太田誠一農相の政治団体「太田誠一代議士を育てる会」が東京都目黒区の農相秘書官の自宅を事務所として届け、二〇〇〇年以降、五年間で経常経費計約四千八百二十万円を計上していたことが明らかとなった。
安倍前内閣を窮地に追い込んだ閣僚の事務所費問題の再燃である。太田氏は「個人的には問題はない」との認識だが、内閣改造で政権浮揚を目指そうとした福田康夫首相にとっては、大きな痛手である。
問題の事務所の経常経費の内訳は、事務所費や人件費などという。一年で一千万円を超えている年もある。秘書官の自宅は一戸建ての民家で、事務所などの表札はなく、家賃も支払われていない。本当に事務所としての活動実態があったのかどうかが今後の焦点となろう。
太田氏は「政策秘書がやっていることが実態」として、議員会館や福岡の地元、自宅で支出した経費を計上しているなどと述べたが、説明が不十分だ。領収書などの裏付け資料を公表する意向を示している。使途を早く明らかにすべきだろう。
安倍前内閣の事務所費問題では、契約していないビルや家賃などのかからない議員会館に事務所を置きながら、多額の事務所費や光熱水費を計上していたことが問題となった。疑惑を指摘された佐田玄一郎行政改革担当相、赤城徳彦農相は辞任し、松岡利勝農相は詳しい説明をせずに自殺した。
太田氏の事務所費の問題も同様な構図である。政治とカネの問題があれだけ政界を騒がせたにもかかわらず、過去の教訓から何も学ばなかったとしたら、あきれるしかない。
政治とカネの問題は、政治資金規正法の改正にもつながった。今年一月から五万円以上の経常経費には、領収書の添付が義務付けられた。来年分の政治資金収支報告書からは領収書の全面公開が適用される。しかし現職閣僚から問題が噴出するようでは、国民の政治不信を回復させるのは難しかろう。
臨時国会の召集が来月十二日とようやく決まった矢先だ。事務所費問題で野党は一斉に太田氏の辞任を要求している。厳しい追及を受けるのは必至だ。
太田氏は、農相就任後にテレビ番組で食の安全をめぐって「消費者としての国民がやかましくいろいろ言うと応えざるを得ない」などと発言して、野党から批判を浴びたばかりである。
先の内閣改造で、福田首相は閣僚の不祥事を避けるために、時間をかけて「身体検査」を行い人選したはずだ。福田首相の任命責任も問われよう。
北朝鮮の非核化に向けた動きが、またもや暗礁に乗り上げた。米国がテロ支援国家指定解除を延期したことに反発した北朝鮮が、強硬な対応措置を打ち出したからだ。
北朝鮮はテロ支援国家指定解除の延期について、米国の合意違反と非難した上で、六カ国協議に基づき行われている寧辺の核施設を使えなくする無能力化作業を八月半ばから中断していることを明らかにした。さらに再び施設が使えるように復旧する措置も考慮するとした。
六カ国協議の非核化プロセスが足踏み状態に陥るだけではない。施設復旧の考えのあることが示されたため、後退の可能性も生じてきた。危機を演出し、相手の譲歩を引き出す北朝鮮特有の揺さぶり戦術だろうが、またかという感じだ。日本の拉致問題への影響も懸念される。
非核化プロセスは、核施設稼働停止などの初期段階に続く第二段階に入っている。核施設の無能力化と核計画の申告が柱だ。北朝鮮は無能力化作業に入るとともに、核計画の申告書を六月に提出した。
見返り措置として、六カ国協議ではエネルギー支援などが約束された。加えて米ブッシュ政権は申告書の内容が完全に検証できる環境が整えば、テロ支援国家指定を解除することで北朝鮮と合意した。
解除の判断期限は八月十一日だった。米国は北朝鮮が提案した検証方法が厳格さに欠けるとして解除を先送りしたため、北朝鮮の反発が予想されていた。
北朝鮮は検証方法をめぐって米国に譲歩を迫り、テロ支援国家指定の解除を狙うだろう。任期切れが近いブッシュ政権の正念場である。他の関係国もエネルギー支援などのメリットを強調し、北朝鮮に対し自重を促す必要がある。
(2008年8月28日掲載)