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業界著名人が続々入社 Googleの人材吸収力

(AERA:2008年8月25日号)

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 ソニーから、マイクロソフトから、そしてNTTドコモから。多くの人材がグーグルの門を叩いた。何が彼らをひきつけ、グーグルは彼らの何を求めているのか。(AERA編集部・片桐圭子)

 米マイクロソフトの元副社長で、現在は慶応大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の教授を務める古川享氏が、自身のブログに書いている。

 −−ソニーやマイクロソフトを辞めた「優秀な人材」が、次々とグーグルに入社している−−

 2007年6月18日付のタイトルはずばり、「Googleに集う優秀な人たち」。「ソニーを辞めた人」は、バイオの立ち上げ期にデスクトップPCの事業責任者を務めた辻野晃一郎氏を、「マイクロソフトを辞めた人」は、エンジニアとしてウィンドウズ開発の中枢にいた及川卓也氏を指している。

 ほかにも、元サン・マイクロシステムズ社員で3Dのデスクトップシステムを発案した川原英哉氏や、「牛乳に相談だ。」などのCMで知られる広告マン高広伯彦氏など、移籍した「優秀な人材」は後を絶たない。

 グーグルの何が、彼らをひきつけるのか。入社の経緯はさまざまだが、日米で多いと10回以上繰り返される面接で、グーグルに心を奪われる体験をした人は多い。

 ◆ここでは成長できる

 日本の高校からボストンの全寮制高校に編入し、卒業後はコーネル大学、スタンフォード大学大学院でコンピューターサイエンスを学んだ徳生健太郎さん(39)は、CADソフトなどを扱うサンフランシスコの会社など3社の草創期にかかわった。ダイナミズムを感じる一方で、買収される立場も経験し、「スタートアップの雰囲気を残しつつ、一定の成長を遂げている」という条件で探し出した転職先が、設立5年目のグーグルだった。03年のことだ。

 本社のある米西海岸のマウンテンビューで面接を受けた帰り道、興奮を抑えながら車を運転したことを覚えている。機関銃のようによくしゃべる面接官たちから、ものの見方や考え方を問われ続けた。

 現副社長のマリッサ・メイヤーの質問は、「最近、クールだと思うプロダクトは?」

 まだ出始めだったブルートゥース対応の携帯電話用ヘッドセットを鞄から取り出し、ワイヤレス、ハンズフリーで会話ができると説明すると、「電池はどれくらい持つの?」「話し続けて3時間くらい」「電話より先に切れるんじゃ、意味ないわね」

 裏をつかれた。製品の本質を見抜く力を試されたのだ。「自分は会社を3回も変えたのに、ちゃんと成長できているのか。いつも疑問だった。ここで働けば成長できる。もっと頑張らねば、と沸々と感じさせてくれたんです」

 ◆組織らしい組織なし

 現在は本社で、プロダクトマネージャー(PM)として働く。職場に満足していることは、徳生さんが弟の徳生裕人さん(36)を誘ったことからもわかる。

 裕人さんは、アメリカへ渡った兄を横目に東京大学に入学。卒業後は総務省で働いた。学生時代に15カ国を旅し、「通信技術を使って、いい意味で世界を狭くしたい」と思っていたから、国という枠組みで通信の標準化を進める仕事は、面白くなかったわけじゃない。ただ、

 「ポジションによって権限が制限されるし、すごい数の承認を得ないと何もできない。働いた成果を上げにくかったんです」

 ここは自分を一番伸ばせる環境ではないんじゃないか、と自問していた。そして裕人さんもまた、面接でグーグルへの思いを強くした。面接官からは、「日本国内に、ゴルフボールは何個あると思うか」

 数字ではなく、数字をはじき出すロジックを求められた。

 05年に入社し、グーグル傘下に入ったユーチューブの本社があるサンフランシスコ郊外のサンブルーノで、PMとして働く。携帯電話版のユーチューブを担当したのは彼だ。驚いたのは、当時すでに7000人ほどの社員を抱えていたグーグルが、「組織らしい組織なし」で機能していたことだ。

