03年12月、当時の防衛庁統幕会議室。ファーゴ米太平洋軍司令官(当時)が、陸海空自衛隊最高幹部らに米軍再編計画を説明した。「第5空軍(横田)は第13空軍(グアム)に統合される予定だ」
空自幹部が反論した。「今の戦争は航空戦から始まる。カウンターパートがいなくなるのは困る。日米の連携がうまくいっているからこそ、北朝鮮も手を出せない」
横田の第5空軍司令官は在日米軍司令官も兼務する。第5空軍がグアムに行けば、米空軍のパイプが細る可能性があったのだ。
一方、米軍の意図は、西太平洋グアムの基地機能を強化することにあった。「太平洋進出を狙う中国のけん制」(防衛省幹部)が狙いとみられている。
結局、統合案は白紙撤回された。空自と知日派の米空軍幹部が連携し、巻き返したためだった。
05年2月、日米両政府は「共通戦略目標」を文書にまとめた。「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」との一文が入ったが、米国防総省から当初示された案は「中国による台湾侵攻は許さない」との強い表現だったという。一方、日本側の要求で「北朝鮮による日本人拉致」に関する項目も盛り込まれた。
北朝鮮を念頭に日米同盟強化を目指す日本。中国の進出に備え、兵力を西太平洋に重点配備する米国。日米両国のすれ違いが、あらわになり始めている。
21日午前6時半、米軍普天間飛行場の移設先、キャンプ・シュワブに隣接する沖縄県名護市辺野古。「今日も非暴力でお願いします」
移設に反対する平和市民連絡会事務局長の当山栄さん(67)が「海上阻止行動」に参加するメンバー9人に言った。メンバーは沖縄防衛局が環境影響評価(アセスメント)調査を続ける海へゴムボートやカヌーで向かった。
普天間飛行場は、沖縄の基地問題の象徴的存在。県内移設を前提に日米両政府が全面返還に合意してから12年が過ぎた。県と名護市が容認した辺野古沖移設は、米軍再編でシュワブ沿岸部に移設先が変わり、政府と地元の関係はこじれる。返還は実現していない。
「政府案には反対」を言明して06年知事選に当選した仲井真弘多(なかいまひろかず)知事は「可能な限りの沖合移動」を政府に求める。しかし知事は、政府案を前提にしたアセス調査着手には同意。建設場所の最終合意がないまま、今年3月、アセス調査が始まった。シュワブ内では兵舎解体工事も5月にスタート。移設に向けた準備は着々と進む。
米軍再編で姿を変えた移設計画。「知事は最終的に政府案に合意するだろう。でも沖縄に新たな基地はいらない」。当山さんは言う。【古本陽荘、三森輝久】
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次の衆院選に向けた選択の手引。今回は米軍再編問題を取り上げる。米軍の世界戦略に日本はどうかかわっていくか。基地の街を歩くことから始めたい。
毎日新聞 2008年5月26日 東京朝刊