民主党が永住外国人(約84万人)に地方自治体の議員と首長を選ぶ権利(地方選挙権)を付与するかどうか検討を続けている。一方、公明党が平成17年に衆院へ提出した永住外国人地方選挙権付与法案は継続審議中だ。地方選挙権とはどんなもので、各党の動向はどうなっているのだろうか。(政治部 榊原智)
参政権は主として選挙権と被選挙権からなり、国政と地方政治のレベルに分けられる。定められた年齢以上の日本国民なら原則、誰でもこれらの権利を持っている。外国人への付与の是非が論じられている地方選挙権は、国政ではなく地方のみ、被選挙権ではなく選挙権のみに限定されているという意味で、いわば「4分の1参政権」(付与反対派の長島昭久民主党衆院議員)だ。
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この問題が国会で論じられるようになったのは、在日韓国人への地方選挙権を求める訴訟に対する平成7年2月の最高裁判決が出てからだ。判決は、訴え自体は棄却しながら、主文とは関係がない「傍論」部分で、憲法は永住外国人への地方選挙権付与を保障していないが、禁じてもいない。立法政策上の問題だ−と打ち出した。反対派は「傍論には法的拘束力はなく、裁判官の独り言のようなもの。金科玉条にするのはおかしい」(自民若手)とみるが、賛成派はこの傍論を強調している。
公明党は10年10月、民主党と一緒に最初の付与法案を衆院へ提出した。12年6月の衆院解散で廃案となったが、公明党はこれも含め5本の法案を提出してきた。国会で成立しないのは連立与党の自民党の反対論が根強いからだ。
民主党は結党時(10年)の基本政策で「定住外国人の地方参政権などを早期に実現する」とし、10、12年に法案を提出したが、廃案となった。それ以降は提出していない。
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だが、民主党の賛成派は「在日韓国人をはじめとする永住外国人住民法的地位向上推進議連」(会長・岡田克也党副代表)を今年1月に結成、5月には、「多文化共生社会」をつくるとして、外交関係のある国の永住外国人に地方選挙権を付与▽リコール請求権、条例制定・改廃請求権、民生委員など公職就任権は当分付与せず、検討課題−とする法案整備を提言した。民主党は6月、小沢一郎代表の諮問機関「永住外国人地方選挙権検討委員会」(委員長・渡部恒三党最高顧問)を発足させたが、賛否両派の論争が続いている。
反対派は提言に対し(1)傍論に法的拘束力はない(2)参政権は憲法上も外国人に譲り渡せない国民固有の権利(3)地方行政は竹島、教科書、基地問題や有事の際の国民保護、周辺事態の対応などで国政と密接な関係にあり、外国人の選挙権行使が国益に反する恐れはないか(4)外国にも提言のような全面的な付与の例はほとんどない(5)選挙権付与より帰化要件の緩和を検討すべきだ−と疑問を呈している。
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■衆院へ提出された永住外国人地方参政権付与法案
提出政党 提出時期 付与する権利 経過
(1)民主・公明 平成 地方選挙権 12年6月解散で廃案
10年10月
(2)共産 10年12月 地方選挙権 〃
・被選挙権
(3)公明・自由 12年1月 地方選挙権※ 〃
(4)公明・保守 12年7月 〃 15年10月解散で廃案
(5)民主 〃 〃 〃
(6)公明 16年2月 〃※ 17年8月解散で廃案
(7)公明 17年10月 〃※ 継続審査
※(3)と(6)は朝鮮籍(北朝鮮)を対象から除く。(7)は日本国民に地方選挙権を付与した国の永住外国人に地方選挙権を付与
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