 裕人さんの分析によれば、グーグルが機能している理由は二つ。会社のミッションがクリアだということと、社員一人ひとりのコミュニケーション能力が高いことだ。

 「ユーザー志向」がグーグルの唯一の真理だから、議論が水掛け論にならない。本の中身も含めて検索できる「ブック検索」を始めたときも、検索結果にアマゾンのリンクを張ることに反対する声は上がらなかった。

 「本を探す意味ではアマゾンは競合だけど、リンクを張ったほうが便利ですから」

 ◆秘密が外に漏れない

 毎週金曜日に、創業者二人が社員なら誰でも参加できる場で話をする。進行中のビジネスに話が及ぶこともあるが、これが本当に外に漏れない。秘密が漏れて事業が頓挫したら、得られるはずの利益を失うのはユーザーだからだ。

 コミュニケーション能力も、特別なスキルがいるわけじゃない。「これをやれ」と上から具体的に命令されることはないから、仕事をするには「自分がやりたいと思っていることの重要性や面白さを人に説明する力」が欠かせない。

 アドワーズの営業を担当する黒田俊平さん(35)が考えるコミュニケーションの極意は、シンプルだ。

 「会って話すことです」

 最先端のIT企業だから、メールやチャット、掲示板など、会わずに済ませるツールはたくさんある。でも、メールで「この資料見といて」はコミュニケーションじゃない。後で直接感想を聞くし、毎日、「この人と必ず話す10人」を決めている。

 ◆ずっと話せる相手か

 グーグルといえば、カフェテリアの食事がすべて無料というエピソードがひとり歩きしているが、そこにもコミュニケーションを重視する社風が垣間見えた。日本のカフェテリアの入り口には社員から寄せられた要望と回答が。

 「たまにはジャンクデーが欲しい→ヘルシー志向の要望が多いので、ジャンクは難しいです」「ソイジョイの苺が食べたい→近日入荷予定です」

 あらゆるコミュニケーションにためらいは皆無だ。「自由な発言を受け入れる場づくり」は、多くの日本企業が苦心していることだ、と話すのは、スウェーデン人のジョン・ラーゲリンさん(32)。日本の通信事業者でグーグルのカウンターパート的役割を果たしていたが、「年功序列ベースの人材の扱い方」に慣れなくて、グーグルの門を叩いた。

 「ここでは誰でも自由に発言できる。違う、と言われることはあっても、言うのは自由です」

 携帯電話のビジネス全般を担当。5歳で触り始めたパソコンがインターネットにつながり、距離を超えたコミュニケーションが可能になったとき、

 「世界は平和になると思った。でも、そんな楽しいことをするのに面倒なセッティングをして、パソコンの前にじっと座っているのは嫌だったんです」

 だから、モバイル。空港で隣り合わせになったとき、ずっと話し続けていられる相手かという観点で人を選ぶ「エアポートテスト」という考え方は、グーグルの人材採用基準の一つとも言われている。社員たちは、自分がちゃんと発信すれば、必ず誰かが聞いてくれるという安心感のようなものを持っていた。

 ◆スター社員も傾聴する

 上田学さん(35)は、本社のエンジニアリング部門で、日本向け製品を開発するチームのリーダー。主に担当するのはグーグルマップやモバイル製品だ。車社会のアメリカでは電車で移動する人の視点が抜け落ちてしまうから、「電車の国」代表として、必要な機能を加えたり、見せ方を変えたりする。

