アナゴを水揚げする漁師の福田誠さん。漁獲量は激減している=山口県宇部市の宇部漁港
アナゴは台湾や南西諸島近辺で産卵し、稚魚が黒潮に乗って日本近海にやってくる。その際、親潮より冷たい水を好んで沿岸に定着する。ところが、西日本の海が温暖化して、アナゴの稚魚が従来より北で定着するようになっているという。周防灘や大阪湾の水温が最近30年で1度上昇しているほか、暖冬の翌年にはアナゴの水揚げが減るというデータもある。
大阪府水産技術センターの鍋島靖信主任研究員は、ハモによる捕食の害も指摘する。2年前に大阪湾のハモの胃を調べたところ、15匹のうち6匹がアナゴを食べていた。アナゴと同じく夜行性のハモは、体はアナゴより大きく、魚介を捕食する。大阪ではハモとアナゴの漁獲量は反比例しており、鍋島研究員は「アナゴの不漁は地球温暖化が主原因で、ハモによる捕食が追い打ちを掛けている。漁を控えても効果はなく、手の打ちようがない」と話す。
山口県漁協の成松尚典販売部長は「養殖中心のウナギに比べ、アナゴは天然が主で人気が上がっていた。この不漁で、地物の価格はウナギをしのいでいる」と語る。松山市などでは養殖も始まっているが、山口県水産研究センターの木村博専門研究員は「稚魚のノレソレも不漁続きなので、養殖による増産は難しい」とみている。
江戸中期の百科事典「和漢三才図会」には「漁人はこの魚(アナゴ)をあぶってウナギと偽る」という記述がある。こんな昔話が理解できなくなる日が来るかもしれない。