公園用地として、十年契約で市に貸し出した形となっています」
「でも、あそこって結構広いだろ?」
「広くても事情が事情ですので、何も知らないものの目には破格に見えるほど地価が低いのですよ。それにだまされて購入し、事情を知って手放そうとする者達の間を転々とする間に更に価値が下がり、正直、今では、全部まとめても二束三文の値にしかなりません」
「………」
  何とも言えぬ複雑な気分だ。
「支出項目としては、再投資分を除くと、後は切嗣氏が倫敦に持っていたフラットの維持管理費ですね」
「へ?」
「切嗣はな、倫敦を拠点に活動していたらしくて、市内にフラットを持っていたのだよ。どうやら、大口の顧客が倫敦にいたらしい」
  そう言って、爺さんが権利書を出してくる。
「おぬしが倫敦に行くことを選んだなら、渡してくれと頼まれ、預かっていた」
「なお、維持管理には、遺言に従い、切嗣氏が契約されていた業者を使用しております」
  って事は、やはり魔術的な何かがあるんだろうな。
「私が管理させて頂いていた資産は以上です、ご確認の上、何か判らないことがあればいつでもお尋ねください」
「どうもありがとう。木村さん。俺、これからも木村さんに預かって貰おうと思う」
「そう言って頂けると、私も今までお預かりしたかいがあります」
  そう、嬉しそうに答えると、では私はこれでと下がっていった。
「後はこれだな」
  そう言って取り出してきたのは何の変哲もない、両手で持てるぐらいの木箱。
「これもおぬしが倫敦に行くことにしたら渡してくれと頼まれたものだ。何故か蓋があかんのだが、おぬしがきちんと成長していれば開けられるだろうと言っておった」
  確かに箱からはかすかな魔力を感じる。
「鍵とかは特にないんだな」
  試しに蓋を手で開けようとしてみながら言ってみる。
「判った、帰ったら開けられないか試してみる」
「まぁいざとなったらのこぎりでも使え」
「そうだな」
  言いながら、とりあえず預かった資料をまとめて用意してあった袋に入れる。
「こっちも帰ったらゆっくり見させて貰うよ。見てるだけで頭痛くなるけど」
「うむ、ま、あやつのことだから手落ちはないと思うが、運用内容を確認するのは預けたものの義務だ。きちんと評価した上で、それに見合った見返りを渡せばよい。相場については後で教えてやる」
「ありがとう、爺さん」
  そして藤村邸を出た。
  なんで出る時に皆が集まってきて「行ってらっしゃいまし、坊ちゃん」なんて言うんだ?
  一旦家に戻り、荷物を部屋に置くと、私服に着替えて買い物に出かけた。


  士郎を見送り、教会の中に戻ると、ウォーラム神父がにやにや笑っていた。
「どうしたんですか?」
「いやな、今の様子を見ていたら、今日この場で結婚式上げた方が良かったんじゃ
ないかと思ってな」
「な……」
  な、なによいきなり、そんな、気の早い……
「既におなかの中に赤ん坊がいるといわれても信じるぞ。ん?」
  と、片目をつぶりながら言う。
「え?  あ、あかちゃん?  私と士郎の?  ま、まだ居るわけないじゃない!」
  士郎の子供……、士郎との子供……、私と士郎の子供……遠坂家の後継ぎと、衛宮家の後継ぎで最低二人……男の子が良いかな?  女の子が良いかな?  士郎はどっちが良いんだろ?  ……

「……むぅ、この程度でここまで見事にハマるとは。こりゃからかいがいがありすぎだ」
  一つため息をつくと、神父は対遠坂用に開発した呪文を唱えた。
「お、あんなところにルビーが!」
  ……反応がない。
  改めてコホンと咳をすると、今度は
「こ、これはダイヤの原石では!」
  ……
「馬鹿な、今までこれで反応しなかったことはなかったのに」
  この一月ちょっとの間、何をやっていたのでしょう?
