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   視力が突然低下!網膜を襲う現代病

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2008年6月25日放送

今回の番組について

ある日突然視力が0.1以下に低下し、時には失明にまで至る中高年が増加中。その原因は、眼のスクリーンである「網膜」に起こるさまざまなトラブルです。

予備軍1870万人と言われる「ある病気」が網膜をずたずたにしてしまう恐怖のメカニズム、そして、網膜の中でも特に高感度な部分が集中的にダメージを受けてしまう怖い病気「加齢黄斑変性」の実態を徹底取材。かけがえのない「視力」を大切に保つための最新情報をお伝えします。

オープニングクイズ

  • 問題:ミケランジェロの代表作,ダヴィデ像の目の意外な特徴とは?
    答え:ハートマーク
  • 問題:中国では金魚が意外な形で人間の役にたっている。どんなことか?
    答え:眼の動きのすばやさを養う。
  • 問題:次のうち、目の数が最も多い動物はどれか?
    カタツムリ/コガネグモ/ミズクラゲ/ホタテ
    答え:ホタテ
    ※カタツムリは2か所、コガネグモは8か所、ミズクラゲは8か所、ホタテは100か所以上。

「視力が突然…… ある患者の記録」

千葉県在住44歳男性のケースをご紹介します。

野菜市場で働くAさんは、4年前、伝票の文字がかすむなど、見え方に異常を感じるようになりました。慌てて受診した眼科で「このままでは、左目が失明する可能性が高い」との告知を受けたのです。

直後に受けた最新治療(レーザー光凝固)のおかげで完全な失明こそ免れましたが、眼鏡でいくら矯正しても、視力は0.08より良くなることはありませんでした。そして驚くべきことに、この一連の出来事は、わずか1か月以内に起こったのです。

社会的失明

完全な失明ではありませんが、普通の生活が困難になってしまうほどの著しい視力低下を「社会的失明」と呼びます。具体的なケースとしては、「眼鏡などを使っても(矯正視力)、視力が0.1以下で、歩行が困難である」「真ん中の視野が失われる」などが該当します。

視力は徐々に悪くなる、とは限らない!

Aさんが自身の視力を知るのは、2〜5年おきに行っていた運転免許の更新のときでした。これによると、16歳から40歳までの24年間、0.8をキープしていました。

ところが、上で紹介したとおり、視力が著しく低下したのは、40歳を過ぎてからのわずか1か月の間でした。一般には、視力は徐々に落ちるものというイメージがありますが、それは大きな間違いだったのです。

視力低下の原因はどこに?

目の構造は、大きく分けて3段階あります。

  • 水晶体:レンズの役割
  • 網膜:水晶体から取り込んだ対象物を映すスクリーン
  • 視神経:スクリーンの情報を脳に伝える

視力が低下する原因として多く考えられるのが、白内障と緑内障です。

  • 白内障:水晶体が白濁して、視力が低下する
  • 緑内障:視神経にトラブルが起き、視野が欠ける

しかしAさんは、白内障でも、緑内障でもありませんでした。つまり、水晶体と視神経には問題がなかったのです。となると、視力低下の原因は「網膜」にあると考えられます。

「目を見張る大発見!これが視力の心臓部だ」

ここで、視力の仕組みを徹底調査。視力2.0の大学生の網膜を詳しく調べると、網膜の中央に小さな黄色いシミ「黄斑(おうはん)」を発見しました。直径わずか1.5ミリの「黄斑」は視力を司る部分で、これこそが目の急所なのです。

※視力に関わらず、黄斑は存在します。

意外!視力検査の落とし穴

人間がものを見るとき、実際に視力通りに見えるのは、黄斑に映っているごくごく狭い範囲で、それ以外の部分は、実は大まかにしか見えていません。

よって、視力検査とは、網膜上では黄斑の働きだけを診る検査に過ぎず、もしも黄斑以外の網膜で異常が起きていても、視力検査では発見できないのです。

黄斑に忍び寄る魔の手 網膜の出血

「このままでは確実に失明」と宣告されたAさんの場合は、黄斑にこそ異常はなかったものの、実はその時点で、周りの網膜の毛細血管が大きく傷ついていました。視力が著しく低下したのは、傷ついた毛細血管が出血を起こし、目の中を濁らせたためだったのです。ほうっておくと、やがて大出血が起き、完全に見えなくなる可能性が高い状態でした。

網膜の毛細血管が傷んでいく過程では、自覚症状はほとんどありません。だからAさんは、自分の目の異常に気がつかなかったのです。

では、Aさんの網膜を傷つけた真犯人は何だったのでしょうか? 実はAさんは糖尿病の患者で、糖尿病の合併症のひとつ「糖尿病網膜症」を発症していました。

「細胞を焼く レーザー治療が必要なワケ」

左目が失明する可能性が高かったAさんが受けたのが、「レーザー光凝固」と呼ばれる治療法で、眼科では一般的に行われているものです。Aさんはこの治療のおかげで、完全な失明を免れました。

この治療の最大の特徴は、まだ生きている網膜の細胞(黄斑以外の部分)を焼いてしまうことです。なぜこのような治療が必要なのでしょうか?

※Aさんが受けた治療は糖尿病網膜症のレーザー治療の中でも比較的痛みの強いものでした。症状の軽い場合のレーザー治療では「全く痛くない」という人も大勢います。

真犯人は新生血管

糖尿病を患うと、網膜に無数にある毛細血管の中に詰まってしまう箇所が出てきます。すると、網膜の細胞の中に、酸欠状態に陥るものが出てきます。

このときに作られるのが「新生血管」です。新生血管は、詰まってしまった血管の代わりに、細胞に酸素を届けようとしますが、血液を漏らしやすく切れやすいのが特徴です。新生血管がたくさんできると出血の範囲がだんだん広がってしまい、やがてAさんが経験したような大出血につながるのです。

なぜレーザー治療が必要なのか?

