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社説:オバマ氏指名 本選でも人種の壁が問われる

 こんな日が来るとは、昨年までだれも想像できなかっただろう。8万人の熱狂的な聴衆の前で、民主党の大統領候補指名を受諾し、人々を奮い立たせたのは47歳の黒人だった。バラク・オバマ上院議員の指名はそれだけで米国史に新しいページを開く事件だ。

 黒人がこの国の政治システムで指導者として欠かせない役割を果たす時代が来た。絶え間なくみずからを刷新し続け、自己像を作り替えていく米国の力強さをみる。

 今年の大統領選は民主党に有利な条件がそろっている。ブッシュ大統領の支持率は低迷し、サブプライムローン危機やガソリン価格値上がりで経済は悪化している。長引く戦争や苦しい生活への不安と疑問が社会に広がる。

 世論調査によると民主党支持は51%で共和党(38%)を13ポイントも上回る。現政権への失望感は大きく、政権党交代の理由は十分にある。

 ところが、オバマ氏は優勢とはいえない。共和党候補に来週、正式指名されるジョン・マケイン上院議員に全米レベルの支持率調査では、ほぼ同率に追いつかれた。調査機関によると、州ごとの選挙人の獲得予想数でオバマ氏はわずかにリードしているが差は縮まっている。両候補互角の州は10以上あり、大接戦だ。

 なぜオバマ氏は有利な条件を生かせないのだろう。予備選で訴えた「変化」だけでは通用しないとか、政策のあいまいさを批判されたとか、さまざまな解説がある。

 表面には出にくいが底流にある理由は、「人種」ではないか。たしかに民主党の予備選では人種の壁は乗り越えられた。だが、いざ大統領当選の可能性が現実となると、後押しをためらう心理が働く米国人がいるのかもしれない。

 人種差別主義者を自認する米国人はほとんどいない。しかし、政策や能力、人格などの問題点を探し、オバマ氏に投票しなくていい理由を見つけ、なぜか安心する人はいるだろう。接戦州で有権者の5%がそういう投票行動をとるなら、オバマ氏は苦戦する。

 決して正面から取り上げられないが、人種は隠れた争点といえる。黒人を大統領として受け入れる準備が米国人にあるかが問われる選挙となるだろう。

 指名受諾演説でオバマ氏は「私が最も大統領候補らしくない候補であることはわかっている。典型的な名門でもない。だが全米で何かが揺れ動いているから、私はここにいる」と述べた。時代が見つけた新しい指導者の自負と挑戦がうかがえる。

 主流ではない少数派の初の候補として、マケイン氏と3回のテレビ討論で政策を競いあってほしい。次期政権の動向に大きな影響を受ける世界中の人が本選まで約2カ月間、両候補の政策論争と米国民の選択を見守っている。

毎日新聞 2008年8月30日 東京朝刊

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