「ならばこの最強究極呪文はどうだ」
  この神父、きっとランサーと話があったことでしょう。
「見ろ!  この10カラットにもなる天然ダイヤを!」
「え?  どこ?  どこ?」
「きみは、ホントにあの小僧が絡むと人が変わるなぁ」
「……い、いいじゃない」
「悪いとはいわない、だが、とりあえず今はやることを先に済まさないか?」
「……判ったわよ、で、どこでやるの?」
「奥の部屋にきまってる」

  そして奥の部屋。綺礼の私室だった部屋だ。
「まず最初に断っておくが、遠坂家の資産運用に書けて、言峰神父は誠実かつ有能だった」
  ウォーラムは言いながら資産の目録や賃借対照表を始め、有価証券報告書だの何だのの束を出してきた。
「この十年間、君の魔術に使うための宝石の出費、同額の君名義の定期預金、これは円だけではなく、ドルだのポンドだのもある、そしてこの教会の維持運営費、これらに収益の半分をもって行かれながらも、総資産額が約二倍にふくれあがっている。また、冬木の土地も結構買い漁っている、地価が下落した時を狙って、要所要所をうまく買いたたき、十年前は冬木の50%程度を押さえていたのが、今では60%近くを押さえている。ただ、冬木中央公園だけは他の誰かに買われてしまったようだね」
「あの霊脈を押さえた奴がいるって言うの?」
「うむ、それもかなり巧妙に立ち回っていたらしい。言峰神父が悉く後手を踏んでいる」
「そいつの正体調べて、うまく味方に出来ればうちの役に立つわ」
「もちろん調べているが、かなりの手練れのようでね、どうやら専門家を雇った方が良さそうだ」
「藤村組に聞いてみた? あそこならこういう事にも詳しそうだけど」
「うん、実はそれも考えていた」
「後で士郎の方から聞いてみて貰うわ」
「頼む」
  会話を続けながらも、資産の動きをチェックしていく。
「後、鉱山の方だが、これも枯れかけた鉱脈は、早めに切り捨て、それで浮いた分で、国外各所に新たな鉱山を取得している。後二・三年のうちに、ここから採掘された宝・鉱石が使えるようになるだろうが、単純な投資効果だけを見ると良くて収支トントン、悪ければマイナス。宝石魔術師でなければ出来ないような投資だ。ま、それだけに鉱山そのものは安く買い取れているが」
  む、喜んでいいのやら悪いのやら……
  それでも手と目を休めることなく、チェックを続けていく。一通り見終えるのに一時間ちょっと。
「ふぅ、とりあえず今日はこんなおおざっぱなところでやめておいて、細かいところはこれからじっくり確認するわ。それで、今後の資産管理なんだけど」
「それに関してだが、正直私は経済関係についてはあまり強くない。別途人材を捜すことをおすすめするね」
「そう、結構厳しいわね」
「むしろ今までが例外。良くも悪くも言峰神父は変わり者だった」
「ええ、あいつは思いっきりねじ曲がった変わり者だったわ。まったく……」
「ではこの話はここまでとして、次に倫敦の家のことを話そう」
「え?」
「倫敦に家があることを知らないのか?  どうやら、明治維新で海外に渡航できるようになって、四代前の当主が時計塔に留学した際、結構な散財をしたようなんだが、この家もそうだ。倫敦のハムステッドという高級住宅街をわざわざ選んで、デタッチドハウスを購入している。当初は貴族向けの堂々とした館を建てるつもりだったようだが、資金面の問題から普通の家で諦めたようだ」
  ……なによこの評価額、これだけあれば聖杯戦争中に使った宝石の分なんて、すぐ補充できちゃうじゃない。
「……なんだか、首を絞めてやりたいようなことをやってくれてるのね」
「時をさかのぼる魔法を身につけたらどうぞ。それでこの家だが、きちんと魔術協会系の業者を雇って手入れを行っている。そして、四代前のみならず、先代、先々代も留学の際はここを使用しているね」
「ま、確かにいろいろ考えると自前の方が間違いなく良いものね。判った。協会の寄宿舎は使わず、こっちを使うことにしましょう」
「ではそのように手配を。出来ればこの夏休みにでも一度様子を見に行くことをおすすめする」
「そうね、考えておくわ」