新生血管ができる元々の原因は、網膜に起こる酸素不足です。血管の詰まりを解消し、再び網膜に酸素を送り込めたら解決するはずなのですが、残念ながらそれは不可能です。

となると、残された道はひとつ。酸素不足に陥った細胞自体をレーザーで焼き、必要な酸素の絶対量を減らしてやることで、新生血管を作らせないよう網膜の細胞の数をあえて減らします。これこそがレーザー治療の真の目的なのです。

専門家の解説

  • 糖尿病網膜症のレーザー治療の有効性について:
    糖尿病網膜症の治療で、現在、最も有効性が確認されているのが、ここで紹介したレーザー光凝固です。保険もききます。
  • 糖尿病網膜症のレーザー治療の副作用について:
    黄斑以外の網膜の細胞は、本来暗いところでよく働く性質があります。レーザー光凝固では、これら網膜の細胞をあえて殺してしまうため、当然、目の性能自体は落ちます。典型的な副作用として、トンネルなどの暗いところに入っても目がなかなか慣れない、慣れても見づらいなどの現象があります。
  • 糖尿病網膜症になったら? 最も気をつけるべきことは?:
    最も大切なのは、血糖コントロールです。これをきちんと行うことで、出血を最小限に抑えることができ、レーザー光凝固の治療をしなくて済みます。次に大切なのは、年1回の眼科の受診です。糖尿病になったとき、内科にはかかっても、眼科を受診する人は少ないからです。糖尿病網膜症は自覚症状なく進行するので、ぜひ定期的に眼科を受診してください。

「見たい部分が見えない 恐怖の現代病」

今度は、仙台市在住の57歳男性の場合を紹介します。今から4年前、Bさんは、不思議な目の症状に見舞われるようになりました。右目だけで見ようとすると、どういうわけか視野の真ん中だけが欠けてしまうのです。「見ようとする部分だけが見えない」という、何とも不思議な症状です。

この病気は、加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)と呼ばれるものです。見たい部分に限って見えないため、非常にストレスがたまることになります。具体的には、次のような症状が現れます。

  • 見えない部分から人が出てきて歩くのが怖い。
  • バスにいざ乗ろうとしても、バスに表示されている行き先が見えない。
  • 人と話そうとしても、顔が見えない。

研究者によれば、正常ならば、くぼんでいるはずの黄斑の真ん中が、ある原因で盛り上がってしまうために起こる病気であると言います。さらに、この病はいま急増中で、眼科の専門医の間でも最重要疾患と位置づけられているというのです。

国内における最新の疫学調査によると、すでに発症している人は43万人、前段階が疑われる人は678万人と推定されています。

加齢黄斑変性の見分け方

加齢黄斑変性は、片目ずつ進行することが多くあります。しかし、片目に多少の異常が出ていても、もう片方の目が補うために正常どおり見えてしまうことから、発見が遅れることが少なくありません。そこでお勧めなのが、アムスラーチャートを眺めてチェックするという方法です。

次の画像を、片目を隠しつつ、真ん中の点をじっと見てください。片目あたり10秒ずつ見るのが目安です。真ん中付近が、ゆがむ、欠ける、ぼやける、などの見え方をした場合は、一度眼科医に相談することをおすすめします。


加齢黄斑変性の原因は?

原因は、黄斑の下にできる新生血管です。黄斑の下に新生血管ができて、この新生血管と漏れた血液が黄斑を押し上げるために、黄斑の形が変形してしまうのです。

「加齢黄斑変性 画期的な最新治療」

加齢黄斑変性を治療する、ここ数年で広まった最新の画期的な方法が「光線力学療法」です。この治療の最大の特徴は、黄斑にレーザー光線を当てる前に、点滴で薬を投与することです。

黄斑には、ものを見るための細胞が特に集中しています。これらの細胞が死んでしまうと失明につながってしまうため、ごくごく弱いレーザーしか当てることができません。

しかし、新生血管だけに結びつく薬を前もって投与しておくと、ごくごく弱いレーザーであっても、新生血管だけをつぶすことができるのです。

「糖尿病網膜症のレーザー治療」と「加齢黄斑変性のレーザー治療」の違い

糖尿病の「レーザー光凝固」は、出血を起こしている付近の網膜の細胞を焼くのが目的です。従って、比較的強いレーザーが必要となります。

一方、加齢黄斑変性の「光線力学療法」は、黄斑の視細胞を生かしつつ新生血管だけを潰すのが目的です。従って、ごく弱いレーザーしか使えず、そのためにレーザーの効果を最大限に高める薬の投与が不可欠となります。

なお、両者とも健康保険が使えます。

また、黄斑の形を見分けるために行う「OCT検査」も、今年の4月に保険適用になりました。


加齢黄斑変性になりやすい人は?

日本での疫学調査の結果、次の2つが加齢黄斑変性の危険因子になることが分かっています。

  • 50歳以上
  • 喫煙者

喫煙によって発生する活性酸素が新生血管を作る要因であることが、最近の研究で分かってきています。

※海外の研究によると、疑われている危険因子はほかにもあります。

自分が加齢黄斑変性の前段階であるかどうか調べられる?

健康診断で行われている眼底検査で調べられます。その場合、両目を診てもらうことが大切です。

※健康診断の種類によっては、眼底検査が含まれていないことがあります。確認したい場合は、健康診断を行う自治体や会社に問い合わせてください。

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