アフガニスタンで拉致された「ペシャワール会」の伊藤和也さんの遺体が発見された。住民に溶け込み復興に尽くしてきた同会も標的となり、民主導の「日本型国際貢献」には衝撃だ。
「アフガンの子どもたちが食べ物に困らないように」。五年前、危険を承知で異国の地に旅立ち、農業ボランティアを続けてきた静岡県掛川市出身の伊藤さん。志半ばで非業の死を遂げた無念さを思わずにはいられない。
現地のパシュトゥー語をマスターし、民族服を着て、住民と一緒にコメやサツマイモを栽培してきたという。二十六日に武装グループに連れ去られた後の捜索には、地元有力者や住民ら千人以上が加わった。いかに住民から信頼されていたかが分かる。
二〇〇一年九月の米中枢同時テロ後、米国が国際テロ組織アルカイダが潜伏していたアフガンを攻撃し、イスラム原理主義政権タリバンが崩壊してから七年。日本政府は道路建設や教育、医療援助などに約十四億ドルを支出し、日本の非政府組織(NGO)による活動も現地で評価を得てきた。とかく論議を呼ぶ自衛隊派遣ではない民間によるアフガンでの国際援助は、今後の日本の国際貢献の在り方を考えるモデルでもあった。
アフガンでの代表的なNGOが「アジアのノーベル賞」とされるマグサイサイ賞を受けた中村哲医師が現地代表を務めるペシャワール会だ。一九八四年から活動を始め、医療活動や井戸掘りなどに取り組んできた。
アフガンからイラク情勢に世界の目が移っている間に、タリバンが武装勢力となって息を吹き返し、治安を悪化させている。米国など北大西洋条約機構(NATO)主体の国際治安支援部隊(ISAF)も鎮圧できず、外国の援助団体への襲撃も増えてきた。
今月に入ってからも、米国のNGOの車列が襲撃され、カナダ人女性など四人が殺害された。タリバンは「アフガン人のためになっていない」と犯行声明を出した。「住民の信頼」を頼りに地域に受け入れられてきた同会だが、今回の事件は、民間援助の今後の在り方を考えさせられる。
アフガンでは同会を含めNGO八団体が活動している。安全確保のため活動の見直しは避けられない。それでも同会の幹部は二十七日、「活動は続けたい」と語った。援助の手を引けば、武装勢力のはびこる国に戻りかねない。
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