現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

定額減税―ばらまきに踏み出すのか

 福田首相は、総選挙めあてのばらまき政策へこのまま踏み出してしまうのだろうか。

 政府・与党が決めた総合経済対策に、所得税や住民税から一定額を差し引く「定額減税」を実施する方針が盛り込まれた。本格的に実施するなら兆円単位の財源が必要になる。だが、それだけの財源を確保できるめどはまったく立っていない。

 これを押し込んだのは公明党だ。定額減税は所得が低い人ほどありがたみが出る。公明党には、かつての地域振興券や児童手当の拡充と同じように、党の実績として選挙で売り込みたいという思惑があるのだろう。

 首相は定額減税に消極的だった。ばらまきに手をつけたと見られれば「改革の旗を降ろした」と批判され、逆に選挙で不利になりかねないからだ。

 それでも公明党の主張に折れたのは、総選挙で創価学会の支援がぜひほしいという事情からだろう。

 来月12日からの臨時国会で、対テロ戦争支援のための補給支援特措法の延長や消費者庁設置法案など民主党が反対する重要法案を通すときも、公明党がそっぽを向けば衆院での再可決ができない。そうなったら、政権そのものが立ち行かなくなる。

 いま日本の財政は、先進国で最悪の状態にある。年金や医療、介護、教育、政府の途上国援助などにもっと予算が必要だと指摘されながら、十分に手当てできずにいる。それは、バブル崩壊後の10年間に歴代政権が実施した合計130兆円規模の経済対策で、国債を財源に減税や公共事業をばらまいてきたことが原因だ。

 今回の対策には定額減税以外に、中小企業の金融支援や高速道路料金の引き下げなどが盛り込まれている。その財源1.8兆円は予備費や剰余金などを活用し、赤字国債に頼らないでも調達できるとしている。

 しかし、景気が後退期に入って税収が不足し、年度末に国債を追加発行せざるをえなくなるのは目に見えている。低所得層への手助けは考えるべきだが、それを定額減税のような手法で行う余裕は、いまはない。

 首相は「財政規律を堅持し、赤字国債の発行は行わない」という。減税の財源は手当てするのだからばらまきではない、と言いたいのだろう。

 なるほど、定額減税の規模や実施方式については「財源を勘案しつつ年末の税制抜本改革にあわせて検討する」としている。実施を玉虫色にして結論を先延ばししたともとれる。

 それならば、首相はその言葉どおりにやってもらいたい。国債は追加発行しない。さらに、特別会計にある積立金、いわゆる「埋蔵金」を流用するのも禁じ手にすべきだ。埋蔵金は本来、借金の返済に使うべきものだからだ。

オバマ候補―「夢」の次に語るべきは

 「私には夢がある」。米国の公民権運動指導者マーティン・ルーサー・キング牧師がこう演説したのは、45年前の8月28日だった。「子供たちが肌の色ではなく、人格で評価される国に住める日がいつか来る」と、将来への期待を語った。

 そのとき2歳だったバラク・オバマ氏が、民主党の大統領候補に指名された。2大政党では初のアフリカ系の候補だ。8万人の支持者を前に熱っぽく受諾演説をする姿に、キング牧師の描いた「夢」を重ね合わせた人も多かっただろう。

 白人で、アングロサクソン系で、プロテスタント。かつて、米国政治の主流は「WASP」と言われた。そんな伝統に終止符をうつかのようなオバマ氏の指名獲得である。

 この原動力となったのは、米国政治の変化を望む国民の思いと、オバマ氏を支持することで人種対立の歴史を乗り越えたいという人々の願いであったに違いない。

 米国の人口推計によると、現在、人口の過半を占める白人は、ヒスパニックや黒人、アジア系の増加で、2042年までに5割を切る。米国社会の構成は、ますます多様になっていくということだ。

 保守のブッシュ政権でも、パウエル、ライス両国務長官をはじめ、要職にマイノリティーを起用するのは珍しいことではなくなった。共和党のマケイン候補も、バングラデシュから養女を迎えている。

 もちろん人種差別は、米社会に根強く残っている。ただ、その壁を乗り越える人は確実に増えている。その努力を評価し、多様性を是とする風潮も広まっている。アフリカ系を大統領候補にまで押し上げ、受け入れる米社会の活力と懐の深さは素晴らしい。

 最近の世論調査では、オバマ氏の支持率は伸び悩み気味だ。ロシアのグルジア侵攻などの国際的な大事件や、経済の低迷が長引くなかで、マケイン陣営から浴びせられる「経験不足」という批判が、効き始めているのかもしれない。

 人々の「米国の夢」への思いを鼓舞できたとしても、それだけで米国を率いる指導者が務まるわけではない。

 指名受諾の演説で、オバマ氏は米経済の立て直しを語り、勤労世帯への手厚い配慮を打ち出した。「イラク戦争を責任ある形で終結させ、アフガニスタンでのアルカイダとタリバーンとの戦いを終わらせる」とも宣言した。

 では、どうやってそれを実現するのか。近く共和党大会で指名を受けるマケイン氏は、そこを攻めようと手ぐすねを引いている。それに耐え、米国民の抱える不安に応えられるのか。

 大統領候補としてのオバマ氏が、厳しく吟味されていくのはこれからだ。

PR情報