理由を問わず、持っているだけで罪になることです
「単純所持」 とは、ある物品を 「持っているだけ」 のこと、「単純所持禁止」 とは、目的や手段を一切問わず持っているだけで罪、違法になることを指します。 現行法で触法物 (法律に触れる物) と指定されているものの 「所持」 がその対象となりますが、製造した瞬間に所持となるため、「単純製造」 も合わせて禁止される場合が大半です (単純製造のみ違法という場合もあります)。
もっぱら 「違法である」 物品のうち、単純所持まで禁じられる場合は、その物品が極めて危険性の高いもの、あるいは犯罪目的以外には使えないものなどがその対象となっています。 日本の場合は 「拳銃」 や 「麻薬」 がこれに相当します。 「偽造通貨」 なども限りなくそれに近い扱いですが、自分で偽造した、あるいはどこからか手に入れた偽造通貨を偽造だと知っていながら使おうとした (行使未遂/ 行使目的所持) 場合にのみ、起訴されたり有罪となるようです。
うち、同人やオタク界隈で話題になる 「単純所持禁止」 と云えば、「児童ポルノ法」 (児ポ法) における 「児童ポルノ」 ということになりますが、現実の児童の性的虐待による成果物、児童虐待の記録である画像や動画をどう扱うかが、1998年の同法の法案段階からの課題の1つとなっています。 途中2度の改正がされていますが、いずれも 「単純所持」 の禁止まではうたわれていません。
なお単純製造 (児童の虐待を撮影する)、およびそれによって作られた画像や動画を公表したり配布、販売することは、上記 「児ポ法」 成立施行によって 1999年より禁止となっていますが、そもそも同法施行以前の段階でも、児童福祉法 (34条1項6号) や 「青少年健全育成条例」 (淫行規定/ 淫行条例)、「わいせつ」 物の取締法 (刑法第175条) などで違法となっていました。
例えば児童がデジカメで自分の裸を撮影したら、アメリカでは児童ポルノ製造と所持で逮捕です
2000年代に入り、児童の性的虐待問題が深刻な欧米では、「児童ポルノ」 という呼称を改め、より直接的な 「児童虐待画像・動画」 と呼ぶようになってきています (欧米では合法である、単なるヌードやソフトエロチカと区別するため)。 それに伴い先進国の一部では、それら 「児童虐待画像・動画」 の 「単純所持」 を禁じる動きもありますが、供給する側の取り締まりすら徹底できていない中で、末端のみ取り締まることへの問題提起なども起こっているのが現状です。
日本の場合は、そもそも児童ポルノの定義が欧米に比べあやふやで広範となっており (成年が児童の演技をする 「準児童ポルノ」 や、アニメやマンガまで含める 「子どもポルノ」 といった、さらにあやふやで現実の児童と何の関係もない創作物などにも範囲を拡大)、慎重な対応を求める声がネットなどを中心に巻き起こっている状況です。
また拳銃や麻薬のように物理的な実態が存在する物品と違い、現在はデジタルデータで流通する画像や動画を、同じように規制するのは非現実的で無理ではないかという主張もあります。 拳銃や麻薬は受け渡しも大変ですが、デジタルデータの写真や動画はメールで簡単にやり取りできますし、ネットでそれを見ただけ、どこかのリンクをクリックしただけでも、原理上それらのデータはパソコンに記録され、「所持」 の状態になります。
メールで送りつけられたくらいでは問題なく、本人が意図的に集めたり、数が大量でなければ捕まえたりしない、という意見もありますが、例えば 「学生」 で画像検索して、それっぽい画像が検索サイトにでたらどうなるのか、あるいは大量という数量的基準にしても、今はDVDやブルーレイディスクなら、その1枚に画像なら数万から数十万枚が簡単に収まる時代です。 「DVD を1枚所持」 と、「画像を5万枚所持」 では印象が随分違いますが、どちらも同じ DVD 1枚だったりもします。 またアメリカでは、画像2枚所持で逮捕という事件もありました (現在係争中)。
性的好奇心を満たす目的での所持だけ禁止…?
児童ポルノ法改正について、2008年4月18日、政府与党 (自民・公明両党) は、個人が趣味で集める 「単純所持の禁止」 の方針を決定し、違反した場合には懲役刑を科すとの方針を固めたようです。 ただし本人が意図せず所持に至るケース、例えば 「パソコンのメールで勝手に送りつけられた」「ネットでそれとわからないリンクを踏んだ結果、それが表示された (パソコンのキャッシュに蓄積された)」 場合などを考え、「性的好奇心を満たす目的での所持」 のみ罰するよう確認したそうです。
「性的好奇心を満たす目的での所持」 か、そうでないかを、どうやって判別、立証するんでしょうか。 本当に不思議です。 それにしても、児童ポルノの定義が 「衣服の全部又は一部を脱いだ児童の姿態であって性的好奇心をそそるものを視覚により認識することができる方法により描写したもの」 ですから、要するに、
「性的好奇心をそそるもの」 を、「性的好奇心を満たす目的」
で所持したら逮捕、懲役ですか。
要点だけを摘出すると、またものすごい法律ですね。 子供の入浴シーンや水着の写真を見て、可愛いと思うか、いやらしいと思うか、場合によってはアートだと思うか、あるいは何とも思わないか、人によって感じ方は様々ですが、裁判員制度ももうすぐ始まりますし、いずれ一部の人が 「気持ち悪い」 と感じたら、被害者がいなくてもそれが罪になる時代がやってくるんでしょうか。 「性的好奇心」 は、人を牢屋につなぐほどの 「悪徳」 なんでしょうか。
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