長期間にわたり社会との接触を絶ち、自宅に閉じこもってしまう「引きこもり」対策として、厚生労働省は本人や家族らに対する相談専門窓口となる「ひきこもり地域支援センター」(仮称)を来年度から各都道府県と政令指定都市に設置する方針を決めた。
引きこもりの人たちは、全国で数十万―百万人もいると推定される。現在は保健所などで相談を受けているが、専門的な窓口は整備されていない。
厚労省は来年度予算の概算要求に関連経費を含め約五億円を盛り込むことにしている。不登校やいじめなどに比べ、引きこもりは行政の支援が手薄なだけに、相談専門窓口の設置を足掛かりに対策強化を期待したい。
センターは既存の福祉関連施設などの中に置く予定で、社会福祉士や精神保健福祉士などの専門家が相談を受ける。人件費や運営費を国が補助し、自治体が福祉関係の事業者や特定非営利活動法人(NPO法人)に委託するなどして運営する。
電話での相談にも乗り、本人の状態や意向に応じて外出できるように支援したり、社会参加の機会や福祉サービスなどを紹介する。
引きこもりは不登校や離職といった挫折体験などをきっかけに始まるとされる。社会参加できず、不安や無気力な状態が続き、家庭内暴力や自殺、犯罪などの問題行動に至るケースもあるという。
本人が周囲との対話を拒絶し、家族も世間体を気にして抱え込んでしまいがちになるため、事態を分かりにくく複雑にしている。社会の理解や支援が乏しい中で有効な手だてもなく、ずるずると歳月を重ねていくパターンが多いようだ。
本人や家族らの苦悩は察するに余りあるが、まず大切なのは社会から孤立させないことだろう。「全国引きこもりKHJ親の会」によると、会員を対象にした調査では、引きこもりの人の平均年齢は三十歳を超えている。引きこもる期間が長期化するほど社会復帰は難しくなるため、早期の社会的支援が欠かせない。
引きこもりの人たちは自宅に閉じこもっていても、外に出るきっかけや話し合える仲間などを求めているといわれる。センター設置は本格的な支援の第一歩ととらえ、悩みや要望などを丁寧に聞いた上で、どうすれば引きこもりを脱し、就労などにつなげられるかの道筋を探る必要がある。
実効性のある支援体制の充実に向けて社会も理解を深め、各方面からきめ細かい対策を考えていきたい。
文部科学省と厚生労働省は、放課後や週末の小学校の教室などを活用し、遊びやスポーツができる居場所を子どもたちに提供する「放課後子どもプラン」の実施状況をまとめた。
同プランは、共働き家庭の児童を対象とした厚労省の学童保育事業と、民間団体などに委託して体験活動を行う文科省の事業の二つを一体化、二〇〇七年度から始まった。子どもの安全対策や子育て支援が目的だ。
調査によると、厚労省の学童保育から移行した「放課後児童クラブ」は、69%の小学校区で運営されていた。ほぼ毎日開かれ、専任スタッフが子どもたちの世話に当たっている。
親の就労に関係なく、すべての子どもを対象にした「放課後子ども教室」は、全小学校区での開設を目指していたが、26%にとどまった。双方を実施しているのは19%。いずれかの事業を実施しているのは、全小学校区の73%に上っている。
実施できていない理由を尋ねると、児童クラブで33%、子ども教室で64%が、指導員確保が困難と答え、人材不足に悩んでいる。場所の確保に困っている回答もあり、小学校の施設を地域の子育て拠点とする狙いが校長らに理解されていない実態も浮き彫りになった。
人材不足は、ボランティアに頼る子ども教室では深刻だ。遊び相手から学習支援、安全管理までさまざまな役割が求められる。大学生や団塊世代、老人クラブなど地域の人々に参加を促していくことが重要だ。
児童クラブや子ども教室では学校生活で体験できない異年齢・異学年交流のメリットを指摘する声が大きい。二つの事業を連携、融合させることも課題となろう。充実した放課後のため子どもたちを地域で育てる意識が欠かせない。
(2008年8月27日掲載)