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【暮らし】

医療をまもる 諫早の小児救急

2008年8月28日

 午後八時。長崎県諫早市の中核病院・健保諫早総合病院の小児科外来に「諫早市こども準夜診療センター」の木看板がかかった。毎晩三時間、市医師会が運営する診療センターが、内科の小児救急を担う。

 お盆前の平日。当番医は市内で営む小児科医院の診療を終えて、駆けつけた。受け付けの電話は八時十五分ごろから鳴り始めた。症状を聞いた看護師が医師に確認し、熱性けいれんを起こした一歳の子の親には「来てください」。輪ゴムを食べたという一歳の子の親には医師が代わり「落ち着いてるなら様子を見て」とアドバイスした。この夜の電話は九件。うち来院者は、熱性けいれん、ぜんそく、夏風邪など六人。多い日は二十人を超すという。

 二〇〇六年十一月にオープンした診療センターは、医師会員の小児科開業医のうち九人が当番制で勤務。土日、休日は同病院と県立の医療機関などの小児科医計十人で回している。看護師は医師会が雇用する一人と同病院からの二人体制。

 医師会の夜間診療センターは全国に多くあるが、諫早方式の特徴は、院外の医師が病院の機能を利用できることだ。必要に応じてCT、エックス線検査、血液検査などができるし、夜勤の検査技師、薬剤師らも協力する。入院が必要な場合、病院の担当小児科医と連絡を取り、病棟へ。たらい回しの恐れもない。

 人口十四万千八百人の諫早市には市立病院がなく、小児科の病院はここだけ。以前は小児科医三人だけで夜間の救急を担ってきた。激務のため退職する医師もいて存続のピンチを迎えていた。吉次邦夫市長が小児救急の充実を公約に掲げていたこともあり、同市は周辺市との連携も含めて小児科医不足の対策を話し合ってきたが、以前から小児科の休日医療を応援していた医師会が同センターを設置することになった。

 経営面は市が医師会に委託する形で人件費・事務費を負担。センターで働く医師たちは、諫早総合病院と個々に非常勤嘱託の契約を結ぶ。県立施設の医師の“兼業”についても、県が役割を理解して了承した。

 市にとっては、自前の夜間診療所を新設するよりもはるかに少ない予算で開設できたため、その分、医師の報酬を手厚くできた。

 医師は充実した環境で、勤務医と連携しながら診療に当たることができる。開業医の辻本善樹さんは「判断に迷う場合、勤務医に相談できて安心。いろんな勉強もできる」と話す。

 それまで自宅の診療所で急患を受けていた医師たちも、センターに一本化できて負担が軽くなった。電子カルテの入力を学んだりしながら勤務医と交流するうち、日常の「病診連携」も進んだという。

 病院にとっては、このうえない助け舟。十一時以降の救急業務は小児科に再びバトンタッチされるが、冨永典男小児科部長は「センターができて、深夜の時間帯は本当に緊急を要する人しか来なくなりました。本当に助かっています」と力を込めた。利用者にとっても、総合病院で毎晩、小児科の専門医に診てもらえる安心感は大きい。

 医師会副会長で当番医の一人、野田弘之医師は「本当に必要だったから実現のためにどうしたら、と皆が考えた。お互いが譲り合い、理解し合う姿勢があったからできた」と話す。市や県、病院に地元医師会が、それぞれの立場や壁を少しずつ取り払って「お堅いことを言わない」協力が、勤務医を守り、市民の安心を生んでいる。 (野村由美子)

 

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