「それと、家について調べてる時気が付いたんだが、君は英国籍も持っているね」
「え?」
「四代前の当主が留学した時、永住権を取得、以後、代々子が生まれるたび英国籍を取り、これは日本の国籍法が今の形になってからだが、二十二歳で英国籍を破棄し永住権に切り替えると言うことをやっている。だから、君も二十二歳になったら、どちらの国籍を取るか、決めなくてはならない」
「……まぁビザ無しで住めるならその方が楽で良いわ」
「ちなみに英国籍所有者の配偶者は十二ヶ月の居住を認められ、この期間が過ぎる前に永住権を申請すれば、永住権が認められる。また、英国籍所有者の婚約者は六ヶ月の居住が認められ、この期間に結婚すれば、後は英国籍所有者の配偶者と同じ扱いだ」
「……」
「まぁ私としては、この教会を建立した遠坂家の当代であり、同時に運営資金の最大援助者である君には、ぜひともここで式を挙げて貰いたいのだが……ん?  顔が赤いぞ。大丈夫か?」
「う、うるさいわね!  いつ結婚するかなんて、私と士郎で決める事よ!」
「そうだな」
  と、あっさり流す神父。
「さて、預かっている資産については以上だ。詳細については、君がさっき言っていた通り、後日、入念にチェックしながらたどった方がよいだろう」
「判ったわ、それじゃ、今日はここまでで」
  ウォーラムは一つうなずくと、がらりと声を変えて、
「じゃ、あの坊主によろしくな」
「あなた、なんでそうもころころ態度が変わるの?」
「そりゃぁ資産管理をしてる時のお嬢ちゃんはお客様だからな。こう見えても、公私の別はきっちり分けてるつもりだよ」
「はぁ……まぁ良いわ。それじゃまた」
「あ、そうそう、忘れていた、言峰は君と士郎君のの名前で、毎年六月の大安吉日を仮予約して居るんだが、これはこのままで良いのかい?」
「な!」
「聖杯戦争の終盤、君たちがキャスターを下した日の夜に手続きしてある」
「な、な、な……」
「私としては早く日程を決めて貰えると助かる。今年最初の日で良いかね?」
「そんなのまだ決まるわけないでしょう!」
「そうか、残念だな。日取りが決まったらすぐに連絡してくれ。ではまた」
  ……綺礼程じゃないけど、あいつもねじ曲がってる。代行者ってみんなああなの?  だったらあいつらの上に立つ奴って、相当根性ねじくれて螺旋を描いてるに違いないわね。あいつらの上って……代行者の上なら埋葬機関になるから、その長、確かナルバレックとか言う家の人のはずだけど……。うん、きっとものすごく根性ねじくれまくってるはずだから、間違っても、お近づきにはならないようにしよう。
  そんなことを考えながら坂を下り、ちょうど来たバスに乗って、深山の商店街に向かった。


  今日は旬の鰹と取れたての筍が手に入った。鰹は脂がのってて旨そうだからこのままたたきにし、筍は……煮物にするか、筍ご飯にするか……量も十分にあるし、両方にするか。同じく旬のアスパラは軽く湯がいてクレソンと一緒に、後は……ん?
  何となく呼ばれたような気がして立ち止まった次の瞬間、いきなり両目をふさがれた。
「だーれだ」
  瞬間、俺をふわっと包む香り、この手の感触、そしてもちろんこの声。どこをとっても間違えようなんてない。
「遠坂か、おかえり」
「……ただいま。って、ちょっとぐらい慌ててみなさいよ」
「慌てる?  なんでさ。いつ帰ってくるのかな?  って思ってたから、安心はしたけど」
「へ? 安心?」
「だって、あんまり遅くなったら心配だからさ。その、いろいろと」
「ふーん、心配してくれるんだ」
「あたりまえだろ」
「そっか。……それで、買い物はもう終わり?」
「んっと、そうだな、生姜はまだあるし、大葉もある。うん、これで終わりだ」
「じゃ、帰りましょ」
  言いながら俺の左手から荷物を取ると、そのまま腕を絡めてくる。
「お、おい……」
「いや?」
「い、いやなわけあるか!」
「ふふふ」
  だめだ、こいつには絶対勝てない。こうやってことある事に、俺は振り回されるんだ。たまには引っ張る側になりたいけれど……そんな日は果たしてくるのだろうか?
