廊下をどたばたと走る音がする。
くすっ、どうやらお寝坊さんが起きたみたい。
三・二・一
「おはよう、士郎」
士郎が台所に飛び込んできたのにあわせて声をかける。
「え? あ!? と、とおさか!?」
む、なによその驚いた顔は。
と、いけないいけない。
折角ここまでうまくいってるんだから、ここで怒ったりしたら台無しだ。
ここはにっこりと微笑んで、
「私おはようっていったのだけど?」
なに顔引きつらせてるのよ。
「オ、オハヨウゴザイマス、トオサカサン」
だからその反応は何なのよ。
私がむぅーっとにらんでやると、後ずさりしながら台所から出て行こうとする。
「もう、いいから早く顔洗ってきなさい。後、朝食の準備できているから並べるのお願いね」
「え? ああ、って、なに!? 朝食全部作っちゃったのか? こんな朝早くから!?」
「朝食だけじゃないわ。お弁当もちゃんと作っといたから」
「うわっ、本当だ……」
「さ、判ったらさっさと顔を洗ってくる!」
「あ、ああ、じゃ、ちょっと行ってくる」
「ん」
そういうとあいつは顔を洗いに出て行った。
ふっふっふ、ここまでは良し。
そして、
あかいあくまと正義の味方 学園生活編
〜その2〜
「いただきまーす」
食事が始まるとまずおみそ汁を飲む士郎。
さぁ、どうだ!
「うん、うまい。」
よしよし。
「うまいぞこのみそ汁」
うんうん。
「これから毎日、このみそ汁を遠坂に作って欲しいな」
やった!
この言葉を言わせたかったのよ。
だって、
「それって結婚して欲しいってこと?」
「え?」
「おみそ汁を作って欲しいってそういう意味でしょ」
知らないとは言わせないわよ、だってそのためにここしばらくその手のドラマばっかり一緒に見るように仕向けてたんだもの。
さぁ、どうなの? 赤くなってないでちゃんと答えなさい!
「え、えと、その、プロポーズするのはやっぱそういう雰囲気のときにしたいから……」
うんうん、ちゃんとその気はあったのね。えらいえらい、でもこっちだっていい加減待ちくたびれてきてるんだから、そうそう簡単に許してあげない。
「でもこういうのもありだと思わない?」
無いとは言わせないわよ。昨日もちゃんとそういうのを見せておいたんだから。
あ、士郎ったらお椀を置くと口の中でぶつぶつ言ってる。
「うん、そうだな、そういうのもありだよな」
そして、こちらに向き直ると
「遠坂」
来た!
これを言わせるために無理して早起きして、いつもは見れないこいつの寝顔も見て……ってあれ?
おかしい、今朝確かに見たはずの、始めて見られると楽しみにしてたはずのこいつの寝顔が全然浮かんでこない? なんで?
「遠坂、とおさか!」
どっかとおくからしろうがよぶこえがきこえる。
「とおさか、朝だぞ! 起きろ!」
わかってるわよぉ〜、あさだからきちんとちょうしょくつくって……。
「朝飯もできてるぞ! 早く起きろ!」
ん〜、おきてるからごはんのしたくおえて。
「ああ、もう支度おわってるって」
おみそしる……。
「そうだよ、今朝は和食だ。とりあえずこれ飲め」
ん? ああ、ぎうにうのこっぷね。
こくこくこくこく……。
ん、あれ? ここって私の部屋?
