あかいあくまと正義の味方 学園生活編 〜その0 中編〜
「はぁ〜」
食卓に突っ伏す遠坂。
「あそこで綾子に見られちゃうなんて……」
「なんかワケありげだったけれど、一体なにがあったんだ?」
「んー、私にとっては、もう、どうでも良いことだったからすっかり忘れてた。」
でも綾子にとっては違ってたのねぇ、とつぶやいてる。
「いったい何の話だ?」
「うん、ちょっとした賭けをね……」
遠坂はけだるげに身を起こすと、一部始終を話した。その上で、
「でもね、実際に士郎と一緒になったらそんな賭けなんかどうでも良くなって。だってそうでしょ? その、好きな人と一緒にいられれば、それが端からどんな風に見えたって良いじゃない。」
顔を赤くして照れながらも私たちは私たちよと言い切る。
それはそうだ、遠坂 凛という少女はとっくの昔に自己を確立させている。
かつて、アーチャーを召還した際に、世界はとっくに自分のものと言ったそうだが、まさにその通り、いちいち周りのものに影響されるような柔な自我など持ち合わせてはおらず、己が己であるために必要なもののみ -- それが周りから見てどのようなものであろうとかまわず -- を選び取り、己の世界の一部とする。
逆に言えば、周りのものがどんなに高い評価を与えているものがあっても、それが自分の世界に合わないものであれば、只の一片も価値を認めない。
例えばそう、世界の一流ブランド品やトップデザイナーの一品ものであっても、自分の世界にとって異物と感じれば一顧だにすることなく放り捨て、逆に単なるガラス玉やビーズの破片であっても、自分の世界にとってふさわしきものであれば、それを自らのものとする。
そして嬉しいことに、俺はその世界になくてはならぬものらしい。
だから賭けの条件の一つ、「相手により羨ましがらせた方が勝ち」というのをホントにばからしいと思っているのだろう。……どちらかというと照れてるように見えるけど、俺も恥ずかしいからそのあたりは突っつかないようにしておこう。
正直、最初に遠坂の世界観を知った時にはホントに感心したものだが、その感心していることに怒られてしまった。なぜなら、これが魔術師としての心の有り様の基本であり、身につけていてしかるべきこと、なのに感心するとは何事かと。
だけどしょうがないじゃないか、俺にとって、何よりも大切なのはみんなの笑顔なのだから。
みんなが笑っていてくれれば嬉しい、一人でも泣いている人がいたら助けたい。
それが俺の原点であり、全てだ。
もっとも、最近は遠坂が笑っていてくれることが何よりも嬉しく感じるようになったし、そのとき自分が一緒にいられればなおさら嬉しいと思うようになった。
まだ恥ずかしくって言ってないけどな。
ま、とりあえずは、
「どうせあいつ部活が終わってからくるんだし、うまいもの用意して待っててやろう」
そう言って俺はエプロンをつけ、下ごしらえを始めた。
「そうね、せっかく賭けのことで叩きのめしたばかりだし、ここでとどめを刺してやりましょ。」
そう言って俺の予備のエプロンをつける遠坂。すっかり遠坂専用になったな。
って、まて、今、なんか物騒なこと言わなかったか?
「なぁ、結局遠坂と美綴って仲が良いのか? 悪いのか?」
「うーん、そうねぇ、強敵と書いてトモと呼ぶ、そんな関係かな」
「なんだそりゃ」
「綾子が言ってたのよ、あなたとは殺す殺さないってところまで行きそうねって。しかも初対面の時に。だからまぁ、そう言うことね。」
そうだったのかと感心しながら、二人で買ってきた食材を調理している内に
「士郎ぅー、おなか減ったよぅー! それと、今日は美綴さんが遠坂さんに用があるって言ってたから連れて来たよぅー」
藤ねぇが美綴を連れて帰ってきた。
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