  そんなことを思いながら家に着く。途中、虎が買い物かごを覗き込みながら追い越していったけれど……何か、いやな予感がするな。
「「ただいまー」」
  二人で声を揃えて家に入ると、まずは台所に行って手早く生ものを冷蔵庫に収める。
「じゃ、私着替えてくるから」
「おう」
  俺も部屋着に着替えると、手早く手洗いを済ませ、お茶とお茶請けを用意し、更に、部屋から木箱やらなにやら取ってくる。
  改めて木箱を"見"ると、何のことはない、解錠(アンロック)を掛けた後、 俺の魔力を流せば開くようになっている。
「お待たせー、って、何?  その箱」
「切嗣が倫敦に行くなら渡してくれっていって爺さんに預けといたものらしい。一緒に見るか?」
「うん、でもそんなの普通の人に預けちゃって……、ま、この強度なら普通に開けようとしたくらいじゃ開かないか。二段目の鍵は、魔力を通すだけ? きっと士郎の魔力に合わせてるのね」
「うん、それじゃ開けるぞ」
  遠坂のおかげで、このくらいなら俺でもすぐに開けられる……逆に言えば、俺一人でやってたら、この箱すら未だ開けられなかったんだな。
  そう思いつつ開けた箱に入っていたのは、拳銃が二丁……いや、三丁と腕輪か。
  一丁はグロックP17、半可通が「プラスチックで出来ているから空港の金属探知器をパスできる」なんて大ボラを吹くのに使ってた銃だ。もちろんそんな馬鹿なことはない。もう一丁はS&WのM686 6"。Lフレームで.357Mag用に設計された奴だ。ホントはスマイソンというカスタムガンの人気を見て作ったらしいけど。しかしよくこんなものを……うわ、対探知用の呪印が箱の内側に刻まれている。最後の一丁はこれまた映画とかでおなじみのデリンジャーだ。これを使い捨てにしてる漫画があったっけな。いや、漫画とは言え、書いてる内容は凄く重いんだけど。ま、あれの主人公みたいになるには、まずアーチャーを越えなくっちゃな。しかしこの三丁、どれもこれも……
「ねぇ士郎」
  と、そのとき、腕輪をいじくり回していた遠坂が声を掛けてきた。
「これ、使い捨ての魔術刻印見たいなんだけど……判る?」
「どれどれ? トレース・オン……うわ!」
  なんか複雑な回路が構成されていて、魔力の流れを追ってみるんだけれども、その働きが判らない魔法陣がいくつもあるので追い切れない。
「ダメだ、じっくり追いかけていけば判るかもしれないけれど、それ以前に今の俺には動作が判らない魔法陣がいくつもある。無理すれば投影は出来るけど……」
「ふーん、ちょうど良いわ、倫敦に行くまでの宿題その一。それまでにこれが何であるか完全に理解しておくこと」
「う……、判った。努力する」
「調べものがあるならうちの書庫も使って良いわよ」
「って言うか、使わせて貰えないと無理」
「ん、素直でよろしい」
「で、そっちの銃だけど」
「うん、どれも魔法陣の類が組み込まれている。例えばこのデリンジャー、チェンバーに刻まれた魔法陣で、流された魔力を元に呪いと衝撃波を形成し、銃口から発射する。遠坂のフィンの一撃と同じだな」
「へー、ね、いじって良い?」
「うーん、音とか出たらまずいだろ。それに近所の目もあるし」
  言いながら、木箱の中に戻していく。
「撃ってみたいなぁー」
「それにこれ、初期化されてるから、遠坂が撃つと遠坂しか撃てなくなるじゃないか」
「ちぇ、ばれたか」
  俺は慌てて魔力を流し込むと、そのまま庭に飛び出し、最弱の設定で、三丁とも試射を済ませた。そして、遠坂のジト目に耐えながら、改めて銃をしまい、ロックを二つともかけ直す。
「あのちっちゃいの欲しかったなぁー」
「おもちゃじゃないって、それに遠坂は魔術刻印が使えるだろ」
「あれ右手に持てば二丁拳銃じゃない」
  ……今、背筋に走ったこの悪寒は気のせいだよな?  気のせいに違いない。
「えっと、それは兎も角として、倫敦の話なんだけど……」
