2ちゃんねるの書き込みで、「こんな働き方(サビ残が多く、昇給もなく・・年収300万円ってどこの話?)なら刑務所のほうがマシなんじゃないか」というのをたまに見ます。一部の人でしょうが・・・刑務所内の「生活」ってあまりちゃんと知られていません。
刑務所は「犯罪者が罪を償うところ」と思っているかもしれないけれど(別にまちがってませんが)、行為だけ取り出せば「懲役」という刑罰は簡単にいうと「働く刑」なので「働く施設」です。
一部の方たちには憧れ(?)の刑務所はどういうところなのか、
『刑務所の風景―社会を見つめる刑務所モノグラフ/浜井 浩一』
からご紹介します。
----
次頁の表は平成16年版犯罪白書に掲載されていた、刑務官一人あたりの被収容者負担率を見たものである。
フランス 2003年 55,407(被収容者) 28,590(職員数) 負担率 1.9
ドイツ 2002年 79,262(被収容者)38,110(職員数)負担率2.1
英国 2002年 71,218(被収容者)45,419(職員数)負担率1.6
米国 2000年 1,305,253(被収容者)430,033(職員数)負担率 3.0
日本 2004年 74,915(被収容者)17,378 負担率 4.3
アメリカの収容者の数すごいなー。
日本の刑務官の被収容者負担率はヨーロッパ諸国の2倍以上である。しかしながら、日本の刑務所における保安事故はこれらの国のなかで最低に位置する。筆者は国連に出向し、さまざまな国の刑務所を見てきたが、日本の刑務所ほど整然と運営され、規律が維持されている施設は世界に例を見ない。日本では100人の受刑者を一人の刑務官が担当して作業を実施することも稀ではない。
略)
日本の刑務官の研修制度は世界有数のものであり、体系的、継続的に研修が行われる。そしてそれを可能とするのは、刑務官の定着率が高く、離職率が極端に低いからでもある。しかし、いくら優秀な刑務官であろうとも一人で100人の受刑者すべての面倒を見ることは不可能である。丸腰の刑務官がひとりで100人の受刑者を担当するには理由があるからだ。
日本の刑務作業には、生産作業、職業訓練のほか、自営作業(以下、経理または経理作業)というものがある。自営作業=経理作業とは刑務所を維持するために必要な作業のことであり、調理、洗濯、営繕作業、清掃などが代表的なものである。
(略)
刑務所には中規模の施設でも100人以上の経理夫が働いている。
これらの経理夫は職員の指示を受けながら刑務所内のいろいろな雑用に従事したり、刑務作業の実施に必要な作業に従事している。ベテランの受刑者になると(なんか不思議な響きが・・・)、職員よりも刑務所内での作業の段取りに詳しく、形式的には、職員の指示を求めながら、新米職員にアドバイスのできる経理夫もいる(山本譲司さんのような人ですかね)。
(略)
このように経理夫は刑務所運営には欠かすことのできない人材であり、質のよい経理夫を確保できるかどうかが刑務所運営に大きな影響を与える。この場合の質のよい経理夫の条件は一般企業の人材採用条件と大きな違いはない。
若くて健康であること、性格的に温和で協調性があり明るいこと、頭の回転が速く機転の利くことなどである。加えて、大工、調理師、ボイラー、理髪等の資格をもっていれば引く手あまたとなる。一般企業と異なるのは刑務所の場合、経理夫から幹部を登用することがないため、一定以上のリーダーシップは必要とされないことである。
(略)
しかし、ここまで指摘してきたように、刑務所は社会で使いものにならなくなった人材の墓場のようになっているため、経理夫に適した人材を常時数百人確保することは容易なことではない。経理夫を補充する際には、拘置所で新たに確定した受刑者の中から適任者を探す必要がある。東京拘置所のように規模の大きな拘置所は新たに確定した受刑者を分類(調査)して、全国の施設に移送することが大きな役割のひとつであるが、そうした施設では、まず、自分の施設の経理夫を確保し、残った受刑者を各施設に分配していく。各刑務所では大きな拘置所に対して、必要な人材の移送(配置)を日々依頼し続けることになる。自前で大きな拘置施設を抱えている刑務所は、ある程度必要な要員を確保することができるが、そうでない場合には、拘置所等の移送元施設の配慮に頼るしかない。
