週刊・上杉隆

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【第42回】 2008年08月28日

臨時国会の会期を縮めた本当の理由を報じないメディアの遠慮

 「産経新聞だけは書いているが、矢野絢也(元公明党委員長)がうち(創価学会)を訴えている。民主党の菅直人が、その矢野を参議院の参考人として引っ張り出して証言させようとしている。そうなるとマズイ。国会の会期を短くというのはそれをさせないためだ。それが本当の理由だよ」

 5月、矢野氏は創価学会に損害賠償を求めて提訴している。理由は、創価学会に自らの評論活動を妨害されたということだ。矢野氏の評論の中身は、次のようなものだ。

・選挙中は、創価学会会館が公明党の裏選対事務所になる。
・創価学会は、公明党を通じて警察への陳情などを盛んに行なっている。
・これらは政教分離の原則に反する。

 6月以降、矢野氏の暴露による一連の疑惑を明らかにするため、野党は国会での聴聞会を開いている。

 だが、その詳細が新聞で報じられることはない。また、矢野氏の意見がテレビに流れることもない。代わりに、なぜか、太田昭宏公明党代表の記者会見でのコメントだけはきちんと報じられている。

「矢野氏と創価学会とは民事訴訟中だ。係争中のものは本来司法の場で決着をつけるべきであり、国会の場で話すというのは不見識もはなはだしい」(8月27日/公明党代表記者会見)

 これでは、読者が何が起こっているのか理解できないのも当然ではないか。

 政治記者たちは、公明党の真の狙いを伝えず、単に与党内の駆け引きだけを報じている。本当は知っているにもかかわらずだ。いったい何に遠慮をしているのか?

〈だれひとりとして出来事や考えをありのままに伝えるというようなことをするものはいない。事実を書かないという点では、野党新聞も与党新聞もまったく選ぶところがない。ジャーナリズムは、内外で「報道の自由」という言葉から人が想像するほど自由なものではないのである。言葉にすることが不可能な事実もあるし、また話題にしている事柄になにがしかの修整をほどこさなければならないこともある。したがって、パスカルにあれほど激しく非難されたイエズス会の偽善も、ジャーナリズムのそれに比べたら子供だましのものでしかない。まことに恥ずべくことだが、ジャーナリズムがなんの掣肘もなく振る舞えるのは、弱者か孤独な人を相手にする場合に限られる〉(バルザック)

 バルザックがこの本を世に出したのは1843年のことだ。日本はまだ天保年間、大塩平八郎の乱が起こり、徳川家慶が将軍になった頃である。明治維新まではまだ4半世紀待たなければならない。哀しいことに、日本の政治とメディアの関係は、150年以上前のフランスのそれから少しも進歩していないのである。

関連キーワード:政治

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執筆者プロフィル

写真:上杉隆

上杉隆
(ジャーナリスト)

1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。テレビ局、衆議院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者などを経て、フリージャーナリストに。「官邸崩壊 安倍政権迷走の一年」「小泉の勝利 メディアの敗北」「田中真紀子の恩讐」など著書多数。

この連載について

永田町を震撼させる気鋭の政治ジャーナリスト・上杉隆が政界に鋭く斬りこむ週刊コラム。週刊誌よりもホットで早いスクープ情報は、目が離せない。

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