「あれ?  私もそのことで話があったんだけど?」
「……なんだか、遠坂の話だけで終わりそうな気がしてきた」
「……なによ、それ、ま、良いわ。今から話すから聞きなさい」
……と、倫敦に持つ屋敷の話を聞き、俺はため息を一つ。
「じゃ、うちのフラットは用無しだな」
「え?  士郎も住むところ持ってるの?」
  かくして俺の方も説明することになり、結局は、市街地地図を見て検討することになった。
  ……とはいうものの、倫敦の地図などそうそうあるものではない。俺の部屋からnotePCもってきて、いろいろ検索してみたが、手頃な地図が見つからない。
  挙げ句の果てに、遠坂相手に
「ねぇ、士郎、このパソコンの中に、こんなにいろんな情報入れてるの?」
「違うよ、うち、B Flet's引いててて、ルーターから802.11g使って飛ばしてるだけだよ。後は見ての通りググってるだけだ」
「……ビー何とかとか、ルー何とかって何? ググってのは?」
「……パソコンの世界の型式呪文の名称みたいなものと思ってくれ」
「……よくわかんないけど……まいっか」
  なんて会話をする羽目になると、どうしても力が……。
  結局判ったことは、切嗣のフラットはべーカー街をずっと下って、テムズ川の近くまで行ったあたりにあることと、遠坂の家があるハムステッドがとんでもない高級住宅地で、しかも、倫敦郊外といっても地下鉄に二十分も乗れば時計塔(大英博物館)に着くと言うこと。ま、部屋数とか工房の使い勝手やら考えると、やっぱり遠坂の家を使うことにして、切嗣のフラットは必要に応じて使うのが一番だろうということになった。
  続いて出たのが国籍の話。遠坂って二重国籍者だったのか。で、婚約者だと自動的に六ヶ月の滞在許可が出て、結婚すればその時点から十二ヶ月。期限が切れる前に永住権を申請すれば後はずっと……。俺たちは今年二十になり、倫敦に行った最初の年に二十一になるから、結局、その年のうちに結婚すれば……話し合ってるうちに、互いに恥ずかしくて、互いの顔を見ることが出来なくなり、それでもちらりと視線を上げると、何故か視線があって、慌てて下を見るけれど、そのたびにお互いの顔がどんどん赤くなって行くのが判り、話が全く進まないうちに時間ばかり過ぎてしまう。
「と、とりあえず、頑張って指輪買うから、この話はその後にしよう」
「そ、そうね、待ってるから……」
「「……」」


  結局、話を再開できたのは、空疎な理屈をわめき散らす宣伝車が通り過ぎた後だった。ま、とっくに破綻した経済制度を推し進めようとする政治団体になんて感謝する気はないけどな。
「凄いな、遠坂ってこの街の六割の土地を持ってるのか」
「あら、元々は全部家のだったのよ。家は戦国の頃からこのあたりを支配していた領主だったから」
「へー」
「で、士郎が持っている不動産って、後はこの家だけ?」
「いや、もう一つあるぞ、新都の中央公園だ」
  言いながら権利書を見せる。
「え!?」
「俺にとっていろいろあったところだからな、木村さんが気を利かして買ってくれてたんだ」
「……木村さん?  その人が綺礼が出し抜かれた相手なの?」
「?  何のことか判らないけど、藤村組の番頭さんだよ。おやじの資産も木村さんが管理して増やしてくれた」
  聞いたとたん、遠坂は目の色変えての肩をひっ掴んだ。
「その人紹介して!  すぐ!  早く!」
「へ?」
「あの綺礼をあっさりと出し抜いてあの土地を手に入れた人なんでしょ! うちで雇えればきっといろいろ役に立ってくれるわ! どっか余所に雇われたりする前に早く!」
「いやだから、藤村組の番頭さんなんだから、そんな余所に行ったりするわけないって」
「あ、そっか」
「あの人のおかげで、切嗣の遺産もずいぶん増えたしな」
「……見せて」
「ほい、これ」
