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社説:不動産不況 金融のあり方も問われている

 不動産や建設などの企業の破綻(はたん)が相次いでいる。しばらく前には東京の都心を中心にミニバブルと形容されていた状態だったが、昨年後半から一転して地価の下落も目立つようになった。これに歩調を合わせるように、新興企業を中心に不動産関連企業の株価も急落し、株式市場の足を引っ張っている。

 バブル期の反省から、不動産への融資は、土地そのものの値上がりではなく、不動産を活用して得られる利益をもとに不動産の価値を判定し、その価値に応じて銀行など金融機関も融資を行うというように変わったはずだった。

 そして、個々の不動産開発プロジェクトから得られる賃料などの収益をもとに証券化が行われ、ファンドなどの投資家も参加して、リスクは分散されることになっていた。

 しかし、米国の住宅バブル崩壊に伴い世界の金融市場が混乱する中で、不動産ファンドに資金を供給してきた外資が引き揚げ、銀行も融資に慎重になった。資金の流れが変わり、不動産市場をめぐる光景は一変してしまった。

 元利の返済をその事業の収益からに限定するノンリコースローンと呼ばれる融資の手法が使われた。しかし、5年程度で借り換えが必要で、その資金が調達できず、破綻につながっている。その余波は建設業にも及んでいる。

 開発業者は建設した物件をファンドに売却し、ファンドはこれを転売するという形で、事業が拡大していった。しかし、不動産開発には地上げなどで反社会的勢力が関与してくることも少なくない。

 金融当局も警戒し、金融機関の姿勢も厳しくなっているようだ。また、銀行に対する自己資本規制のルールが変わった影響もあるという。

 融資に対するリスクは格付けに応じて変動する。東京でも地価が下落に転じており、格付けが下がった不動産会社への融資は絞られることになる。

 不動産、建設業の苦境の背景には、公共事業費の抑制や建設資材の高騰、耐震偽装問題で行政のチェックが厳密になったことなどもある。しかし、資金が、急速に引き揚げられたことが大きく作用している。

 ミニバブルの過程で、大都市部での不動産ブームにあやかろうと、銀行など金融機関の評価が甘くなったという面もあるだろう。また、不動産開発は、そこからあがる収益が長期間にわたるにもかかわらず、長期的資金を不動産開発に安定的に供給する仕組みが十分でないという問題もある。

 いずれにしても日本の国富の半分近くを土地が占めており、不動産市場の動向は、経済全体に大きく影響してくる。不動産をめぐる金融のあり方について、改めて問い直してみることが必要だ。

毎日新聞 2008年8月29日 東京朝刊

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