2008/08/08 09:00
「iPhoneの魅力はどこから来ているのだろう」とずっと考えています。iPhone 3Gを個人的に購入して使っているのですが,なぜか使いたくなってしまう不思議な心地よさがあります。
たしかに日本のケータイもよくできています。機能面では,ワンセグや決済機能,カメラ周りなどiPhoneより優れている部分も多い。でもiPhoneが持つ「ユーザーを使いたい気にさせる」という部分が,なぜかすっぽり抜け落ちています。「ダメ」なのではなく,「残念」という感じです。何かがふっきれていない。iPhoneはダメな部分も多いですが,日本のケータイに感じる「残念な印象」はほとんど受けません。おそらくiPhoneを実際に使っている人ならば,このニュアンスをわかってもらえると思います。
iPhoneとはいったい何なのか。その答えに近づくため,NTTドコモを2008年6月に退職した夏野剛氏にインタビューしました(日経エレクトロニクス2008年8月11日号に掲載)。ドコモでiモード事業を長らく率いてきた同氏の目に,iPhoneがどのように映っているのかに興味があったのです。
意外というか,ある意味当然というか,夏野氏のiPhoneに対する評価は絶賛に近いものでした。彼は「日本の最新の携帯電話機よりiPhoneの方が未来のケータイに近いと思っている」とすら言います。実際にiPhone 3Gを入手して使用しているそうです。
夏野氏は,iPhoneの魅力の源泉は「リーダーであるSteve Jobs氏のぶれのなさ」にあると見ています。たしかに,ヒット商品の裏には,信念を貫く強力なリーダーがいることが多い。ソニー・コンピュータエンターテインメントの家庭用ゲーム機「プレイステーション」「プレイステーション 2」における久夛良木健氏しかり,任天堂の「ニンテンドーDS」「Wii」における岩田聡氏しかりです。リーダーが明確なビジョンを持っているからこそ,社員が一丸となってそのビジョンを実現しようと努力できるのです。
一方で夏野氏は,日本の携帯電話機メーカーに対して数々の問題点を指摘します。「新しいアイデアに否定的なことを言う人が多すぎる」「なんでも合議制で決めるので,とがった部分がなくなってしまう」「たとえ力がある人がいても,責任のある立場にいない」などなど。無難ではあるが心に響くものがない日本のケータイは,リーダー不在のこうした土壌から生まれているのかもしれません。
もっとも,その原因をメーカーだけに求めるのは誤りでしょう。日本の携帯電話機は,携帯電話事業者が仕様を決め,メーカーがその意向を受けて開発するという時代が長く続いてきました。ケータイはあくまで携帯電話事業者の商品であり,メーカーは開発や製造を請け負っているだけです。当事者としての権限を持たないメーカーが,革新的な製品を作れないのは当たり前です。
この構造が,iPhoneの登場で確実に変わりつつあります。従来の日本の携帯電話では,コンテンツも端末も通信回線も,すべて携帯電話事業者を通してユーザーに提供していました。いわば携帯電話事業者が中心のモデルです。一方iPhoneでは,肝となる「アプリケーション・ソフトウエアの提供」を米Apple Inc.が一元的に行っています。ソフトバンクモバイルはもはや,通信回線を提供し,製品の販売を代行しているに過ぎません。iPhoneは,携帯電話事業でもメーカーがイニシアチブを取ることが不可能でないことを示しました。当のiPhoneの登場により,「日本のメーカーがiPhoneを作れない理由」がなくなりつつあるのです。
私は,日本のメーカーの実力を考えれば,iPhoneを超える魅力や使いやすさを持ったケータイを開発することは十分可能だと思っています。ただ今後は,携帯電話事業者が望む製品をいち早く供給するだけの「優等生的なメーカー」は淘汰されていくでしょう。ビジネスそのものを作り出せるような力強いメーカーが日本からも登場することを期待しています。
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