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社説:アフガン拉致 善意を阻んだ暴力を憎む

 戦争と飢餓に苦しむアフガニスタンの人々を助けようと、5年間、現地で活動してきた非政府組織(NGO)「ペシャワール会」スタッフの伊藤和也さんが武装グループに拉致され、27日、銃撃を受けた遺体がみつかった。

 伊藤さんは、日本から離れた戦乱の地で農民の自立を助ける仕事に挑んできた。伊藤さんの活動が暴力で踏みにじられたのはきわめて残念だ。

 犯人がだれか、犯行の状況や目的など詳しい情報はまだわからない。ペシャワール会は地元の人々に感謝され、日本でも高く評価されてきた。経験を積んで安全に配慮し慎重に行動してきたはずなのに、それでも殺害されるほど、現在のアフガンは混乱し危険になってきた。

 アフガンの安定と平和のために、日本政府と日本人が何ができるか、改めて考えなければならない。

 ペシャワール会は日本政府の資金を受けず、2万人の会員と年3億円の募金で活動を支えてきた。医療だけでなく「農村の復興こそ再建の基礎」と農民支援に力を入れる。干ばつ被害のアフガンで、食料を届け、井戸を掘り、農業用水路を作った。緑が戻り、避難民も帰ってきた。

 ペシャワール会現地代表の医師、中村哲さんは昨年、一時帰国した際「みんなが行く時は、行く必要はない。そこに必要性がありながら、だれもやらない場所で我々は活動する」と活動の原則を語っていた。

 伊藤さんは現地のことばも覚え、住民の信頼と共感を得ていたという。現場にとけ込み、人々の期待に素早く応える。日本を代表するNGOの最前線で活躍したその志を無にしてはならない。

 アフガンは9・11米同時多発テロ後、米軍が攻撃しタリバン政権を倒してから7年がたとうとしている。北大西洋条約機構主導の国際治安支援部隊とタリバンの戦闘が激化し、安定にはほど遠い。米国防総省は今年6月、米議会への報告でタリバンや連携する武装勢力の目標を、アフガンから外国軍隊を追放し、支配地域から外国政府の影響力を排除することと分析した。

 タリバンは外国への憎しみが強い。NGOや民間人であっても外国人を狙っている。今回の事件もタリバン系組織がかかわったとの見方がある。

 困っている外国の人々を少しでも救いたいという善意が、憎悪と暴力で拒否される状況になってしまったのは悲しい。一人の人間として全力を尽くしているのに、国籍ゆえに受け入れようとしないなら理不尽であり納得がいかない。

 スタッフの安全を確保しながら、支援活動をどういう形で続けるか。世界各地で活動する日本のNGOは常に判断を迫られる。現地の事情にあわせた柔軟な方法を見つけてほしい。

毎日新聞 2008年8月28日 東京朝刊

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