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2008年8月28日

◎新幹線事業費15%増 資材高騰見込み満額認めよ

 来年度政府予算の概算要求で、北陸など整備新幹線の事業費(国費)が本年度当初予算 比15%増の八百十二億円になったのは、このところの建築資材の異常な値上がりを思えば、最低限必要な措置と考える。整備新幹線は景気対策はもとより、地球温暖化対策、成長力強化、安全・安心な社会づくりなど、国策に即した事業であり、この程度の増額は満額認められてしかるべきだろう。

 未着工区間については、延伸実現のカギを握る財源の確保に苦戦している現実を改めて 浮き彫りにした。新財源の捻出方法に知恵を絞ると同時に、金沢―敦賀ではなく、金沢―福井を優先して取り組む方向へカジを切る必要があるのではないか。

 国土交通省全体の概算要求は、総額で本年度当初予算比18%増になっている。なかで も公共事業関係が19%増えている点を考慮すれば、整備新幹線の15%増はむしろ控えめな額といえる。公共事業費が削減傾向にあるなかで、一定程度削られることを前提に要求額を膨らませたのかもしれないが、整備新幹線に関しては、15%増は最低限確保する必要がある。石川、富山両県はスクラムを組み、要求実現に汗をかいてほしい。

 整備新幹線の要求額は、地元自治体の負担を含めた総事業費でも今年度比15%増の三 千五百三十億円となり、二〇〇一年度の三千四百十八億円を上回る過去最高額となる。整備新幹線に対して、中央メディアなどは相も変わらず批判的だが、公共事業全体に占める整備新幹線の国費分の割合はわずか1・3%程度に過ぎない。

 鉄道は飛行機や自動車に比べて、地球温暖化の最大要因とされる二酸化炭素排出量が少 ない。台湾、中国に続いて、ベトナム、インド、ブラジルなどで高速鉄道計画が持ち上がっているように、鉄道の復権は世界的な流れである。

 国土の均衡ある発展、地域経済の振興に大きく貢献する整備新幹線への手厚い予算措置 は、地球温暖化防止と省エネという時代の要請にもマッチしている。整備新幹線の事業費をできるだけ増やすとともに、未着工区間の財源確保にメドをつけてほしい。

◎日本人殺害 NGO撤収もやむなし

 アフガニスタンで、非政府組織(NGO)の日本人職員が拉致され、殺害された。タリ バン掃討作戦に加わっている戦闘部隊ではなく、医療や難民支援をしているNGOが標的になった事実は、衝撃的である。丸腰で現地に溶け込んでいるNGOの安全は、現地民の支持と信頼が頼りだ。その暗黙の関係が成り立たなくなっているほど治安が悪化しているのだとしたら、よほどのことである。百五十人程度いる日本のNGO職員をはじめ、国際協力機構(JICA)など政府の支援機関の撤収も検討せざるを得ないのではないか。

 殺害されたとみられる伊藤和也さんは、日本人による海外NGO活動の草分けといえる 「ペシャワール会」の職員だった。同会はアフガン国境に近いパキスタン・ペシャワールで、ハンセン病の治療にあたっていた中村哲医師を支援する目的で創設され、難民の治療、井戸や農業用水を掘る支援活動を二十五年にわたって続けてきた。ペシャワール会が掘った井戸は千六百カ所に及んでおり、アフガニスタンでは最も名の知られた人道支援組織である。その職員が襲われ、殺された事実は重い。

 アフガニスタンでは今年、「テロとの戦い」の前線に立つ米軍兵士の戦死者が既に百人 を超えた。昨年の死者数を上回るのは確実であり、米軍以外でも今月だけでフランス兵十人、ポーランド、カナダ兵各三人が戦死している。

 国際的な人道支援組織の職員への攻撃も目立って増えており、今月、国際救済委員会( IRC)の外国人三人を含む四人が反政府武装勢力のタリバンに殺害されている。昨年七月には韓国のキリスト教ボランティア団体二十三人が拉致され、うち二人が殺害、残る二十一人は身代金を払って解放されたとされる事件も起きている。

 誘拐が一種のビジネスとなっている地域だけに、今回の事件に政治的な意味がどの程度 含まれているのか、そのあたりの見極めも重要だが、タリバンが攻撃対象を「外国軍」からNGOなど「民間支援組織」へと広げたのは確実と見るべきだろう。


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