「ペシャワール会」の伊藤和也さんが非業の最期を遂げ、彼の無事解放を待ち望んでいた人々には残酷な結末となった。何よりご本人が無念だったろう。自分の死以上に、自分に期待してくれた人々のもとに無事に帰れないことは、何よりもつらいからである。 彼の仕事は立派である。戦乱で荒れたアフガニスタンの土地を自分の学んだ農業の知識によって回復させようとした。その志半ばでたおれたのである。悲劇である。 彼の志に水を差すわけではない。だが、私は外国でのこうしたNGO活動には疑問を持っている。特にそれに従事する人々の純粋な熱意と善意に対して危惧を抱くのである。危ないからやめなさいと言われてやめますというような人々ではない。自分の信念を貫く意志の強さと行動力を持っている。だから危ういと思っている。 少し意地の悪い見方をしてみる。このようなNGO活動をする人の中に顕示欲と賞賛を受けたい気持ち、また、人々に感謝されたり尊敬されたいという欲望が見え隠れしていないだろうか。活動内容は頭の下がることばかりである。日本では、彼らが活動報告をすれば必ず「偉いですね」「立派ですね」という賞賛の声がわき起こる。そこには批判を受け入れるゆとりはない。批判は多国籍企業の横暴と軍隊を派遣した国、そして政府要人など偉い人々の無策に集中する。自分も現地へ出向いて活動するつもりがなければ、黙って彼らを賞賛するのが無難であると考えられているのかもしれない。 だが冷静に考えればこれはおかしい。 海外だけでなく、日本にも問題は山積みだ。農業問題だけをとっても、荒れた土地は多いし、食料自給率は先進国の中では壊滅的である(関連サイト)。亡くなった伊藤さんはまず日本で活動するべきだったのではないか。今の日本でなら、少なくとも銃弾に倒れることはなかっただろうし、ご両親を悲しませることもなかった。世論には今回のできごとを美談にする動きもあるが、「命を粗末にした」と私はあえて批判したい。 だが、日本には彼の熱意と野心に応えられるだけの仕組みがなかったのかもしれない。 NGOの中には、そのあふれんばかりの熱意と善意に支えられた行動力のために、独り善がりな考え方に陥る団体も多い。そして彼らは普通、他者からの批判を許さないのである。だがアフガニスタンのことはまずアフガニスタンの人に任せるしかないのではないか? あるいはそれが出来ない事情も国際社会にはあるのだろうが、面倒でも私たち日本人は選挙を通じてしかその事態を変えることは出来ないのではないか。それもりも大事なのは、今ある自分たちの日常をいとおしむ気持ちだろう。 マザー・テレサが初来日の時に述べたと言われる言葉を思い出す。 「日本人はインドのことよりも、日本のなかで貧しい人々への配慮を優先して考えるべきです。愛はまず手近なところから始まります(1981.4)」 ◇ ◇ ◇
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