代理出産を実施している諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長が28日、福岡市内で開かれている日本受精着床学会で、代理出産全15例の詳細を発表した。根津院長は従来メディアで実施を公表しており、学会発表は初めて。一切の質疑応答を受けない異例の形で行われた。
発表によると、根津院長はこれまでに150例の相談を受けた。実施した最初の10例は姉妹が代理母になったが、心理的なトラブルが起きやすいため、03年以降、実母が代理母になれる事例に限定。依頼者は生まれつき子宮がないロキタンスキー症候群など先天疾患の人が6人、9人はがんなどで子宮摘出を受けた人だった。15例中8例で出産した。根津院長は「代理出産は水面下で行うのではなく、公の場で議論を進めることが大切だ」などと話した。
根津院長の発表前に、同学会は代理出産について禁止でも容認でもなく、「原則禁止」とする日本学術会議と、禁止している日本産科婦人科学会(日産婦)の判断を尊重する--など同学会倫理委の見解を説明。発表後も「倫理的、法的問題にかかわる」と質疑応答を全く行わず、学術会議としては例を見ない展開となった。
他の演題と同じく6分間の発表だったが、約120人の会場は数十人の立ち見が出る大混雑。日産婦の吉村泰典理事長らも姿を見せ、関心の高さをうかがわせた。
発表後に会見した受精着床学会倫理委員長の神崎秀陽・関西医科大教授は「代理出産の実情を学問的に公表することは意義があるが、質疑応答については混乱を生じかねず、根津先生からの申し出で取りやめた」と説明した。【奥野敦史】
毎日新聞 2008年8月28日 20時44分(最終更新 8月28日 21時00分)