 入社直後は、居並ぶ業界の有名人に気圧された。でも、3カ月経ったころにわかったという。

 「全員がスーパースターじゃなくていい。それぞれに頑張れば、尊重されるし尊敬もされる」

 自分の意見にスーパースターが耳を傾け、アドバイスしてくれる体験を重ねた。

 「自分が面白いと思っていることをやっている人が、一番面白いものを作る」という考え方が浸透しているから、楽しむことにも手を抜かない。

 製品の使い勝手も、イベント仕立てで調査する。「表参道 ケーキ」で検索して表示されたケーキショップをグーグルマップを頼りに回り、購入してきたケーキを試食するアイデアは、社内でも好評だった。

 アイデアが枯渇しないのは、「20%ルール」のためだ。働く時間の20%は好きなことに使っていい。

 片岡愛子さんが手がけるのは、グーグルの製品を外のサイトや企業に売るパートナービジネス。いまは大学と提携し、学生たちにワープロや表計算といった基本的なアプリケーションを無償で提供するビジネスに力を注ぐ。これも「20%プロジェクト」として始まったものだ。

 ◆午前3時のビデオ会議

 企業とのパートナービジネスとは別に大学ともやれないか→それなら無償で→社会貢献にもなるし、グーグルブランドを若者に浸透させるチャンス、という片岡さんの想いが口コミ的に広がってメンバーが増え、日本大学との提携にこぎつけた。

 組織を作ってもっとちゃんとやりたい。日本時間の午前3時にアメリカにいるエリック・シュミットCEOとのビデオ会議を予約し、仲間たちと「予算が欲しい」とプレゼンした。OKが出て、会社近くのファミリーレストランで飲んだビールのおいしかったこと!

 アイデアと熱意さえあれば、入社年次や年齢は関係ない。

 倉岡寛さん(25)は、東京大学大学院を07年3月に修了し、新卒でグーグルに入社した。研修らしい研修もなく、数カ月後、PMやエンジニアが集まって、日本から世界に向けてもっと製品を、と話し合う会議があった。

 グーグルの受付にあるスクリーンには、世界中で検索されたキーワードが随時表示されている。検索数が増えているキーワードがリアルタイムで表示されたら、もっとおもしろいんじゃないか。

 「そう口にしたら、すぐに『それいいじゃん、おまえPMやれよ』、って」

 直近の20分で検索が増えたキーワードを表示する「急上昇ワード」はこうして生まれた。

 ◆イチかゼロではない

 学生時代の倉岡さんは、自分と違う考えの人と付き合うことが苦手だった。でも、「急上昇ワード」開発の過程で、Aだ、いやBだ、と議論しているうちにCという新しい考えに辿り着く体験をした。

 「グーグルは、イチかゼロかではなく人間くさい。英語が下手でも、情熱を持ってやりたい!と訴えれば、わかってくれる」

 グーグルジャパンの村上憲郎社長に、なぜ高学歴でモチベーションの高い優秀な人材が集まるのか、とぶつけてみた。

 「コンピューターサイエンスという学問に、身も蓋もないところがあるからですよ」

 すごい理論を考え付いても、実際に動かしてみないとどうなるかわからない。実際に動かせれば、使った人たちの反応はダイレクトに返ってくる。グーグルの持つコンピューター設備がものを言うのだ、と。

 集まった人材を失望させない、やりたいことがたちどころにできる充実した設備を会社が用意している。だから、「ワーン!という盛り上がり」(村上社長)が維持できるのだという。

 もちろん流出する人材もいるが、それを上回る流入が続いている。グーグルは間違いなく世界最強企業のひとつだろう。

 ただ、それでも過酷な戦いを強いられている人だっている。企業にグーグルの製品を営業している大須賀利一さん(37)だ。

 日本企業は、サーバーもオフィスもマイクロソフト一色。グーグルで最もハンディを背負っていると自覚している。だが、グーグルの名前は大きくなる一方。企業向けではこの程度か、と思われることは避けなければならない。

 ではなぜ、ここへ?

 「厳しい環境でないと、ダラダラしちゃう。大学も、日本よりアメリカのほうが肌にあった」

 この、自分を追い込む感じ。これも間違いなく、グーグルの成長を支える一つの要素だ。

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