「戦艦大和ノ最期」の諸テキストについて


 「戦艦大和ノ最期」(吉田満)は希有な戦争体験を硬質のカタカナ文語体により表現し、戦争文学の傑作との評価が与えられている。
 現在の決定稿が確定するまでには様々な経緯があった。

  1. 昭和20年4月6日 戦艦大和の副電測士として天一号作戦に参加する。大和は米軍機の雷爆撃により撃沈されるが生還する。生還者三千名中二百余名。
  2. 昭和20年秋 1.の体験をもとに、一日で初稿(初出テキスト)を書き上げる
  3. 昭和21年12月 雑誌「創元」第1輯に初稿発表を予定(同誌には小林秀雄「モォツァルト」掲載)
  4. GHQ CCDの事前検閲より掲載中止、今後の発表禁止措置を受ける
  5. 初稿の筆写原稿が関係者の間で回覧される
  6. 昭和24年8月10日 初稿を改稿、表記をひらがなに変えて出版(銀座出版社版)
  7. 昭和26年9月8日サンフランシスコ講和条約締結により占領が終結
  8. 昭和27年8月30日 文語カタカナ版を出版(創元社版)
  9. 昭和49年6月 決定稿として、旧カナ、旧字版を出版(北洋社版)
  10. 昭和56年9月 雑誌「文学界」に初稿版が掲載される。
 6.8.9.と加筆により原稿量は増加しその内容についても、叙事詩から物語への変容、戦後平和主義への阿り、著者の心の中の変容等様々意見が出た。
 検閲の経緯については江藤淳「落葉の掃き寄せ」に詳しい。

 初稿、ひらがな版、創元社版各テキストを比較する。

  1. 初稿(初出テキスト)(文語体・カタカナ・旧字)
  2. 銀座出版社版(口語体・ひらがな・旧字)
  3. 創文社版(文語体・カタカナ・旧字)
  4. 初稿と創元社版との比較
  5. 銀座出版社版と創元社版との比較

 入手しやすいテキスト
  戦艦大和ノ最期 講談社文芸文庫(新カナ、新字)
  鎮魂戦艦大和 講談社
  戦艦大和と戦後 筑摩学芸文庫(旧カナ、新字)
  吉田満著作集(上)      (旧カナ、旧字)


 参考文献
  落葉の掃き寄せ(江藤淳)文藝春秋
  大和の最期、それから―吉田満戦後の航跡 (千早 耿一郎)講談社
  鎮魂 吉田満とその時代(粕谷 一希)文春新書

 参考サイト
  松岡千夜千冊 961夜
  戦艦大和ノ最期その真実と虚構