厚労省史上初?−異例ずくめの「ビジョン検討会」
「委員独自でまとめた『報告書骨子案』をベースにした『中間取りまとめ案』が出たのは、厚生労働省史上初ではないか」「ドクターフィーが盛り込まれたのは歴史的革命」―。厚労省の事務局が主導してきた従来の検討会に比べて「異例」ずくめだとの声が上がる「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会(座長=高久史麿・自治医科大学長)。従来の検討会の在り方に、くさびが打ち込まれたのだろうか。(熊田梨恵)
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「合宿」再開決定−問われる厚労行政の在り方 舛添要一厚生労働相の肝いりで開催された同検討会は、8月27日に中間取りまとめを行った。「将来的に50%医師養成数を増加」「(医師の技術を評価するための)ドクターフィーを検討」「インセンティブとして手当支給」など、中間取りまとめ(案)には、委員が要求した意見が記載されている。
厚労省の担当者は会合終了後、記者団に対し「ドクターフィー」を検討していくとの内容が盛り込まれたことについて、「保険局が聞いたら激怒するだろう」と述べた。
24日の前回会合で、海野信也委員(北里大産科婦人科教授)らの連名で、医師養成数を現在より50%増やし、後期研修の在り方を中心に臨床研修制度について見直す検討会を設けるなど、現場の医師の委員からの発言が多く盛り込まれた「報告書骨子(案)」が提出されていた。
厚労省の検討会などの取りまとめ(案)は、通常は事務局を担う部局が作成するため、委員が独自でこうした整理案を出すのは異例。報告書骨子(案)の細部には異論もあったが、方向性自体に委員は大筋で合意しており、これをベースに報告書がまとめられるものと思われた。
■似た内容の2種類の資料
しかし、27日の会合では、議論の内容が盛り込まれた資料が2種類出された。一つは、「『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化に関する検討会中間取りまとめ(案)」。もう一つは「『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化に関する検討会への提言」と題するもので、前回の会合に海野委員らが示した報告書骨子(案)に酷似している。この「提言」は、高久座長と大熊由紀子委員以外による連名で、これまでのヒアリングに参加した医師と医学部看護学科教授の名前もあった。
中間取りまとめ(案)は、医師の不足や偏在に配慮した内容になっている。「骨太の方針2008」と同様に、医学部定員を過去最大まで増員するとし、「将来的には50%程度医師養成数を増加させることを目指すべき」とした。
また、過酷な労働環境に置かれている産科や小児科、救急を担う医師に対するインセンティブとして、個別手当を付けるべきとした。診療報酬のドクターフィーとホスピタルフィーを区別して、外科などの医師の技術を適切に評価することも盛り込んでいる。会合で、現在の診療報酬体系では、勤務医対策とされている加算などが病院に対する収入にはなっても、個別の医師への報酬に必ずしも結び付かないことに対して改善を求める意見も上がっていたことを受けたものだ。
高久座長が「中間取りまとめ(案)というのを出させて頂いた。今までの委員や参考人のご意見を聞いて、一応まとめさせて頂いたもの」と述べて内容を読み上げ、委員の意見を聞いた。委員からの要望により細かい字句修正が加わったが、基本的な内容は変わらない方向になった。座長は会合終了後、記者団に対し、委員は大筋で了承したとの認識を示した。
会合で嘉山孝正委員(山形大医学部長)は、中間取りまとめ(案)について、「医療現場の若い人のモチベーションが高くなる。『ドクターフィー』や『インセンティブ』という言葉が盛り込まれたことは歴史的革命だ。このように『思惑』なく日本の医療について語った会はそんなにないのでは」と感想を述べた。
■前回の「骨子案」が「提言」に?
一方の「提言」については、海野委員が会議冒頭の資料説明の際に、「これまでの議論でコンセンサスを得られる部分を中心にまとめた。大臣からもこの検討会は続けてもらえるというので、この提言を検討材料に加えてより充実したものにして頂ければ」と述べた。
この提言は、▽医師養成数▽医師の偏在と教育▽地域医療・救急医療体制支援と住民参加▽コメディカルの雇用数と教育−などの項目から成る。
中間取りまとめ(案)にあった以外の内容では、「指導医の監督下における医学生による医行為について、国民の理解を得る必要がある」、子育て中の女性医師の就労環境改善策として、「一般の保育所の増設・整備を進める等、円滑な入所を促進する」、コメディカルについて「看護師や病棟薬剤師などの数をまず2倍に増加させる」などの内容を盛り込んでいる。
「中間取りまとめ(案)」は、この「提言」のトーンを弱めたものに見受けられた。
この日、2種類の資料が出てきたことについて、委員の一人は会合終了後、キャリアブレインに対して以下のように解説。前回の「骨子(案)」が「提言」に姿を変え、厚労省側が「中間取りまとめ(案)」を新しく作成したとした。
「本当はもともとの骨子案を報告書にしたかったが、大熊由紀子委員(国際医療福祉大大学院教授)と高久座長が名前を載せなかった。大臣からも全員の合意にしてほしいと言われたので『提言』という形にせざるを得なかった。大熊委員の意見も入れたかったが、今朝になって返事が返ってきたので、時間もなくどうしようもなかった。高久座長は最終的には骨子(案)の内容にうなずいたと聞いている。また、事務局の医政局は内容をまとめ切れなかったので、大臣官房の改革推進室に取りまとめを頼まれて徹夜でやっていた。何度も電話が掛かってきた」
大熊委員は会合終了後、「24日に出された『骨子(案)』の時には声を掛けられなかった。この『提言』は前日に送られてきて、入ってほしいと言われた」と述べ、急だったことや、提言では国民や患者への配慮などが不十分だったため合意できなかったとの見解を示した。その上で「補完」として、「『安心と希望の医療確保ビジョン』具体化のために〜国民の目線から」と題する資料を会合に提出したと説明した。
■ ■ ■
委員が独自で「論点整理(案)」や「報告書骨子(案)」を作成し、いったんは中止になった集中審議も委員の提案で開催に持ち込まれるなど、従来の厚労省の検討会に比べて「異例」ずくめの同検討会。委員に対する事務局のハンドリングが効かないためか、「事務局はきちんと対応する気があるのか」と指摘する委員もいる。こうした背景には、事務局の官僚と厚労相側の綱引きがあるとの指摘もある。そのためか、今回の検討会の「中間取りまとめ(案)」は、24日に委員がまとめた「報告書骨子(案)」をほぼ受け入れた内容になった。
「今回ほど委員主導で取りまとめられるのは省内史上初では。担当でない部局が『取りまとめ(案)』をつくったり、内容に関する省内での調整無しに会合の開催に至ったりするのも異例」と話す関係者もいる。
こうした検討会が生まれたことは、今後の厚労行政が変わる上での萌芽になり得るのだろうか。
更新:2008/08/29 00:36 キャリアブレイン
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