今回のグルジア戦争で、ロシア海軍黒海艦隊は
対テロ演習の名目でグルジア西方海上に進出し、グルジア海軍と交戦、ミサイル艇を1隻撃沈しています。逃げ帰った他のグルジア残存艦艇は根拠地であるポチに停泊中、地上進攻してきたロシア地上軍に破壊され、壊滅しました。
実戦での戦果を挙げて大きな存在感を示したロシア海軍でしたが、今度はアメリカ海軍が人道支援物資の輸送を名目にグルジアの港へ向かうと宣言、NATO諸国の艦艇も加わりトルコのボスポラス〜ダーダネルス海峡を抜けて黒海に入りました。遂に米露の艦隊が洋上で直接睨み合う事態に発展・・・すると思いきや、米イージス艦がグルジアの港に入港する直前、ロシア黒海艦隊旗艦モスクワはグルジア西方海上でのパトロールを切り上げ、根拠地であるセヴァストーポリに帰還しました。
(追記訂正:正確にはノヴォロシースク港を経由して移動しています)親衛ロケット巡洋艦モスクワ、セヴァストーポリ帰港(2008年8月23日) |Небесный бытьまた、当初はポチに入港すると伝えられていたアメリカ海軍イージス駆逐艦マクフォールでしたが、8月24日、南部のバトゥーミ港に入港しています。どちらも政治的な判断で相手に対し配慮した結果で、ロシア海軍は米イージス艦がグルジアに到着する前日に現場海域から立ち去る事で、敵対意志が無い事を表しています。一方で米艦の寄港に反発するロシアは地上軍によるポチ管理を強化すると発表、ポチ東部の監視ポスト(橋を占拠)を残して撤退する方針を撤回し、部隊が居座っている為、アメリカ海軍はこれを刺激しないようポチを避けバトゥーミに入港しました。
人道支援の米駆逐艦がグルジアに到着|AFP通信>米海軍駆逐艦「マクフォール」は、大型でバトゥーミ港に入港できないため、沖合に停泊した。なおこのAFP通信の報道は間違いです。バトゥーミ港はグルジア最大級の港湾であり、駆逐艦程度の大きさの艦船が接岸できないような小さな港ではありません。恐らくバトゥーミ港管理事務所とは「岸壁は民間船舶が使用中で空きが無く、取り合えず沖に投錨停泊して欲しい」というやり取りがあったものだと思われます。バトゥーミ港はアゼルバイジャンからの石油積み出し港であり、グルジア経済を支える要所ですが、この戦争ではロシア軍が占拠を狙っては来ませんでした。あまりにもトルコ国境線に近過ぎるからです。
こうしてロシア艦隊とNATO艦隊の直接の対峙は当面の間は避けられました。しかし米イージス艦マクフォールの後続の艦隊がこれからグルジアの港に入港してきます。数が多い為、バトゥーミ港の岸壁が空いていない場合は他の港湾を利用する可能性がある上、欧米がロシアへのポチ撤退圧力として艦隊を利用する決断を下した場合、ポチへの入港もあるでしょう。そうなればロシア黒海艦隊も再び出て来るでしょうから、遅かれ早かれ洋上で睨み合う事態は避けられないのかもしれません。
Russia sends aircraft carrier to Syria|BarentsObserverロシア空母クズネツォフが、地中海沿岸にあるシリアのタルトゥース港に向けて出発するという情報もあります。空母はトルコの海峡を通過できませんが、付近に居て睨みを利かせる気なのでしょうか。
なお確認できるだけでアメリカは先行派遣したアーレイバーク級イージス駆逐艦マクフォールの他に、ブルーリッジ級揚陸指揮艦マウントホイットニー、沿岸警備隊のハミルトン級巡視船ダラスを黒海入りさせています。他NATO諸国はスペインとドイツ、ポーランドのフリゲートがトルコの海峡を通過、黒海西部のルーマニアの港湾都市コンスタンツァに入りました。これは元々、この戦争が始まる前から計画されていた合同軍事演習に参加する予定だった艦艇を利用しています。更にトルコ海軍も護衛に参加しています。
Reuters Photo
The U.S. Navy destroyer McFaul (L), heading to Georgia with relief supplies, enters the Bosphorus waterways followed by the Polish Navy frigate ORP General Kazimierz Pulaski in Istanbul, August 22, 2008. REUTERS/Fatih Saribas
黒海入りしたポーランドのフリゲートは、O.H.ペリー級の「ゲネラウ・カジミェシュ・プワスキ」です。ドイツ海軍はブレーメン級フリゲート「リューベック」、スペイン海軍はアルバロ・デ・バサン級イージス・フリゲート「アルミランテ・ファン・デ・ボルボーン」が黒海に入りました。この他にアメリカ海軍のO.H.ペリー級フリゲート「テイラー」も同行しており、前述のイージス駆逐艦マクフォール、指揮艦マウントホイットニー、巡視船ダラスと合わせて合計7隻のNATO艦艇が黒海に進出しています。
ポーランドは、グルジア戦争を見てロシアの脅威を再認識し、アメリカのミサイル防衛導入を決めました。ロシアはこれを強硬に非難し、ポーランドは核攻撃の目標になるとまで脅しましたが、ポーランド政府は自国の軍艦を黒海に派遣する事で、ロシアの脅しには屈しない事を態度で現しています。