「伊藤君のご両親には本当に申し訳ない気持ちだ」。28日午後、ペシャワール会スタッフの伊藤和也さん(31)の遺体とともにアフガニスタンの首都カブール入りした同会現地代表の中村哲医師(61)は、日本大使館で記者会見。目を潤ませながら遺族への謝罪を繰り返し、「伊藤君は現地に溶け込み、人々にとても好かれていた。このことをしっかりとご両親に伝えたい」と語った。
悲報を伝えた中村代表に対し、伊藤さんの父、正之さんは「息子は固い意志でアフガンへ行った。迷惑をかけてすいません」と逆に謝罪したという。「私も6年前に10歳の息子を病気で亡くした。子供を失った親の気持ちは痛いほどわかる。ご遺体を早くご両親の元に届けてあげたい」と言葉を詰まらせた。
中村代表は、この日カブール大で行われた遺体の検視結果をもとに、「伊藤君は両足を銃で撃たれた後、がけから転落し、死亡したのではないか」との見方を示した。
中村代表が聞いた検視結果によると、伊藤さんの左足には8~10カ所、右足にも数カ所の銃弾を受けた跡があった。また、顔面に岩で打ったようなひどい打撲痕があった。中村さんは「遺体は高さ数メートルほどのがけの下にあったと聞いた」と語った。
中村代表は28日朝、パキスタンから拉致現場に近いジャララバードに入り、初めて伊藤さんの遺体と対面した。ひつぎに入れられた遺体の顔を、何かを語りかけるように見つめ、手を挙げて遺体に向かい敬礼した。
ジャララバードにあるペシャワール会の事務所では同日、中村代表も出席して伊藤さんの葬儀が営まれた。福岡市で会見した福元満治事務局長(60)によると、伊藤さんが農業支援をしていた村の有力者ら500人以上が集まって祈りを捧げた。
地元の人々による弔辞では、伊藤さんを「立派な男だった」とたたえる声に交じって、「恩を仇(あだ)で返すことになって非常に恥ずかしい」、「犯人と自分たちが同じアフガン人とは思わないでほしい」など、哀悼と謝罪の言葉が相次いだという。
この日参列したのは村の長老や現地警察関係者らが中心で、会場に入りきれなかった一般の村人向けに、後日改めて葬儀が計画されているという。
福元事務局長によると、同会は遅くとも9月中に、アフガニスタンとパキスタンに派遣している日本人スタッフ13人を全員一時帰国させる方針を固めた。再派遣の是非は治安の回復状況をみて判断するが、福元事務局長は1年以上の空白期間が生じる可能性も示した。その間も農作が継続するよう、一時帰国前に現地住民へ業務を引き継ぐという。【朴鐘珠、カブール栗田慎一】
毎日新聞 2008年8月28日 21時36分(最終更新 8月29日 1時59分)