膵臓(すいぞう)でインスリンをつくっているベータ細胞を再生することに、米ハーバード大のダグラス・メルトン教授のチームがマウスで成功した。このベータ細胞の働きで血糖値も半分以下に下がったといい、将来の糖尿病治療への応用が期待される。27日付の英科学誌ネイチャー(電子版)に発表する。
膵臓には消化液の膵液を出す外分泌細胞と、インスリンを出すベータ細胞とがある。ベータ細胞が死滅したり機能が落ちたりすると、糖尿病(1型糖尿病)になる。
メルトン教授らは膵臓で働く遺伝子のうち、ベータ細胞ができるのにかかわっている可能性がある20個ほどの遺伝子に着目。このうちの三つをウイルスを運び屋にして、生きているマウスの膵臓の外分泌細胞に入れた。すると、ベータ細胞が再生された。
糖尿病のマウスで試したら血糖値の上昇に応じてインスリンが分泌され、血糖値も大幅に下がった。再生されたベータ細胞は、見た目も遺伝子レベルでも、通常のベータ細胞と見分けがつかないほどよく似ていたという。
細胞に複数の遺伝子を入れることで、別の細胞に変えてしまうのは、京都大の山中伸弥教授が皮膚の細胞から万能細胞(iPS細胞)をつくったのと同じ手法だ。山中教授は最初に四つの遺伝子を使ってiPS細胞をつくった。
万能細胞からベータ細胞づくりを目指す研究は世界で盛んだが、メルトン教授らは今回、膵臓の細胞の大半を占める外分泌細胞から直接、ベータ細胞をつくった。
山中教授は「生体内でも少数の遺伝子を導入して『細胞の種類』を変えられることを示したもので、意義深い」と話す。
メルトン教授は「ウイルスを使わないより安全な方法を見つけ、臨床につなげたい」としている。(竹石涼子)