まだパジャマのままで、ベッドの上に起きあがった状態ってことは、じゃぁアレは……。
「って、夢ぇ!?」
「ん、なんかずいぶんいい夢見てたみたいだな。すっごく幸せそうで、起こすのが悪いような気もしたよ。」
けど起こさないわけにはいかないから、とか何とかブツブツ口の中で続けてる。
「そ、そんなぁ〜! 今日こそ士郎の寝顔見てやろうと思ってたのにぃ!」
「ん、俺の寝顔なんか見たって、ちっともおもしろくないぞ。それより遠坂の寝顔の方がかわいくって……」
「なにいってんのよばかぁ〜、毎日毎日私の寝顔見て居るんだから、一度ぐらい私が士郎の寝顔見たっていいでしょ! っていうか見せなさい!!」
「な、なんだってそんな、俺の寝顔なんかにこだわるんだ?」
「なによなによ、前はたまに寝坊しては桜や藤村先生に起こされてたんでしょ? なのに、私の前では一度も寝坊しないで寝顔を見せてくれないってのはなによ!」
そう、これなのだ。私が士郎の寝顔を見たいと思ったそもそもの原因は。
それは昨日の夕食後、
「そういえば最近先輩が寝坊することなくなりましたね」
「そうよね〜、前はたまに寝坊するからそれを起こすのが楽しみだったのにね〜」
「先輩の寝顔ってかわいいから、見れなくなって残念です」
「ほんとほんと、士郎ったらあんなかわいい顔して寝てるんだもの、ついついいじりたくなっちゃうのよね。」
「そうそう、私もつい・スしたくなったり」
ちょっとマテ、今こいつなんて言った?
「ちょ、ちょっと桜、あんた今なんて言ったの!」
「え? ね……遠坂先輩、だって先輩の寝顔ってかわいいじゃないですか、見てたら、その、キ、キスしてみたくなりません?」
でも、いつもキスしようとするたびに目を覚まされちゃってましたなんて言ってやがる。
「あ、あんた、私の士郎に手を出そうっての!」
「あら、だって、あのときはまだ先輩と遠坂先輩つきあってなかったじゃないですか」
あのとき既成事実をつくっとけば良かったなぁーなんてしれっと言う。
「それに遠坂先輩だって、先輩の寝顔をかわいいって思いません?」
え? だって、見たこと無い、いや、聖杯戦争の時に見たことあるけど、そのときはあいつ怪我してて、治す方に気を取られてたし……。
「あ、そっか、いつも寝坊したり、ものすごく寝坊して先輩に起こされてるんだから、先輩の寝顔を見れるわけありませんよね。じゃぁ先輩が寝ているときのあんな顔やこんな顔を知らないんですね!」
ふふふ、私だけの秘密……とか何とかうれしそうに。
く、くやしぃー! こうなったら私だけの士郎の寝顔をたっぷり見てやるんだから!
……ってそう思ってたのにぃ。
「な、なんだ、そんなことか」
そ、そんなですってぇー!
「だったらほら、今度一緒に昼寝とかしてさ、そのときに見ればいいじゃないか」
え? それって……。
「そ、そりゃ遠坂に寝顔見られるのって恥ずかしいけどさ、そんなに遠坂が見たいって言うんなら……。それに俺、遠坂のためにできることならなんだってしたいし……」
「士郎」
う、うれしい、素でこんなこと言ってくれるなんて、すごくうれしい。
「遠坂」
あ、しろうのえがおがだんだんちかくなってきて……。
「せんぱ〜い、遠坂先輩を起こすのに何時間かけてるんですか?」
遠ざかった。
「「さ、桜!?」」
「もうすっかり朝食冷めちゃいましたよ。藤村先生なんかとっくに学校行っちゃったし。そろそろご飯食べる時間もなくなっちゃいますよ〜」
「え、あ、ほ、ほんとだ、もうこんな時間だ。遠坂、早く着替えて降りて来いよ。と、とりあえず俺、先に行ってるから」
「う、うん、私もすぐ着替えておりてくから」
こうしてまたいつものようで、ちょっとだけいつもと違った朝が始める。
えへへ、一緒にお昼寝かぁ〜。
「遠坂ぁ〜、いそげよ〜!」
「うん、いまいくぅ〜」
二人が穂群原学園を卒業するまで続いた、そしてロンドンではまたちょっと違った形で続く、そんな朝の一コマ。
後書き
今回はあかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その1〜の続きで「おはよう」編です。
その1は「おかえり」編になりすね。
また、例によって文章中でなおした方が良い点に気付かれましたら、どうかご指摘ください。
MISSION QUEST
2004/06/26初稿up 自siteにもup