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NIKKEI NET

社説1 目先の負担軽減を優先した経済対策(8/30)

 政府は29日、物価上昇や景気の悪化に対処するための総合経済対策を決めた。公明党の強い要請により、中低所得者向けの特別減税や、老齢福祉年金受給者などを対象にした給付金の支給を2008年度中に実施する。高速道路料金の引き下げや輸入小麦の政府売り渡し価格の上げ幅圧縮なども盛り込んだ。

 今回の対策は全体として一時的な負担の軽減による痛み止めの色彩が濃い内容となった。構造改革や体質改善を促す長期的な効果が期待できるものとは言えず、近づく総選挙への対応が優先されたように見える。

 今回の対策の策定に当たって、政府は「真に必要な対策に財源を集中し、旧来型の経済対策と一線を画する」という考え方を示していた。

 これに沿って、かつてのような、公共事業による財政出動を原則的に排した点は評価できる。ただ、本当に必要な対策に施策を集中できたかといえば、疑問が残る。例えば、燃料負担の大きい業種への支援だ。

 政府は燃料高に苦しむ漁業者の負担増加分を補てんする措置をすでに取っている。これを受けて、トラックなど様々な業界からの支援要求が高まった結果、対策では支援対象業種が急増した。原油高という新しい価格体系に適応するのを促すのが建前だが、支援内容は不透明で一時的な痛み止めで終わる可能性もある。

 小麦の政府売り渡し価格の上げ幅を圧縮したことについても、従来のルールを変えてまで実施する必要が果たしてあったのだろうか。高速料金引き下げもびほう策の面が強い。

 資源高を背景に資金繰りが苦しくなった中小企業を支えるのはいいにしても、政府系金融機関の融資や保証を拡大するだけでは長い目で見た問題解決にはつながらない。

 柱の1つとなる特別減税は今年度限りの措置で、規模については年末までに決めることになった。

 公明党は「1年の物価上昇分に見合うものにしたい」としているが、原油高や食品価格上昇の負担を減税でそのまま補うとの考え方は取るべきではない。価格上昇に応じたエネルギーの節約や消費対象の見直しなどの自助努力に水を差しかねない。規模は今後の景気や財政の状況を踏まえたうえで慎重に検討すべきだ。

 対策は「安心実現」を狙いにしているが、一時的な負担緩和だけでは真の安心につながらない。持続可能な年金の姿を示すなど将来への不安を解消していく改革が求められる。規制改革などにより成長力を高める環境を整備し、日本経済を強じんな体質にしていくことも重要である。

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