「えっと、……なるほど、……堅実ね、……これはちょっと、……ちがう、うーん、……あら?  こっちは?」
「そっちはもう一つの帳簿」
「どれどれ?  ふーん、結構協会から受けてるのね。……アトラス?  これは? げ、本家の黄金の夜明け、それにこっちは新大陸の!  こんなあっちこっちから!  やっぱり北欧からも……また協会か、大得意ね。……、……、これ、アインツベルン!  長期契約だったんだ。こんな前から準備して……」
「遠坂、それ読めるのか?」
「ええ、一応読めるわ」
「木村さんが金の動きは判るけど、相手が誰か全く判らないって言ったけど」
「だってこれ、暗号化して、士郎の魔力を通さないと読めないようになってるもの」
「じゃ、なんで遠坂に読めるんだ?」
「士郎、読もうと思った時無意識に解析したでしょう? そのときの魔力が残ってたわ」
「……気が付かなかった」
「全く……、まぁ良いわ、で、これの運用記録がこっちね、えっと、……こっちは結構冒険してるわね。元が一桁多かった分、思い切ったことがしやすかったみたい。それでも、リスクを管理して、損が出ないような布石を打ってるところは流石。この額から始めて、五年で三倍以上……いくら出費が少ないとは言え、こうして着実に増やせるところは凄い。やっぱり家の資産管理、お願いしようかな」
「よくそうやって読み解けるな」
「当たり前でしょ、遠坂の魔術師は自分が使う宝石代を自分で作れて一人前。未成年だと、投資をするには保護者の許可が必要だけれど、そこはそれ、綺礼が運用しているように見せかけて、実際にはこの部分、私が運用してたの」
  今までこのことを知ってたのは綺礼だけだけど、今はもう知ってるのは衛宮君だけね。このことはあの神父にも内緒よ。なんて耳元でささやかれるのが、くすぐったいような、こそばゆいような……でも、そう言う内緒のことを教えて貰えるのが嬉しい。
「でもこれからはこの手が使えなくなるから、きちんと口座を分けて、研究資金用の資産は全部手元に持ってこないとね」
「なんでそうやって分けて居るんだ?」
「研究用の資産は一代限りで使い果たしてもかまわない資産、例え全部使い果たしても、それに見合った研究成果さえ残せれば、それが家にとっての資産。けれど、家を存続させてく上での資産はそれとは別、遠坂家をなくすつもりならこっちの資産に手をつけても良いけれど、そうでなければこっちに手をつけてはいけない。これが代々の遠坂家の決まりで、今までこれを破ったのは曾祖父だけ。私も破る気はないわ」
「何かと大変なんだな」
「士郎は衛宮家を……そっか、士郎は基本的に魔術研究には殆どお金いらないんだっけ。心の底から羨ましいわ」
「ははは……、まぁ……な。俺の場合、聖剣・魔剣の類さえ見れれば後はどれだけ魔力を練れるかだけだもんな」
「これから、剣だけじゃなく宝石も投影できるようになって貰おうかしら」
  ジト目でにらむなよ。
「ははは……、そう……だな、投影のバリエーション増加のために、魔力流したり解放したりしても壊れない宝石ってのを研究してみようか」
「そう言うのがあると嬉しいけれど、どのみち投影した宝石には私の魔力込められないでしょ。結局私には使えないじゃない」
「む、魔力を込められる"隙間"があれば良いんだよな」
「士郎にそんなもの作れるような器用な真似が……出来るかも……手先は器用だし……もし出来たら……かも……して……行けば……」
「おーい、戻ってこーい」
「と、言うことで、今晩から"使える"宝石投影の特訓よ」
「……判りました」
  ああ、口は災いの元。でもまぁ、バリエーションを増やしたいのは事実だし。
「後、簡単に私の資産説明するけど、まずこれが……」
  凛の説明が続くこと一時間。士郎は自分が経済学者には成れそうにないことを心の底から理解していた。
「以上、終わり」
「はぁ……、じゃ、ここ片づけて、晩飯の支度をするか」
「ねぇ士郎、ずいぶん疲れたみたいだけど大丈夫?」
