あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その3 祇園祭〜
「すごい人出だな」「すごい人出ね」
異口同音に言う一同は、言わずとしれた、士郎・凛・一成・美綴の4人組。
「せっかくだから」とか、「次に皆で来れるのはいつかわからん」とか、「向こうでこっちの文化について聞かれた時のため」とか、「イギリス人と京都人は気質が似てるらしい」とか言った、判ったような判らないような理由により、やってきた場所は京都市は四条烏丸駅の出口。
もうじき夏の長い日も暮れようという時間である。
しかし日取りが悪かった。今日は週末、そこに祇園祭の宵山が重なったため、休日の山鉾巡行を見がてらやってきた観光客の数は例年以上であり、当然の事ながら、人混みも(今回初めて来た彼らは知らないが)例年を上回っている。
「ふむ、でははぐれたらここに9時でどうだ」
「ま、妥当なとこだな」、「判った、そうしよう」「じゃぁそうしましょう」
と言って一同ぶらりと歩き出す。
基本的に祇園祭の宵山・宵宵山は町毎の山や鉾を見て回り、その合間合間に普段は見ることのできぬ町屋の中や、そこに古くから伝わる数々の品を見ていくものである。
中には夜店での買い食いやらなにやらにばかり気を取られている者もいるが、この祭り本来の目的はそうであるはずだ。
ちなみに、祇園祭の際は、四条はともかく、これと交わり、比較的見所(と夜店)が多い、室町通りおよび新町通は歩行者も一通扱いとなり、四条および高辻通りから入る際には制限を受けている。が、もっとも途中の筋から入る分には問題ないので無駄なことをしているような気はするのだが……
かくいう事情で、まずは四条を西進し室町通りをあがろうとした一同だが、はっきり言ってこの通りの人混みはすごい、気をつけないとすぐ離れ離れになりそうなほどに。
「まぁ、もし離れちゃっても、士郎は背が伸びて目立つようになったから大丈夫よね」
などと凛が内心思っていると、とうの士郎は急に気合いを入れ、話しかけてきた。
「遠坂」
「なに? 士郎」
「手、繋ごう」
「え?」
「この人混みではぐれたら大変だろ、だから、その……」
と、顔を真っ赤にしながら言ってくる。
その顔を見ながら内心、
「士郎は自分から手を繋ごうと言ってきてくれた!」
と喜びつつも、そこはそれ、素直になれないお年頃。
「ふ、ふん、そうね、はぐれたくないって言うのなら手ぐらい繋いでも良いけど」
「それじゃ」「ただし!」
「こういう人混みの中でいちいち立ち止まって確認しない! はぐれたくないのなら人混みの中に入ったらすぐに手を繋ぎなさい!」
「え? そ、それって……」
「たく、言わなきゃ判らないの? 衛宮君は。いちいち断ったりしないでさっさと手を繋げ! って言ってるのよ!」
相も変わらずの朴念仁ぶりに思わずしかりつける凛。だが、そんな凛を見て
「判ったよ遠坂、遠坂と離れたりしないようにしっかりと手を繋がせてもらうよ」
そう、嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、凛の手を取る士郎だった。
「ってことはおまえら、付き合い始めて半年も経つのに、まだろくに手を繋いだこともなかったのか?」
そんなあきれたような声に振り返ってみれば、そこにはしっかり一成と腕を組んだ美綴が、意地の悪い笑みを浮かべつつ顔を真っ赤にした二人を見ていた。
後書き
と、言うわけで、二人にいつもの悪友(?)コンビと一緒に祇園祭に行かせてみました。
なに、今年も会社の帰りにふらりと覗いてきたんですが、帰ってニュースを見ると、今年は例年以上、今日だけで50万人の人出だというので、ふと思いついて書いてみました。
まぁ実際、京都に住んでいても、山鉾巡行なんてのは、有休を取るか、休日にかかってくれないと(当該町内に住んでて担ぎ手等をやる人たち以外は)そうそう見に行けるものではありませんので、今年の人出の多さは納得できるのですが……。
それはさておき、いくら何でも、半年付き合ってて手も繋がないなんてことはないと思うのですが、そこはそれ、基本的にはまじめな二人ですから、こんなこともありかなぁー……なんて。
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MISSION QUEST
2004/07/16 初稿up