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2008年8月29日

◎医療確保ビジョン 研修医見直しも急がねば

 厚生労働省の「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化検討会が大学医学部の定員を現 在の一・五倍程度にする目標を盛り込んだ中間報告をまとめ、文部科学省も来年度の増員方針を新たに打ち出した。長期的な方向性はよいとしても、医師養成は十年近い年月を要するだけに即効性は期待できない。地方の医師不足を改善する優先課題は何といっても臨床研修制度の見直しである。

 舛添要一厚労相は今週、制度見直しへ向け、厚労、文科両省の合同検討会を設置する考 えを示したが、そこに大胆なメスを入れてこそ「医療確保ビジョン」の実効性が高まることを認識してほしい。

 二〇〇四年度に必修化された臨床研修制度の従来の見直し論議では、研修の質向上や診 療科の偏在対策に重点が置かれ、地域医療を担う人材育成という目標はあっても、その人材を地域に定着させる視点が弱かったように思われる。研修の中身の充実はもちろん大事だが、新人医師が自由に研修先を選べる制度で金大、富大などが人手不足に陥り、関連病院のスタッフを引き揚げて医師不足に拍車をかけたことを考えれば、それを是正する仕組みが必要である。

 文科省と厚労省が同じテーブルについて検討するなら、文科省所管の大学医学部と、厚 労省が管轄する卒後研修の一貫性についてぜひ議論を深めてほしい。

 研修医の流出に危機感を抱いた石川、富山県では、金大、富大を中心に県や臨床研修病 院が連携し、研修医の受け入れ体制を整える取り組みが始まった。従来の大学医局制度に弊害はあったとしても、大学はこれからも地域医療を支える柱であることに変わりない。大学を中心とした医師養成システムの利点については、もっと評価されてよいはずだ。

 制度の根本的見直しにつながるかもしれないが、医学部教育と卒後研修を一体的にとら え、地域の医療ネットワークの中で医師を育てる発想があっていいだろう。石川、富山県で進む研修医の受け皿整備をみれば実現不可能とは思えない。少なくとも、そうした仕組みに近づけることが大事であり、合同検討会には地方の取り組みに十分配慮した見直しを望みたい。

◎核無能力化中断 どう喝外交にひるまずに

 北朝鮮は、米国がテロ支援国家指定解除を延期したことを「合意違反」と非難し、対応 措置として寧辺の核施設無能力化の作業を中断、さらに施設復旧の措置も考慮すると表明する声明を発表した。

 寧辺での無能力化作業ですでに冷却塔が爆破されており、復旧には一年以上の時間がか かるとみられる。そうしたことなどから、お得意の「どう喝外交」あるいは「瀬戸際戦術」であり、北朝鮮が申告した核計画に対する検証について、米国が求める方法の骨抜きをはかるのがその狙いと思われるが、核保有への野心もかいま見えるようだ。六カ国協議として、どう喝に屈しないことが重要である。

 米国の指定解除延期は、核計画の検証について北朝鮮が同意しないからである。七月の 六カ国協議の首席代表会合では検証方法について▽施設への立ち入り▽北朝鮮の技術者に対する聞き取り▽サンプルの検査―の三原則で合意している。

 しかし、米国は立ち入り検査の対象を広げ、製造済みの核兵器や核実験についても検証 することを求め、それに北朝鮮が反発しているといわれる。

 要するに、北朝鮮は寧辺の申告済み施設に検証をとどめるために、かたくなに米国が求 める検証を拒否しているのだろう。

 北朝鮮の核問題については三段階で解決していくように動いており、第二段階の検証を めぐって合意できずにいるわけである。仕切り直しになる可能性を否定できないが、北朝鮮が核保有への野心を捨てきっていないのだから、不完全な甘い対応は禁物である。

 第二段階の検証には北朝鮮がすでに製造している核や、疑惑が持たれているウラン濃縮 、シリアに対する核協力などが入っていない。これらに対する検証は第三段階になり、この段階で北朝鮮の核の完全放棄への見返りとして五カ国が軽水炉を提供することになるともいわれている。

 北朝鮮が核を完全に放棄するかどうかは極めて不透明である。この国の非核化を進める にはあいまいさを残さないことだ。


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