『新冷戦』　ＥＵ外交が試される

　グルジア紛争をめぐるロシアと欧米との確執が止（や）まない。「新冷戦」との大仰な言辞も飛び交っているが、武力による国境変更で紛争は解決しない。欧州連合（ＥＵ）の外交力が試される。

　「新冷戦も辞さない」（メドベージェフ大統領）。「第一次大戦前夜を想起させる」（ロゴジン駐ＮＡＴＯ大使）。物騒な発言がロシア首脳から聞かれる。呼応するように、米国の言辞も厳しさを増す一方だ。

　言葉の激しさとは裏腹に、メドベージェフ大統領は「冷戦に勝者はない」「近隣諸国との対立は望んでいない」とも述べている。

　イラクとアフガニスタンに主要な軍事力を配備し、イラン情勢への有事もにらむ米国に当面、新たな軍事行動を取る余裕はないと見るべきだろう。

　ロシア首脳部の厳しい言辞はそれを見込んだ上で、国内に向けたものとも読める。ロシアには、「コソボ独立が認められて、南オセチアが認められないのは二重基準」とする根強い不満がある。メドベージェフ新体制を固めるために引けない事情もあろう。

　米国にも、ブッシュ大統領が政権末期を迎え、大統領選挙が正念場を迎えている事情がある。対ロシア強硬政策を掲げて支持を広げるマケイン候補が指名受諾演説を行う共和党大会を来週に控えたタイミングは、ブッシュ政権の強硬姿勢と無縁だろうか。

　収拾の鍵を握るのは欧州だ。バルカンと同様、カフカスは歴史的に欧州、ロシアをはじめトルコ、イランなど大国が覇を競い、少数民族の帰属をめぐっては何世紀にもわたる抗争を繰り返してきた地域だ。単純な二元論で収拾は図れない。

　コソボ独立も、凄惨（せいさん）を極めた旧ユーゴスラビア紛争の流血抗争の果てに、ロシアも含めた国連の度重なる調停、交渉の積み重ねが前提としてあった。武力行使による国境変更につながる今回のロシアの軍事侵攻は冷戦思考そのもので問題の解決にはならない。　

　冷戦の終結には、旧ソ連圏と欧米諸国が参加した欧州安保協力機構（ＯＳＣＥ）が息の長い信頼醸成措置を発揮し貢献した。地域統合への地道な積み重ねの経験を生かすべきだ。

　ポーランドなど対ロシア強硬派と、ドイツなど慎重派との歩調が一致していないＥＵだが、近く開く予定の緊急首脳会議でこれ以上の対立激化回避に通じる基本戦略を示さなければならない。