アフガニスタン東部で日本の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」の伊藤和也さんが武装グループに拉致された事件で、見つかった遺体が伊藤さんと確認された。
遺体には銃撃を受けたあとがあった。伊藤さんは五年前に現地に赴き、地元住民に密着した支援活動を続けていた。「人々のために」という善意に対するこれ以上ない裏切りだ。最悪の結末に怒りと悲しみが募る。
反政府武装勢力タリバンの報道官が共同通信の取材に対し日本人を殺害したことを認め、また拘束された犯行グループのメンバーは「治安悪化を印象づけ外国人を追い出したかった」と供述しているという。だが、身代金目的といった見方も捨て切れず、犯行グループとタリバンの関係も明確ではない。事実関係などについて地元当局の厳正な捜査が望まれる。
アフガンでは最近、急速に治安が悪化している。七月中旬の戦闘では米兵九人が死亡し、今月中旬にもタリバンとの交戦によって一度にフランス兵十人が死亡、二十人以上が負傷している。米軍の死者数は二〇〇一年の攻撃開始以来、最悪のペースで、無政府状態との指摘もある。伊藤さんら民間人にとっても危険が増していた。
ペシャワール会が活動する東部はタリバンの活動が活発な地域だ。だが、二十年以上前から続けてきた会の活動には定評があった。メンバーは地元の人たちと同じような服を着用し、習慣や伝統にも配慮しながら現地に溶け込んで診療所の運営や用水路の建設事業を行ってきた。地道な草の根支援は、大多数の人々に感謝されていたようだ。
それでも今回のような事件が起きた。米軍などと同一線上に見られたのかもしれない。タリバンは事件で拘束された人物と同様、外国人をアフガンから追い出すと主張している。
外務省は事件を受け、アフガンに在留する日本人に対し、国外など安全な地域に退避するよう促す渡航情報を出した。アフガンでは国際協力機構(JICA)のメンバーらも活動している。政府は、危険が極めて高い状況になれば援助関係者を退避させるという。
ペシャワール会の現地代表を務める中村哲医師は「私を含め、情勢に対する認識が甘かった」と言っている。今回の事件は、人道支援に携わっている場合であっても、常に命の危険と隣り合わせであることを見せつけた。政府、民間を問わず、関係者は支援活動の在り方をいま一度見直してみなくてはなるまい。
京都議定書に定めのない二〇一三年以降の地球温暖化対策の国際枠組みを協議するため、ガーナで開かれていた気候変動枠組み条約の特別作業部会が終わった。今後の交渉の論点は整理されたものの、交渉自体は先進国と発展途上国の溝が埋まらず進展は見られなかった。
七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)以降、初の同条約の会議となった作業部会では、先進国だけが負っている温室効果ガスの排出削減義務を途上国も含め拡大できるかが焦点だった。
先進国が打ち出したのが、途上国の温暖化対策の取り組みに経済力などで差をつけることである。日本は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で削減義務を負っていないメキシコなどは先進国と同様にし、さらに「主要途上国」と「一般途上国」に区分する案を示した。
これに対し、途上国側の反発は強かった。「一人当たり国内総生産(GDP)が大きくても、多くの面で先進国とは違いがある」などと譲らなかった。交渉は十二月にポーランドで開く同条約締約国会議に持ち越されたが、難航しそうだ。
今後の交渉の論点の一つに、途上国支援によって先進国が排出枠を取得できる京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)に加える事業の検討がある。日本が主張する途上国での原子力発電所新設や、火力発電所などから二酸化炭素(CO2)を回収して地中貯留する事業などだが、温暖化対策としての原発拡大には反対も根強く、先行きは見えない。
交渉期限は〇九年末に迫っている。かけがえのない地球を守るのは現在を生きる者の使命である。各国は危機感を共有し、合意へ向けて排出削減論議を加速する必要があろう。
(2008年8月29日掲載)