2008年8月26日

延長１３回にサヨナラ勝ち。で、僕はというと、
３回に突然代打で出て以来、お役ごめんで本日終了。
あとはずーっとヒマでした。

もう今日の出場はない、となった選手は、
試合中でも早々とシャワーを浴びて、クラブハウスで
観戦したり、ベンチに出てこなかったりします。
しかし僕にしてみたら、それは現在戦っている選手たちに
失礼なので、必ずベンチにいるのです。が、
やることがありません。

仕方がないので、ヒマワリの種を食べます。
まずはバーベキュー味から。
ぽりぽり、プップッ、ぽりぽり、プップッ、これで
３０分は時間を稼げる。
次に、歯についているであろう種を取るために、
ガムを噛みます。噛みすぎて顎が痛くなったあたりで、
次のヒマワリの種の袋を開けます。次、塩味ね。
ぽりぽり、プップッ、ぽりぽり、プップッ、はい３０分。
で、ガム、と。
そんなことをしていたら、結局ランチドレッシング味も
制覇して、塩気たっぷりの３袋完食。高血圧で倒れそう。

でも、試合はまだ続くのです。
僕は出られないのです。今日はもう２度と。
でも、ここにいなければいけないのです。
裏でウエイトをするわけにもいかず、
シャワーを浴びるわけにもいかず、
携帯をかちゃかちゃするわけにもいかず、
サヨナラ勝ちをして、わーっと駆け寄るためだけに、
ただ、いるだけ。いるだけって苦しい。
こんなに混戦していたら、どさくさに紛れて
もう一回出て行っても、もしかしたら誰にも
わからないんちゃうか？

サヨナラ勝ちのその瞬間は、いつもより多めに
飛び跳ねておきました。少しは汗を出しておかないと、
明日は塩分で顔がむくんでパンパンです。

ペンシルベニア州フィラデルフィアにて　田口壮　

2008年8月25日

ブルペンキャッチャーのローリー（デ・アーマス）がオリンピックから戻って来ました。
アメリカチームのコーチとして、選手村に滞在。銅メダルを獲得したものの、
「監督・コーチはメダルもらえないんだよー」と、がっかりした顔でした。
ローリーのお土産話のトップは、なんといっても日本チームの素晴らしさ。
「すごいよ、すごい選手ばっかりだよ。日本はいいチームだったー」

ところで、あくまでも持論ですが、僕は野球ほど、実力が結果に反映しないスポーツは
ないと思っています。それが短期決戦であればあるほど、思いがけない結果が出たり、
思わぬ流れに戸惑ったりもする。打てて３割の野球は、その確率の低さゆえに、
長期の戦いを余儀なくされます。一発勝負ではわからない実力差も、長く戦うことによって、
徐々に開きが出てきます。世界中で一番「結果（優勝）」まで時間をかける
プロスポーツである、ということが、それを証明してはいないでしょうか。

日本はいいチームだった。それをちゃんと見て、感じてきてくれたローリーの
言葉は、とてもうれしいものでした。

お土産話はまだ続きます。
「何が一番びっくりしたって・・・」
「何？」
「ペキンって、普通の大きな町だったんだよー！！！」

町中にパンダがふらふらしていなかったことが、メダルをもらえなかったことより
残念だったようで・・・。

ペンシルベニア州フィラデルフィアにて　田口壮　

2008年8月24日

試合は延長に入り、白熱していたというのに、ファミリールームにいる奥さんたちは、
誰一人それを見ていなかったのでした・・・。

そもそも先日、監督の婚約者が
「日本の着物を着てみたい！」と言ったのが始まりです。
うちのヨメのお母さん（僕の義理の母）が現在我が家に来ているのもあって、
「じゃあ、着せて差し上げましょう」という話になったとか。
義母は短大で着装の教鞭をとっている、いわば着物のプロ。ヨメは
幼い頃からその母に厳しくしつけられ、教え込まれたそうですが、
僕の目には「燃えカス」にしか見えません。しかしお母さんがいれば、ほら大丈夫！
ということで、アメリカに持ってきている着物と、必要なもの一切合財を、
スーツケースに詰めて球場に持っていったのでした。

アメリカ人にとっての着物のイメージは、すぐに「ゲイシャ」につながります。
こちらで芸者さんをモデルにした多くの書物が読まれているからです。
着物の背景や歴史、など、本来伝えたいものを、
簡単に短時間で教えるのは至難の技です。
しかし、そこはアメリカ人の弟子もたくさん持ち、英悟も話せる義母。
「楽しんでもらえればいいのよー」と、「こうでなければならない」部分を
あえて無視しながら、さまざまなアレンジで、結局監督の婚約者ばかりか、
部屋にいたすべての奥さんに、着付けをしたのだそうです。
ライアン（ハワード・一塁手）のお姉さんなんて、赤いフィリーズのキャップを
かぶったまま。前代未聞。でも、
「じゃあ、赤い帯と帯紐を合わせましょ」と、やわらか頭でクリア。
僕は写真を見せてもらったのですが、誰もが子供のようにおおはしゃぎの表情で
カメラを見つめていました。そして実際、着物に赤い帽子がとても映えて、
かわいらしかったのです。

日本文化がより国際的になればなるほど、「本来のままで」「伝統を崩さず」と
守りの体制になっていくのは当然のこと。しかし、その流れと同時に、
「多くの人に、楽しく受け入れてもらう」ということを目的に、着装関係者はさまざまな
工夫をしているといいます。例えば、「日本の草履をもっと履きやすく」と、
とある靴メーカーと組んで、草履のかかとに
エアクッションを入れたのは、僕の友人のジェーン（山野愛子ジェーン・
山野美容専門学校校長）。アメリカ生まれでアメリカ育ちの彼女が、
故あって美容、着装の道に進んだときに、アメリカ人の目線で日本文化の
いい部分を広めるために、という気持ちからの工夫でした。

アメリカ人は着物を壁に飾ったり、テーブルクロスにしたり、Ｇパンの上からコート代わりに
羽織ったり、と、「本来の姿ではない」使い方をして、僕らを驚かせます。
しかし、どんな形でもまずは興味を持ってもらうこと。そして、「もっと知りたい」と
思ってもらったときに、学ぼうという気持ちも生まれてくるはずです。

外国人と接するとき、僕らは突如「日本代表」となって、
「正しい日本を伝える責任」を負わされます。しかし肩の力を抜いて、
「うれしい顔を見ることから始めましょう」と言う義母に、
国際交流の本来の姿を見たような気がしてなりませんでした。

試合はペドロ（フェリース・三塁手）のホームランでサヨナラ勝ち。
その瞬間、奥さんたちが見ていたのは、鮮やかな手つきで着物を畳む
うちの義母だったそうです。

ペンシルベニア州フィラデルフィアにて　田口壮　

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