「ああ、飯作り始めたらこんなのすぐ直るさ」
「士郎ってつくづく主夫体質なのね。おまけに理論よりも実務が得意な技術者体質。良いんだか悪いんだか……」
「良いんだよ」
「そうね、ずっと私の身の回り見て貰うんだもの、良いに決まってるわね」
  こ、こいつさらっとこんな事を……。
「ああ、一生遠坂の身の回りを見るのは俺だけだからな、他の奴になんか手出しさせないからな」
  急に真っ赤になった遠坂の顔に見とれていたら、これまた急に電話が鳴り出した。出ないわけにはいかないので、出てみると、永山さんからだった。
  何でも、知り合いの刀鍛冶が近々、新しい刀を打つので見に来ないかという事だ。三日ぐらい時間が取れれば一通り見れるだろうし、うまくすると、(玉鋼こそ使えないものの、現在の鋼材を使って)刀を打たせて貰えるかもしれないそうだ。後日日程が決まり次第連絡を貰えることになった。
  更に最後に、
「また時間が取れたら家に刀を見に来たまえ、私が居なくても娘が相手をするから大丈夫だ」
  と誘って貰えたので、バイトの合間を縫って伺いますと答えておいた。遠坂は日本刀を打つのを見るのに三日も出かけることに不満そうだったけれど、
合間を見て電話すると言ったら我慢してくれた。
  そして晩飯を作り、藤ねぇが美丈夫だの酔鯨だのといった酒を持ち込み、大トラになり、久しぶりに晩飯にも顔を見せた桜が、一緒になって飲んで、何故か俺や遠坂に絡みまくってと、大騒ぎの内に夜が過ぎていった。
  おかげで? この日は宝石の投影特訓を免除して貰えて助かったよ。翌日からの特訓では、さんざんな目に会い続けたからな。






  後書き

  と、言うことで、「バカップル"親"公認の仲になる」の巻きでした。
実は士郎君も凛ちゃんも大金持ち!
ま、超一流の殺し屋やってた切嗣は、一面、正義の味方を目指していたのだから、どっかの種馬みたいな派手な浪費癖など持っていないだろうから、気が付いたらお金が貯まってた……なんて事になっても不思議はないと思い、こんな風にしてみました。
遠坂家については、サイマテの記述にある、二百年前にゼル爺さんに勧誘されて魔術に転ぶ前は「魔術と武術を等しく見」ていた上に、「無の境地を経て根源に至ろう」としていた事から、それなりの武門の家、しかも幕末の動乱も、第二次大戦後の混乱もきちんと乗り越えて今に至っている以上、今に至るまで相応の基盤を持っているものだろうと考え、あのような設定にしました。
まぁ少なくとも、戦国末期、関ヶ原あたりで足軽やってて、結果庄屋や名主になったような連中よりは間違いなく上だろうと、しかし大名や小名として江戸まで参勤交代やらなにやらやらされるレベルよりは下(でないと、「隠れて国外宗教の信徒」なんて事は出来ない。当然、領国に戻ることなく江戸に居続けなくてはならない江戸家老とかになるよりも下でもある)でなくてはまずいので、このあたり結構微妙なものがありますね。

  なおこの話は、コンプティークに遠坂家の財産についての公式発表が為される前に書いたものであるため、当該設定と異なるものとなっております。
このシリーズは、以後、遠坂家の財産問題についてはこの独自設定に基づいて進めていきますので、あらかじめご了承下さい。(2004/12/25追記)

  ご意見・ご感想をここのBBSにて頂けたら幸いです。
特に、私が気が付いてないであろう未熟なポイントの情け容赦のない指摘を頂けると
少しでもSSがマシにできるはずなので、そのあたりよろしくお願いします。

MISSION QUEST

2004/09/26 初稿up
2004/10/01 誤字修正up
2004/12/25 後書き追記
2004/01/23 一部修正

 
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