最近のように「過剰収容」と称されるほど受刑者が増加しながら、高齢者や身体に問題のある受刑者ばかりで刑務所があふれかえると、大拘置所といえでも、必要な要員を確保することは困難となる。筆者の勤務していた刑務所も東京拘置所から毎月20人以上の受刑者を引き受けていたが、何度要請しても、普通に作業できない心身に問題のある受刑者ばかりを送られ、たびたび苦情の電話を入れたり、メールを送信したものである(※職員にとっても刑務所で生き残る基本のひとつは「なめられたらおしまい」であり、他施設にも一定程度の苦情を言いつづけ面倒な相手だと思わせる必要がある)。
「刑務所の風景」と、「獄窓記/山本 譲司」
を読んだあと・・・・テレビニュースで金融がらみの犯罪があって、若くて如才なさそうな人の刑が確定すると、刑務官が「使えるのキター!!!こっちこないかなー」と思ってるんだろうなーと想像するようになりました。山本さんが出所するときなど、刑務官のさびしそうな表情が思い浮かぶびます。受け入れ拒否もできないし、引き止めることもできないしね・・・。
このように経理夫の確保は各施設とも分類の最優先課題(人事部の採用担当みたいなものですね)であるが、有能な経理夫ほど仮釈放になりやすく、分類には作業現場から連日のように、経理夫補充の要請がある。
業務上過失致傷等の交通事故犯の場合、経理夫に適するものが少なくないが、こうした現場からの要請と受刑者におって望ましい移送先(交通刑務所)とので板ばさみになることが多かったのも事実である(筆者には刑務所は更生施設であるべきだという点に思い入れがあったため、こうした要請には応えなかったが、配役を担当する部下は、作業現場に対しての言い訳にかなり苦労していた)。
ある意味で、経理夫は刑務所の便利屋であり、刑務所は経理夫の存在に依存している部分がある。特に優秀な経理夫ほど重宝され、担当刑務官にとってはなくてはならない存在になりがちである。
(略)
また経理夫とはいえ、身分はあくまでも受刑者であり、形式的には一般受刑者以上の特権が与えられるわけではない。しかし、現実的には、職員の助手として働くことになり、受刑者間での立場は微妙なものとなる。ひとつだけ特別待遇が存在するとしたら、経理夫は職員から常に名前で呼ばれるという点にあるかもしれない。
(略)
筆者が在職中にはフランス料理の修業を積んだシェフが受刑し、本人の希望も聞きつつ官炊(社食みたいなもんですね)に配置した。筆者としては、翌日から食堂のメニューと質が改善されることを期待したが、そう簡単にはいかなかった。官炊には4人の受刑者が配置されていたが、刑務所は職員も受刑者も、先輩後輩のタテ社会が厳しく、古いものが偉いというインフォーマルなシステムが生きている。割烹の調理場同様、新人が味付けという重要な役割につくことはできない。こうした慣習は職員も手を入れにくく、無理やり古株の受刑者を配置転換したり、序列を変更したりするとあとに大きなしこりを残すことになる。筆者にできるのは古株の受刑者が少しでも早く仮釈放できるように、一生懸命引き受け先を探すことくらいであるが、これが簡単にいかない。
結局、シェフが腕をふるえるようになるには、1年以上の時間が必要となったが、たまにシェフの工夫と思われるメニューが日替わり定食に現れると何となく嬉しかったものである。フランス料理にはワインがよく使われる。しかし受刑者にアルコールを扱うことは禁止されており、職員食堂なのだがらと筆者が要望したが、受刑者による飲酒事故があってはならないということで許可されなかった。
なんか泣ける(ノ_・。)
----
「過剰収容」の解決策として民間と共同で以下のようなきれいな大規模刑務所が作られています。以下の希望条件どおりに男女各500人もの受刑者って集まるのかなー。集めるのかなー。
http://www.secom.co.jp/srs-mine/index.html
・準初犯を除く初犯者。
・他人の生命又は身体、精神に回復困難な損害を与える犯罪(殺人、強盗殺人、強盗、強姦等)を犯した者ではないこと
・執行刑期が概ね懲役1年~5年程度。
・概ね26歳以上60歳未満。
・心身に著しい障害が無いこと。
・集団生活に適応できること。
・引受人がいるなど帰住環境が良好であること。
・同一の職又は職場で3年以上勤務した経験があること。
・・続く
※ちなみに「刑務所の風景」は浜井先生の注釈に注目。すごくおもしろいです。