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日本の「IT自給率」を考える

希薄な目的意識と、時間単価の“共犯関係”

下がり続けるIT関連業務の賃金

専門家に投げっ放しではダメ

 これは、ITに詳しい、詳しくないというレベルの話ではない。「自分たちのやりたいこと、達成したいこと」を明確化する段階も業務の一部だ、という認識の問題だ。例えば、コンサルタントやベンダーから提案を受ける前後の段階で、彼らとの細かなやりとりが発生しているはずだが、既にそれはゴールのイメージを固める作業の一部であり、その時点からプロジェクトは実質的にスタートしているのだ。ならば、場合によっては提案にもフィーを支払う、という感覚があっていい。

 裏返せばこれは、「誰かに頑張ってもらえば何とかなるだろう」という甘えとの決別でもある。実際これまで日本人は、様々な業務を気合と根性で乗り切ろうとし、またそれを取引先にも押しつけてきた面がある。工場では、業者も含めて寝ずに働けば製品が完成するように。あるいは足で稼げと無理な営業活動を強いたように。

 高度成長期は、わざわざゴールを設けずとも、このやり方で成果をあげることができたのも事実かもしれない。この強烈な成功体験は、まだまだ企業に染み付いているように思う。時間単価と工程数で効率を計ろうとする思想が残っているのも、その証左のように思える。しかしそうした考え方こそが、実は日本におけるITの土壌を奪っているのではないか。

 だとすると、やはりITを使いこなす側であるユーザーがしっかりしなければ、何も変わらない。それこそユーザーの主体的な意識が低ければ、たとえベンダーたちに悪意がなくても、彼らに我田引水され、その言いなりになってしまう。それでは不効率なだけでなく、本来作るべきものが作れなくなる危険性が高まる。このところあちこちで頻発する事故や品質低下も、実はそんなところに一因があるのではないだろうか。

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このコラムについて

日本の「IT自給率」を考える

「IT立国」を掲げたIT戦略会議が発足したのが2000年7月。8年経ってブロードバンドが普及し、ケータイは財布やテレビ代わりと便利になった。でも気づけば、日本からマイクロソフトやグーグルのような会社が生まれてこない…。この状況は農業と重なる。食べるのに困らないうちは、40%を切る自給率は問題にならなかった。しかし、食糧が高騰した今、状況は一変した。このままでは、ITも似た道をたどるのではないか。パソコンやインターネットと一緒に成長した「ナナロク世代」の筆者が、日本のIT事情を“自給率”の観点から探る。

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著者プロフィール

クロサカ タツヤ(くろさか・たつや)

クロサカ タツヤ 1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からインターネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事する。2007年1月に個人事務所を開設。現在は戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)取締役。

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